第53話 思い出の家の謎
§ § §
海波は三年前の消失事件後の夢……と言うより記憶を見ていた。
海波がいつも通りに中学から家へと帰ると、家が警察や救急車、現実では見た事も無い映画に出てくるような白い防護服を着た人間が家があった場所を行ったり来たりしていた。
驚いた海波がKeepOutのテープが張り巡らされた前で警備している警察に話しかける。
「あの! すみません! 何が起きたんですか?」
「立ち入り禁止だよ。入っちゃダメだめだよ。なんでも危ないモノがあるとかなんとか?」
「あの家の子かい? なんか大変な事になったとか……おーい、この子をあちらの親御さんのところに!」
警察に案内された海波は、スーツ姿の母親の前に案内される。浪音は海波に気が付くと彼に駆け寄ってくる。
「あ、その……大変な事に……ウィルスが……パパの研究してたものが漏れ出た……とか……」
「え? 父さんって研究員だったの?」
「あ……保管してたらしいの。それが爆発したとか……」
「それじゃ、家のモノは……」
「それは後で回収してくる予定……さ、こっちに、しばらくは入れないの……」
「ねぇ、これからどうすれば……」
「それは……ごめんなさい。突然の事で私もわからないの……」
母親の元に研究所らしき白衣をまとった女性が慌てて駆け寄ってくる。
「あ……白波さん。えーっと、ご子息を預かりましょうか?」
「ええ、そうね……ゆっくりできるところに……えっと、そのお姉さんに付いて行って。後で私も行くから」
「……わかった……」
物々しい雰囲気となにも理解していなかった海波は疑う事も無く、職員と思われる人と一緒にその場から離れて行った……
§ § §
海波は夢からさめ、朝日が窓から差す光をまぶしそうに眺める。
(……やはり不自然だったな……)
(そうだね。ウィルス……だったら、町中の人全員避難させるよね……)
(君を家から話す口実だった様だな)
(訳が分からないよ……)
海波が目覚ましのアラームが鳴ったので立ち上がってリビングに行くと、浪音は既に着替えを終えて出勤の準備をしていた。
「おはよう。海波、今日からしばらく夜遅めになるから暫く夕飯は別でお願い」
「……わかった」
「それじゃ、あ、お金はそっちに置いておいたから。食費だからね。遊びには使っちゃダメよ! あ、少しくらいは……あ、もうこんな時間。いってきます!」
「いってらっしゃい」
(随分慌ただしいな……)
(昨日の残務が終わらなかったからかな? もしかして僕らの行動がばれてるとかは無いかな?)
(占い系のギフトがあれば……何となくはあてられるとは思うが……)
(……特に変なそぶりは無かったから……とりあえず連絡するか)
海波は電子ケトルにお湯を入れつつスマホで仲間達にメッセージを送っていた。
(さて、今日も忙しくなりそうだな……)
(そうだね。学校行く前に行ってみる?)
(遅刻をすると親に連絡がいくのではなかったか?)
(……学校行ってからか……早く確認したいのに……)
海波はしぶしぶと学生服に着替えつつ、潜入用の衣装もスポーツバッグに詰めて家を出た。
§ § §
海波は放課後に目立たない様にどこにでもある服装にマスクとサングラスで顔を隠し、気配を消しながら以前の元自宅の前に来ていた。
そこには建築中のビルなどに使われる鉄製のパネルに囲まれた家があった。パネルに囲まれて中の様子などは見ることが出来なかった。
(監視カメラ……ついてるね)
(家全体を囲う……とはな)
(なんで確認をしにこなかったんだろう……僕は……)
(母親は何と言っていた?)
(暫く立ち入り禁止になるって……そのあとは……大事な私物は送られてきたから……行く必要性が薄かったからかな……)
(それかギフトの暗示系にかかった……か)
(……やっぱりそんなのもあるんだ……)
海波は場所を変えて家を観察するようにぐるっとまわる。
(魔力は感じる、何かがあるのは確かだが……)
(パネル壊して入ってみる?)
(……出来はするのだが……あそこまで厳重に封印とは……)
(バレない様に入れないかな?)
(カメラの死角は把握したが……侵入したら警報がある恐れがあるな……)
(そのカメラの死角から地面壊して、警報のない場所から入ればいいんじゃないの?)
