第56話 提子を探して潜入開始
§ § §
海波・礼音・瑠衣・紅華の四人は、消失事件のあった最寄り駅の駅前のビルの屋上に来ていた。
すでに夜も更けていたので、闇に溶け込みやすい服と、一新した仮面を装着して目的の中規模の居酒屋などが入った雑居ビルを観察していた。
「……あれ……だよね?」
「おそらく。想像より小さいな……」
「位置的に地下室だと思うんだけど……」
「方向だけ考える……地下七階相当。おかしい」
礼音がユキナに占ってもらった方向と実物のビルの情報を、スマホで調べながら不可解な点を洗い出していた。
(何故ビルの地下七階がおかしいのだ?)
(日本だと、大体、地下一階か二階が限度なのかな? それより深いのってすごい大きなビルの時だけだからね)
(なるほど、地下が深すぎるのか……)
(あのビルの下に巨大な地下施設……秘密基地でもあるのかな?)
瑠衣が目に魔力を込めて視力を強化して十階建てのビルを観察をし、入り口の案内板に注目する。
「そうだね、ビルの案内板を見ても、BF1としか書いてない感じね……別のルートがあるのかな?」
「入口が別か……可能性はあるな」
紅華がビルを観察していると、ビルからふらふらとした足取りで出てくる見覚えのある人物に気が付く。
「あ、この前一緒に戦った人が……ビルから出てきた……酔っぱらってる?」
「……途中まで共に戦った……「カンジ」だったか? ヤマタノオロチの黒い瘴気に包まれたあとはやる気をなくしていたな」
「ん? そうなの?」
「……なんと言うか……すごい千鳥足になってるね……」
「飲みすぎ。パパみたい」
「吞まれてるね……」
女性陣が呆れてどうするか迷っていたが、海波はその状態を見て、一瞬にして周りの気配などを感じ取る。
「……チャンスだな」
「え?」
海波はその場から一瞬にして姿を消していた。
§ § §
遠地寛治はビルの上で海波達に囲まれていた。
「……な、なんだぁ……くそっ……道化やろうじゃないか? なんのよーだ?」
「あなた。あそこから出てきた。どの店から出てきたの?」
「あー? 店。店なんていってねーよ、飲んでただけだ。ん? 剣は持ってきてないぞ? 置いてきたからかんけーないだろ?」
遠地寛治は視線をさまよわせながらぼーっとした感じで受け答えをしていた。
(随分……酔っぱらってるね)
(……酩酊気味だな……今ならうまく誘導すれば、情報を聞き放題だな)
瑠衣がスマホを取り出し、提子の写真を映し出した画面を寛治に見せる。
「えっと、カンジさん。この人しらない?」
「ん? あーなんか……あいつらが実験してるやつだな……なにしてたっけ? ん? 仮面が四人もいるし、どーぶつもあるのかぁ」
(いるのは確定だが……支離滅裂気味だな……)
(今なのか、過去の事なのかわからないね……)
「えっと、カンジさん。この子。今いる場所分かる?」
「ん? 地下じっけんのところだなぁ……なーんかやってるぜぇ……なんだ、おまえらもあっちの世界もどりたいのか? むだ、むだ。もどっても」
一同は寛治の酷い酩酊具合に呆れながら、情報源としては使えると判断し目配せをした後に意見を交換する。
「あのビルを調査するで大丈夫のようだな」
「だね」
「このお兄さん大丈夫かな……下におろさないと転落死しない?」
「……責任をもって下ろそう……」
「カンジさん、飲みすぎ……ちょっとまた担ぐから我慢してね……」
酩酊している寛治は会話の内容を理解する頭が残っていなかったので語り始める。
「だーって、邪神軍にまけたんだろー。せっかく命かけて守っても……負けちまったらしょーがないぜ……ハハハ……」
(邪神軍との戦い……結果は知らないのだが……負けたのか……)
(……ゼフ……)
海波は言い知れぬ悲しみの感情に包まれる。彼が思いを託した人間たちの事が頭の中でフラッシュバックしていた。
(あいつらも目的を達成できないまま死んだとかと思うと……悲しいものだな)
(……ゼフの知り合いって……本当に多いね……色々な種族がいるし……)
(ああ、俺と違って気のいい奴らばかりだった……あいつらには生き延びてほしかったものだ……)
(……)
紅華がしばらく考え込んでから寛治に質問をする。
「……カンジさん、あなた、邪神軍との戦いに参加してたの?」
「……ああ、してたさ……ん? おお! この懐かしい魔力……グリセーダじゃないかぁ……お前も死んでこっちきちまったんだろ……」
「……え?」
「……あと……エネリエスの巫女だろ……お前ら仲良かったもんな……」
「え?」
マスク越しで目だけしか見えなかったが、あからさまに二人は本気で動揺をしていた。
