19.王子と王子とお姫様
玲瓏豊の美しい海が一望できると話題の「眺望亭」。玲瓏学院から少し離れたそこは日本でいう喫茶店のような場所だ。学院前で先に待っていたカイを連れて馬車で眺望亭に移動した俺とカイは水平線がどこまでも続く海を横目に、注文した軽食をつまみながら和やかな会話を楽しんでいた。この放課後デートももう四回目になる。最初の内は若干の抵抗感があったが、好きな食べ物や嫌いな食べ物が似ているということで分かり合うことが出来た。俺にとって食の好みはめちゃくちゃ大切なので、これが合致しないと正直付き合えない。というのは極端な話だが、食の好みが合うというのは俺にとっては最大級の好感度上昇につながるものなので、今では友人関係という感じで構えることなく過ごすことができている。
もちっとした触感がプラスされたクレープ生地みたいなやつに、砂糖漬けの苺がさいころ状にカットされて添えられたあったかいお菓子を食べ終えて今は茉莉花茶で一息ついているところだ。ここのお店のメニューはどれも美味しいので家族全員で来たり、紫雲と来たりとお気に入りの店の一つでもある。
「いかがでしたか?」
「とても美味しかったです。桃華様がよく訪れるというのも納得の味ですね」
「お気に召して光栄です。機会があればぜひ他の料理もお試しください」
「はい。ところで、桃華様は幼少の頃はお身体が弱かったとお話くださいましたね、今はかなり回復されて学院にも通うことができて嬉しいと」
「ええ。まだ本格的ではありませんが、お医者様の許す範囲で護身術の教えを受けています。実は剣術にも興味があるのですよ」
「そうですか。実は玲瓏豊を案内していただいているお礼をしたいと考えていたのですが、僕は剣術が得意でして。もし良ければ剣舞を披露させてください」
「素晴らしいですね、ぜひ拝見させてください」
カイの言葉に俺のテンションが上がる。昔から忍者と侍が好きでよく時代劇をみてきた俺は、ゲームのキャラ選択でも刀持ちの侍とか忍者キャラや剣持ちの騎士キャラなどを選びがちだった。ここに来てからというもの、紫雲はばりばりに剣の稽古をしているのに俺は・・・と思ったことは数えきれない。桃華のイメージを崩さないように(体調を考慮してということももちろんあったが)と頑張ってきたが、最近は色々打ち明けたこともあって、タイミングを見計らって剣を持ってみたいと伝えようと画策中である。
「では玉家の皆さんの前で披露するのはいかがでしょう」
「家族の前でということですか?」
「はい。玉家の皆さんの都合がよいときにでも」
「ないですね、ありえません」
後ろから聞こえる馴染みのある声は振り返らなくてもわかる。
「兄様、まだ学院のはずでしょう。まさか・・・抜け出てきたんですか」
「違うよ桃華、今日は早く終わったんだ」
「紫雲様、それは嘘ですね。今日は日程に変更などなかったはず、通常通り行われているはずですよ」
「カイ様が帰られてから変更があったんです」
「民の模範となるべき次期当主がそのような態度でよろしいんですか」
「問題ありませんよ。それより恋焦がれて留学に来られる隣国の貴人のほうがよっぽどだと思いますけどね」
俺の背後と前方で舌戦が繰り広げられる。何が気に入らないのか紫雲はカイと会うといっつもこうなのだ。妹馬鹿だからなんだろうけど、相手を深く知ろうともせず攻撃するのは良くないことだと言っているのだが聞き耳を持ってくれず。とうとう学院まで勝手に早退までとなるとジョウが黙っていないはずなんだけど?あれ?なんで店の入り口に立ってんの?
「セツ」
横に控えていたセツが素早くジョウの元へ行き、ほんの少しして戻ってきた。俺の背後に居る紫雲と目の前に座るカイは相変わらず皮肉の応酬を繰り広げている。
「紫雲様にどうしてもとお願いされて数刻だけ抜け出てきたそうです」
「そんなことで?ジョウなら許さないと思ったけど何か事情があるの?」
「学院首席の座を卒業まで維持すると宣言されたようです」
「・・・言いそう」
玲瓏学院は各学年の首席だけを終業式の日に発表する。玲瓏学院の首席になるためにはあらゆる分野で特別優秀な成績を修めねばならない。実力主義のため家柄などは関係なく、過去には庶民出で首席を取った者も居る。学院で学ぶ者達は元から優秀な者が多いのでその中で首席を維持し続けるのはとても大変なことなのだ。それを交換条件にしたとなると紫雲も相当覚悟を決めているらしい。
(覚悟の使いかた違くない?)
と思っていると入口のジョウが大股で近づいてくる。数歩の距離を一気に詰めると紫雲の後ろへと音もなく忍び寄った。さすがの紫雲も背後に気付いていないのか前方のカイに美形が台無しにしながらガンを飛ばしつづけている。カイはジョウの存在に気付いているっぽいが何も言わないことにしたようだ。
「若様、お時間です」
「うわっ」
本当にびっくりしたようで紫雲が後ろで驚きの声を上げた。
「まだ時間はあるだろう」
「ございません。約束は果たしていただきますよ」
「待て、ジョウ。待つんだ」
「失礼します」
見慣れた光景が展開していく中、紫雲がいつも通りジョウに引っ張られて店の外へと消えていく。カイは貴公子然で優雅に手を振って紫雲を見送っていた。さすがに公共の場で「桃華―っ」と泣き叫ぶことはほぼなくなったが、それでも出入り口を出ていく間際まで苦悶の表情でこちらを見ていた紫雲を俺は忘れないだろう。・・・いろんな意味で。
「桃華様、紫雲様も消え・・・いえ、戻られたことですし、先ほどの剣舞の・・・」
「久しぶりだね、トウカ」
金髪碧眼の絵本から飛び出てきたような王子様ルック。あまりの王子様感にいまだに鮮明に残っている昔の記憶が一気に溢れかえる。オシャレなくせ毛はそのままに海外の俳優みたいに格好よくなったこの人物は・・・
「アレックス様?」
「こんにちは」
屋敷の人以外に初めて「ぜんざい」を振舞った人物。
モデルのようにかっこよく成長したアレックス・スチュワートだった。
予定期日に間に合わずすいません。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
ここまでお読みくださりありがとうございました。




