第25話 行方不明
§ § §
平日の朝、海波は目覚ましのアラームを止め、気だるそうに上半身を起こしてカーテンの隙間からのぞく太陽の光をみる。
「いつも通りの朝だな……」
(特に何も起きなかったね)
(君は結構図太いというか、好奇心旺盛なのだな)
(トラブルが起きてほしいわけじゃないんだけどね……)
海波は学校に行く準備をしようとベッドから立ち上がると、スマホの方から着信音が鳴ったので手に取って連作先を確認して通話に出る。
(紅華? 通話か……こんな朝早くから?)
『大変! 蓮輝と連絡付かないの! 今、蓮輝の家よったんだけど、昨日から帰ってないんだって!』
「わかった……そちらに向かう」
『ありがとう! 待ってる! 急いでよ!』
(どうしたんだろう? もしかしてヤクザ達に狙われてたとか?)
(ヤクザは蓮輝の事を把握していないはずだ……レンキの呼び方だけで見つけたのか……どちらかというとあの時にいた転生者達……重石要の可能性が高いが……礼音はこちらサイドのはずだが……)
(とりあえず、政所さんに連絡を……)
(そうだな。紅華から連絡がいってると思うが……)
海波は瑠衣にスマホでメッセージを送ったあと、暫く迷って学生服に着替えるのをやめた。普段着に着替え、潜入用のジャージとマスク、昨日作成したばかりの布に包んだ武器をバッグに入れて部屋から出る。
リビングに出ると、勤務先に行く準備をしていた母親とばったりと鉢合わせする。
「あれ、海波? 学校は?」
「あ、今日はちょっと……友達が大変なことに……」
「え、あら、どうしましょ……学校に連絡……」
「風邪って連絡しておいて。それじゃ!」
「いってらっしゃい、きをつけるのよ」
海波は振り返ることなく手をあげると蓮輝の家の方へと向かった。
(あ、あれ? 怒られなかった??)
(この間の事があったから気を使われているのだろう)
(そんな……普通に怒ってくれていいのに……)
(君がため込むタイプなのを知ったからだろう……ん? 気のせいか……視線を感じるな……)
海波は普通に歩いて移動しながら「何か」を感じ取ったが、蓮輝の方が心配だったので普通の人間と同じ速度で走り現場へと向かった。
§ § §
釜背修太は三百メートルも離れたビルの上から海波の家を見張っていた。彼の動向を観察すると、逐一スマホでメッセージを召田宗麻に送る。
【海波が家を出た。レンキの家の方に向かった】
【了解、そのまま観察しろ。絶対に近づくなよ】
【わかってる。サシだと負けそうだからな】
釜背修太はスマホから目を外して海波を見ると、すでに彼の千里眼の視界から消えかかっていた。
(くそっ、やっぱ早いな、マラソン選手並みの速度で走ってるじゃねぇか……)
あまり人目を気にせずにビルから慌てて飛び降り、強化された体を使って器用に地面に着地する。通行人が驚き立ち止まるが、それを無視して彼らの脇を駆け抜けていった。
§ § §
召田宗麻達は遊園地跡のビルの巨大ホールの屋上の展望室の様な場所にいた。すでに廃棄されてから五年たっているのと、管理が不十分なので若者たちのいたずら書きなどがあり廃屋らしい雰囲気を醸し出していた。
召田宗麻はスマホをいじりながら展望室の窓のギリギリでオペラグラスを覗いている間空提子に声をかける。
「学校にはさすがにいかねーか。おい、テイコ、そっちはどうだ?」
「変化なし、ソーマ君が魔石をくすねた貯蔵庫まわりでなんか人が集まって話してる感じだね」
「そか。そりゃ騒ぎになるか……遊園地跡っていっても……奴ら、どこに対抗組織を集めるつもりだ……結構広いよな、ここ?」
「そうだね、小さいとき来たけど……結構広かったよね……」
「んだなぁ……」
スマホのアラームが突然鳴り響く。平日の朝だったのでちょうど朝起きる時間の様だった。音に反応し、豪利竜太と引呼蓮輝が目を覚ます。
「……え? ここどこだ?」
「……ん? あ……おはよう? あれ? ここは? あれ? 日本? 男の声……」
廃墟の埃まみれのソファの上に寝かされた二人が起き出す。昨日の眠りの魔法にかけられたまま熟睡し、やっと目覚めた感じだった。
「ああ、おはようさん。すげーな10時間も効いてたのか。なぁ、リュー、どうだ? 体調?」
「ああ……夢を見ていた……体は大丈夫だが……寝てたのか……鮮明な夢だったな……レンキがいる……打合せにあった遊園地跡かもしかして?」