「おまえらが死んでこっち来てんだ……負けたんだろ……なんで……あんなにがんばった……だろうな……」
紅華が今にも寝てしまいそうな寛治をゆすって起こそうとする。
「ちょ、ちょっと、あなた、誰、前世の名前は?」
「……んー……」
遠地寛治は酔いが回ってきた様でウトウトとして眠り始めてしまう。
海波は目の前の会話に驚きを隠せなかった。
(すごいね……ラケシスさんだけでなく、彼女達も知り合いがこんな近くに)
(凄い偶然……かもしれないが……確かに彼は王国騎士の動きをしていたな)
海波は硬直して動けなくなっている紅華に向かって質問をする。
「知り合いだったのか?」
「……もしかしたら……団長かも……」
「え? あなたが言う団長……レイナーさん?」
「私と瑠衣ちゃんの前世を知ってる人、時間を遅くするギフト……王国騎士の剣の太刀筋……割といい加減な感じでおおらかな性格……そうだと思う……あたしより先に死んじゃったんだよね……砦で敵を引き付けて……」
(騎士団……レイナー……同一人物かもしれないな……)
(ゼフがいた世界は、るーちゃんと、貴志田さんと同じ時代で同じ場所……だったのかもね)
(……そうかも知れないな)
紅華は寛治のそばに歩み寄り顔を軽くなでる。
「アタシが背負っていくよ……ビルの入り口までもっていくよ……仲間がいるからこんなに飲んでているんだろうし……」
「やけ酒。パパよくやる」
「そうだね……気持ちはわかる気がするね……」
瑠衣が同情した憐憫の表情をしながら、やさしい魔力で寛治を包む。若干顔色が良くなった様に見えた。
(前世での行いが無駄だと知って……絶望してしまったのか……彼は)
(それで飲んだくれてるんだね……ヤマタノオロチの時に最後に戦ってくれなかったのは……)
(紅華の守護騎士としての動きを見て、誰かわかってしまったからだろうな……)
(それだけ彼女達の事を守りたかったのかな?)
(……そうだな。酔いが醒めたら聞いてみるか……)
(……まだ今度になりそうだけどね)
§ § §
ベチャッ!
海波が「もちもち玉」を監視カメラに投げつけて機能を一時的に停止させる。
遠地寛治を抱えていた紅華は、そっとビルの通路に彼をやさしく座らせておく。気持ちよさそうに寝続けていた。
(階段が正解かな?)
(エレベーターは既定階のみだろう)
階段のドアを開けて地下方向に進む。進んだ先には明らかに他の壁と色の違う、新たに建造された壁に重そうな鉄のドアが付いていた。
「もちもち玉」を監視カメラに投げつけた後、素早く鍵の状態を確かめる。
(番号ロックか……聞き出せると良かったね)
(そうだな。鍵付近にはセンサーがついているんだったな)
(そうだね。こう言う場合は慎重に……えぇっ??)
海波は心の中の「白波海波」を無視してドアのラッチ(ドアノブを回すと出し入れして止めるパーツ)を綺麗に切り取った様に粉に変えてしまう。礼音が慌てて海波の肩をたたき、スマホに打ち込んだメッセージを見せる。
『ギフトがバレる』
『……どちらにしろバレる』
『了解、何かあったら二人を連れてすぐに逃げる』
『頼む』
紅華と瑠衣は二人のやり取りよりも、簡単にドアの構造を破壊してしまう非現実的な状況に驚きながらも彼らについていく。
(海波って侵入し放題だな……)
(海君は悪い事に使わないよね……)
(海波便利。今度借りを返してもらおう)
むき出しのコンクリートの壁が続く階段をしばらく下りていくと、開けた巨大な地下室の様な場所へとたどり着く。
中には何かの実験に使われている資材が詰まった箱等が乱雑に放置されて積まれていたので、陰に潜んで中の様子を伺っていた。
『ギフト使う?』
『すまない。頼む』
『三人だと10分が限度』
『わかった。二人を頼む』
全員が礼音の提案に頷くと、なるべく音がしない様に気配を消して礼音のギフト『風景同化』を使って完全に姿を消し去る。
海波は完全に気配を消して見やすい位置まで移動すると、地下の広場では強い魔力反応が度々発生し、なにかの魔術を使って実験している感じだった。
(ソーマ君だね……)
(提子は……近くで座っているだけの様だな……縛られたりはしていないな)
(切那さんと見たこと無い人が一人と……奥の部屋らしきドアの向こうに二人の気配……だね)
(どの人間も魔力が高い様だな……)
召田宗麻が魔術を発動させると、地面から以前見たことのある狼型の魔獣が出てくる。
「おっし! 成功!!」
「制御しろよちゃんと」
「わかってるって、あ、あれ?」
狼型の魔獣は突然、海波達のいる方向へと走り出そうとする。
早風切那は舌打ちをしながら駆け寄って、素早く剣を一閃する。
「ちっ!」
ザン!! ギャンッ!!!
