第26話 捜索活動
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海波は紅華と落ち合ったあと、蓮輝を探すために市内の街中を駆けまわっていた。気配を消し、魔力で体を強化して走り回り、強めの魔力反応を見つけたら確認する作業をひたすら続けていた。
仮面は目立つので口に黒いマスクをして目立たない程度の変装をしていた。
(何故か魔力の強い人間を多く見かけるな……どう言う事だ?)
(初めて見る顔の人も多いね。会合やってるとか?)
(……それに蓮輝が巻き込まれた可能性があるか……)
紅華も制服から動きやすい私物のジャージに着替え、ビルの屋上から残る一つのヤクザの事務所近辺を捜索していた。
付近を飛ぶように散策していた海波が紅華の姿に気が付くと彼女の近くに降り立つ。
「どう? いた?」
「駄目だな……この近辺を回ってみたが、それらしい気配はなかった」
「連絡もないし、既読もつかないしね……一人で訓練してたら魔法が暴発して……なんて事はないよね?」
「……蓮輝はどちらかと言うと慎重なタイプだ。その可能性は低いだろう。それに教えておいた「魔力ジャミング」スポットにはいなかった」
「だとすると……」
と、突然二人の間に丸亀礼音が何もないところから出現する。
「やっほ」
「うひゃいっ!」
「そっちはどうだった?」
驚いて慌てて距離をとる紅華を無視して海波と礼音の二人は平然と会話を続ける。
「こっちもいろいろ回ったけど、見つからなかったよ」
「そうか……そうなると、どこかで気絶しているか……市街に出たか……厄介だな」
「……突然出てこないでよ! びっくりするじゃない!」
「ん? けっこうビビりね」
「なっ!?」
感情的になる紅華を無視して海波は遮るように会話を続ける。
「礼音、重石はどうした?」
「別行動中。転生者自由主義の方に行ってもらってる。要からの連絡だと、蓮輝君はいないみたいね。コミュ力に問題あるから情報はそこで終わり。違う転生者グループに捕まってるかもね。瑠衣ちゃんの方は?」
「……瑠衣からの連絡だと、異能者管理組合の方では情報なしだそうだ。転生者自由主義の方で動きがあるらしく、そちらに巻き込まれたんじゃないかと推測しているな……」
「どちらにもいない状態か……今の蓮輝君だったら普通の人に拘束は無理だから……噂に聞く隣町で起きた事件の残党たちの仕業?」
「その線は薄いだろうな……魔力もかなり抑えらえて発見しづらいはずだ……」
紅華は落ち着いてくるが、二人の会話を聞いて段々と不安そうな表情に戻っていく。
「ねぇ、要するに……わかんないってことだよね?」
「そうだね。今のところ手掛かりなしかな」
海波は何かを思い出した様で、イラついた口調で頭の後ろをかきむしる。
「しくじったな……探知できるギフト……ユキナと言う女性の連絡先を奪っておくべきだったな……」
「あの時はそんな余裕なかったでしょ……」
礼音がきょとんとして海波に質問をする。
「ん? ユキナ? 振水ユキナの事?」
「へ?」
「ん? 知り合いか?」
「同じ中学校の級友の名前忘れるのは……あ、白波君はあちらの世界の記憶が強いんだっけ」
「……ちょっと、本当にあのユキナなの? ってことは……あとの二人は仲の良かった……彼氏……ああ、歩夢と力也か……」
「多分そう。顔隠してるけど、声と会話でバレバレ」
紅華は意外そうな顔で礼音を見つめたあと、襲撃の時の記憶を思い起こしてみる。
「それだと重石君の方がばれるんじゃないの?」
「彼らの前では話すなって言い聞かせてある。大丈夫」
「……ちょ、ちょっと、あんたたちの関係って一体?? 主従関係?」
「ん? 主従関係……要はよく言う事を聞いてくれる……あれ? わんこ的かも?」
