第99話 エピローグ
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『爆心地』の廃墟と化したショッピングモール周辺は未だに封鎖されていたが、周囲の街には人が戻り復興作業が行われていた。
戦いの被害はそれなりにあったが、災害時と同様に、公的機関がそれぞれの役割を果たし大規模な復興作業が始められていた。
一つだけ普段の災害と違うのは、『魔獣』の出現を見回る自衛隊特殊対策課の見回りと、狐の仮面をかぶった転生者たちが街を巡回している事だった。
世間のニュースでは『消失事件』の解明や、この世界に戻ってきた帰還者達の声が流れ、『異世界』の『魔法』と『魔獣』に満ち溢れた世界の事が知れ渡っていた。
最初こそ、消えたはずの人間が戻ってきたこと、怪獣の様な魔物が倒された事がクローズアップされ、美談としてもてはやされていたが、同時に転生者の有益性と危険性について語られる日々が続いた。
臨時休校になっていた学校も再開され、海波達は日常へと帰っていた。
殆どの転生者、普通の生徒達は時戻しのおかげでかなりの人が生き残り、大きく日常が崩れる事も無かった。
ただ、陽花里が治療したはずの召田宗麻の姿は事件以来、誰もみる事が無かった。
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数日後……
海波達は引っ越しをしていた。
小さなアパートから4人で暮らしていた家へと転移魔法で荷物を運び、荷ほどきをしながら片付けを進めていた。
リビングにあるテレビからは連日、先日の『飢える魔王』との戦いの映像が流れていた。
近距離からの映像は画像にノイズが入り殆ど判別不能だったので、戦いの影響が無かった遠距離からの映像だけになっていた。
それでもまるで映画の様な戦いに、どこのテレビ局、ネット動画なども盛んに流れて議論されていた。
蓮輝が引越しの手伝いをしながら、テレビを見ていた。
「新情報はないみたいね。やっぱり顔バレは心配しなくて良さそうだね」
彼は『ギフト』で埃をひとまとめにしながらゴミ袋へと放り込んでいく。
それを見ていた紅華は家具を軽々と持ち上げながら感心していた。
「それ便利ねぇ……ダイソンよりすごいわね……一家に一台レンキね……今度……家に……ごめ、いまのなしっ!」
浪音が荷物を段ボール箱から出しながら整理していく。
「でもねぇ……色々とバレちゃってるから正津さんと琴音ちゃん大変みたいよ。色々なところに世界各国の諜報員がいたとかで……」
それを聞いていた翔が戸棚に食器を入れる手を止める。
「ヤバくなったら父さんが何とかするから安心して」
陽花里が呆れた感じで突っ込む。
「それ、物理的に何とかする……でしょ? なんか公式に転生者監視組合みたいのが発足するらしいからギフトは大っぴらに使えないみたいだよ?」
先日の『飢える魔王』の戦いを見た世界の政府は『ギフト』を持った転生者達の存在を認めるとともに脅威を感じ、共同で『ギフト』持ちを政府、国連で管理しよう……という流れになっていた。
「母さんは「自衛隊」に戻らなくていいの?」
「私は『異世界』のアドバイザー的立場だったから……『飢える魔王』との戦いが終わったら行かなくてもいいのよね……契約破棄したら囚われたりするのかしら?」
「俺がなんとかしようか? って、転生者管理組合とかに誘われてるんだよねぇ……俺。もしかして自分も管理対象?」
「あれだけやっちゃえばそうでしょ……」
「今後は『ギフト』も規制されていくんだろうなぁ……」
「便利なのにねぇ……」
「私の偽装も使用禁止だと……困るんですけど……」
浪音は、魔法の器具で日本人風に見える外見をしながら耳を不自然にピコピコ動かしながら困った表情をしていた。
海波は自室で段ボールから荷物を出して戸棚にならべていた。
瑠衣もそれを手伝っていたが、アルバムが出てきたら二人で開いてみながらキャッキャとし、文集が出て来てたら……
それを部屋の外で見ていた蓮輝と紅華が荷物を手に持って白い眼をしてみていた。
「はぁ……それにしても……」
「なにかしらね……この空虚感」
視線に気が付いた二人は振り返る。
「ん?」
「ちっ、ちがう。サボってたわけじゃ……」
「いいんだけどさぁ……約束の時間に遅れちゃうよ。まぁ、この部屋は海波があとでやればいっかぁ」