「正解」
「……俺をここまでどうやって運んで……そうか、魔力で強化された体なら……簡単だな」
豪利竜太が思考を整理していると、寝ぼけていた蓮輝が芋虫の様に体をよじる。
「……あれ? 手が……ん? 縛られてるのか……アイタタタ……体中痛いや……埃っぽいなぁ……どこ? ここ?」
「起きるなり騒がしいな……お前は人質らしく転がってろ……」
蓮輝は周りを見回して状況を整理する。
「あ……もしかして、僕……誘拐されちゃったとか?」
「! ……ああ、そうか、これ誘拐ってやつか……そうだな、誘拐だな」
「ソーマ……分かっててやったんじゃないのか?」
「餌だからな、餌、海波だけが食いつけばいいの。餌だと思ってたから……誘拐って簡単なんだな」
「……お前の行動力はすごいと思うが、俺より考えてないな……」
蓮輝は手足を結ばれていたが器用に飛び起きる。絶望的な状況のはずなのに何故か目が輝いていた。
「ってことは、僕の事を助けに、海波君達が! あれだね、僕はは囚われの姫ってことだね!」
「……元気だな……」
「レンキ……お前……なんか、性格変わったか?」
「え? 変わってないと思うよ。僕は至って元気さ。ここは、五年前に閉園した遊園地かな? ……なんかアジトっぽくてすごいね。君たちの根城なの?」
召田宗麻はテンションの高い蓮輝を見て若干呆然とする。「いじって」いたら段々と目が死んで魚の目の様になっていった印象が強かったので、今の状態との違いが明白だった。彼の頭の中で一つの回答にたどり着き納得する。
「……魔力に目覚めると性格変わるみたいだな……あいつもそうだったな……」
豪利竜太は、一瞬考えた後、言いにくそうに彼に進言する。
「俺も変わったと思う……なぁ、ソーマ。やめておかないか? 多分海波には勝てない」
「どうしたんだよ。昨日までと言ってることちげぇじゃねぇか?」
「……夢を見てた。おそらくあちらの世界の。あれだけ早く動けて、腹パンしても、体が爆散しないなんて……手加減が異常に上手だ。相当な熟練者……俺ではかなわない」
召田宗麻は海波に勝てない、と言うフレーズよりも眠りの魔法にかかったら記憶を見ることが出来る方に興味を抱いた。
「……まじかよ。眠りの魔法をかけるとあちらの世界の事を思い出すのか? それってすげー情報じゃね?」
「そうだが……」
「だってよ、テイコとかギフトを思い出せていない奴にかければ……思い出せんだろ? あちらの記憶を? 簡単に戦力アップするじゃねぇか」
「……たしかに……(話の意図が違うな……ソーマってここまで人の話聞かない奴だったか? 前世の記憶のせいか?)」
豪利竜太が心配した表情をしている横で、蓮輝が話を聞いていて何かをひらめいてあたりに向かって声をかける。
「なるほど……魔法をかけたのは……たしか釜背君だったかな? 釜背君! 僕にもう一度眠りの魔法をかけてくれ。もう少しでいろいろと思い出せそうなんだ!……って、あれ? 釜背君は?」
豪利竜太は周りを見て、気配を察知してから現在いる人数を確認する。
「……いないだろ、気配はここにいる四人だけだ」
「……随分ふてぶてしくなったな……まぁ、やつをおびき出せればどうでもいいか……」
間空提子が屋外の状況に変化があったので窓から外を見たままで報告をしてくる。
「ソーマ君。ヤクザ側の転生者軍団が接近中。なんか運んでるみたい」
「おっと、思ったより遅いな。決行すんのは明日の夜じゃなくて明後日の夜なのか?」
「分かるわけないでしょ。相手の規模も知らないんだから、ほら、見てみて」
召田宗麻はけだるそうに間空提子のもとに行きオペラグラスを借りて外を見る。
その間に蓮輝は普通に歩きだす。彼の足と手を縛っていた縄はいつの間にか地面に落ちていた。
「あ、ちょっとトイレ行ってくるね」
「ああ、そうだな、俺も……え? 縄が……」
「動きづらいからとっておいたよ。また後で付け直しておくね」
「あ、ああ……そうか……わかった」
「ここって水通ってないよね……」
「適当に外にすればいいだろ……」
「そ、そっか、ちょっと恥ずかしいね」
「……そうか」
平然と非常階段の扉を開けてトイレを探す蓮輝の異様さを見て豪利竜太は絶望をする。
「……俺、負ける未来しか想像できなくなってきたわ……」