「まじ? え? あれ? そんなかんじだったっけ?」
二人の会話が脱線し始めると海波がソワソワとしだし会話に割って入る。
「すまないが振水ユキナの居場所を……」
「あ、ごめん。今だと学校だと思う……集まりにはいないみたい。けど、連絡先知ってたかな……」
「大丈夫。私は知ってるよ。なんて送ればいいの? ってか、彼らにもこちらの正体がバレちゃうと思うけどいいの?」
紅華がスマホの連絡先を表示した状態で、どうするか迷っていた。
海波は考えるが、自分が彼女にしでかした事を思い出していた。
「ちょっと待ってくれ……あちら側の人間なのは変わらないはずだな。……俺はかなり強烈に威圧してしまった……協力してくれるだろうか?」
「ガチでビビッてたもんね……あたしだったら……しないな」
「私もしないね。あんなの当てられたら……あれは恐怖としか言いようがない」
海波は残念そうな顔をした後、暫く目を閉じてどうするか考えていた。
「……だよな……学校を教えてくれ……あと写真も……ちょっと聞いてくる」
「……え? マジ?」
「うわ、その仮面で行くのね……ユキナかわいそ」
海波は情報をもらうと、颯爽とマスクと、前回よりも上質で丈夫そうなピエロの仮面をかぶり、その場から瞬く間に姿を消していた。
(どうやって聞き出すつもりなの?)
(交渉する……今度は優しい感じにすると、人間はコロッと言う事を聞いてくれたりするものだ)
(それって、よく宗教勧誘とかDV系の話でよくありそうな……)
(DV……飴と鞭とか言ってくれるとありがたいのだが……)
§ § §
まだうす暗くない初夏の夕方に真直歩夢と伝地力弥の二人は転生者自由主義の集会、兼バイトのために遊園地跡の屋外ステージだった場所に来ていた。
そこには仮面をした高校生から大人などバラエティに富んだ人間が数十人集まっていた。
伝地力弥が真直歩夢にだけ聞こえる様に小声で話しかける。
「多いな……これ、ほとんど転生者、ってか能力者なの?」
「みたいだな。軽く感知しても、それなりに魔力をまとっているから……そうなんだろうな」
「はぁ、なんだか転生してもやる事が変わんないね……」
「力也も転生前こんなことしてたのか?」
「……まぁ、な。ギフト持ちはそうなる運命なのかね……」
「俺は志願してたから……その気持ちはわからない」
「そうか……俺は転生前も巻き込まれた記憶しかないわ……」
「……転生しても同じだな……」
「……確かにそうだな」
周囲の転生者達も二人と同様に知り合いを見つけて雑談をしている感じだった。騒がしくなっている間に早風切那が壇上に上がるとあたりを見回しながら声をかける。
「全員集合~はいはい、注目。いいかー? あちらさんの動きも活発みたいだから今日決行ね。今日の懸賞金はこんな感じ、はい、配っていって~足止めするだけでもボーナスつけるから安心してね」
転生者自由主義のベテラン達が顔写真いりの懸賞金やボーナスなどが記載されたビラを配っていた。ビラには転生者組合の冴えないおじさんと、転生者組合の幹部らしき三人が載っていた。政所瑠衣と鼓動正史の顔は載ってなかった。
周りの新規覚醒者同様、伝地力弥と真直歩夢はビラの内容を見て驚きを隠せなかった。
「すげぇな……一人戦闘不能か捕縛……殺してもか……百万はでかいけど……」
「殺したくはないよな」
「なんか……かなり物騒な状態だな」
「はぁ、やっぱり、こちらの世界に来てもこうなるのか……バイトってか裏バイトじゃないこれ?」
「本当だな。ユキナに声かけなくて良かったな」
「そうだな。今頃何で置いていったって騒いでそうだけどな」
「スマホの着信無いからまだ気が付いてないっぽいな」
「んで、どうする?」
「……様子見て……考えるか……」
