第44話 すれ違い
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(どうしてこうなった?)
(……ドキドキするね……なんで君の方が体を動かしているのにこう言う心は僕の方が優先されるの?)
(知らん……とりあえず、もう少し抑えてくれ……朝から感情が激しく動きすぎて耐えられん……)
海波達四人は駅前のコスプレショップで変装用のマスクなどを物色した後、「紅華がちょっと用事が、後の買い物よろしく!」とメモと資金を渡した後、蓮輝を引き連れてどこかへと行ってしまった。
取り残された二人は呆然とするが、瑠衣は気を使われて恥ずかしくなり、海波は「白波海波」の心が動揺し固まっていた。
「あっと、じゃぁ……行こうか。なんか凄い色々と……布とか素材を買っていかないと駄目みたいだし」
「……わかった……」
二人は若干ぎこちない動きをしていたが、紅華のメモの通りにホームセンターの方へと歩いて行った。
§ § §
紅華と蓮輝は別行動中にカフェでくつろいでいた。
「はぁ、しっかし両想いなのにくっつかないって、なんかやきもきするもんだねぇ」
「あまり無理やり急いでも上手くいかないと思うよ。時間をかけてゆっくりでいいんじゃないかな?」
「だけどさぁ、命なんてすぐになくなっちゃうしさぁ……言わないでおくと、ほら、あれじゃない? 後悔だらけになるし」
蓮輝は窓の外を見てそうだねぇと同意した表情をする。
「でもさ。この世界は平和で医療も進んでるから中々死なないかと……あ、ギフト持ち同士の抗争に巻き込まれるとそうでもないか……」
「あ、やっぱり関わらない方が良かったんじゃん……」
「どちらにしろあれだけの力を持ってたら巻き込まれてたんじゃないかな?」
紅華は前回のヤマタノオロチの戦いで見せた守護騎士の力を思い出すと同時に、この世界ではあの力を見せたらドン引きされるよな……とも思っていた。
「……う。あの……その……暴力的な女性は嫌でしょうか?」
「強い女性は好きだよ。乱暴者は嫌だけどね」
「そ、そう……」
蓮輝はもじもじし出して色々とへこんでいる感じの紅華を元気づけようとした。
「ほら、せっかくのデートなんだから、もっと楽しい話しようよ」
「……え? あ、そうか、これデートなのか……瑠衣ちゃん達くっつける事しか考えてなかった……そうか、これがデート……デートなのか」
紅華はちらりと蓮輝を見ると恥ずかしそうに俯いたり色々とまた考え始めている様だった。
(うーん。困ったな。前世の親友に向けられる異性としての好意……僕は普通に恋愛できるのだろうか……ってか、前世で知り合い……友達だったって言った方がいいのかな? どうすればいんだろ?)
さすがに今世の自分「蓮輝」への好意に気が付いたので、今後の事をどうしようか本気で悩み始めていた。
が、しばらく目の前の恋する乙女と化した紅華を見て心づもりを決める。
(言わない方が良いよね……やっぱり……あとは僕の心次第か……)
§ § §
海波と瑠衣はホームセンターのホールで紅華に渡されたメモを二人で確認しながら購入したものを確認していく。
どうやらコスプレならぬ、変装用の衣服を作る目的の買い出しだったらしく、彼らの持つ大量の紙袋には生地など服の材料になるものが詰められていた。
「思ったより多かったね。あとは合流地点に行けばいい感じかな?」
「そうだな……」
(なんか普段通りに、普通な感じになってきてよかった……)
(ああ、君の楽しい気持ちがこちらに伝わってきてよい心地だった)
(るーちゃんと二人で買い物なんて……小学生以来だ……)
(……その時から恋愛対象だったようだが……)
(!?!)