「せっかく琴音ちゃんが忙しい時間を割いてくれたんだから。あ、そろそろ行こう」
「わかった。行こう」
「もうそんな時間か……」
四人は靴を履いて「普通に歩いて」待ち合わせ場所へと向かった。
§ § §
海波達が裏山の神社にある不法投棄の通称、「集会場」まで来ていた。
先に優斗と琴音と「のぞみちゃん」が到着しており、海波に気が付くと手を振って挨拶をしてくる。
彼ら以外にも何人かの転生者達も遠巻きに待機しているようだった。
「遅いですよ師匠!」
「優斗、師匠はやめてくれっていってるだろ?」
「……え、か、カイハ……さん?」
「今は年上なんだからそれっぽくふるまってよ」
「わ、わかった……」
「頼むよ」
「か、カイハ……なんか無理かも……」
「……なんか新鮮ね……ゼフが……その言葉遣いなのも」
琴音が座っていた廃材から立ち上がりスカートの埃を落とす。
「さて、折角集まったんだから、ささっと金策をしましょう!」
「へ?」
「え? 金策?」
「今後の……スマホじゃ話せない……大事な事を話すんじゃなかったの?」
「おお……本当に考えてくれるとは……んで、なんでごみ置き場?」
驚く三人とは別に海波は頼んでおいたことがすぐに実行されるので一人喜んでいた。
「どういうこと?」
瑠衣が呆れたような不思議な感じで海波を見る。
「あ、ああ……親から……くすねた金を……取り戻す方法を相談してたんだけど……」
「師匠……じゃなかった、海波が考える事が物騒で……琴音に相談してたんだよ。なんか前世にひっぱられすぎなんだよね、海波って」
「仕方がないだろう。一度死んで一旦ゼフに染まっていたのだから……」
「……礼音がいけないんだ……彼女と組めば、この世界では大概何とかなってしまう……」
「そりゃやりたい放題だけど、その時は俺も止める方に回らないといけないわけで……」
琴音がため息をつく。
「流石に見過ごせなかったので……ゼフはあちらの世界じゃしっかり者だったのにね……」
「記憶を取り戻す前の事なんだ……なんというか……ごめん。これはけじめなんだ。俺の働きで返さなければいけないと思う」
琴音は手を広げて不法投棄の山のごみ置き場全体を指し示す。
「さて、レンキ君。この場を見て何か思わない?」
「……ゴミだね……この前はここから廃材を使って武器を作ったりしたけど……」
紅華がおずおずとした感じで手を上げる。
「……あたしわかった……」
「お? 紅華ちゃん? 答えをどうぞ!」
「ゴミから素材を抽出する? とか?」
「正解です!」
レンキは一瞬呆けた表情をするがすぐに理解をする。
「……あ、そうか……出来るね」
「……私の協力が必要じゃない……金のために神の加護を……いいのかしら?」
瑠衣がなぜ自分もここに呼ばれたかを理解していた。
「それじゃこちらへ。まずはババっと地面の表面を固めてください! 紅華ちゃんお願い! 色々こぼれちゃいけないモノも出てくるだろうから」
「わ、わかった……瑠衣ちゃんギフトお願い……」
紅華が魔法で掘られた地面の表面を『超硬化』で固くしていく。ある程度進むと琴音の指示があった不法投棄されたゴミ、主に電化製品を穴にポイポイと手軽に投げ捨てていく。
「それでは海波君よろしく!」
「……まさかだが……うまく行くのか……」
瑠衣のギフトを受けた海波が『物質を粉にする』ギフトで電化製品を文字通り粉々にしていく。
「さ、パワーアップしたレンキ君お願い!」
レンキが『物質抽出』から進化した『物質引力操作』でイメージした物質のみを手の先に集め始める。
「わかった……すごいな……紅華ちゃん固めちゃって」
「……ほんとにすごいわね……これ、金でしょ??」
紅華が蓮輝の集めた素材を固めるとビー玉サイズの小さな金の塊になる。
「「「……」」」
「すごいっすね。それだけでウン十万円なんじゃ……」
「じゃ次はこのイメージを……」
「……パラジウム? ああ、そうか……そんなものも……レアメタルか……」
「……ゴミはレアメタルの山なのかもしかして?」
しばらく琴音の言う通りに作業を進めると、色々な素材の塊やインゴット的なモノが出来ていく。
プラスチックなどもチップ化して素材のやり取りに使われる形に形成していく……
琴音が目の前で繰り広げられる、違う意味での錬金術に若干引き始めていた。