(なるほど……段々君も大胆になってきたな)
(え? そりゃ、何を隠しているか知らないと……今後の事が……)
(そうだったな。ん? 来たか)
鉄筋コンクリートの家の屋上で元自宅を探っていると、その隣に海波と似た感じに変装した蓮輝が到着する。
「よかった、まだ入ってなくて……」
「どうだ? 蓮輝から見て……あの家……と言うより施設は……」
蓮輝はサングラスを軽く上げて目に魔力をためて元自宅を観察する。
「所々に魔法陣と思われる端っこの部分が見えるね……家全体を包んでいるのかも。魔法陣が見えないと何やってるかはわからないよ」
「……」
海波は蓮輝の言ったことを理解すると同時に、やはり元自宅に何かが隠されている事を悟った。
「やはり、魔力的な何か……あちらの世界の何かがらみってことだな」
「そうなるね。どうするの? リスク高いと思うけど……」
「ヤバくなったら高速で離脱だな」
「……ドキドキするね……」
海波は少々上ずった声になっている蓮輝を物珍しそうに見る。
「……そうか、普通はそうだな」
(なんか慣れちゃったね……)
(最初に侵入した時の君の心臓の鼓動はすごかったものな……)
蓮輝の指示で安全そうなルートで建物の近くに移動すると、海波が監視カメラの死角になる場所の壁を破壊のギフトで人が通れるサイズで穴を開ける。
(……壊すときに音が出ないのってズルいよね……)
(ああ、大分お世話になったな。このギフトには……)
特に警報、魔力感知で何か起きた感じもしなかったので穴の中を覗き込む。
天井の囲いは緩かった様で、光が漏れてそれなりに明るい状態になっていた。
(ウィルスの封鎖だったら甘い感じだね)
(見せないため……入らせないためだろうな)
海波は安全と判断をすると後ろで待機していた蓮輝にハンドサインを送り合流する。
囲いの中はそこまで厳重な防犯対策をしている感じはなかった。
蓮輝は地面や家に何か対策が施されていないかを確認し、問題が無さそうなのでメモで彼へ連絡をする。
『侵入者の撃退用の魔法陣じゃない。なにかの防御なんだけど、一般人用? と対魔術用だね』
『わかった。とりあえず部屋の中へ』
家の中へは普通に窓のカギが開いていたのでリビングから入る。既に大量に積もった埃の下に土足で入った跡があったので、若干躊躇はあったがそのまま部屋に入っていく。
(久々だな……こんなに広かったっけ……)
(今の家と比べると大分豪華に見えるな。埃だらけだが……)
(こっちから強い反応だな……)
(そっちは父さんの書斎だね。考えてみると……なんの仕事してたかよくわからないかも……)
(この世界ならではの話だな……)
『海波君こっち』
『わかった』
蓮輝の探知能力では父親の書斎の方に反応があったらしく、そちらの方へと移動をする。
蓮輝がドアのノブを調べているが魔術的な何かは発見できなかった様だった。
(開けるか……)
(ドキドキするね……)
ゆっくりとドアノブを回してドアを開けると、父親の金庫らしきものを中心に魔法陣らしきものが描かれているのがわかった。
(これって……見たこと無かったんだけど……)
(今は魔力を通した目で見ているからな……)
海波は魔力を消して書斎の金庫を見てみると、魔法陣らしきものを見ることはできなかった。
(なるほど……)
(君が気が付かないわけだな)
『警報的なモノじゃなくて守護陣』
「あと、喋っても大丈夫かもね。ここは無人っぽいし。うん。大丈夫みたいだ」
「守護陣となると、あの金庫は触れないか?」
「そうだね。この陣を破壊……すればいいけど……封印してる様に見えるね。ちょっと魔法陣が雑な感じだね。急いで封印した感じがする」
「中を見てみたいが……」
「それならある程度は、ちょっと待っててね」
蓮輝がリュックから紙を取り出し、床へと広げて敷く。そこには魔法陣が描かれていた。
「これは?」
「透視のギフトを模したものだね。ちょっとこの前に拾ってきてくれた魔石使うね」
蓮輝が何やらあちらの世界の言葉で呪文を唱えると、蓮輝の目が鈍く赤い色に光り出す。
「……え? 魔物の心臓?」
「心臓?」
「心臓が……なんか、色々な魔術具にまかれて……封印されていたのかな……」
「って事は父さんは……魔力を使える何かだったってことか……」
「そうなるね。それかお母さまがそうだったんじゃないの?」
海波は蓮輝から知らされる事実に驚かされていたが、予想はしていたので動揺はしなかった。
「……知らなかった……」
「両親が転生者だったって可能性が高いね」
「家族全員転生者か……もしかして陽花里もか……」
「妹さんだっけ。でもこの家から感じる魔力ってここからだけだから……高校生になったら目覚めたりしてね」
海波は妹の年齢が一つ下なので、未だ目覚めてないと思いつつも、目の前の危険なものをどうするか考えていた。
「俺の直感ではあれは触らない方が良いと思うのだが……」
「僕も同感だよ。あれが何かしらの魔力を放出して……慌ててこの家を封印した……って言うのが想像できる物語だね」
海波は言預美来に言われた助言を思い出していた。
「家族を信じなさい……か」
「ミクさんの預言? だっけ?」
「ああ、信じるなら……あれは父さんが封印したもの……になるな」
「そうだね……そろそろ戻ろう。僕らが知らないギフトがあったとしたら、そろそろバレてるかも」
「わかった」
海波は部屋を出ると同時に振り返り、幸せだった時間を思い出し、足早にその場を後にした。
§ § §
爆心地跡の研究施設で慌ただしく研究室に入ってくる女性がいた。
研究室の中で浪音が画面に表示されている波長を見ながら、メールのやり取りをしていた。
「主任、上から連絡です。白波家に侵入者の形跡ありだそうです」
「えっ?? いったい誰が?」
「不明だそうですが、二人ですね。壁の穴と二人分の足跡が見つけられたそうです。一般的な靴なので特定は不可能に近いみたいです。……監視カメラの死角から入ったみたいですね。想定していなかった方向からだったみたいで、罠や警報などを縫うように移動していたみたいです」
浪音は頭をトントンと指で叩きながら元自宅の状態を思い出していた。
「普通の人間には入れないはずだけど……」
「転生者でしょうね。最近覚醒した者達がたくさんいるって報告もありましたし……」
「はぁ、異能者の警備も回してもらわないと駄目ね……」
「足跡は書斎前まで続いていて、そこから戻っているとのことですから……封印は大丈夫みたいですね。触った形跡も無さそうとのことです」
「アレに無理やり触られてこじ開けるようとしたら……私たちの家が無くなっちゃうところだった……」
「……まだ諦めてないんですか? あ、すみません……」
浪音はあからさまに不機嫌そうな顔をする。
「魔術班に情報を回して……探知系の異能者なんていたかしら……できればそちらに」
「承知しました。では~」
浪音はそそくさと去っていく口の減らない部下を見ながら呆れた表情をする。
浪音はネックレスの石を手で握りしめる。
(あともう少しなんだから……お願いだから、誰も邪魔しないで……)
§ § §