瑠衣がショッピングモールを行きかう人を見ていた。
「それにしても、思ったより「魔力」持ちがいるものなのね。ちょっとびっくりしちゃった」
「そうだな。感覚が前世レベルまで戻れば……こんなにもいる事には気が付かなかっただろうな」
「お互いが関与しないのが暗黙の了解になっていたのね……」
「おそらく、「魔力」を持っているが隠せていない者、感知が出来ない者、記憶が戻っていない者が大半だろう。これだけの人数が素知らぬフリが出来るとは思えないからな」
「そうだね。あ、連絡が返ってきた。なんか……ちょっと変だな……駅前のカフェで待ってるって」
「わかった」
海波は何も言わずに全部の大量の紙袋を両手に持ち移動しようとする。
「あ、ちょっと。半分持つよ。ちょっと貸して」
「荷物持ちは……」
「今時そんなことする人少ないんじゃない?」
「……それではこっちの二袋……」
「うーん。ありがとう。それじゃ行こう」
海波と瑠衣は駅前へと世間話をしながら並んで歩いていると、海波が前方から異質な魔力を持った二人の男女に気が付く。
一人は長身で長髪の美麗な大人の男性。
一人は穏やかな雰囲気につつまれた優しい感じの女性。
海波は平静を装い、いつでも動けるようにしながらすれ違う。
二人組の男女も同じようにこちらに気が付かない様にして普通に歩いていた。
(……この感じは……とても懐かしい感じ……まさか……)
(あの二人……強いね……魔力の質が……隠しきれていないってあんな感じか)
(そんな事があるのか?)
(え? この感じ……知り合い? え?? これは……この人は!)
瑠衣はすれ違った二人の魔力の異質さに気が付いていない様で、平然と会話を続けていた。
「ねぇ、海君。今の男の人見た? 芸能人みたいだったね。こんな田舎にもあんな人いるんだ……しかも転生者っぽいし」
「……」
海波はすれ違ってしばらく歩いた場所で思わず振り返って二人組の女性の方を見る。
相手の女性も立ち止まって海波の方を振り返っていた。
二人は完全に目が合って通じ合っていた。
彼女は微笑むと唇に人差し指をあてて、喋らないでのジェスチャーをして振り返って歩き出した。
取り残された海波の頭の中では前世の記憶が駆け巡る。前世での最愛の女性が「裏で動く」時のジェスチャーを思い返していた。
『ゼファイトス』は簡単に一つの事実に行きついた。
(……まさかラケシス?!)
(え? 君の元カノの女性だよね?)
(……彼女とは……そんな軽い関係ではない!)
(ええっと……元彼女? えっと、もう少し落ち着いて! ああ、いつもと立場が逆だ動悸が……)
(……そんな……彼女も……転生していたのか!? ああ、そうか……彼女の望みが……叶ったんだな……良かった……良かった……)
海波は普段のポーカーフェースも崩れ、嬉しいような悲しいような表情をしながら涙を流し続けていた。
「海君?! ちょっとどうしたの? あ、ああ、ちょっと、あっちにあそこのベンチにいこ!」
瑠衣は海波の手を引っ張り、無理やりベンチに座らせると彼の方を向き直って何を言えばいいか迷っていた。
「また、家族の事を思い出したの?」
「……ちがう……しばらく……考えさせてくれ……」
「……うん……」
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言預美来は考え事をしながら歩いていた。たまに通行人にぶつかりそうになっていたので、同行していた縮圧元次は心配そうに肩に手をかけて通りの脇に避けて立ち止まらせる。
「どうした? 先ほどから様子がおかしいが……」
「あ、ん? そうね。なんの事かわからなかった神の啓示の意味がやっとわかったの。歯車が全部そろった……」
「なるほど。それで、阻止出来そうなのか?」
「もちろん」
言預美来は空を見上げた後、縮圧元次の事をやさしい目で見る。
「『暗闇に潜む者』と『蒼き雷』の意味がやっとわかったの。これで計画がしっかりと立てられるわね」
「ああ、何を指しているかわからなかった言葉か……それは僥倖だ、待ち合わせ時間に遅れるか……まぁ、いいか。あいつらも遅れるだろうし」
「そうね」
二人はゆっくりと歩きだし、そのまま路地裏に消えていった。
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