第21話 過去を思い出す
§ § §
海波と瑠衣は、先ほどの現場からあまり離れていない交番の近くまで来ていた。
「本当に警察に届け……じゃなかった……投げ入れると思わなかった……」
「……あの感じだと、警察にも情報がいっている感じだな。投げ入れられるのに驚いていなかった……」
「……前にもやったのね……」
交番に勤務していた警察官は投げ入れられた物を確認すると、かなりの速度で交番の外へ出ていき周囲を警戒、ではなく、荷物を投げ入れた人物を探している様だった。よく見ると交番の外に向ける監視カメラが増やされていた。
「それにしてもすごいコントロールね……」
「投擲は得意だ」
(なんで政所さんついてきたんだろ……)
(話をしたがっているように見えるな。それとも確認……か?)
(だよね……立ち止まってなんかユラユラしてるし……迷ってるのかな?」
瑠衣が立ち止まってその場を立ち去ろうとしなかったので、海波もどうしようか迷っていた。
「あ、あの……ちょっとだけ話せない?」
「わかった。夕飯の準備があるから手短にか……」
「え、あ、そうだよね、浪音さん……シフト制だったっけ……」
「……そうだ。覚えてくれてたか……」
「そりゃ……お世話になったもの……」
海波と瑠衣は近くの公園に向かって歩き出す。瑠衣は何かを言いたそうだったか口を開けようとしてはまた紡ぐ……といった感じで何とも言えない雰囲気になっていた。
(緊張感が……)
(そうだな……伝わってくるな……君の緊張もだが……大事にしているのは伝わってくるが……)
(だったら上手くやってよ! なんか突き放してる感じがするし)
(この世界の人間関係をうまくやる方法は……君の記憶にないから無理だな)
(ぐっ……そう言われると……)
瑠衣がものすごく言い出しにくいようで、やっとの思いで言葉をひねり出していた。
「えっとさ……」
(すごい話しにくそうだな……ああ、そうか、こう言う感情か……)
(そ、そうだよ……駄目だ、緊張してのどから心臓が飛び出そうだ)
(頼むから抑えてくれ……こっちまで息が詰まる)
「どこまでしっかりと覚えて……いや、違う……ねぇ、白波君。保育園時代……私の事なんて呼んでいたか覚えてる?」
「……え? るーちゃん?」
「……そ、それじゃ……なんで政所さんって呼ぶようになったかは……」
(! あ、あ、あれは……周りに冷やかされて恥ずかしかったからだよ!!)
(落ち着け! なんだこの逃げ出したくなるような気分は!)
(お、落ち着いてられるか!)
(これが思春期と言うやつなのか?)
(なんでそこまで冷静沈着なの!?!)
「……あ……え……っと」
「! ……あ、いや……ごめん。これは……そうだよね……」
海波が表情を抑えながらも視線が泳ぎ、言いよどむのを見て瑠衣は内心驚いていた。
政所瑠衣は一つの希望を持っていた。「白波海波」の魂は死んでおらず、前世の魂の意思の方が強く出ているだけだと……今の海波の反応を見て、少しだけ希望が持てていた。
「すまない……心の有り様がおかしい」
「……え? ん? っと? どう言う意味?」
瑠衣はあまり聞きなれない日本語の構成で話す海波に疑念を抱いた。
「……大丈夫だ。心が落ち着いてきた……」
「……そう……」
二人はしばらく黙って歩き、飲み物の自動販売機があるベンチを見つけ、飲み物を買って各々が座る。
「話は……色々あるのだろう?」
「……ある。話したい事はたくさん。だけど何から言えばいいんだろう……」
瑠衣は飲み物を一口飲んで落ち着くと、海波に向かって軽く頭を下げる。
「まずは……ごめんなさい。すぐに海君のところに行けなくて……」
「え? 何故だ? 謝られるようなことは……」
「この力に目覚めたのはひと月ちょっと前……春休みの事……隣町の能力者達の事件に巻き込まれて……助けに行けるほど……心の余裕がなかったんだ……」
「ああ、その時の仲間が……」
「そう。今、情報をくれる人達。色々助けてくれたから恩返し中かな」
瑠衣は空を見上げながら色々と思い出しながら言葉を紡いでいる感じだった。
「……この力を使えば……召田君達のバックにいる奴らとかまとめて何とかできるとか思ってたんだけど……そんな器用にできなくて……」
「だったら尚更謝る必要は……これは「僕」の選択ミスだった……みんなを頼れればいいのに一人で抱え込んでしまったから……」
「……え……あ……そこまで振り返ってたの……随分冷静に自分を見てるのね……」
「そうだね……今、俺の中では前世の記憶と、今の記憶が入り混じって、二つある感じだ。今の性格は前世寄りに傾いている自覚がある」
瑠衣の目が一瞬輝いたかのように見えた。
「じゃ、じゃぁ……やっぱり……海君……だよね?」
「……それは……俺にはわからない……」
「……そっか……」
海波は、現状自分の心の声と本当に対話しているのか、それとも一人の思考なのかは判断がついていなかった。どちらの言い分もわかるし、どちらの記憶もある……都市伝説的な多重人格になってしまった……とも思えていた。
「えっと、これは事務的な確認なんだけど……白波君と……紅華ちゃんと……蓮輝くんって、ヤクザ系転生者とのつながりは……「無い」でいいよね?」
「そのはずだ。たしか紅華の父親は警察官だった記憶があるし、なおさらだろう」
「あ、そっか……そうだった……忘れてた……」
瑠衣はいろいろと考えを巡らせながら続けて質問をする。
「ねぇ、事務所を全部つぶした後はどうするつもり?」
「ヤクザのつながりは全部消せるはずだ。ソーマ達の方は警察が動いてくれているから何とかなると思う……ソーマ達のつながりもおそらく今回ので問題ないから……あとは……やっぱり奪われた金が戻ってこなさそう……なのが問題だな……」
「……そんなのバイトで稼げばいいじゃない? え? 奪われた?」
「五十万……今は四十五万か……わりとヤクザと不良たちから回収できて……」
「召田君達に??」
「……あれ? 言ってなかったか?」
「言ってない!!」
(駄目だよ! 話をしちゃ!!! 巻き込みたくなかったのに!!)
