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序章2

衝撃の発言を受けて、俺はどうやら意識を失っていたようだ。

目を覚ますと、先程まで居た部屋ではなく、真っ白な空間が限りなく広がる場所に立っていた。

足元に視線を落とせば、見慣れた革靴が目に入った。そして見慣れたスーツのスラックスも。視線の高さや着ているものから察するに、今の俺は普通のサラリーマンとして日本で生きていた、俺の知っている『俺』の姿だろう。

何かないかと周囲を見渡してみるが人も建物も植物も何もない。



「   」



ふと後ろから声が聞こえたような気がして振り向いてみるが、誰も居ない。



それにしてもさっきのあの状態はいったい何だったのか。今もそうだがやけにリアルな夢だ。自分が幼女になっているなんて、今まで一度も夢に見たことはないし、よく願望が夢に出るときいた事はあるが、女性になりたいと思ったこともない。

まあ、でも所詮は夢であることだし、目覚めればいつもの生活に戻るわけで、もしかするとこの夢もさっぱり忘れているかもれない。

こんなにリアルな質感の夢ならば、大好きなカニとエビの食べ放題のやつとかが良かったが、まあしょうが・・・





キキーーーーーーーーッッ



突然のブレーキ音と、大きなトラック。フロントライトの強い光。

大きなトラックが目の前に突っ込んでくる。





急に頭に流れ込んできたその映像に、頭を抱えて俺はその場に蹲った。心臓がドクドクと脈打つのを感じる。身体じゅう冷や汗もかいているようだ。不安と恐怖心から身体が危険だと訴えている、このままでは死んでしまうと・・・。


どうして


そんな


俺は


俺が


トラックに轢かれた


そうだ、あのとき。





――――――


最近は会社が繁忙期を迎えていることもあって、毎日残業続きで睡眠時間がいつもの半分しか取れていない。そんな訳でずっと足元はふらつくし、視界は霞むし、日中はコーヒーと栄養ドリンクでなんとか身体を動かしている状態だ。

今日も退社をしたのは定時から数時間も過ぎた後だった。ものすごく忙しい中ではあるが、それも来週いっぱいで終わると思えば少しばかり疲れも取れる気がする。なにせ今日は華の金曜日だ。さすがに休日出勤まで命じられたら、繁忙期開けに有給の連続消化でもくらわせてやろうかと思ったが、無事休日出勤は回避できたのでその攻撃はやめておくことにする。

だるい身体を引きずりながら駅へと向かう。金曜日のこの時間帯にしては、人が少ないなぁと思いながら信号待ちをしていると、いつの間にか歩行者用の信号機が青になっているのに気づく。聞き慣れた機械音にも気づかないなんて、やばすぎる。家に帰ったら速攻で風呂に入って軽く食べたらすぐに寝よう。8時間ぐらいしっかり寝よう。

一人こころの中で決意して早足で横断歩道を渡りだした俺だったが、ちょっと前を歩いていた女性が急に横断歩道の真ん中辺りでうずくまったのが見えた。

そんな女性の様子に周りはざわつきはしたが、声をかける者は誰一人としておらず、皆一様に忙しそうに通り過ぎていく。お節介ってキャラでもないが、このまま通り過ぎて何か起こっても怖いので、

「大丈夫ですか?」

なるべく優しげに声をかけてみる。うずくまっていた女性はすぐに顔をあげて俺のことをじっと見た。長目の前髪と反射している眼鏡のせいで表情はうかがえない。

「はい、大丈夫です。少し足がもつれちゃって、すみません」

割とハキハキとした口調でそう答えた彼女に、体調が悪いわけではないことを知る。そのまま立ち上がる彼女に手を貸して引き上げた。

「ありがとうございます、助かりました」

「いえいえ、ではお気をつけて」

彼女のお礼に俺も一言返して、また歩き出す。

そのときだった。


トラックがこちらに向かって走ってくるのに気づいたのは。


なぜかはわからない。

勝手に足が動いて、

勝手に腕が前に伸びて、

勝手に前の女性を突き飛ばして、



俺はトラックに跳ねられた。



消えかけていく意識の中、弟の声が聞こえてくた。

小さい頃から言われているやつ。

「お節介ってキャラでもないのに、兄さんはいつもそうだよね」



そうだな・・・

なんでだろう

俺にもわからないよ



走馬灯ってこんな感じなのか。

周りの景色がゆっくり流れているように感じる。

煌々と光るライトに照らされながら俺は目を閉じた。


ここまでご覧くださりありがとうございます。

もう少し序章が続きます。

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