第19話 襲撃したらはちあわせ
あるライブハウスに併設された事務所の一室で、二人のヤクザがたまに鈍く光る黒い石を手に取って不思議そうに眺めていた。
「これが『流れ星』ねぇ……」
「それを近くにおいて一晩寝ると、あいつらみたいな能力に目覚めたりする……らしいぞ?」
「ってことは……おまえは無理だったんだな?」
「期待してたんだけどなぁ。なんか能力者になると、あんなガキでも偉そうにできるだろ?」
「んだな。今日のバイト君も弱そうなのに俺たちより強いんだろ? ……あ、俺もやってみる。抱いて寝ればいいのか?」
「多分……」
重石要はヤクザがやり取りをしていた隣の部屋に控えていた。魔力で強化された聴覚で隣の部屋の声を盗み聞きしていた。
(聞こえてるんだよ……くそ野郎が……日給2万円はいいバイトだし我慢だな……)
「あんまり変なそぶりを見せない。近くに能力者のおじさんいたらバレちゃう」
「あ、そうか……そうだった」
重石要の目の前には丸亀礼音がけだるそうにスマホをいじっていた。
二人とも口だけを覆う目だしのマスクを着け、スポーツ系のサングラスをいつでも降ろせる様に額にかけた状態にして、素性がわからないようにしていた。
「なんで「流れ星」をこんなところに保管してるんだ?」
「多分、若者が遊びに来るであろう場所に置いて覚醒者を増やす……のかなぁ……なんか他の事務所もやばいって言ってたみたい。一時保管かもね。臨時でうちら雇うくらいだし」
「そうだったね。付き合ってくれてありがとう……」
「気にしない。私のせいでもある……あ、そうだ……伝え忘れてた……」
丸亀礼音が席を移動して、重石の隣に座る。スマホで文字を入力して周りを気にしながら見せる。
〈この間の道化仮面をヤクザにぶつければ、あんたの借金無くなるんじゃないの?〉
〈そうだけどさ、一応僕があの人たちの車壊しちゃったんだし、それは無いんじゃないの?〉
〈あんた人がいいよね……上手くやればヤクザ達との縁も切れるからお勧めなんだけど〉
〈……確かに……金を返してもこき使われそうだね……〉
さらに丸亀礼音が文字を入力して意思伝達を続けようとすると、部屋のドアを開けて「一級」能力者の先輩、遠地寛治が入ってくる。
「おい、さぼってんじゃねぇよ。時間になったら来いっていったじゃん? 見張り交代だ」
「はーい。私の番でしたね。遠地先輩」
丸亀礼音は緩い雰囲気の「一級」能力者の先輩と入れ替わるように部屋を出て屋上への階段を上っていく。
「あ、あ、あの……せ、先輩は長いんですか? き、き、記憶を取り戻して……」
「……ああ、長いな……もう五年以上……前だな……大人しくしてれば目を付けられなかったんだろうけどな……おまえもアホやったよな……」
「そ、そ、そうですね……ま、ま、まさか車の持ち主が……」
「まぁ、話は聞いてるけどよ……局長さんの車踏みつぶすなんてなぁ……」
「で、で、ですねぇ……ははは」
「人助けでギフト使ったのは偉いんだけどなぁ……」
「そ、そこまで知ってるんですね……」
重石要は運がなかった。
庭に落ちている「流れ星」を見つけて能力と記憶に目覚め、有頂天になって能力を試していた。隣に住んでいる丸亀礼音に偶然見つかり、同時に覚醒した彼女から逃げている時に重力コントロールで飛ぶように街を飛ぶように駆け回っていると、スクランブル交差点でベビーカーを押した母親にせまる暴走している自動車を偶然見つけた。魔力で強化された目で見ると運転手が気絶してしまっているのが確認できた。
本当に偶然だった。
が、彼は迷わず自分の体重をコントロールし魔力を込めて自動車のフロント部分に着地して、物理的にブレーキ……いや、自動車の前の半分とアスファルトを壊して人助けをした……
そこまではよかった。
問題は暴走した自動車の後部座席から這い出てきたのは一般人、堅気のものではなく、この街を牛耳る血まみれのヤクザの局長、しかも「転生者」を知っている人間だった……
見る人が見れば交差点に暴走する車を止めた英雄に見えたのだが……相手が悪すぎた。
§ § §
海波は蓮輝達と別れた後、道化仮面となり事務所で得た情報を頼りに次の目標の支部の近くまで来ていた。ビルの屋上から目標の建物の様子をうかがっている人物を発見する。
(あれって、目だし帽をしてるけど……るーちゃん……政所さん?)
(そうだろうな……魔力を消し切れていない……なにをやっているんだ?)
海波は気配を消しながら瑠衣の近くまで歩いていき、念のため素性がバレない様に「道化仮面の声」で声をかける。
「なにをしている?」
「えっ!?」
瑠衣は突然の得体のしれない声を聞いて、反射的に迎撃をしてしまう。一瞬にして瑠衣の足腰に魔力が爆発的にたまり、常人では回避できない速度の回し蹴りを海波へと放つ。
ドコッ!!!!
