第35話 召喚術発動
§ § §
爆発が起きる少し前の事。
メリーゴーランド下では召田宗麻が魔石を抱えながら召喚術を実行していた。
『我らが混沌と時空を司る神ソベーレよ我に力を貸したまえ……』
「ソベーレ……懐かしい響きだ……」
釜背修太はあちらの世界の言葉で読み上げられる呪文、祝詞のフレーズを聞いて感動していた。
外で魔獣を出していた二人は、その名がやばいものだと感づき、周囲を見回して不安な表情になっている。
『・・・の名のもと、古き契約に基づき、盟約を果たせ。来たれ黒き竜よ!』
目を閉じて集中していた召田宗麻は気が付かなかったが、魔法陣から黒い手が周囲に出現した後、床に配置していた魔石をつかみ取って召喚術の魔力が集中していた場所へと引き込んでいく。その様子を釜背修太はまるで地獄の門が開いた異様な光景として捉え戦慄する。恐る恐る召田宗麻を見るが、召喚術を続けるのを見て安堵する。
(一瞬、地獄とつながったかと思ったぜ……召喚術ってあの黒い手が肝なのか?)
召喚術が発動されると巨大な陣が広がりメリーゴーランド全体が紫色にひかりががやく。
陣からは巨大な黒い蛇のようなものが成長するように出てきてメリーゴーランドを壊しながら大きくなっていく。
「ふぅ……できたな。俺の魔力もかなり持っていきやがった……」
「なんか、魔法陣に魔力が溜まりすぎてる様に見えるんだが、これ、魔力爆発しないか?」
「……あ、やべ……逃げるぞ!」
「まじかよ!!」
二人は脱兎のごとくその場を離れ、外で不安そうに魔石を投げていたふたりを後ろからそれぞれが抱きかかえて茂みの方に向かってダイブする。
「ちょ、ちょっとなに?」
「おい、一体?」
ドォォォン!!!
かなりの音の爆発が起き、周囲に爆風と煙が舞って視野がきかなくなる。煙の中から黒い巨大な柱がゆっくりと立ち上がるかの様に巨大な龍の頭が持ち上がってくる。
「おい、成功だな! 黒龍か!」
「すごい! 大きい!! 頭がたくさん!」
「ヒュドラってやつか? 頭が四つ? なのか」
興奮する三人とは裏腹に、召田宗麻は想定外過ぎて混乱していた。
(あれ? 竜じゃなくて頭が多い龍が出てきた? 俺あんなのと契約した覚えはないけど……ちょっと、待て……こちらの世界でもあちらの世界の契約は有効なのか? 狼型の魔物もなんか形状違ったし……)
「竜じゃねぇな? 俺が見た事も無い魔獣なんだが、知ってるか?」
「ここは日本だから……ヤマタノオロチ??」
「え? ソーマ、ちょっと待ってくれ、お前が呼んだんだろ??」
「そうだが……俺が呼んだのは黒い竜。あっちの世界の黒竜なんだが……頭が一つの……」
「……」
「……マジかよ」
「……ねぇ、あれって言う事聞くの?」
目の前に現れた怪獣の様な大きさの多頭の龍に、召田宗麻以外の三人が怯み始める。
「わかんね……まぁ、いいや……『あの魔力の高い人間を食らい尽くせ!』」
召田宗麻が命令をすると同時に、四つ頭の龍が何かに向かって動き出し、敵意を示し攻撃し始めたように見えた。
「よっしゃ、行けたな。後は静観だな……どこまでやってくれるか……」
「すごい、言う事を聞いた……」
「流石召喚術のギフト」
「あれ? 蓮輝がすごいところにいるな」
早風切那が興奮している四人の事を陰から見張っていた。
(邪心の名前!!! あちらの世界の言葉! やはり当たりか!! ってか、すごい召喚術だな……これだけの時空の穴を開けるとは! あいつを利用すれば……行けるかもしれないな)
早風切那は召喚術者を確保してこの場を離れる事も頭によぎったが、目の前の前世を振り返ってもあまり類を見ない、巨大な魔獣を久々に見て心が沸き立つのを抑えられなかった。
(その前に……魔獣退治……ここまでの奴は久々だ!!!!)
早風切那は剣を構え戦闘が始まった場所へと嬉々として突撃していった。
§ § §
召喚術が引き起こした爆発のような上昇気流に乗って蓮輝は屋根をエアサーフィン代わりに足場にして上方に吹き飛んでいた。
「うわぁああああ!! すごい!! 空を飛んでるっ!! おおっ! 沈む夕日がきれい!!」
(ってそんな場合じゃなかった! 手を自由に……あれ、簡単に取れた?)
蓮輝は縛られていたギフトが解除されたロープを「魔力で強化された体」で無理やり外す。空中でバランスを崩しながらも、一緒に飛んでいるがれきを利用して体勢をたてなおし、落下していく屋根から飛び降りて安全な場所を落ちながら探す。
(ええっと……煙でよく見えない……爆発が起きたのは足元? だとするとさっきの場所から離れるのが安全? って、あれなんだろ? 黒い大木と枝??)
蓮輝は前世の記憶を頼りに風の魔法を発動させてロケットの逆噴射の要領で滑空しながら黒い大木の方へと近づいていく。下の方に集まっている人がパニックになっているのが見えた。
その中から「レンキ……ダメ……」とか聞こえた気がしたが、現世での初の風の魔力の空中浮遊の制御に集中していたため完全に対応することが出来なかった。
「ふぅ……なんとかなった……何が駄目だったんだろ……」
蓮輝は大木の頂点に掴まれそうな大きな枝があったので上手にコントロールして降りる。すると突然、大木だと思っていた足元の大木がうごめくことに驚く。慌てて手近な二本の地面から生えている大きな枝に両手でしがみついて周囲を見回す。
降り立った黒い大木の隣には、なぜか巨大な恐竜のような頭があった。
閉じていた目がゆっくりと見開き、周囲を確認するためかゆっくりと目玉を左右に振っていた。
蓮輝は必死で枝らしきものにしがみつきながら、身を隠すようにしゃがんで状況を整理しようとしていた。
「え? 怪獣? 蛇??? 大きい? たくさん???」
蓮輝は大木と思っていたものが巨大な鱗と毛で覆われているのに気が付き驚いていると、煙がはれてきて状況をやっと確認できた。
彼は三十メートルもある巨大な複数の頭を持った黒い龍の頭頂部に降り立っていた。
彼は驚きのあまり叫び声を上げたかったが、襲われると本能的に察知し心の中で絶叫をした。
(え? えええええええ????)
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