第47話 仮面連盟(仮)
§ § §
ここではない世界。
恋人を目の前で失ったゼフは邪神軍との最前線であるこの街の「猛者ぞろい」と言われている兵団の兵舎に来ていた。
「……本気か、何故その強さで新兵訓練を?」
「ギフトに頼らない強さが欲しい」
この町の兵団長は口ひげを触りながら、つい最近起きた下町を悲しみのどん底に落とした大事件の事を思い出していた。
「そうか……なるほど……な」
槍を構えた兵士が威圧するように前に出てくる。
「貴様、捕まると思わなかったのか!」
「待て、面白い。しっかりと訓練を受けてもらおう。もちろん。難易度最高の最前線に送る戦士になるものをな」
「団長……」
「軍曹どの、早速彼を訓練に……」
「はっ! ……知りませんよ?」
「助かる」
ゼフは兵団長にお礼を言うと、にこやかな表情をした軍曹の後をついていった。
参謀が慌てた感じで兵団長に声をかける。
「よろしかったのですか?」
「ああ、この街に必要なのは彼の様な力だ。この腐った街を一掃してくれる力が彼にはある」
「……はぁ、適当に誤魔化しておきます。領主様の耳に届かないようにしないと……軍曹は浮かれた顔してるし、あなたまで感化されていたとは……」
「俺も下町出身だからな。こう言う話は大好きなんだよ」
兵団長は塔の窓から見えるひときわ豪勢な屋敷を見て忌々しそうに目を細めていた。
§ § §
海波はいつも通りに目覚めてゆっくりと上体を起こす。
(……なんだろう、起きたばっかりなのに疲れてる気がする)
(そうだな……まさか訓練した時の「きつさ」まで夢で再現されるとは思わなかった)
(部活なんてレベルじゃないね、アレ)
(治癒士がいる世界だからな。多少の無理が利く)
(魔法のある世界も大変だね……)
海波は身支度を終えると、いつも通りに高校へと歩いて向かっていた。
(歩きながらだと頭が回る感じがするよね)
(実際そうだと思うぞ……君の知識にもあるではないか……やっと頭の整理がついてきたな……)
(そうだね。それで……どうするの?)
(ラケシスの意図通りに、暫くおとなしくしているのが賢明だな。おそらくあちらから接触があるだろう……いつもの事だ……俺を振り回す……)
(……いいように使われていたんだね……)
(そう言わないでくれ……惚れた方が負けなのだ)
(……何と言ったらいいかわからないよ……)
それからも今後の事を考えながら下駄箱に靴を入れて上履きに履き替える。
(……あの時は気が動転していたが……瑠衣へのフォローは忘れずにしておかないとな)
(そうだね……僕も頭がぐちゃぐちゃで……凄く悲しそうな顔をしていた……)
(それにしても……噂話が妙……だな)
(だね……また召喚魔術使っている人がいるのかな?)
教室に入る間にも色々なところで噂話が持ちきりで、校内全体が慌ただしい雰囲気になっていた。
「聞いた? 今度はなんか黒い魔物だって……」
「え? 怪獣じゃないの?」
「狐の仮面をつけた人たちがなんか退治してたって」
「なにそれ? 正義の味方?」
「この町呪われてない?」
「消失事件とかまた起きるのかな……」
「あ、それ親父も言ってた。この町から引越しした方がいいとか……」
「なんか変な騒ぎ起きたあと、消失事件起きたんだろ? 関連性あるだろ」
「家、引っ越せる貯金あるのかな……」
海波は自分の席に着くと、教科書などをしまいながらも聴覚を強化して情報収集を続けていた。
(大変な事になってるみたいだね……)
(ああ、平穏な生活は遠いようだ……)
(狐の仮面は……異能者管理組合かな?)
(だと思うが……)
(魔物退治には協力した方がいいかな……)
(目についたものだけを助ける……で良いだろう。町中となると規模がでかすぎる……)
§ § §
海波は学校が終わった後に、とある和式の豪邸の前に来ていた。
周囲にある家の四倍はあろうかと言う敷地面積になっていた。
(広いな……)
(今時こんな家に住んでるなんて……蓮輝の家は金持ちだったんだね)
(地主というやつか? 武士屋敷の様な古さだな)
メッセージの連絡通りに門をくぐり、右手の離れの屋敷の方に移動する。そちらの方は和式ではなく、洋風のアトリエの様な雰囲気の建物になっていた。
玄関の扉を開けるとすでに仲間が集まっていた様だったが靴の数がかなり多くなっていた。
(大分人が集まっているみたいだね)
(……どう言う事だ? 四人ではなかったのか)
(仲間集めをするとか、メッセージにあった様な記憶もあるかな……)
(……自分の記憶と向き合う事で頭がいっぱいすぎたか……)
(そうだね、ちょっと色々ありすぎたね……)
海波が扉を開けて二十畳はあるかと思う洋風のリビング風の部屋に入ると雑談が止み、部屋にいた一同が彼の事に一斉に注目する。
「あ、海波君おそいよ~」
「あ、ごめ、おやつほとんど食べちゃった……」
「……」
「……ほんとに白波君だったんだ……」
「気配を感じられなかった……」
「すごいな、魔力を抑えらえてるなんて……」
部屋の中にはいつもの三人と、丸亀礼音、重石要と中学の元クラスメートの仕立金十子がいた。
面子に疑問を覚えながらも扉を閉めて部屋の中に進むと、興味深そうに仕立金十子が海波の体を視線で舐めるように見てくる。
(なんか……物凄い見られてるんだけど……)
(何かを測っている様な……なんだろうか?)
