第31話 一般?転生者達混乱する
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重石要は騒ぎに乗じてさっさと逃げようとしていたが、転生者達のあまりの混乱っぷりに驚くとともに、死人が出そうな雰囲気で、後味が悪くなると思い援護することに決めた。
「み、み、みんな、ちょっと動かないで!」
重石要が両手で器用にボーラを振り回し、最後に投擲する瞬間にギフト『重力操作』を使用し、重さと遠心力をかなり乗せて狼の獣に向けて投げる。
投擲されたボーラは上手い事二匹の体や足に絡みつきギフトの重さで動けない状態になる。
「ありがとう!!」
「ちょ、どうすんのこれ?」
「……魔獣だよな、これ……」
「お、おい! 誰か。武器! 槍持ってないの?!」
「もってるわけねぇだろ!」
重石要はここに集まった転生者に、魔獣を一撃で葬れるようなギフトを持った者がいないのを認識する。それと同時に手に持った現代の魔力を通しにくいサバイバルナイフを見て、これからの行動を迷っていた。
(……駄目だこりゃ……僕の普通のナイフじゃ……あれを殺しきれないな……)
転生者の一人が、炎の槍を手のひらから出し、狼の魔獣に放つ。一瞬派手さで歓声が上がるが、直撃しても燃え上がることなく炎が消えるのを見てあたりが静まり返っててしまう。
(魔獣にはもっと高威力の熱じゃないとだめなのに……あちらの世界での戦闘経験を思い出せてないの??? ああっ、もう! ボーラから離れたら重力戻っちゃうし……くそっ!)
重石要は手持ちのボーラを再び投擲し、残った一匹を拘束する。が、状況は足止めするだけで、暴れまわる狼の魔獣の動きで、からめとっていたボーラも外れかかっていた。
転生者からは、身動きが取れない狼の魔獣に向かって雷や氷、風のギフト……などが飛んでいくが、魔獣の持つ魔力に打ち勝てずに霧散してしまう。
(かなり上級の魔獣? 見たこと無いのに強い……そんなに大きくないのに何故?)
重石要もあちらの世界とのギャップに混乱をしていた。
「ああっ、もう! 俺が近づく! 攻撃するな!」
先ほどの火の槍を放った転生者が、懐に持っていたナイフを持って突撃する。それに気が付いた狼の魔獣が激しく暴れるが、背中にナイフを突き刺し、ギフトの炎をナイフ越しに発動させる。
周囲からまた歓声が上がるが、魔獣が激しく泣き叫びながら暴れ、転生者をかなり強烈に蹴って弾き飛ばしてしまう。それと同時に体を拘束していたボーラがするりと体から離れて自由になってしまう。
「ねぇ、やばいんじゃない? なんかあっちの世界の奴より強いよ!」
「武器が無いから攻撃が通じない!」
拘束から解き放たれた狼の魔獣は一番近くにいた女性の転生者に向かって襲い掛かる。
「えっ?? ちょっと待っ……なんでわたし……」
逃げようと魔力で強化された体でバックステップを踏むが、慌てすぎて転んでしまい大きく体制を崩す。
ザンッ!!!
突然、黒い風が吹いたかと思うと、女性に襲い掛かろうとしていた狼の魔獣が真っ二つに切り裂かれ、黒い煙へと化していく。
「「「え?!」」」
黒ずくめの道化の仮面をかぶった海波は、その場にボーラで捕縛されていた狼の魔獣の止めを躊躇なく刺して、そのままメリーゴーランド跡に音も無く走り去っていく。
黒い煙と化した魔獣がいた場所には小さな魔石が転がり落ちていた。
「す、すげぇ……」
「見えなかった」
「ねぇ、剣持ってなかった? 刀じゃなくて剣だったよね?」
「ピエロの仮面とのギャップが……」
「魔獣が消えた? 死体が残らなかった……魔法だったの?」
その場に居合わせた転生者同様、重石要は絶句して固まっていた。
礼音から話は聞いていたが、実際に目の前で見ると、あまりの強さに驚愕していた。
(……僕……あんなのとやり合おうとしてたのか……無理だったな……あっ!!)
