第98話 終わりと再会と別れ
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『爆心地』の魔王が無力化し、邪神ソベーレがいなくなったことによりより維持できなくなった時空の楔が消え、『爆心地とショッピングモールの場所が時空を超えて『あちらの世界』と入れ替わる。
ショッピングモールに避難していた転移者達は突然切り替わった世界と、どこかで見た懐かしい記憶の風景を見て一瞬の静寂の後、驚きの声と感嘆の声があがる。
「や、やったぁ!!!」
「もどってきたー--!!」
「かえったぞ!!!」
「代表たちやったんだ!!」
「うわあああー-ん!!」
転移者達は抱き合って喜び、泣き叫び、人によっては自分たちの家があった方向へと走っていた。
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羽雪優斗と早風切那は剣を構え警戒しながら『飢える魔王』の残滓をたどって近づいていた。
異界の戦士や転生者達も、魔獣の残党を狩りながら二人の後をついていった。
「これは……」
「少年……なのか?」
『飢える魔王』は弱体化……と言うより消えかかっていた。
その姿は日本人の少年の様になりぐったりとしている様に見えた。
最後の心臓を羽雪優斗が吹き飛ばしたので、まだ体内に残っていた微量の魔力の残滓に生かされている状態だった。
早風切那が前に進み出て止めを刺そうとするが迷ってしまう……
「ちっ……最後はこの姿とはな……情に訴えかけるつもりか……」
優斗が彼女の後ろから声をかける。
「セツナさん……やめてください……魔王の力は移ります……あなたが殺せば……あなたが魔王化してしまう場合がある……」
「だがっ! ……こいつは……アタシを……あたしたちの家族を殺していった……仇を討つ義務がアタシにはある……」
犬族の重戦士も同様に彼女を止める。
『やめるのだ『音速の翼アイナ』よ……『飢える魔王』は怨念の塊が進化したもの。無念を晴らさねばこの世界から浄化が出来ない。お前には負の感情が満ち溢れている』
『……くそっ!! だが……』
伏野一休がセツナの前に立ち優しく剣を握っている拳を包み込むように手を添える。
『アイナ……やめるんだ。俺たちは思い違いをしていたみたいだ』
『なに?』
早風切那は、一休の目線の先に目をやると、『飢える魔王』と戦っていた鬼人族の青年たちが続々と飛竜から降りて走り寄ってくる。
『……お、オフクロ!!』
『ほんとだ!! この魔力…………母さん?!!! 父さん!! 姉ちゃんも!!』
『族長!!!』
セツナが驚き固まっていると、二人の巨体の鬼人族が近づいてきて抱きしめながら軽々と抱え上げる。
『お前たち……なのか……生きて……』
『オフクロ達のおかげだ。里の者はみんな逃げれた!!』
『良かった!! ずーっと礼を言いたかったんだ!』
『……そうか……そうだったのか……大きくなって……』
怒りに染まり切っていた早風切那の瞳がやわらいでいった。
伏野一休と雲梯摩帆は優しい目でその光景を見ていた。
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『賢者』与謝峯琴音が動けなくなった『飢える魔王』の前まで駆け寄ってくる。
優斗と犬族の重戦士が気が付いて振り向く。
「琴音……おかえり」
「優斗……ありがとう。何とかしてくれて。『ラリィ。ありがとう』」
『ああ、色々と話したい事があるが……こちらが先だな』
「この人の心残りは……なんだろう……何でこっちの世界に?」
「さぁ……幼い人間が転生したんだろ……魔獣の体に……」
白波翔がゆっくりと歩きながら話に入ってくる。
「おそらく、帰りたかったのだろう「XXケンマクナリシホンチョウイチノハチノゴーロク……」そう唱えていた……あちらの世界で」
「……そうですか……えっとその場所は……ショッピングモールですね……」
「……ここは……割と新しかったな……今はボロボロだけど……その前は家があったんじゃない?」
「あ、そうか……住所録……ちょっと待っててくださいね。あ、わかりました……行きましょう。転移魔法を……おそらく……家族ですね……彼の。かなり前に亡くなった子ですね……」
「……それなら俺が送ろう。得意なんだ」
琴音が躊躇なく『飢える魔王』の消え去りそうな身体を抱きかかえる。
白波翔の転移魔法で、琴音と優斗が姿を消す。
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三人は『賢者』のギフトによって『飢える魔王』の前世の人間を特定し、親族が住んでいるであろう場所に転移していた。
「ここは……」
「普通の住宅地に見えるわね」
「君の送った座標だぞ?」
ふと、『飢える魔王』が何かを発見したようで手を伸ばす……
その先には初老の女性と、子供と手をつないでいる大人の女性がいた。
「……母さん……アンナ……ただい……ま……大きく……ナッテ……」
『飢える魔王』は求めるように手を伸ばした後、徐々に黒い煙となって霧散していった……
羽雪優斗はこぶしを握り締めた後、力を抜き、何とも言えない表情になる。
「どう思ったらいいんですかね……どれだけの人間を殺して……こっちの世界に……」
「ああ、気持ちはわかるが……幼すぎて理解しきれなかったのだろう……」
「……うん。そうだね……帰ろう。私たちも。皆が待ってる」
三人は幸せそうにしている『飢える魔王』の元家族だった人間を見た後、空間転移して仲間の元へと戻っていった。
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海波は勝利に喜ぶ戦士達を見守っていた。
異世界の戦士と抱擁をする転生者達を数多く見ていた。
(終わったのかな?)
