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ならず者・現代に転生する ~異世界の力に目覚めたので平穏な暮らしを目指したが簡単にはいかなかった件  作者: 藤明


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第58話 魔獣騒動再び

§  §  §


海波は一瞬にして階段を駆け上がり、離れたビルの屋上まで逃走していた。

入り組んだ室外機の影に身をひそめ周囲を警戒する。


(追手はないな……)

(目的は果たせたけど……)

(まさかラケシスまでいるとは想像していなかった……)

(黒い手まで……邪神の信徒ってこと?)

(それはないと信じたい……)

(……なにがなんだか……僕の頭じゃついていけないよ……)

(……君でも無理なら……蓮輝達に整理をしてもらわないとな……)

(頭がパンパンだね……)


海波は潜入時の情報量が多すぎたので考えることを放棄した。いざ移動をしようとすると、ビルの下の方や遠くの方で悲鳴が巻き起こっていた。


「キャー! なにこれ!!」

「逃げろ!! 変なのがいるぞ!」


慌ててビルの淵まで移動をして様子を見ると、そこら中から黒い手が出現したと跡から魔獣が湧いて出ていた。魔力を持たない人間は一目散に逃げ始めて混乱を極めていた。


(あれは……)

(猪型だな……)

(助けないと)

(待て、その必要は無さそうだ)


突然、魔獣に向かって複数の和的な狐の仮面を被った一団が攻撃を仕掛け、連携を取りながら軽々と葬り去っていく。


(ギフトを絡めた良い連携だ。訓練された動きだな)

(あれは……転生者自由主義の人?)


ふと、海波は近くのビルの合間で神聖的な力の流れを感じとる。


(ん? あそこに見えるのは……遊園地跡にいた治癒術士か)

(怪我した人を治してるね。なんか護衛みたいな人もいるし)

(要からは聖女達が自由主義から離脱していったと言っていたが、この事か?)



§  §  §


伴戸志姫(ともどしき)が一般人の治療をしていると、戦闘を終えた狐の仮面の伝令役が到着する。


「聖女様、予想通りにこの辺り一体で魔獣が同時に出現したようです」

「ええ、感じています。この黒い手、確かに邪な魔力を感じますね」

「あの話は本当なのでしょうか?」

「だと思います。流石に隣の大陸の話ですが、話の内容やギフトに信憑性がありましたから」


不安な空気が流れる中、狐の仮面を被った人が戦闘で傷を負った仲間を抱えて連れてくる。


「聖女様、怪我人です!」

「こちらへ寝かせてください」


狐の仮面を被った一人がビルの上の海波に気がついた様で視線を送る。


「ピエロの仮面を被った人間がこちらの様子を伺っている様ですが……」

「大丈夫でしょう、命の聖女と守護騎士の仲間です」

「ですが、前回彼にやられた人間が……あっ!」

「え?」


彼らの目の先では、狐の仮面を被った人間が道化仮面を攻撃して綺麗にクロスカウンターで腹パンを喰らって気絶している様が見えた。


「……」

「……あれは痛い……」


道化仮面は彼らの視線に気が付き、違うといった手振りをして、少し悩んだ後、気絶した人間を抱えて飛び降りて接近してくる。

護衛達に緊張が走る中、道化仮面はすまなさそうに伴戸志姫(ともどしき)の近くまで歩み寄り、丁寧に気絶した人間を置く。若干足元がふらついている感じだった。


「すまない。心の余裕が無かった。思わず反撃を……治療をしておいてくれ……」

「え、ええ、わかったわ。 えっと……ビルの屋上で何を?」

「……詳しくは言えないが、この辺で魔術の暴走が起きた。黒い手が出たら魔獣が出る様だ。気をつけてくれ」


「ありがとう。あ、紅華ちゃんに、近々相談するとお伝えください」


(え? 貴志田さんの知り合いだったの?)

(そう言えば、去り際に自分の事知ってる人だったみたい……って言ってたな)

(そうすると彼女はクラスメートかなにかかな? 情報量多すぎて何が何だか……)

 

「……連絡先は知らない感じか。伝えておく……」

「まだ魔獣の気配は消えていません……出来れば手伝っていただけるとありがたいのですが」

「ああ、そのつもりだ……仲間と合流するついでにやっておく。では」


海波はかなりの速度で地面を駆け抜け、道中に出現し始めていた魔獣の首を一撃のもとに刎ねながら突き進んでいく。ただ、普段の海波を知っている人間から見たら動きに余裕が無い感じだった。


「……あの人……ものすごく強いんじゃ……」

「……聖女様……女神の騎士様とどちらが強いのでしょうか……」


「そうね、私の見る限りでは……どちらも強すぎて……強さの差がわからないわね……」


伴戸志姫(ともどしき)は最後に残った記憶、邪神軍の戦いの前で一緒に戦った事のある女神の騎士の青年の事を思い出していた。

別動隊として『不死の魔王』に少数精鋭で突撃していった彼らが無事使命を果たせたのか……それは今の彼女が知ることは無かった。


§  §  §


海波は一旦ビルの屋上まで来ていた。

移動中に景気良く魔獣を薙ぎ倒して来たせいか、魔力の使い過ぎか、積み重なる衝撃的な事実のせいか分からないが疲れ果てていた。


(頭がボーッとするね……)