全ての狼の魔獣を倒したと思って安心していたところに、メリーゴーランド跡に向かって追加で一体の狼が走ってくる。
「え? まだいた!」
「何匹いるんだよ! 誰か止めろ!」
「ちょっと! さっきの人戻ってきてよ!」
転生者達は臨戦態勢を取るが、前衛を務める武闘派がいない様で誰が前に出るか混乱をしていた。
そこに今度は錬成されたトタン木刀を持った紅華が颯爽と現れ、気合の入った掛け声とともにかなりの威力で狼の魔獣を地面にたたきつける。
「せいやっ!!」
ドコォン!!!
紅華の一撃の威力がありすぎて地面にめり込んでつぶれた狼の魔獣は痙攣した後、黒い煙となって消えていく。
地面にめり込んで突き刺さったトタン木刀を軽々と引き抜き、突き刺さったままの地面のアスファルトをぶんぶん振って取り払う。唖然とする視線に気が付いた紅華はレディらしからぬ行為に恥ずかしくなってしまう。
「あ、ども~通ります~ 怪しいものじゃないです~では~ごきげんよう」
紅華は何もなかったかのように走って海波と同様にメリーゴーランドの方に走っていった。
「何なの?」
「あれが、異能者管理組合……の方の人たちじゃないかな?」
「俺、このバイトから降りるわ……」
「あたしも……金いらないや……」
「ばれないうちに逃げた方がよくない?」
「異能者管理組合の方がよくない?」
「だな……」
その場にいた転生者達は逃げるようにその場を去っていった。
重石要は彼らの振る舞いに呆れながらも落ちていた魔石とボーラを回収した。
(サポートしろって書いてあったけど、する必要ある? これ?)
次の行動に迷いスマホを確認するが、礼音のメッセージに疑問を思いつつも、彼らの後を追った。
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遠地寛治はスマホに来る緊急連絡に対応するために治療師の女子高生、伴戸志姫を連れて駆けずり回っていた。伴戸志姫は最初はお姫様抱っこをされて移動するのを嫌がったが、あまりの速度で走り回るので納得して途中からは振り落とされない様に首に手をかける様になっていた。
「この傷は……『魔傷』ですね。それとこの方は……先ほどと同様、魔法で眠らされていますね。今回は腹に打撃痕のある方はいませんね」
伴戸志姫は今回の騒動で怪我をした人間に対して治療のギフトを使い、治療しながらも冷静に分析をしていた。
「まじか……魔獣がいるのか? ……狼型……『流星』が降った時に出てきたやつだよな。あれがまた出てきた? って事はヤッパリあちらとつながっているのか?」
「私はおじさんほどあちらの記憶を思い出せていないのでわかりませんが、時空のギフトがあればつなげられるものなのですか? とんでもない距離では?」
「……そうなんだよな、科学を知ると……あり得ないんだが、ギフト自体あり得ないからな……」
「転生して記憶を取り戻すこと自体あり得ないですけどね……」
「それを言ったら……」
遠地寛治は考え込んでしまう。伴戸志姫は治療を終えて彼の方に向き直る。
「本当に「あちら」に帰るつもりなんですか?」
「ん~まぁ、なんと言うか……俺はあの後どうなったか知りたいだけなんだよな……」
「それならば新たに転生してきた転生者に聞き込みを続ければ良いのではないですか?」
「これがまた……転生してきた世界も時代もバラバラなんだわ……」
「……ほんとですか?」
「ほんとだ、神の名前を言えばわかるからな」
「私は神の名前を思い出せませんが、加護は使えていますよ?」
「そうなんだよなぁ、お嬢ちゃんが特別な気もするし……どうなってんだろうな」
伴戸志姫は遠地寛治に疑いの目を向ける。
(わたしにはあなたが酒ぐらいでちゃらんぽらんだった騎士団長に見えるのですが……名前を思い出せないんですよね……神様の顔は思い出せるんですが……困ったものです……)
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