二人は周りの様子を伺ってみると、金額に興奮する人間と、ビラの内容を見て挙動不審になっていく人間の二通り、半々になっているのに気が付いていた。
彼ら同様、小声でこれからどうするかなどを、いたるところで相談しているのが聞こえていた。
重石要は彼らの最後尾でビラの内容を見ていた。特に驚く様子もなく、ビラを見た後はベテラン達がビラを回収していくので何事もなく手渡しをする。
(うーん、ちょっとしたら礼音ちゃんに連絡だな。次はどうすればいいんだろ? 平穏な暮らしから遠のいていっている気がするよなぁ……)
重石要はビラの内容が前世の魔獣退治などの緊急招集と何ら変わらない事に気が付き、荒事からは逃れられない事を理解した。
§ § §
振水ユキナは狭い部屋で道化仮面と対峙していた。
「……はは……やっぱり手を出しちゃいけなかったんだよ……」
「騒がないでいてくれて助かる」
(良かった……腹パンとかしないで済んで……)
(騒いだら腹パンだな……)
(相変わらず女性に容赦ないね)
(男女平等だからな)
(……多分、男女平等の意味間違えているよ)
振水ユキナは廊下を歩いていたはずだった。突然視界が暗くなり体が揺さぶられたと思ったら使われていなさそうな準備室の椅子に座らされ、気が付くと視界が元に戻り、気が付くと目の前には道化仮面が立っていた。
「それで……道化仮面さん……なんの用?」
「人探しの依頼だ」
「……」
「手持ちが無いので……成功払いでどうだ?」
「……はぁ……今の状況で断れないこと知っててそれ? 貸しね……」
「わかってくれたか? ……引呼蓮輝、彼のいる方向を教えてくれ」
海波はスマホの蓮輝の最近の写真を彼女に見せる。彼が自撮りをしたのを送ってきたのでそれを見せている感じだった。
「は? 蓮輝くん懐かしー 相変わらず美形だなぁ……って、何で彼?」
「……すまない。急いでいる」
振水ユキナは海波のマスクから見える目をじっと見て、彼に害意が無いのを悟る。
(蓮輝くんだったら……利害関係無いし特に問題ないかな……)
「……わかったよ。蓮輝くんの持ち物……あ、彼は知ってるから大丈夫かな……」
振水ユキナはポケットから水晶のついたネックレスを取り出し、だらんと下に吊り下げる。ネックレスの先端の水晶に何やら魔力を通しだして何やら念じているようだった。
(なにをしているんだ?)
(ダウジング……だね。あちらの世界でもあったんだね)
(……こちらの世界にもあるのか。やはり魔力は使われていたのだな)
(そうなの??? アレ魔力だったの??)
水晶のネックレスが磁石に触れたかのように一方を指し示しながら揺れる。
振水ユキナは何もない空間を指さす。
「大体こっちだね……」
「俺たちは見当違いの方向を探していた様だ……街中の事務所ではなかったのか……」
「もっと精度上げるには魔力が必要なんだけど……魔石なんて無いよね?」
「残念ながら……」
(そうか、魔石による魔術向上はこちらでもできたのか……)
(え、あの神社にあった石使えるの?)
(あれはおそらく使えない……瑠衣が回収していたやつだな……借りれるとありがたいんだが……)
(それよりも、場所分かったら直ぐにいかないと)
(そうだったな)
「あ、そういえば……」
「すまない、急いでいる。今度礼をする」
「……あ」
振水ユキナが呼びかける間もなく海波はその場を去っていた。
残された振水ユキナは、直感で異変を感じそのままダウジングを続ける。先ほど占った蓮輝のいる方向に真直歩夢もいる事を示唆していた。
「……う~ん。私も行った方が良いんだよね。多分。あっちに二人も行ってるみたいだし……」
振水ユキナは迷いながら部屋を出て、既読のつかないスマホの履歴を見ながらこれからどうするかを考えていた。