(ああ、ここ数日色々ありすぎて頭が追いつかないのか……)

(あ、るーちゃんいた……)

(治療をして貰えれば……大丈夫か……)


駅前の地下アジト周辺は大混乱に陥っていた。

そこらじゅうに黒い手やら、魔獣やらが出現し人を襲い始めていた。

狐の仮面の軍団が対処をしているようだった。


紅華と瑠衣は剣と棍をそれぞれ振るって魔獣たちを吹き飛ばし切り刻んでいた。

かなり余裕があるように見え、横目で戦況を確認できるほどだった。


「ねぇ、狐の仮面って、どこの人?」

「自由主義の人たちかな? 前はいなかったね」

「中の人は同じかもしれないけどね。ふんっ!!」


紅華が魔獣を気合と共に両断すると、いつの間にか海波が彼女達の近くに存在していた。

若干、足元がおぼつかなくなっている感じだった。


「お? 海波。やっぱり大丈夫だったね……あれ?」

「ちょっと遅いよ……海君。心配したんだから」

「……ああ。ちょっと、色々あって。頭が回らない」


瑠衣は何時もと様子が違う海波に直ぐに気が付き、直ぐに寄り添って治癒魔法をかける。


「どうしたの? 調子悪い?」

「……頭が……いや、心かも……美来(ミク)と長髪の男が仲間だった……

「え? あの奥にいた二人があの人たちだったのね?」

「……ああ」


紅華が近くにいる最後の魔獣を葬った後、周りを警戒しながら二人に近づいてくる。


「どうする? 離脱しておく?」

「そうね。狐の仮面の皆さんに任せたら……大丈夫な感じね」

「海波、一人で行ける?」

「……大丈夫だ。ついていくだけなら……考えがまとまらないだけだ……これは何なんだ……」

(あれ? 頭が……)

(……)


瑠衣はふらふらとしてしまっている海波を見て判断を切り替える。


「……無理そうね」

「いつもの強がりね」


ピーポーピーポー……


遠くからもパトカーなどのサイレンの音が鳴り響き、辺りは騒然となっていた。

瑠衣と紅華が目で合図した後、海波を両脇で抱える様にして高速でこのエリアから離脱していった。





§  §  §



伴戸志姫(ともどしき)が率いる狐の仮面の軍団が、元凶と思われる地域まで進んでいた。と、あるビルの入口から魔力の高い人間が一斉に散り散りに散開して魔獣退治へと向かう。

伴戸志姫(ともどしき)は最後に出てきた人物、言預美来(ことよみく)を見て驚いた表情をした後に醒めた目になる。


(どう言う事? なんで彼女が今回の騒ぎの中心から?)


「聖女様、どうやら自衛隊……いや、例の特殊対策課も多数到着している模様です。私たちも離脱を開始しましょう」

「わかりました。風使いさん。皆さんに合図を」


騒ぎの中、ビルの方に向かって覆面パトカーが到着し、中から私服の人間が何人か慌てた感じで降り立ち、伴戸志姫(ともどしき)を囲む様に話し始める。


(警察? 国家権力? 見たことのない女性? てっきり仲間だと思っていたのに……どちらかわからなくなりましたね……紅華ちゃんたちと共闘する方がよいのかしら……)


伴戸志姫(ともどしき)はその場に残って問いただしたくなっていたが、警察などが近づいているのを察知して、体中に魔力を高めて一気にその場を離脱した。



§  §  §



丸亀礼音(まるかめれおん)はビルの上から完全に気配を消してその場の様子を観察していた。

特殊対策課が魔獣に通用するクロスボウの様な武器や、槍の様な武器を使っているのに驚いてはいたが、目下で起きている人物達に驚きを隠せなかった。


(どうしよう……困った……)


礼音は、海波の母親の事を知っており、会話をしたこともあるくらいだった。

見た目は「昔と同じまま」なのですぐにわかった。


パトカーから降りてきた人物が、海波の母親で、転生者自由主義の幹部、言預美来(ことよみく)縮圧元次(しゅくあつげんじ)と面識がある感じで話をしていた。


(……どうしよ、これは伝えた方が良い? 悪い? どっち?)


暫く迷っていると、続々と魔力を持った特殊対策課が集まってくるのを察知する。

異能者管理組合の正津成有(まさつなりあり)鼓動正史(こどうまさし)なども制服を着て何やら連絡を取っている感じだった。


(……どうなってるの? 国家公務員?……これ以上ここにとどまるのは危険。蓮輝だけに報告するか……)


礼音は姿を消してゆっくりと移動を始めた。


§  §  §


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