「予想以上に順調だったわね……ちょっと恐ろしくなって来たかも」
蓮輝も若干興奮から覚めてくると、冷静に自分の過去を悔いていた。
「……錬金術師なのに……あちらの世界の事ばっかり考えすぎてた……こんな簡単な事を……」
優斗が生成されるマテリアルを見て疑問を琴音にぶつける。
「琴音の『叡智』が無いとキツイ? 素材の組成をしらないとだめだろ?」
「レンキ君のイメージ次第だから慣れたら私いらないかな……残った材質は適当に固めておいてもらえれば大丈夫だと思うし」
優斗が隣で大人しく様子をみていた魔道機械人形の「のぞみちゃん」に質問をする。
「なぁ、のぞみちゃん……これでいくらなんだ?」
「金、パラジウム、銀ナドの貴重金属もアリますノデ……最低デモ80万円相当ニナルカト予測しマス。今の相場デハモット高額ニなるカト」
「「え?」」
「ど、どこで売れば??」
「……儲け放題じゃないですかこれ?」
「……ゴミのはずが……こんな素材の塊に……まだたくさんあるよね?」
「ね、ねぇ、これって、ヤバいんじゃない? アタシらでゴミ漁りを……ゴミの廃棄業者になるの??」
「神の加護をこれに使って良いのかしら? 無くなっちゃうんじゃないの??」
「お、俺はくすねた金だけを返せれば……」
マテリアルの値段に疎い琴音以外の人間は、徐々にいけないことをしている感覚と、この世界では学生レベルの金銭感覚からみたら、余りの大金に興奮がごちゃまぜになり混乱していた。
「はいストップ!」
琴音の声に一同が押し黙って彼女の方を見る。
「これは前回派手に暴れすぎた私たちの存在がバレてしまっているので、慈善活動の一環でもあります」
一瞬にして興奮から覚めた一同は心底がっかりとした表情に変わっていく。
「え? これ売って金にできないのか?」
「そんな……」
「あ、大丈夫ですよ。しっかりと還元します。転生者の『ギフト』を使ってごみをリサイクル。しかも完全に……な~んてのもあった方が……世の中の人達と今後の交渉がしやすいでしょ?」
「……ま、まぁ……」
「確かに武力部分しか知られてないもんね……」
「ネットだとモンスターハンターくらいにしか思われてないみたいだしね……」
「ええっと、これで金策は終わり? どこで換金を……ギルドなんてないもんな……」
「はい。マテリアルの売買の伝手はありますので……あ、来ましたね」
琴音の目の先には軽トラから作業員らしき人が近づいてきていた。
彼らからはうっすらと強い魔力が感じられた。
琴音はトラックの荷台に積み上げられていく荷物を見ながらその場の皆に声をかける。
「さて、今後は協力してもらいますからね! 私たちの明るい未来のために戦いましょう!」
悟りきって遠い目をしている優斗以外の人間も諦めた感じになる。
「それって強制でしょ?」
「断れないじゃない……」
「まぁ、魔王と戦うよりははるかにましだな」
「慈善自供、兼金儲けなんて……神様もいいギフトくれたなぁ……」
「皆で協力しないと無理っしょ」
「そうだね」
「神様が協力するようにって神の力を分けて渡してくれたものだもの。当たり前じゃない」
海波は政府の人間らしき人がこちらに来て映像や写真を撮って取材をしているのに気が付く。
「平穏な生活……送れなさそうだな……」
「いいじゃない。戦いのない世界になりそうだし」
「あちらの世界のギフトをいい方向に仕えれば……平和になりそうだね」
紅華がスマホをいじりながらあることに気が付く。
「それよりも……目の前の期末考査をどう乗り切るかなんだけどね……」
「「「あ!」」」
優斗から、余裕の表情が一気に消える。
「げ……俺もやらないと……」
「俺もだ……全然勉強していなかった……」
その場が日常のなにげない笑いに包まれていった。
海波は笑いに包まれる仲間を見て、やっと戦いが本当に終わったことを実感していた。
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おしまい。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
これで海波達の物語は終わりです。
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