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4.ぜんざい2


「お待たせいたしました」

侍従の一人が用意できたぜんざいを持ってきた。

俺の器はすでに空になっている。


『こちらがぜんざいです。どうぞお召しあがりください』


『とても涼しそうなデザートですね』


目の前に用意されたぜんざいにアレックスは興味津々のようだ。すぐに食べようとはせずに、色々な角度からぜんざいを眺めている。そして次にスプーンを手に取り、ふわふわの氷の感触を面白そうに確かめ始めた。


『この氷の下にあるのが豆の甘煮ですね。氷と一緒に食べるんですよね』


『はい。スチュワート家の商会から輸入を開始した豆を使用しています』


『そうらしいですね。僕の国でもこの豆は食べますが、こういう風にデザートとしては調理しないので、どんな味か気になります』


『味は保証しますわ。ただ、お口に合わなければ遠慮せずに言ってください』


『お心遣いありがとうございます。では一口・・・』


アレックスがスプーンをそっとかき氷に入れる。下の豆も一緒に掬って口に運んだ。


なんだかドキドキするなぁ。

今までは俺に好意的な人たちからの評価だったから、美味しいフィルターがかかっていたかもしれないが、今回はまったくの他人からの評価だ、まずいとズバッと切られる可能性もある。いや、自信は持っているが好みの問題もあるし、さっきの言い方だと金時豆は甘味っていうよりはおかずとして食べるっぽいし・・・。ど、どうかな・・・。


いよいよアレックスが最初の一口を口へ運んだ。

瞬間、驚くように見開いた目がこちらを見た。


この反応はどっちだ?


様子を窺っていると、一口を食べ終えたアレックスがスプーンをそっと置いた。


『トウカさん、あなたは素晴らしいものを作りましたね。ぜんざいを完成させたチーム全員に拍手をお送りしたい気持ちです』


『そこまで気に入ってくださり、光栄です。どうぞ、溶けてしまう前にお召し上がりください』


『では、遠慮なく』


アレックスは相当気に入ったようで、会社員のような感想を述べたあとは再びスプーンでぜんざいを黙々と食べ始めた。時々キーンとくるようで、ちょこちょこ温かいお茶を挟みながら美味しそうに食べている。


いやー、良かった。まずいって言われたら、悲しいもんな。

でも、こんなにバクバク食べてると年相応に子供らしくてかわいいな。


そうやってアレックスが食べているのを眺めていると、向こうから彩雲さん付きの侍従であるリョウさんがやってくるのが見えた。リョウさんは彩雲さんより少し年上の美丈夫だ。彩雲さんとは小さい頃から一緒に育った幼なじみだときいたことがある。公の場では主従の関係を崩さないが、彩雲さんと二人きりのときには気楽な態度で過ごしている。というのは、とある稽古をつけてもらっていたときにリョウさんから聞いた情報だ。


「姫様、アレックス様」


「どうかしたの?」


「はい、スチュワートご夫妻とのお茶会がお開きとなりましたので、アレックス様をお迎えにあがりました」


リョウさんの言葉に頷いてから、アレックスへと声をかける。


『アレックス様、残念ですがお帰りの時間のようです』


『時が経つのは早いですね。今回はこんな美味しいスイーツに巡り会うことが出来たし、短い時間でしたがトウカさんにお会いできて良かったです』


『私もアレックス様とお会いできて光栄でした。次にお会いする時は兄の紫雲も一緒に玲瓏豊の名所を案内させてください』


『それは楽しみです、お兄様にも宜しくお伝えください』


『はい、もちろんです。では道中、お気をつけて』


『トウカさん、おもてなし頂きありがとうございました。それでは』


リョウさんが先導してアレックスが来た道を戻っていく。後ろ姿を目で追いかけながらその姿が消えるまで見送った。リョウさんは俺に一緒に付いて来いとは言わなかったので、スチュワート一家の見送りは彩雲さんと水月さんでやるんだろう。まだ療養中扱いなので、公的な場所には出て行かないほうがいいという判断なのかな。

