第50話 混乱する海波
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太陽は落ちて若干空は紫がかり、街灯に切り替わっていく時間帯になっていた。
海波、瑠衣、紅華、蓮輝の四人と礼音は蓮輝の家の離れのアトリエにいた。
緊急で集まったメンバー達に海波と礼音は施設で見聞きしたことを伝えていたが、その場にいた全員がすぐに事情を呑み込めずに思案にふけっている感じだった。
蓮輝は、海波が施設で見た母親にショックを受けて口数が少なくなっている姿をちらりと見るが気にせずに進めることにした。
「とりあえず、情報をまとめてみようか。想像以上の成果なんだけど……」
蓮輝は何故か室内にあるホワイトボードに情報を羅列して書きだしていく。
・施設には魔術の罠がたくさん。警戒が要所で厳重。カンシカメラたくさん
・あちらの世界の魔獣の骨と魔石が散在してた
・中心部には巨大な黒い魔石「異質?」系
・ヤマタノオロチの時に出た黒い手が出現
・女性型魔道機械人形がいた。王国製?(強めと思われる)
・研究施設なのは確定? →海波君のお母さまが主任だった?!
紅華は素直にまとめてくれた蓮輝に感謝の意を伝える。
「蓮輝ありがとう……あたし情報が多すぎて何から考えていいかわからなかったよ」
「私、合流する前に色々考えた。だけどわからなかった。中の地図を描いておくから先の事考えておいて」
礼音はそう宣言すると、内部の地図を詳細に手元の紙に描いていた。かなり手慣れた感じで前世でも諜報員をやっていたのが手にとるようにわかる感じだった。
(情報を並べてみるだけで……色々ありすぎて余計わからなくなったよ……)
(国の軍が守っているだけの事はあるな……魔道機械人形が厄介すぎる……)
(それよりも母さんだよ……なんでいたんだろ……)
(それは……わからないな……)
紅華が羅列された情報を見ながら直感で語る。
「なんか……こう見ていると、悪の組織の本拠地みたいだね」
「たしかに、秘密基地と研究施設と魔獣を召喚できそうな場所……怪人とか黒い作業員達が出てきそうな悪の組織って感じだね……」
瑠衣が頭の中で情報をまとめ終えた様で若干迷いながら話し始める。
「……悪の組織……かどうかは置いておいて、消失事件のあった場所が「あちらの世界」と入れ替わった可能性が高いのは確かね……」
「それは俺たちもそう思った」
海波の相槌とともに礼音もうんうんと作画の手を止めずにうなずく。
「だとすると、向こうの世界と入れ替わった後、入れ替える術式と魔石などがまとめて入れ替わった。そのあと自衛隊の特殊対策がが調査するために封鎖した……と考えるのが適切かな?」
「巨大な異質な魔石の力を使って異空間を転移……か、物凄い魔力が必要だけど……できそうだね」
蓮輝は同意しながらホワイトボードの情報にチェックを入れて情報を整理する。
「そうすると半分の情報は整理できるね」
「黒い手は……召喚術につきものなの?」
「その情報は……わからないかな……僕の知っている召喚術では黒い手なんて見たこと無いし……ソーマ君のギフトなのかもだけど……」
「あの場にソーマはいなかったな」
「だとすると、この異質な魔石に引っ張られてるのかもね……」
蓮輝は『ヤマタノオロチの時に出た黒い手の様な者が出現』に?マークを入れる。
「それで機械人形なんだけど、王国製、って、どこの王国??」
「デウス王国だ」
「……ああ、あの魔法機械産業の……となると……」
「あたしは厄介な記憶ないんだけど……」
「紅華ちゃんが守護騎士だったから、仲間側になるから知らないのかも……」
「そうだな。俺のようなならず者達の天敵だ。問答無用に捕縛、殺しに来る」
「……大変だったんだねぇ……犯罪者のお掃除ロボって感じか」
瑠衣がかなり驚いた様に海波の発言に反応する。
「ちょ、ちょっと待って、海君も同じ世界からの転生者なの? みんな知ってるの?」
(ああ、そうか……同じ世界……違う世界からの転生もあるのか)
(あまり考えていなかったな。てっきり全員同じ世界からの転生だと思っていた)
(何でそう思ったの?)
