第29話 「異界倶楽部」
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遠地寛治は異能者管理組合の「魔石の餌」を設置してある旧展望台からかなり離れた廃屋に入ってくる。
早風切那は椅子に座りながら入ってくる遠地寛治に向かって手をひらひらと振りながら挨拶をする。と、同時にスマホの着信を見て異変に気が付く。
「変だな……」
「どうした?」
「定時連絡の既読がつかないメンバーがいるな。何か起きたか?」
「もう奴らが侵入しているのか?」
「その可能性はあるな……ちょっと消え方がおかしいね。想定していたルートと違う。餌じゃなくて、魔術師用の魔石置き場だね」
「作戦に気が付いてってことか?」
「……消え方がランダムすぎるな……内部犯行もありうる……まぁ、いいか」
早風切那は手書きの地図に印をつけていたが、ペンを机の上に放り投げて遠地寛治を見る。
「それで、道化仮面君はいた?」
「わかんねーよ。あいつ早いし気配感じさせないしで、本職の隠密見つける難易度なんだぞ。潜られちゃわからねぇよ」
「遭遇した寛治のセンスだけが頼みなんだけどな……そいつくらいだろ? 新規覚醒者で「仲間」に入れたいのって」
「まぁ……そうだな」
遠地寛治は地図を見ながら状況を確認する。
「しっかし、本当に異能者管理組合の正津とか幹部が来るのか?」
「……来ないんじゃない? 来たとしても斥候だけだと思うよ」
「……あ?」
遠地寛治は不可解なものを見る感じで早風切那の表情を読み取ろうとする。
「だって、こいつら囮だし、道化仮面君とどうしても会いたくてね。どちらかと言うと彼が情報を聞きつけて、この件にのってくれると大変ありがたいんだけどね」
「この前の情報を流したのは……管理組合用じゃなかったのか?」
「それもあるけど、道化仮面君なんでしょ? 事務所つぶして魔石持って行ってるの。魔石に反応するに決まってるじゃないか。それにほら、この魔石の量、貢物にもってこいだろ?」
遠地寛治は思いもよらない発言に焦った感じで聞き返す。
「……何を考えてんだ? どうすんだあいつらは?」
早風切那は若干口元がにやつきはじめ、目に興奮の色が覆う。
「仲間にできないくらいの半端者だしいらないっしょ。魔石を持たせてもあれ以上覚醒しなかったし。それに「あちらの世界への穴」がまた開いたとしても出てくる魔獣に瞬殺されちゃうだけでしょ?」
遠地寛治は大分前から聞いていた早風切那達「異界倶楽部」の荒唐無稽な「計画」を思い返していた。
「……本気でやるつもりなのか?」
「本気。だって退屈だろ? この世界。魔力を使えば管理者組合のやつらが飛んでくるし。優秀な転生者達との戦いは面白いけどさ。どうしてもギフトの相性でのワンサイドゲームになるしね。やっぱりやりたいのは……魔獣退治だよね。あの興奮……全身がヒリヒリして血が沸騰する感覚……あれをまた経験したいんだよ。アタシは……君もそうだろ?」
「……一緒にするな……」
「不完全燃焼な目をしてくるくせに」
「……ちっ」
早風切那は新スマホに新たに届いたメッセージを見る。
一瞬驚いた表情をするがすぐに判断を下し椅子から立ち上がる。
「どうやらイレギュラーが起きたみたいだ。新規覚醒者のギフトかな……ちょっと楽しいことになってきたみたいだね」
遠地寛治もその様子をみてスマホを取り出して確認をする。
「……小型の「魔獣」らしきものが出現??? 「魔獣」!? マジか……」
「もしかしたら……「穴」を開けられるギフトがあるのかもね。アタシらの知らない……なにニヤついてんの? 寛治君?」
「……ちっ」
早風切那は仲間の隠しきれない表情に喜びながら準備を終えると、ドアを開けて外に出ようとするが、何かを思い出したように振り返って遠地寛治に釘をさす。
「あ、道化仮面君が来たら手出ししないでくれよ、アタシにやらせてくれ」
「わかったが……本気で強いと思うぞ……」
「速さ勝負なら……負けないつもりだよ。魔獣はやっちゃっていいよ。楽しみだねぇ」
「ふん……」
遠地寛治は早風切那の行動に呆れていた。
(ほんと欲求に忠実なやつだ……あいつらの言う通りに、本当に「あちらの世界」に戻れるのか?)