(言うべきだ。君の選択ミスなのだから……罰は負うべきだな)
(知らないよ……るーちゃんは怒ると怖いんだ……)
(大丈夫だ……その記憶は小学校低学年時代以前の話だろう……)
「簡単に言うと、記憶と能力を取り戻す前に、召田達四人にボコられながらお金を巻き上げられてました……って言えば通じるか?」
「!!!!!」
ドンッ!!!
瑠衣が突然立ち上がると同時に彼女の周りに魔力の爆発が起き、体全体にとんでもない魔力が流れ始める。あまりの高威力だったため、魔力が風をまき起こし周囲を暴風域のようにしていた。
「あんの、やろおおおおおお!!!」
(え! ええ!?? るーちゃん?!? 言葉遣いが!)
(しまった! 正義感が強すぎる人間だった!! すさまじい魔力だ!!!)
「ちょっと抑えろ……」
海波が慌てて瑠衣を抱きしめ、動けないようにして背中をポンポンと落ち着かせるために叩く。
「え?! あ?! え?? ちょ、ちょっと?」
「落ち着け。こんな力を出したら、この町中の転生者に位置がバレる!!!」
「あ! そ、そうだった……」
瑠衣が巻き起こす暴風が収まって落ち着いてくると、抱き合っている状態なのに気が付き、慌てて二人は離れる。
が、突然何かの力が働き、後ろの芝生の茂みの方に引っ張られて、体が浮くくらい飛ばされる。
「な!」
「くっ!」
着地と同時に二人は、自分の服が素手で引っ張られただけなのに気が付く。
(油断していなかったはずだ……突然出てきた? ギフトかっ!)
警戒する二人の傍らには、いつの間にか敵意のかけらも感じられない人間が存在していた。
気の抜けた声でギフトの持ち主が声をかける。
「あ~なんと言うか……街中で魔力ドッカンはしないほーがいいよ?」
「え?」
「……君は……丸亀礼音?」
「礼音ちゃん……あなたも転生者だったの?」
「あ~。ま~ちょっとだけ、静かにしよっか、喋るとこの力解けちゃうんだよね……」
丸亀礼音が目で集まってきた人間の方を示すと、魔力をまとった人間たちが何人か集まってきていた。礼音が二人の手をちゅうちょなく握ると、水の中に入ったような感覚が襲い、自然と同化したような感じになった。
目の前を魔力をまとった転生者の壮年の男性、青年などがどこからともなく着地し、先ほど話をしていたベンチ周りで周囲を捜索する。
「おい、どこ行った!!」
「事務所襲ったやつらじゃないのか?」
「無駄足かよ……魔力を使った高速移動に使ったんじゃないのか?」
「ありうるな……とんでもない速度で動くとの情報だ……「魔力爆発」のギフトかもしれないな」
「とりあえず探知し易いように四散しよう。何かあったら魔力を高めろ! 細かいことはスマホで!」
「わかった!」
「了解!」
目視され、魔力探知しなくても認識できる距離のはずなのに誰も気が付く事なく離れていくのに二人は唖然としていた。距離が十分に離れると同時に水の中にいるような感覚が薄れていく。
「見えているのに……見えていないとは……」
「これが噂に聞く「隠密」のギフトなの?」
「えへ~……なんとなく正解。詳細は話せないよ。条件もね。貸しイチかな?」
「ぐっ……あれくらいなら殺れる……」
「殺しちゃだめよ……それに……私たちマスクつけてないから……顔バレしたら困るし……」
「貸しイチ?」
「わかった……受け入れよう……ただし、貸しはすぐ使われると言う事だな?」
「そうね。そう言う事ね」
「どう言う事?」
瑠衣が話の展開についていけずに怪訝な顔になって二人を見る。
「彼女が前回の廃工場に来ていたヤクザ側の転生者ってことだ」
「え??」
「そう言う事ぉ~頭の回転早くて助かるわぁ~ついでに要の事もノーカンにしてくれるとうれしいな」
「あれ? ってことは礼音ちゃんは敵側で……えっと、捕まえる? あれ? クラスメート? この場合はどうすれば……」
瑠衣の視線が二人の間を行ったり来たりして手が不安定に動いていた。彼女が本気で迷っているのを誰でも感じ取れた。
「瑠衣、余裕が無いのは分かった。少し聞きに徹してくれ……」
「ん~敵じゃ無いと思うよぉ? 要がやらかしたから手を貸してるだけだし」