(ちょっ!!)
(くっ! 思い切りのいい蹴りだ!!!)
ズササササァ……
瑠衣の蹴りはすさまじい威力だった。海波は綺麗に蹴りをガードしていたが、衝撃を消しきれずにビルの屋上の端まで吹き飛ばされてしまう。
瑠衣はさらに迎撃をする構えを見せるが、見覚えのある道化の仮面に気が付き、中の人をやっと認識する。
「あ、あ~もしかして……白波君?」
「……蹴る前に聞いて欲しかったが……」
「突然、耳の横で、その、変な声がしたら誰でもそうなるって!」
「……すまない……」
(どうやら探知能力はそこまで高くない様だな)
(なんでわかるんだい?)
(わざと微少の魔力を発しながら近づいたんだが……気が付かなかったからな)
(それよりも……今……白波君って……)
(何かおかしいのか?)
(今までずっと海君だったのに……)
(ふむ……心境の変化か?)
瑠衣は構えを解きながらも、監視していたビルからは見えないようにかがみながら海波の方へと近づいてくる。が、途中で足を止めて考えにふける。
「それで、その奇妙な仮面をかぶってきたってことは……あれ? なにしてるの?」
(あれ? もしかして海君、「流れ星」の事を知っている? あちらの監視? 裏でこの町のチンピラ達とつながっている?)
瑠衣の目に警戒の色が強く浮き出るが、海波は気が付く事も無く瑠衣に近づきながら話しはじめる。
「ああ、この辺のヤクザの事務所を片っ端から襲撃している。今日はそこの事務所なんだが……」
「…………へ? ……え? あれって、海……白波君だったの???」
(やっぱり! 呼び方が! 言い直された! 距離を取られた! そんな……)
(何を考えている……焦りが伝わってくる、落ち着け……今、考えるべきはそこではない)
海波は自分の中の「白波海波」が慌てながらも絶望する気持ちが強すぎて軽くめまいがしていた。
「っ……情報が回ってくるのが早いのか?」
「……そうね……最近は転生者達とヤクザ……半グレ……その辺がつるんで面倒なことになっているみたいだから……私の所属しているグループから情報が来るの」
「なるほど……それで、仲間に情報を持ち帰った結果は……どうなった?」
「……それは……まだ教えられない……かな」
「そうか」
瑠衣は現在調査中で、今現在裏であなたの事を調べている……とは流石に言えなかった。彼女自身も海波の行動が「真面目で頼れる」から、破天荒で読めない危険人物のカテゴリーに入りかかっていた。
瑠衣と海波は建物が見える位置まで気配を消して移動をする。
「良かった、誰も気が付いてないみたいね……」
「……感じるな……あそこはヤクザの事務所じゃないのか? 見た目が派手……だな」
「事務所は隣にあるのかも……ライブハウスと併設された感じみたいだけど……」
(侵入しにくい建物だな……)
(窓があんまりないね……屋上から……行くしかないかな?)
(人ごみに紛れるのも手なのだが……)
(君が想像するより通路が狭くて人が多いから止めておいた方がいいかも)
海波は瑠衣が何故ここにいるのかを聞き忘れていたことに気づく。「白波海波」の信頼しっぷりに影響され、彼の中では「仲間」扱いになっている事を理解した。
「瑠衣、君の目的は?」
「……うーん。おそらく事務所の中にある……「感じる何か」を持ってくる事かな……」
「なるほど……ならば利害は一致するな」
「……え? ちょ、ちょっと? 利害って……あれ? 私は穏便にモノを取ってくればいいだけで……あなたも中のものが必要なの?」
(やっぱり「流れ星」の情報を?!)
瑠衣の言葉に海波は少し悩んだ後に返答をする。彼の中では瑠衣は盗み、俺は目標を始末……と言ったくらいの簡単な仕事の割り振りだと思っているようだった。
「俺は事務所のヤクザ達をのしに行くだけだ。結果は同じだろう?」
「え? あれ? そうなの? ヤクザを倒して……殺さない?」
「大丈夫だ。どれくらいの威力で腹パンをすればいいのかはわかっているつもりだ」
「は、腹パン……腹にパンチ……のこと?」
(……ちょっと、海君、やっぱり前世の感覚で動いてる!? 不良になっちゃったの?? この場合はどうすれば???)
瑠衣は予想に反した海波の行動と言動に混乱していた。「白波海波」を知りすぎていて、彼ならこうすると言った予測を完全に覆していた。中身がほぼ前世の人物なのでしょうがないのだが……
瑠衣が混乱している間にも、海波は事務所方向に注意を払い続けていた。
「!? 四つあった魔力の気配が、突然三つになった。今度は気のせいじゃないな……」
「え? 魔力を「完全に消す」なんて……あっちに隠密系の技術……それかギフト持ちがいるってこと?」
「そのようだな……昨日会った転生者達の一人が……おそらくそれだろうな」
「面倒な能力ね……」
「ギフトだと厄介だな……本当に気配を「消せる」からな……」
海波と瑠衣は目を合わせた後、気配をさらに消しながら二手に分かれていった。
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