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ならず者・現代に転生する ~異世界の力に目覚めたので平穏な暮らしを目指したが簡単にはいかなかった件  作者: 藤明


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第37話 ヤマタノオロチ

早風切那は愕然としていた。


ヨマタノオロチの首の前に投げられたバッグに強力な魔力の反応を感じていた。

彼女の前世の記憶が「魔石」を魔獣に食べられると、とんでもない事になったことを思い出していた。


「おいおい……マジかよ……」

「……うわ……あの召喚術師、タブーをやりやがった……こんのやろう!! 吐き出しやがれ!!」


遠地寛治が慌てて魔石入りのバッグを呑み込んだ首に斬撃を浴びせるが、黒い瘴気を体全体で発し始めるのを見て途中で手を止めて距離をとる。早風切那もそれに倣い距離をとって様子を見守っていた。


「……なぁ、どうなるんだ?」

「アタシの記憶だと……あのサイズの魔石を食べさせたことは無い。拳くらいの大きさでもワンランク上の魔獣になってたな……」

「あのバッグ……かなりの魔力を感じたよな?」

「ああ……困ったな……武器が足りない……この武器もそろそろ限界だ」

「あいつらの、武器作成のギフトに頼るしかないってことか……」


ヨマタノオロチは黒い瘴気をまとってしばらく動かなかったが、首の股の間から新たに新しい頭が四つ生えてくる。体も大きくなり、地面に踏ん張る後ろ足が生えてくる。突然の異様な様子にその場にいたものがしばし足を止め呆然としてしまう。


「頭を落としたのをいれて八つ……ヤマタノオロチじゃないのか? あれ?」

「日本の伝説の奴か? 魔獣じゃなくて妖怪なのか?」

「逃げるか?」


早風切那はヤマタノオロチを見た後に、周囲を見渡す。イラついた表情で諦めた感じでスマホを取り出す。

「……ちっ、救援を出しておく。この規模を放っておいたら……街が大惨事だ……」

「違いないな……やる気満々だな……はぁ、転生してもなんかやることが同じだねぇ……」


遠地寛治は本音では逃げたかったが、前世で発揮していた正義感と、強い魔獣と戦いたがっていた仲間を見捨てることが出来ずにその場に残り、しぶしぶとボロボロになってきた剣を構えなおした。


