第46話 内通者
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異界倶楽部のアジトで、雲梯摩帆は疑問に思っていた。
「ねぇ、美来ちゃん。勘九くんからの返信来たりしてる?」
「え? 来てないね。仕事中はスマホ使えないんじゃないかな……自衛隊ってそう言うところでしょ?」
「そうなんだけど……研究職なんでしょ? まる二日なんだよね。一日一回は見れるはずでしょ?」
「うーん。なんかの訓練……でもあの施設で訓練なんてないよね……」
美来はこの世界の自衛隊のスケジュールってどうなってんだろう?と本気で考えるが知識が全く無くて想像できていなかった。
「美来ちゃんの予見でも分からない事多いんだね」
「全部わかったら……もう少し長生きできたんじゃないかな」
「……そうだった……ごめん」
雲梯摩帆は美来から前世の事を何となく聞いていたので、思い出して慌てた感じで本当に申し訳なさそうにしていた。
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雲梯摩帆がメッセージの返信の遅さを疑問に思う一日前、坂相勘九は自衛隊特殊対策課の研究員として消失事件のバリケードの中にいた。
彼は「異界倶楽部」のメンバーでもあったが、しっかりと本職にもついていた。
彼は「異界倶楽部」の他のメンバーほど前世の記憶を思い出しているわけではなかった。ただ有用なギフトと強力な魔力には覚醒していた。
彼は生まれながらに「あちらの世界」の事に不自然なほどに興味を持ち、夢で断片的に見ることが多かった「あちらの世界」を実際に見てみたいと思っていた。
彼は消失事件の「爆心地」にある巨大な黒い魔石の結晶の前に来ていた。黒い魔石の結晶には色々な調査器具が貼り付けられ、データをとるためにパソコンやら、研究器具などが部屋中に置かれていた。その周囲には研究者らしき人間があわただしく行きかい、銃を装備した人間が警戒に当たっており物々しい雰囲気になっていた。
彼は巨大な結晶をもっと詳しく見ようと近づくと、女性の研究員が彼の動きを察知して注意をする。
「坂相君、あまり近づいちゃダメよ。影響が出る可能性が高いから」
「え? あ、はい。それにしても聞いていたより……巨大で……」
「あなた前世の記憶は戻っているのよね? 戻っていなかったら大変な事になるかもしれないから触らないで頂戴」
「……さわると本当に記憶が戻るのですか?」
「そう言われているわ。私もやったけど、何も起こらなかったわね……」
坂相勘九は実際に触ってみてどうなるか試してみたい衝動にかられたが、自身の昇進の事を考えて思いとどまっていた。
(調べて仲間に情報流したいが……人の目が思った以上にあるな……)
坂相勘九は魔石のさらに奥にある巨大な石造りの扉を見る。嫌な感じのするデザインのせいか妙な気配を感じた。
(……気のせいか? それにしてもあの扉……どこかで見覚えがあるんだよな……どこでだ?)
