第39話 救援
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召田宗麻達四人は痛みでもがき苦しんでいた。ヤマタノオロチの後ろ目に陣取っていたが、気絶の際の四方八方に飛び散った黒いブレスに巻き込まれ、かなりの毒の瘴気を浴びてしまっていた。
「痛い、痛いよぉ!!」
「っく、ってぇ……ちっくしょう……」
「魔力、魔力だ、魔力を高めないと!」
「くっそ……まさかこんなことに……」
あまりの激痛で、魔力を上手に練る事が出来なくなっていた四人は、ただただ痛みでのたうち回るだけだった。
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伴戸志姫を守るように移動していた転生者軍団は目の前で起きた大惨事をみて彼女の移動を制止する。
「聖女様!! 駄目ですこれ以上近づいては!!」
「瘴気です!! 見たことがあります! アレに触れては簡単に人は死にます! 魔力も痛みで使えなくなります!」
転生者達の真剣な眼差しをみても伴戸志姫は全くひるまなかった。
彼女自身も過去の記憶を思い返していた。緊急事態になってなりふり構わなくなり、自信のない一般女子高校生の雰囲気から打って変わって凛々しい前世の振舞いになっていく。
「だめです! アレを倒さなければ街に被害が出ます!! 誰か風のギフト、加護の使えるものは!」
「はい! 行けます。私が使えます!!」
一人の女性転生者が前に出ると魔力を高めながら黒い瘴気の影響が無さそうなギリギリまで進んでいく。
『風の精霊シルフよ。私に力を貸して!』
風の精霊の『加護』持ちは驚いた表情で周りを見ていた。
(乙女の姿ではなく「ヤマネコ?」ですか……この世界では色々と違うようですね……)
『不浄なる瘴気を吹き流す強き風となれ!!』
風の加護で発せられた強風が周囲の黒い瘴気をまとめて吹き飛ばしていく。
視野がクリアになった先には、自分のブレスを浴びて痛みでうごめくヤマタノオロチと、跪いて動けなくなった海波、距離は取れたが逃げきれなかった早風切那、正津成有、鼓動正史が痛みでうなされながら倒れていた。
ギフトを使って難を逃れた遠地寛治は黒い霧が晴れていき、周りの状況を見て絶望をしていた。
(なんてこった……また俺は……また俺は繰り返してしまうのか……)
遠地寛治はかなりの魔力を使ってギフトを使ってしまっていた。
ギフトを使っても少なからず黒い瘴気の影響を受けていたので、満足に動くことが出来ずに状況を見守る事しかできなかった。
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政所瑠衣は呆然として立ち止まってしまっていた。
魔法の強風が吹き、視界が開けても動けなかった。
送り届けようとした武器を手に持ちながらも、前線には戦える人間が残っていなかった。
彼女はふらふらとしながらも立ち上がって戦い続けようとする海波を見ていた。
黒い龍の目の前でやっとの思いで立っている海波の姿が彼女の前世の記憶を深く思い起こさせる。
§ § §
政所瑠衣は前世の記憶を思い出していた。
彼女は下町のスラム街を襲った貴族側の兵士達を打ち払った際に出た負傷者達を癒していた。
彼女は事件に巻き込まれ『加護』を発現させたばかりだった。
まだ青くささの残る黒い双剣を持った剣士はまだ幼いルイーゼの前でかがんで優しく問いかけていた。
「君は……どうしたい?」
「……私、守りたいものがあるんです。この町に残りたいです」
「君の『神の加護』があれば、街に、『壁の中』に行ける。神殿の庇護下に置かれて……いい暮らしができる」
黒い双剣の剣士は小さな子供には説明しにくかった様で、たどたどしく言葉を選びながらゆっくり話していた。
「え? 嫌ですよ。」
「……なぜだ? 貧乏な生活から、スラムから抜け出せるんだぞ?」
「この力は私の大好きな人に使うんです。だって大切な人にはずっと生きていてほしいじゃないですか?」