§  §  §


正津成有と鼓動正史は狼の魔獣を倒し、目に届く範囲の転生者を助け終わったので騒ぎの激しいメリーゴーランド跡へと向かっていた。


「あれ、ヤバいですね……正津さん、どうしましょう?」

「前世でも……あんなのは相手したことありませんよ。私は……」


かなり魔力が減った黒龍を見て若干安心して魔獣を退治していた二人だったが、黒い瘴気が大量に発生した後の魔獣の魔力量を見て戦慄を覚えていた。

そこにメリーゴーランドの前の広場で狼の魔獣に止めを刺していた瑠衣が二人に気が付いて合流する。


「正津さん! 鼓動さん! ご無事で!」

政所(まんどころ)さんも大丈夫なようですね。よかったです。」

「すごいですね、小型とはいえ魔獣を素手で……」


瑠衣が手慣れた手つきで魔獣から魔石を回収し、ベルトポーチへと入れていく。既にかなりの量になっていた。


「あはは……それよりもどうしましょう。この世界にも魔獣、しかもあんな巨大な……」

「誰かのギフトなのは確かですが、術者がわかりません。なのであれを退治する方向になりますね……かなり危険ですが……」

「早風と遠地の姿が見えますね……今回は共闘……ですかね」

「そうなりますね。戦えそうな人間を集めて……阻止できれば……」


移動を始めた二人を追いかける形で瑠衣は話しかける。


「あ! あのタイプの黒い霧には見覚えがあって……」

「あの龍と戦った経験が?」

「いえ……私では無いのですが、あちらの世界と同じなら、あれは瘴気……かなり強い毒になります」


正津と鼓動は情報に驚く事も無く素早く計画を考え始める。

「……そうですか……」

「風のギフト、加護持ちがいないとつらいですね」

「風の魔術だけでは対応しにくいですね」


三人が援護するべく移動をしていると、ヤマタノオロチのかなり手前で紅華と蓮輝が何かをしているのが目につく。


「瑠衣さん、あなたは、あなたの仲間を助けてあげてください。叔父さんたちはあれをなんとかします。あれが街に放たれては被害がとんでもない事になります」

「はい、ありがとうございます」


三人は二手に分かれて散っていった。



§  §  §


転生者自由主義のベテラン達と逃げずに残ったギフト、魔力持ちの高校生バイト達は呆然と立ち尽くしていた。


「なんだよあれ……ドラゴンじゃないか……」

「ヒドラってやつだよな……あんなのはいなかった……」

「どうするんですか? 先輩達」


まだ若い高校生達に話しかけられたベテラン達も呆然として成り行きを見ていた。


「俺らにもわからないよ……」

「あんな化け物を相手にした事ないからな……あっちの世界でもね……」


そこにいる転生者達は、一般人相手には有利に立てるくらいの実力はあったが、目の前で繰り広げられる本物の怪物との戦いに参加すれば「ほぼ死ぬ」ことだけなのを予想することは容易だった。


「あれ、直ぐ消えるよね……」

「消えなかったら街が破壊されちゃいそうだね……」

「リアル怪獣映画だな……」


絶望感に満ちた表情で感想を呟くが、戦闘を傍観するだけでその場を動くものはいなかった。


§  §  §


早風切那と遠地寛治は新たに首を一つ切り落とし、かなり善戦していた。

ただ、彼らには疲労の色が強く見え武器の損傷などもひどくなってきていて限界が見え始めていた。


「援護はないのか! 情報は!」

「すまん! スマホを開く余裕ない!!」


遠地寛治は周囲を見渡しながら、遠くの方で立ってみているかなりの人数の転生者達にいら立ちを隠せなかった。

「あいつら……あそこで突っ立ってるだけかよ!」

「無茶言うな! アタシらでやっとなんだ! あいつらのギフトじゃ満足に傷がつけられないだろう!! 足手まといだ!」

「ちっ……優しいこって……」


ヤマタノオロチも二人の動きに慣れてきたのか、二本の首を代わる代わる入れ替えて攻撃を続け、二人に攻撃をさせる暇を与えていなかった。完全に魔獣優位の状況に陥っていた。


ドォン!!!


突然すさまじい音がしてヤマタノオロチの首の一つが激しく吹き飛んで白目をむいて崩れ落ちていく。鼓動正史の『音のギフト』が発動し、とてつもない爆発音の振動で気絶した感じだった。

劣勢になっていた二人は本気で喜んでいた。


「鼓動!! 生きてたか!!」

「ナイスだ!!」


残った四本の首は何事かと驚き気絶した頭を見るが、今度は片方の足が常識では考えられないくらい横に滑り、巨体にもかかわらず前のめりに滑って転んでしまう。


ズシーン!!!!


「なんだ??」

「お? ヌルヌルのおっさんじゃないか!! 助かる!」


ヤマタノオロチの足付近には正津成有が『摩擦操作』のギフトを使用していた。 

騒がしい二人の声に気が付き思わず目をやりながら、安全な距離まで一気に離脱をする。

(ヌルヌル……ですか、間違ってはいないがなんか嫌ですね……)


「ってかそっちとお友達になってたのね」

「なぁ、なぁ、その音爆弾連発できないのか?」

「……うるさいですね。あなた達に将来性が無さすぎるから離れただけですよ。……連発させる気は無いようですけどね」


三人が会話をつづける暇も無く、残った四つの首がそれぞれに向かって襲い掛かっていた。


「よっし! これなら一対一だな! 任せろ!!」


早風切那が残った首に切りかかろうとすると、切り離したはずの首の切り口から黒い瘴気が発せられる。彼女は毒を食らうまいと素早く離脱をする。


「ちょっと! なんか出てきたぞ!!」

「切那!! いったん離れろ!!! なんかおかしいぞ!」


首の切り口からは黒い煙と共に、新たな頭が徐々に身体の中から出てくる感じで「生えて」くる。


「マジかよ!!」

「嘘だろ……ヤマタノオロチの伝説まんまなのかよ!」

「やっぱり、切ったところ焼かないとだめか??」


転生者自由主義の二人とは裏腹に、異能者管理組合の二人は冷静に魔獣を分析していた。

「心臓……コアをたたけばいいのですが、どこでしょうね……」

「頭全部にコアがあるパターンだったら……厳しいですね……」

「どうせ心臓でしょうが……私たちの武器とギフトでは届きそうにも無いですね……」


せっかく援軍が二人到着したのに、その場の雰囲気は絶望感に包まれ始めていた。


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