第57話 脱出
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坂相勘九が短めの杖を何もない空間に向けてうっすらと魔法の盾の様なものを展開して、周囲に何かいないかと警戒を続けていた。
(……見当違いの方向に?)
(上で感知の魔術を使ったのだろうが、そこまで精度が高くなかったのだろう)
魔術の練習していた召田宗麻が入口からの来訪者に最初に気が付く。彼を見ていた提子が何気なく入口に来ていた坂相勘九の方を見る。
「切那さん、誰か来たみたいよ?」
「ん? ああ、あれは仲間だ……って、どうしたんだ? 勘九」
「ああ……そうか、今日は客人がいるんだったな。今日は何人いる?」
勘の良い切那が魔力探知をして周囲を警戒し始める。
「ん? 侵入者か?」
「そうだ……」
「六人のはずだが……魔力反応は八人……勘九と寛治入れればぴったりのはずだ……」
(あれ? ……僕は何で気が付かれないの?)
(魔力を限りなく低くしている……ネズミくらいにな。おかげで魔力系の能力は全部使えない状態だ)
(……今、攻撃来たら死ぬね……)
(まぁ……そうだな)
坂相勘九が警戒を解かずに周囲を気にし続ける。
「……入口の扉の留め具が綺麗に破壊されていた……いや、破壊というより……パーツが無くなっていたんだが……」
「なんだそれ? 壊れたのか?」
「わからん。……大きな生体反応は七つだったんだが……もしかして召喚をしていたか?」
「……ああ……さっき殺したな……魔獣を……」
「それでなのか? ……違和感があるが……」
「さっき寛治君が酔っぱらって出て行った……その間に誰かに入られたか……」
「え? 私は気が付かなかったけど……ドアが壊れる音くらい聞き逃さないよ。時空系のギフトかな……パーツだけ転移させたとか?」
スマホをいじりながらリラックスしていた雲梯摩帆も立ち上がって周りを警戒し出す。
(……どうしよう、やばいんじゃない?)
(そうだな……落ち着いてくれ……バレてしまうが……一気に離脱するか……おそらく追いつけまい)
(この「煙玉君一号」も使えば大丈夫そうだね)
(そうだな……え?)
海波は扉の奥から出てきた人物に驚きを隠せなかった。
言預美来がリラックスした感じで中央へとゆっくりと歩いてくる。
「どうしたの? あら? 勘九君。大丈夫だった?」
「ん? どちらだ? 侵入者? それとも独房に監禁された事か?」
(……仲間だったのか?)
(そうみたいだけど……あちらの世界に戻りたい人だったんだね……)
(……そうなのだろうか? 戻ってどうするのだ? どう言う事だ???)
(お、落ち着いて……後で考えよう)
「……侵入者? え? 寛治君……そんなところで寝て……」
言預美来が寛治のもとに駆け寄り具合を見た後、ひょいと持ち上げる。
その瞬間、海波と美来の視線がばっちりと嚙み合ってしまう。
(!?)
(気が付かれてた!?)
(しまった! 彼女の能力を忘れていた!)
美来は視線を逸らすと何事も無かったかのように、重い大人の体を軽々と担ぎながら奥の部屋の方へと移動をする。
(見逃された?)
(……心臓が……すごい音に……)
「……美来が無警戒か……何事も無さそうだな」
「そうだな。彼女が気が付かないわけないか……状況を聞かせてくれ」
一同が警戒を解いて各々が次の行動をとろうとしたが、階段の方から駆け下りてくる音が聞こえる。
大柄でガタイの良い伏野一休が部屋の扉を開けて、左右を警戒しながら見る。
「おい、侵入者だろ? 扉が壊れてたぞ?」
「ああ、気のせいだった様だが……」
「扉の前にだけどよ。見知らぬ足跡が「四人分」だ。まさか気が付かなかったのか?」
「……すまない。君の様に獲物を狩るのが仕事ではなかったからな……」
「……だとすると……手練れが来やがったな……四人もか……」
伏野一休は部屋入り口に陣取って、誰も逃さない様な位置取りをして魔力がこもった目で周囲を警戒する。
坂相勘九が杖を取り出して再び周囲を警戒しながら何やら魔術を唱え始める。
(ちょっと、どうするの?)
(探知の魔術が発動する瞬間に強行突破をする。心の動悸を抑えてくれるとありがたいんだが……)
(無理、無理だよ。さっきからもう、限界……)
『万能なるマナよ。万物を構成するエーテルよ、我が欲する対象を照らす光となり、その場所を……』
すると魔術を唱えていた坂相勘九の周りに黒い手が出現し始め、目の前で見ていた伏野一休と雲梯摩帆が慌て始める。
「お、おい!勘九! おかしいぞ!! なんか出てる!!」
「なんかヤバい感じだよ! 暴走してるの?」
切那が状況に驚きながらも冷静に提子の方を見る。
「……あの時と同じだな……」
「……ひっ……あ、わたし……知らない……」
「ちっ……『解除』!」
坂相勘九が展開していた魔法陣から黒い手がそこら中の地面に伸びると、召田宗麻が召喚をして消えていたはずの魔法陣にまで伸びて複数の実験に使われた魔法陣が同時に光り出す。
(あの手は、ヤマタノオロチの時にたまにみたやつ)
(ああ、だがそれ以前にも……前世でも見たな……たしか……)
「おいおい! 何が起きてんだ!!」
「勘九君! 止めて!!!」
「既に止めてる!!! 大きな力が勝手に……」
召喚術の魔法陣からは、練習で呼んだものよりも一回りも大きいものが出現し始めていた。
奥の部屋からは長髪の見たことのある男性が魔力をまといながら慌てた感じで出てくる。
「何事だっ!!」
「魔力の暴走!!」
「くっそ。でかい魔石が無いのに!!」
(ラケシスさんと一緒にいた人!!)
(やはり仲間……つるんでいたか)
入口を見張っていた伏野一休が手近な狼型の魔獣に掴みかかり投げ飛ばす。
「摩帆武器をくれ!!」
「わかってるって!!」
(チャンス!)
(わかっている!)
海波は混乱に乗じてするすると入口まで抜け出し、部屋の混乱ぶりをちらりと見届けた後、魔力を込めて一気に階段を駆け上っていった。
騒ぎの割には冷静な対応をしていた坂相勘九は魔獣を撃退しようとしていた。その際にギフトに超強化された知覚と感覚によって海波が入り口から消えていく後ろ姿を俯瞰の視点でとらえる。
「ちっ、やはりネズミがいたか……あのならず者めがっ!」
(……なぜだ? なんで奴だとわかる?? 俺は……くそっ! 頭が回らん!)
「勘九! ぼさっとするな!! おまえのせーだろ!!」
「……くっ……俺のせいではない!! (くそ!!追いたいが仕方がない!)」
「さっさと目の前の魔獣処理しろ! 機械が壊れる!」
「わかってる、うるさい!!」
坂相勘九は一瞬、迷って海波を追おうとしたが、目の前で新たに黒い手と共に出現してくる魔獣を退治する方にシフトしていった。
ただ、いつもの冷静な彼ではなく、力任せに武器を振るって、過剰に魔術を行使してストレスの憂さ晴らしをしているかのように見えた。
雲梯摩帆は激情に任せる感じになっている勘九の様子を見て疑問に思った。
(……どうしちゃったんだろ……勘九君? 別人みたい……)
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