「それで……蓮輝、いや紅華か、これは一体?」
蓮輝が海波が驚いたのを見て意外な表情を見せながら説明をする。
「例の仲間集め、と言うより協力体制の確認だね」
「そう、なんかクラスメートと連絡しているうちにこうなっちゃって……なんかごめんな感じ?」
「紅華ちゃんのせいじゃないから。なんかいろいろ予定合わせてたらみんな集まっちゃっただけだから……あ、そうそう、ほら衣装も仮面もできたし。そのお披露目も……金十子ちゃんが作ってくれたんだ。転生者で、前世では魔法の衣服を作ってたんだって。あ、彼女もバイト気分で遊園地跡に来ていたんだってさ」
「えっと、白波君。お久しぶり? 蓮輝君、ちょっと落ち着こう」
仕立金十子がぺこりと可愛らしく挨拶をするが、海波の様子を見て蓮輝の方に大丈夫なの? と言ったまなざしを送る。
「……すまない、情報が多すぎて……ついてけない……」
海波の混乱した表情を見てその場に集まっていた一同が同情の目を向ける。
「だよねぇ……」
「あたしたちもそうだからね……」
「れ、蓮輝は相変わらず周りが見えないで突っ走るね……」
「え? そうなのかなぁ……連絡はしたつもりなんだけど……」
蓮輝が場の雰囲気に気が付いて凹みはじめる。
丸亀礼音が情報過多でフリーズしている海波を見かねて助け舟を出す。
「まぁ、あれ。とりあえず情報整理していきましょう。私への依頼もなんか変だったし」
瑠衣が、まだ状況を把握しきれていない海波に一つずつ説明をしていく。
「そうね、とりあえず……元クラスメートで、あきらかにあちら側でない人達を集めているところなの。礼音ちゃんと要くん、あとは蓮輝くんが金十子ちゃんのギフトを知って色々頼んでたものが出来上がったから来てもらったの」
蓮輝と金十子がハンガーに飾った衣装をその場のメンバーに配り始める。
黒やグレーを基調とした現代的な特殊部隊が着る戦闘服のようだった。
「なんか……サイズぴったりなんだけど……」
「ああ、僕と金十子ちゃんで体型覚えてたからね。あとは身長はメッセージで聞いたでしょ?」
「それだけでここまで……」
金十子が楽しそうにテンションを上げて説明を始める。
「蓮輝くんの魔法陣と私の魔力縫合で要所を縫ってあるから、魔力を通せば弱い魔法もはじけるし燃えたりとかしないと思う。魔力を流さないと、ただの丈夫な服だから注意してね。隠密行動しているときは普通の服の強さになるから注意。あとは……ちょっと着てもらったらサイズ調整しないとね」
(すごいものだな……前世でも欲しかった……)
(クラフター系のギフト持ちいるとは思ったけど、魔力で縫うって……なんか人とか操れるのかな?)
(その発想がわからないのだが……ああ、なるほど、からくり人形にするのか……無理だと思うぞ。どれだけの魔力を消費するかわからないレベルだ)
(漫画みたいにうまくはいかないか……)
金十子の説明を聞いて一同は感心していたが、次第に期待の眼差しを何人かが送っていた。それに気が付いた金十子は慌てて補足する。
「あ、なんか期待の目で見てるけど、私の力はあくまで物を縫うギフトだから。糸を操作して人を操ったり攻撃できないからねっ」
「そ、そっか。チートみたいなギフトかと思ってた。残念」
「ゲームや漫画だと糸使いってなんか強いもんね。なぜか」
「たしかに……」
サブカル好きの礼音と要はあからさまにがっかりしていた。
瑠衣は特に何も思わなかった様で、テーブルの上に並べられた仮面を指さす。
「それで、蓮輝君、こっちの仮面は?」
「ああ、前回紅華ちゃんの仮面が戦闘に耐えられなくて壊れちゃったから仮面を強化しておいたんだよ。物理的にも魔力的にも結構硬くて耐えられるかも。マスク止めも魔力を通すと締まる感じになってるから……気絶とか、魔力切れしない限りは取れないはず」
紅華がマスクを手に取り早速つけてみる。頭を激しく振っても取れる気配はなかった。
「……あたし、この仮面……ヤマタノオロチの戦いの前に欲しかったよ……」
「た、た、たしかにあの場にいた人間全員にばれちゃってたね」
「……まぁ、紅華ちゃんはみんなと仲良くて敵対している人なんていないし、大丈夫なんじゃない?」
「え? そ、そう?」
「それで……人数分……よりもあるんだけど?」
「ああ、あとはユキナちゃんと、歩夢くん達も誘おうかと。駄目かな?」
海波はいつも恐れた表情を向けてきていた振水ユキナの事を思い出していた。
「大丈夫なのか?」
「彼らは中立派だと思うし、それにヤマタノオロチの時援護してくれてたからね……」
「あ、いや、俺が言っているのは……その、ユキナに……」
「あ、そうだったね。海波君、ごめんなさいできる?」
「……善処する」
蓮輝は各々が仮面をかぶったり、服の手触りを確かめているのを確認する。
「それでは、仮面は行きわたったね。ではここに仮面連盟の結成を宣言します!」
「え、なにそれ、だっさ」
「連盟……だったの? それって使い方あってる?」
「ぼ、ぼ、僕らも強制加入?」
「ん~強いものにまかれろ的な? 目的は何?」
「あの……私も入るの? 裏方がいいんだけど……」
ノリノリだった蓮輝は一斉にツッコミや質問が入ったのでしり込みしてしまう。
「う……」
「蓮輝……もう少し相談してから事を進めてくれ……」
「そんな……海波君の幸せを願ってやってるのに……」
「……とてもありがたいんだが……もう少し相談してからにしてくれ」
「……わかったよぉ……」
一同は海波の意見に同意した目を送っていた。
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