「そろそろ昼ご飯ね、みんな食堂に行きましょう」
女性研究員がその場の職員に声をかけると、疲れた感じの研究員たちが部屋をぞろぞろと出ていく。
一番最後に残った坂相勘九は触りたい衝動を振り切る。後に続こうと移動をしようとすると、突然彼の周りに黒い結晶から黒い手が出現し彼の体をまさぐるように覆いつくした。
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坂相勘九は前世の記憶を強制的に思い出させられていた。
様々な場面がフラッシュバックしながら頭の中を駆け抜けていく。
前世の彼は中世の雰囲気を醸し出す世界の広場の処刑台の様なところに縄で縛られていた。
前世の彼は激しい怒りに包まれていた。そしてなぜ今こうなっているか理解できていない感じだった。
怒りと戸惑いに覆われた民衆に囲まれ、広場は騒然となっていた。
一人の神々しさを感じる女性が前に進み出ると、騒ぎは一瞬にして静まり、彼女の発言をその場にいるものが固唾をのんで待っていた。
「神エネリエスの名のもとに、あなた達にこの者達を裁く権利を与えます。罪があると思うものに石を投げなさい。あなた達がどう思い、どう考え、行動で意思を、思いを伝えなさい」
前世の彼は隣に縛り付けられている、ならず者のリーダーを見る。彼もうなだれて諦めている感じだった。
このならず者には手を焼かされていた。
殆どの手勢を彼らの一派に殺され、彼を窮地に追い込んでいた。
女神の軍勢が彼を助けてくれなければ、既に殺されてこの世にはいない程だった。
彼は怒っていた。
何を結果が分かった事をやらせるのだと。
早く盗人で殺人者で砦を破壊しつくした彼を裁けば良いと。
彼は唐突に腹に強い痛みを感じる。
何事かと足元を見ると、民衆の一人から投げられた石が体に当たり落ちていくところだった。
彼は痛みに耐えるべく魔力をまとおうとしたが、腕にはめられている拘束具のせいで魔力が上手に練られなかった。
それからも彼に対する投石は続いた。
断続的に続く激しい痛みで苦しかった。
ならず者のリーダの方を見ると、彼に石を投げるものは誰もいなかった。
ならず者のリーダーは呆気に取られている感じだった。
仲間と思っていた貴族連中達も投げるそぶりは一切見せていなかった。
彼は裏切られたと感じていた。
そして怒り、恨み……強い感情で叫び声をあげていた。
だが、投石の威力と数は段々と増え、全身の痛みを感じる中、彼の意識はそこで途絶えた。
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坂相勘九は飛び起きた。
「うぉっ!!!」
「坂相、大丈夫か? ひどい汗だな……」
気が付くと、いつの間にか医務室に連れていかれていた様だった。
(気絶していたのか……この記憶は……噂に聞く前世のものか……)
医師の男性が暫く彼の体調を調べるために目を見たり、聴診器を当てたりしていた。
「おそらく記憶が戻り切っていなかったんだろう。魔力量が増えたように見える。魔石は触ったんだよね、ふつうの奴」
「……ああ……はい。触りました……」
「……だとすると、扉の奥にあると言われているアレの影響か……計り知れない力だなやはり……」
坂相勘九は部屋を見回し、自分の両手を見る。記憶と違い、大分若い手の様だった。そして怒りが沸き起こり、献身的に体の様子を見てくれている医師の事を殴り倒したい気分になっていた。
(……なんだこの感情は……どうなっているんだワシは……)
気持ちを隠せずに魔力が高ぶっていくと、一人の女性、研究所の主任が部屋に入ってくる。
「坂相君、大丈夫……じゃなさそうね……魔力に揺らぎが出ているわね。ちょっと待ってね」
主任が優しい魔力で包まれた手を頭に当てると、頭の流れがすっきりとした感じになった。
「……ありがとうございます……物凄く楽になりました」
「ん~どう? 前世の記憶、性格が混ざって変になってない?」
「死ぬ間際の事を見ていた気がします……」
「それは大変ね……」
医師が治療の様子を見ながら、過去の転生者の精神状態のサンプルから彼の処遇を判断していた。
「すまないが、三日ほど隔離させてくれるかい? 過去に記憶を取り戻した事によって暴走した件があってね……」
「ごめんなさいね。それだけの魔力を持っていたから……まだ前世の記憶の余地があると思わなかったの」
「……わかりました。あの……荷物は……」
「暫くは外部との接触もだめだ」
「一応資料などは用意してあるから……勤務とみなすから安心して」
「……わかりました……」
坂相勘九は牢獄の様な隔離部屋に入れられ鍵をかけて幽閉されていた。
彼はあきらめてベッドに寝転んで前世の記憶を整理していた。
(この怒りは俺の者……ワシのもの? 前世のモノだな……怒りの矛先は……あのならず者か……)
彼は記憶を整理していくと、現代の価値観と照らし合わせ冷静に見ることが出来ていた。
(前世の俺はまるで漫画に出てくる悪徳貴族だな……)
彼は寝たまま前世のように念じると、黒い手の様なものを地面から出現させ、資料を手元にひきよせていた。
(……加護も来てやがる……くそっ……あいつらの呪縛からは逃れられないか……)
坂相勘九は心が分かれていく感じに絶望していた。
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