(ギフトを使ってきたのと……魔力強化を使える人間だらけだったからな)
(ちゃんと話をしておけばよかったね……)
海波は周囲を見回し、仲間の表情を見る。
(るーちゃんだけそう思ってなかったみたいだね)
(みたいだな)
「……そうなのか?」
「え? 違うの?」
瑠衣は他の三人を見回し同意を得ようとする。が平然として驚いている人間が一人もいないことに気が付く。
「あれ……みんな知ってたの?」
「ははは」
「なんとなく」
「まぁ、なんと言うか……同じかなと……」
「瑠衣、なぜ違うと思ったんだ?」
「えっと……異能者管理組合の人達が、転生者は一つの世界から来ているわけじゃないって……」
瑠衣の返答の方が新情報となり四人は一様に驚いていた。
「マジ?」
「ほんとに?」
「そうだったのか……」
「初耳」
蓮輝は頭をトントンとしながら若干イラついた感じになる。
「……そうすると、色々と前提が崩れてくるね……おそらく僕らが来たであろう、女神エネリエスのいる世界、そこの知識で色々と考えてた……ちょっと調査に時間をかける必要がありそうだね……」
「……すまない、俺の頭ではこれ以上は……この数日で正直色々ありすぎた……」
瑠衣が一瞬海波を見たあと窓の外を眺める。すっかり日が暮れて暗くなっていた。
「そうだね、海君は……最後のこれが問題……だもんね」
一同はホワイトボードに書かれた文字「→海波君のお母さまが主任だった?!」を見てなんと言えばいいかわからなかった。
(……家に帰るのが怖いな……)
(今日は遅くなると連絡があったけど……)
(考えるのに疲れたな……)
(そうだね……)
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海波は瑠衣と一緒に海波の家の方へと歩いていた。
紅華の気遣いで、瑠衣に「心配だから海波を送ってやれ」……と、最大限の気遣いを二人にしている感じだった。
(二人で歩いているのに……全然嬉しい気分にならないね……)
(そうだな……俺も瑠衣の立場だったら……何を言えばいいかわからないな)
(家に帰ったらどうすればいいんだろう……色々聞いてみる?)
(それは止められているだろう? 調査後……だな)
(そうだよね……)
「俺は……母さんにどう接すればいいんだろうか……」
「うーん。私が親に会いたくない時は……ご飯食べたらスマホ見ながら部屋に引きこもる……かな。聞かれたことだけ答えるくらいにすればいいのかなぁ……」
「普段からかなり話しかけてくれるんだが……」
「浪音さんだったら……そうだね。明るい人だものね……」
海波は心が落ちているときに気を使って話をしてくれる瑠衣をありがたく思っていた。
二人は路地を曲がってあと少しで海波の家……と言うところで瑠衣が先に異変に気が付く。
「……ねぇ、魔力の高い人が……いるみたいだけど」
考え事をしていた海波は地面ばかりを見ていたことに気が付き、進行方向に待ち構える二人の人影に気が付く。
「え? ああ、そうだな……ん? この感じは……」
二人の視線の先には進路をふさぐように待ち構えている縮圧元次と言預美来の姿があった。
瑠衣は前方の二人、と言うより長身長髪の美形の男性の事をよく覚えていた。
異質な空気を感じ、瑠衣が自然と警戒態勢に入っていた。
「……この間の人……だよね……」
(となると、隣にいる人が将来を約束したって人……だよね……やっぱり)
「そうだな。魔力の感じ……などが……どう言う事だ……これは……この感じも……」
海波は、『シスター・ラケシス』の存在だけではなく、傍らにいる長身の男性の魔力の波長にも、強い覚えがあるのに気が付いて愕然としていた。
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