「終わったのか……」
「うん……遠くで……『飢える魔王』の気配が消えるのを感じる……」
海波の横にいた瑠衣が優しい目をしながら答える。
「そうか……」
隣にいた陽花里に波音が走ってきて力強く抱きしめる。
「陽花里!!!」
「お母さん!!」
「おかえりなさい……信じていたわ」
「うん……ただいま……お母さん……その姿……バレちゃったの??」
「ええ……人助けのためにちょっとね。……それに海波は記憶を取り戻しているわ」
「ああ……なんかわかる。落ち着きすぎだもんね、別人レベルで……」
波音が陽花里の体を離し、上から下まで見て目に涙を潤ませる。
「大きくなって……」
「うん……中三だからね……って……この世界もどってきて大丈夫なのかな私……」
「え?」
「勉強……しないとだよね……」
「……そうね。あっちの世界の方が気に入った?」
「うーん。どうかな……魔法使っても咎められないのは良いんだけど……行ったり来たり出来ればいいんだけどね」
(……陽花里は全部知っていたみたいだね)
(そのようだな……)
瑠衣が海波の手を優しく握る。
「よかったね……あれ? ショウは?」
「先ほど『飢える魔王』の残骸をレヴィ達と運んでいったようだが……」
気が付くと、物凄い速度で接近してきた白波翔は陽花里と波音をまとめて抱きしめていた。
「きゃっ!!」
「ちょ、ちょっと!!」
『だ、だだいまぁ……グラン……あいだがったぁ……』
『ショウ? ちょっと痛い……落ち着いて……』
陽花里が滂沱の涙を流す翔から無理やり離れて行く。
「ちょ、ちょと私は抜ける……ふたりでやってて!」
「え、え? ちょっと……ショウ。痛い……わかったから……」
「俺、おれ……がんばったんだぁ……」
瑠衣は目の前で繰り広げられる再会劇に少し引いていた。
「……こんなショウさん見るの初めてね……」
「俺もだ……ひょうひょうとして勝気なイメージだったが……」
陽花里が二人の横に並び立ち、呆れたような複雑な表情をしていた。
「父さん、あっちだと大変だったから……皆を率いて……それでも沢山……死んじゃって……」
「……そうなのか……」
海波は周囲で色々な人の帰還、前世での知人との再会で喜びに包まれる場を満足げに眺めていた。
羽雪優斗が走り寄り、海波の手を取って懐かしい異世界での弟子達の元へと連れて行った。
懐かしい、思いがけない異世界の戦士と弟子たちとの再会に驚き、お互いの現状などを伝え喜びを分かち合っていた。
ふと、異世界の戦士の一人が上空にある魔法陣が揺らぎ始めているのに気が付く。
『おい! 門が閉まりそうだぞ!!』
『ああ! もう少し話をしてたかったのに!!』
『くそっ!! 折角の異世界を旅行したかったのに!』
『何だお前、その姿でこっちの世界で暮らすつもりか?』
豪快な異世界の戦士の笑いが起きる中、転生者達にゆかりのある者達は名残惜しそうに別れを告げ、飛竜にまたがって異界の門へと戻っていく。
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海波は閉まっていく異界の門を感慨深く見ていた。
それと彼の内面が満たされ、全ての欠片が元に戻っているのを感じ取っていた。
(いっちゃったね……)
(ああ……)
(寂しくなるね……)
(ああ、そうだな……俺たちもお別れだ)
(……何を……)
(分かっているんだろ? もう心の中で話す必要は無い……)
(うん……もう俺たちは……)
((ひとつだから……))
海波は「白浪海波」と『ゼファイトス』の魂があるべき姿に戻り、他の転生者同様「一人」になったことを自覚していた。
隣にいた瑠衣が心配そうに海波を覗き込む。
「海君? 大丈夫?」
「うん。大丈夫。神様の加護で……治ったみたい」
「? ……喋り方が……優しくなった……戻った感じね」
「そう? ゼフは……環境があれだったからあんな感じだったけど……この世界で生まれてたら俺みたいな言葉遣いだったのではないか?」
「……違うわね……混ざった……のね」
瑠衣は興味深そうな顔をして海波の瞳を見る。
見つめ合う状態になってしまった二人は気がついて意識し始めると、照れあってモジモジとしあってしまう。
「海波君!! 逃げるよ!! 自衛隊のヘリが来た!!」
「イチャイチャするのは後!!」
蓮輝と紅華が二人の手を取って走り出した。
転生者達は蜘蛛の子を散らすように『爆心地』から逃げて行った。
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