彼は余計な荷物をテーブルの上に放り投げ、戦闘の準備を始める。
(面白くなってきたのは確かだな……退屈な日々から解放されるののだろうか……)
遠地寛治は久しぶりに気分が高揚しているのに驚きを隠せなかった。が、ふと残してきた仲間たちの事を同時に思い出した。
(……あいつらのその後はどうなったんだろうか……)
§ § §
海波は侵入ルートを警戒しながら進んでいた。
道中、転生者らしき普通の魔力持ちがいたので、やさしく腹パンをして茂みや木陰、建物の陰に気絶した体を隠しながら移動を続けていた。
(なんか、ゲームみたいになってきたね……某暗殺ゲームの潜入ミッションみたい)
(ん? ああ、確かに行動が似ているな。あちらは殺せるから楽に見えるのだが……カメラもないし殺してしまっても……)
(だから殺しちゃダメだって……高校生っぽい人が多いからバイト感覚だろうし。命をかけてないって)
(そうか。たまに成人が混じっている。こいつらがリーダーか? それにしても……弱いな)
さらに侵入をしてあと一歩で展望台跡と言うところで、遠くの方で何やら騒がしい物音や怒鳴り声などが聞こえる。それと共に犬が吠える声なども聞こえ、ひと騒動起きている感じだった。
(騒動の方に魔力の反応が集まったな……建物の方からはあまり感じないのだが……蓮輝はその中か?)
(とりあえず騒ぎを無視して目的を達成しよう。こう言う場合は騒ぎの横を一気に行くと楽なことが多いんだ)
(……なぜだか君の判断が正しいように思える)
(あ……ゲームの知識だからあてにしないで……)
海波達は警戒が薄くなった建物内部にやすやすと入り、入口を警備していた転生者を腹パンで眠らせると半屋外の巨大ホールに入る。
ホールのステージの壇上に、わかりやすく魔石が積まれている。周囲に動いている転生者がいない事を確認するとギフトで姿を消していた紅華と礼音の二人が海波のすぐ横に姿を現す。
「蓮輝……いないね……大丈夫かな……」
「魔石が沢山……全部は持ち運べない……音が出ちゃう」
「あれ? ねぇ、この魔石の山、一番上だけ魔石だけど、下のはアクリルの石みたいな感じだね……」
「ほんとだね……量を増して見せる……なんの目的?」
海波は壇上の魔石配置部分を中心に描かれた魔法陣の存在に気が付く。
(懐かしいな……魔法陣。まさかこの世界でも使えるとは)
(これが魔法陣……字も読めないし……あ、読めた……変な感じだね。君もこの世界の文字を見るとこんな感じなのかな? あ、文字と線に魔力をうっすらと感じるね)
(そうだな。この魔法陣は魔石の気配を隠すために使われている感じだな)
「『気配そらし』の魔法陣が描かれている」
「ん? 床に書いてあるこれ? え? なんでこの世界に?」
「あ、見たことある……魔術ね。日本でも使えるんだ」
「警戒する必要があるな……」
三人が現代でも機能する魔法陣の存在を知って警戒心が否応なしに上がる。注意深く周囲に気を配っていると、ステージの裏口のドアから転生者が無警戒に出てくる。相手も気配を感じとっていた様で普通に話しかけてくる。
「お、見張り交代? ちょっと早いんじゃないの? あ!? ンガへッ!」
海波は相手が敵だと判断し、すさまじい速さで移動をして雷をまとった腹パンで気絶させる。
(統制が全く取れていない集団だな……)
(……出てきた瞬間にのしちゃってるから……じゃないかな? 援軍呼べないし)
(普通は歩哨の定時連絡がなかったら警戒するはずなのだが……)
紅華と礼音は一瞬身構えるが直ぐに脱力してしまう。
「……なんか見慣れてきた……」
「うん。見慣れても……やっぱり痛そうだよね……」
「ちょっと相手が可哀そうだね……」
海波は周囲を感知して何とも言えない違和感を感じ続けていた。
「まだ気配は複数感じるな……さっきからこちらを見ている感じだが……何故襲ってこない?」
「え? まじで? やばい?」
「あ、それじゃあたしはしばらく姿を消すね……紅華ちゃんこれ渡しておく」
「……ずるいなぁ……」
「近くにいるから安心する。武器が欲しくなったら合図して」
「わかった」
「頼む」
礼音は紅華にギフトで作成した手甲と五十センチのトタン製の木刀もどきを渡してからステージのドアを開けて中に入るフリをして手を振りながらギフトで完全に姿を隠した。
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釜背修太は海波達のいる位置から壁を二つほど隔てたボイラー室跡にいた。
彼は「千里眼」を使って、海波達がいた壇上の様子を覗いていた。
(すげぇ強ぇな……ソーマが正面からは無理って言っていた意味わかったわ……)
釜背修太はソーマから渡された出どころ不明のスマホで現状の海波の情報のメッセージを送る。
(しっかし、ソーマもなんか変わったよな……ま、魔石もらえればいっか。色々と楽しいことが出来そうだし)
釜背修太は召田宗麻からのメッセージの返信をみて、彼らの元へと急いで戻っていった。
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