魔獣は目にも留まらない速さの斬撃で真っ二つにされて黒い煙となり消えていく。
「制御しろって言っただろ? 待て。だよ。最初は」
「……たまに自動的に動くんだよ。仕方ないだろ?」
「……アタシの記憶だと、それ、召喚魔術じゃないんだけどね……召喚して使役するのが仕事だろ?」
「こっちの世界来てから、魔獣が勝手に動きやすいんだよ!」
「……ん? どう言う事なんだ?」
早風切那は振り返ってスマホを見ながらやる気の無さそうに座っている雲梯摩帆へ質問をする。
「……おそらくなんだけど、提子ちゃんが何かしらのギフトか加護があって、身の回りの召喚魔術を強化してるのかなぁ……確か召喚術って、召喚の呪文と使役の呪文がセットだから……使役の呪文を強化しないとうまく制御できないとか?」
「じゃぁ、ソーマ、使役の呪文を書き換えろ。ちょっと大型向けにすればいいのか?」
宗麻は地面を見ながらばつが悪そうに、歯切れが悪く呟く。
「……そんな事できねぇよ……丸暗記してるだけだし……」
「それで召喚術師……だったの? 末端の割には魔力高くてちゃんと良さげなやつを呼び出せるし……魔術学院で教わった事思い出せてないの?」
「……俺の家貧乏だったから……行ってない」
「……」
「ある意味凄いな。独学か……」
「切那ちゃんってたまにお人好しだよね。盗んだに決まってるでしょ」
「本当か?」
宗麻は目を背けて、あからさまにいじけた感じになる。
「まぁ、私たちとしては提子ちゃんのギフトが有用なのが確認できたし良いんじゃないの?」
「そうだな。勘九に聞けば色々と分かるだろうし……って連絡取れたのか?」
「あ、今日顔出せるって。なんか違反して独房入れられてたみたいな感じ……」
早風切那は本気で驚き、すぐに聞き返す。
「……あの真面目君がかい?」
「良くわからないから来たら聞いてみたら? ログ残らないから話してくれるかもよ」
(やはり召喚魔術の検証をしている様だな……)
(間空さんの能力もなんか珍しいやつだったんだね。魔術の能力を上げるみたいだし)
(そうだな。あれならば直ぐに殺されるとかは無いだろうが、魔術の暴走などがあった場合はその限りではないな……)
(どうする? 今すぐ助けて戻る?)
(ここにいる手練れ達を大人しくさせるのは厳しいな……)
考え込む海波にメモ書きが手元に突然出現する。姿を消した礼音からの連絡だった。
『どうする? 魔力あとはもって5分』
『戻ろう。何をやっているかは分かった』
『OK』
ふと入り口の方に戻ろうとすると、階段の上の方から気配と驚く声が聞こえる。
「え? なんだこれは?! おい、おい、ちょっと待て!!」
(聞いたことのない声だな……仲間か)
(……挟み撃ちになっちゃうんじゃないの?)
(俺だけなら何とかなる……逃げてもらうか……)
海波は慌てて礼音に二人を連れていけとサインを送る。
礼音が直ぐに気が付いてくれた様で、何かが移動した感覚だった。
(行ってくれたみたいだな……)
(凄いね、まったく気配を感じないなんて……)
(そうだな。魔族の様な力だ……)
その後すぐに一瞬だったが、魔力で探る何かの波動が部屋全体を覆う。
(魔力感知か……)
(ひっかかったけど……どうするの?)
(大丈夫だ。おそらく争いが起きていないかの確認だ……)
(三人は……)
(彼女たちは大丈夫だ。彼女のギフトは魔力で感知できないらしい)
(それもすごいね……)
海波は入口から離れ、近くの資材置き場の近くに身をひそめる。
坂相勘九が短杖を片手に若干警戒しながら酔いつぶれた寛治を背負って降りてきた。だが、何かに気が付いた様で、寛治をその場に落とすと、右手に持った小さい杖に魔力を込めて周囲を警戒する。
「ん? いるな……どこだ?」
(あれ? バレてる???)
(落ち着け……)
海波は緊張で「白波海波」の心音が高まりすぎて、かなりの危険が予測できる状態になってしまったので若干焦っていた。
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