「重石君が? え? あ……仲良かった……あ、お隣さんだったっけ?」
「瑠衣……少し静かに……」
「いや~なんとなく状況が分かったから話に来たよ。本当は委員長とだけ話をすればいいと思ったけど……二人まとめての方が楽だと思っちゃってねぇ」
「……なぜ俺を含める?」
「……まぁ、まぁ、私と要も平穏な生活を望んでいるんだよ。だから転生者としての能力を期待されてつかいっぱしりになるのは嫌なんだぁ……ほら、そうすると白波君とかと立場近いでしょ? ちがう?」
「そうだな……」
「でも、礼音ちゃんはこの地域のヤクザとつながりがあるんでしょう?」
「あると言うか、要がヤクザのお偉いさんの車踏みつぶしちゃったんだよね。暴走してたから止めたんだけど……」
「……それは……なんと言うか……大胆ね……」
「不運? だったな」
「だから私はヤクザと縁を切りたいし……転生者との抗争に利用されて巻き込まれるのも嫌」
瑠衣が丸亀礼音の話を聞いていると、口に手を当てて思い悩む表情になる。
「……うーん。そうすると……私が今所属しているグループは……ちょっと……目的と違うかもなぁ……」
「詳しくは聞いてなかったが、どういった組織なんだ? 言えるか?」
「……暴走した転生者や目覚めた能力者たちを見張る組織かな?」
「え? 転生者ってやっぱりもっとたくさんいるの?」
「うん……そうみたい。私も力に目覚めたの先月だから……すでに組織があるところに拾われた感じね」
「困ったなぁ……どちらにしろ使いっ走り確定かぁ……」
「そうだな、この町のヤクザの組織を片っ端からつぶして壊せば終わりかと思っていたが……」
「……白波君、考え方が物騒だよねぇ……その実力だったら、なんと言うか、いろいろと本当に終わらせられそうだけど」
「ヤクザの拠点だけだったら簡単だ。転生者組織の方は……盲点だった」
「……え? そっちもつぶすの?」
「そうだな……ヤクザについている転生者……ヤクザと持ちつ持たれつの悪事に手を染めても大丈夫……という思想の転生者のグループ。そちらとは関りになりたくないからな」
「ああ、そっか、あたしらを囲っているヤクザ側の転生者グループは……嫌々やってる人もいるけど……そんな感じかも……それじゃ、あの組織をつぶせば……平穏な暮らしが……」
瑠衣が話の流れにやっとついてこれた様で、丸亀礼音にまじまじとした感じで問いかける。
「礼音ちゃんは……その、裏切っても……大丈夫なの?」
「うん。局長さんへの借金返したら……借金と言うより、局長さんも助けたはずなんだけど……なんか上手く言いくるめられた感じだったかな……だから早く抜けられればいいくらいに考えてた。つぶしてくれると嬉しいかな」
「……ドライだな」
「合理的と言ってほしいなぁ……」
「……どうしよう……報告内容が増えた……ちょっとメモらせて……情報が多い……」
「瑠衣なら大丈夫だろう?」
「委員長なら大丈夫だと思うんだけど?」
「私にも限界はあるのよっ! 頭を整理しないと……もうっ! 海君のせいなんだからね!」
「……すまん」
「……要より素直だねぇ……」
駅前の仕掛け時計のチャイムが鳴り始め、夕方を知らせる音が鳴り響く。まだ初夏になってまもなかったので空は明るいままだった。
「あ、そろそろ時間だ……俺は家に帰る」
「え、まだ時間……大丈夫でしょ?」
「ご飯当番だ。前回やらかしているから、心配をかけさせたくない」
「あ、そうか、浪音さんによろしく……今度……遊びに行けると良いな……」
「ああ……伝えておく……また連絡する」
海波は気配を抑えつつ、魔力を使った高速移動でその場を一気に離れていく。
「それじゃ、話がまとまったら連絡ちょうだい。あ、高校なってからスマホ買ってもらえたから連絡先教えて……」
「え、ああ勿論……」
瑠衣はスマホを取り出し、礼音と連絡先を交換する。
「お互い、奥手相手だと疲れるよね……それじゃまたね」
「……え?」
礼音はギフトを使ってその場から姿を消す。
残された瑠衣は礼音の言葉にさらに混乱して悩むことになった。
(礼音ちゃんにはそう見えているの? どうなっているの? 別人みたいなのに??)