なんにせよ、金時豆の輸入元と顔合わせができて良かった。俺の目指すぜんざいには必要不可欠なアイテムの1つだからこれからも良好関係を築いていきたい。

アレックスが座っていた場所にある空の器が目に入った。近しい人達以外から高評価をもらえたのは大きい。アレックスのような西洋の人達にも受けるのであれば、港に出店しても良さそうだ。

企画を立てて展開していくのは会社員時代以来だが、やっぱりワクワクする。こんな子供に一任してもらえるかどうかは置いといて、今後のことを考えると楽しみで思わずニヤっと口角が上がった。


「姫様、何だか嬉しそうですね」


「セツ、自分が好きなものを「好き」と言ってもらえるのは嬉しいことね」


「そうですね。私は姫様が嬉しそうにしていることが嬉しいです」


「私もセツが嬉しければ嬉しいわ」


「ありがとうございます」


スチュワート家との取引は金時豆以外にも青河国にはない香辛料や果物などの食品類、香水や絵画などの嗜好品の輸入もしている。取引は最近始まったばかりではあるが、彩雲さんは誠実な取引相手だと評価していた。アレックスはこちらの言葉を話せないようだが、ご両親はすでに青河国のある大陸共通の言語を習得済みとのことで、それもまた彩雲さんの評価を高める要素の1つとなっているようだ。もちろん、彩雲さんもあちらの言語を習得済みだ。彩雲さんいわく、相手の言葉を知ることが信頼を築く第一歩だとのこと。会社員時代、外国人と幾度か仕事をしてきた俺としても納得の言葉である。


「さてと、私もそろそろ移動しないといけないわね」


「次は書の稽古からです」


「では参りましょう」


「はい」


両腕にひっかけているひらひらの薄絹を綺麗に整えてから席を立つ。いい加減に着慣れてきた服だが、今でもどこかに引っかけないか心配になるほどの薄さだ。けれどそれを顔に出してはいけない。あくまで身体の一部のように自然かつ美しく着こなさないといけない。礼儀作法の先生が鬼のような人だったので、扱い方を必死に叩き込んだおかげで、なんとか様になっている。その節はありがとう、先生。俺はなんとかやっています。


「あとでお父様とお母様からスチュワート家とどんなお話をされたのか聞かなくてはね」


ひらひらを靡かせて今後のぜんざい事業を考えながら、俺は東屋を後にした。



---



港への馬車の中、アレックス・スチュワートは昼に出会った「ぜんざい」と桃華という玉家の第二子について、両親に話した。


「そうか、そうか、玉家のお姫様に会って「ぜんざい」とやらをご馳走になっていたんだな」


「?彼女はプリンセスなの?王家の人ってこと?」


「違うよ、それほど愛されているってことさ」


「とても可愛らしい素敵なお嬢さんってきいたけど、あなたはどう思ったのアレク?」


「素敵だったよ、スマートで所作も洗練されていて、とても年下には見えなかった」


「あらまあ、あなたが女の子を褒めるなんて。初恋かしらね」


「母さん、気が早すぎるよ。でも、あの「ぜんざい」を作った人だ。今後も交流を深めて、彼女のことをもっと知りたいな」


両親、主に母親からの野次馬追求を終わらすために、アレックスは目を閉じて寝たふりを決め込むことにした。瞼に浮かぶのはキラキラした器に盛られた美味しそうなぜんざいとその向こうに居る可憐な少女。艶々の黒髪に雪のような白い肌、水分を含んだ黒い瞳はこぼれ落ちそうな程に大きく、桃色の唇から紡がれる声は透き通るような美しい声だった。けれど少女の風貌とは不釣り合いな程に落ち着いた雰囲気を持った、今まで会ってきたどんな子供とも違う、不思議な魅力を持った女の子。


また会うときが待ち遠しいな。


今度会うときは桃華のことを考えてお土産を用意しよう、そしてぜんざいをまたご馳走してもらおう。あれがいいか、これがいいか、あれこれ考えながら、アレックスは港への道中を馬車に揺られて過ごしたのだった。

お久しぶりです。ここまでお読みくださりありがとうございます。少しでも楽しんでいただければ幸いです。

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