「しかし……金も稼げる……綺麗な服も着れる、腹いっぱいに食べられるんだぞ?」
「私、この町が好きなんです」
黒い双剣の剣士の目には疑問の色が浮かんでいた。本気で彼女がこの生活から抜け出したくなさそうなのを理解できない様だった。
「……そうか……俺にはわからない。俺だったら街に、『壁の中』に行く。いい暮らしがしたいからな」
「……そうですか……」
「ああ、腹いっぱいものを食べるのは……それは良い気分だった」
「そうですか……」
「本当にいかないのか?」
「はい!」
黒い双剣の剣士の発言で、まだ幼さの残るルイーゼの腹が鳴った。
ルイーゼは幼いながらも知っていた。スラム街の英雄が何故この町を捨てて離れないのかを。先代のスラムのシスターとの約束を守る、それだけのために強大な力を持ちながらこの町を見捨てないのを……
ルイーゼは加護の力の事を隠し、下町のスラムの身内だけにその力を使っていた。
彼女は貧しいながらも幸せだった。
だが、少しだけ大人になったルイーゼは後悔することになる。
加護の力を隠し続ける事に成功していた。それにより変わらない暮らしを続けられていた。
が、ある時、王都を、スラム街を黒い巨大な毒竜が街を唐突に襲った。
同時に王都全体を邪神勢の軍が襲い、町のほとんどの人がそちらとの戦いに追われて黒い双剣の剣士一人だけで恐ろしい黒い毒竜の相手をしていた。
全てを終え仲間たちと共に彼女は助けに向かった。
彼はまだ生きていた。
彼女は『神の加護の力』を使えば治ることを理解していた。
もちろん使おうと思った。
だが、周りにいる『壁内』の街の兵士、戦士たちは彼女の『加護の力』があるのを知らなかった。
彼女は大人たちに毒の瘴気が蔓延する場所から引き離されていった。
彼女は『加護の力』を秘匿することで、一番守りたかったものを守れなかった。
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瑠衣にはヤマタノオロチの前で立ち上がろうとしている海波と、前世で助けられなかったスラム街の英雄であり大恩人の姿がダブって見えた。
「海くん!! 今助けにいく!!」
走り出そうとする瑠衣の体を力強い腕が回り込んできて彼女の動きを止める。
必死の形相をした紅華だった。
「待って!! 瘴気が……毒だらけ! 瑠衣ちゃんも死ぬよ!」
「離して!! 海君が! 海君が!!! 私なら治せる!! 私なら治せるのっ!!」
「死んじゃうよ!! 駄目だってば!」
「紅華ちゃん離して!! 私の加護を使えば治せるの!」
瑠衣は前世の記憶がフィードバックしてくる。間に合わなかった前世の記憶を……今回は加護を使ってばれても良い。
あの時の様な後悔をするくらいなら使おうと。
振りほどこうと全力で魔力を込めようとすると、途端に拘束していた力が弱まってくる。
「え?」
「瑠衣ちゃん、私も行く。まだあいつ動いてるからね。どれくらい止めればいい?」
「あ……一分もあれば……でも瘴気のエリアに行かないと駄目だから……痛いよ?」
「大丈夫。そういうのにには慣れてるから」
瑠衣は何故、紅華が言う事を聞いてくれたかを理解できていなかったが、時間が無い事を知っていたので急いで加護が届くエリアへと移動を開始した。
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ヤマタノオロチはしばらく自分の吐いた息の痛みに耐えていた。
身体の魔力を循環させ毒に対する抵抗を上げていく。周りに動けなくなった人間たちがいるのを見て安心していたのもつかの間、元気のよい二人の人間。
しかもかなりの高い魔力を持っている者が高速で接近して来るのに身の危機を感じていた。
気力を振り絞り、気絶していた頭を体をゆすって起こそうとしたが反応がなかった。
意識を残した二つの頭を動かし、ゆっくりと鎌首をもたげ始め迎撃の準備をしていた。
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