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15.年明けのささやかで大きな幸せ(小話)

年が明けて、新年が始まる。

日本と同じく四季のある青河国。

年明けの季節は日本と同じ冬の真っただ中で迎える。

外はしんしんと雪が降り積もり、辺り一面柔らかな雪で真っ白に染まっている。

「初詣」という慣れ親しんだ日本文化は、ここ青河国にもあり、朝も早い内から身支度を整えて家族全員で玲瓏豊一大きな神社へと初詣に行ってきた。玲瓏豊には他にも小さな神社があり、玲瓏豊の民たちの多くは自身の家から近い場所へ初詣に行っている。どこに行こうかは基本的に自由で、義務ではないので少数ではあるが初詣に行かない派もいる。

紫雲と俺、両親に別れて馬車に乗った。初詣を終えて両親は青河国を統べる皇帝陛下に新年の挨拶と皇帝陛下からのありがたいお言葉を頂戴しに行くという。昼過ぎには青河城の城門前にて国民に向けてご馳走やお酒などが振舞われるとあって、年明けのこの日は城下町近辺に大勢の人が集まって新年が明けためでたい雰囲気をさらに盛り上げているという。青河城へ向かった両親と別れ俺と紫雲は乗り込んだ馬車にて屋敷への帰路に着いていた。


「桃華、身体は冷えていないかい?」


「大丈夫です」


「兄様のこの外套も羽織るといいよ」


「・・・私は大丈夫です。兄様も身体を冷やさないようにしてください」


「ああ、桃華・・・自分のことよりも兄様のことを心配するなんて!なんて心優しい・・・!」


「・・・・・・」


屋敷へと帰る馬車の中。妹馬鹿の紫雲と二人きりになればこうなることはわかりきっていたことなのだが、あいかわらず妹への熱量がすごい。対面となるように座席の部分は二つあり、四人乗りの馬車なのに、当然のように俺の横に座りあれやこれやと世話を焼いてくる。そろそろうんざり度合いが俺の限界を超えようかというとき、紫雲が馬車の窓から外に居る紫雲付き侍従のジョウに声をかけてなにやら受け取った。


(この匂いは!)


「桃華、コレどうだい?さっき神社の出店でこっそり買っておいたんだ」


香ばしい炭と甘い醤油の匂い、艶やかなタレ、その全てを纏った・・・


「焼き鳥ではないですか!」


自分でもわかった。俺の瞳は今輝いている。

テンションが一気に上がった俺の様子を見て、紫雲が誇らしげに語り始める。


「兄様はいつも桃華を見守っているからね。食事のときに何を好んで食べているか、いつも確認しているから、多分この焼き鳥も好きだろうと思ってね」


「ありがとうございます」


昔から照り焼き味が大好きで、ここに来てからも照り焼き味のおかずが出れば、一応周囲を警戒しながら自分の取り皿に多目に取り分けていた。ばれないようにしていたが、紫雲にはばっちり見抜かれていたらしい。俺が焼き鳥を好きなことを知ってくれていたのは嬉しいが、理由がいつも確認しているってほんのちょっと気持ち悪いな。そういえば食事中、好きなおかずが出てきたときに、やたらと紫雲と目が合うなぁと思っていたが、まさかそういうことだったとは・・・。まあ、焼き鳥が手に入るならばこのぐらいの気持ち悪さはなんともないけども。

紫雲から焼き鳥の入った竹の皮の容器を受け取り、まだ温かい焼き鳥をほおばる。

おいしそうな匂いはもちろん、口に入れた瞬間に照り焼きのタレが口中に広がり、焦げた香ばしい香りと炭の香りがふわっと鼻孔をくすぐる。それらに幸せを感じて噛み締めれば、タレが十分に染み込んだ鶏肉が適度な弾力をもって、その旨味を俺の味覚に全力で伝えてきた。最高すぎる。もちろん屋敷での食事はいつも本当に美味しく、大変満足しておりますですが、出店の食べ物を無性に食べたいと本能が訴えかけてくるときがある。子供の時に日本で初詣や祭りに出かけたときなどは、射的や金魚すくいなどの遊びよりも出店の食べ物にお金を使っていたぐらい小さな頃から出店の食べ物には目がなかった。今川焼やりんご飴にチョコバナナにふわっふわの綿あめ、そして焼きそばや焼き鳥に焼きトウモロコシ。思い出せばきりがないが、とにかく出店の食べ物が大好きだと俺は言いたい。

味わうように食べ進めていたが、気付けば容器の中には焼き鳥が一本しか残っていなかった。慌てて隣の紫雲を見た。ニコニコ顔の紫雲と目が合う。


「兄様、召し上がります?」


「兄様はいいよ。桃華が食べなさい」


「でも一つも食べてないでしょう、最後の一本くらい・・・」


「本当にいいんだ。兄様はね、桃華がおいしそうに食べているのを見ているだけで満足なんだ」


すごく幸せそうな顔で言うもんだから、感謝の印として軽いお辞儀をして最後の一本を大切に味わった。ものすごく美味しかったから、紫雲にも食べてほしかったではあるが、本人がああいうので仕方なかろう。


「兄様ありがとうございました。今年はとても良い年明けとなりました。今までで一番です」


「桃華にそう言ってもらえるだけで、ジョウに並ばせた甲斐があったよ。なんせあの“鳥ノ屋”のだからね」


(鳥ノ屋のか!だったら凄い行列だったろうな。後でジョウにお礼言っとこう)


容器の底の“鳥ノ屋”の焼き印。もしやと思っていたがやっぱり、あの“鳥ノ屋”だった。“鳥ノ屋”はここ玲瓏豊で一番の鶏料理専門店だ。唐揚げや卵でとじた親子丼、蒸してしっとりとした鶏肉の料理、そしてこの焼き鳥など鶏肉を使った料理を提供している。老若男女に好かれ週末には行列ができるほど賑わっている店だが、そんな人気店の出店となれば相当に長い列だったろう。思えばジョウの姿を途中から見かけなかったが、紫雲の言葉をきいて腑に落ちた。


「兄様、焼き鳥を食べたら甘いものが食べたくなりました。あの角の店の大福を屋敷のみんなに買って帰りましょう」


(今日のお礼も込めて、ジョウの分は多目に買って渡そう。セツにもめちゃお世話になっているし、セツにも多めに渡そう)


屋敷のみんなに「昨年はお世話になりました」と「今年もよろしくお願いします」の意味を込めての大福だが、紫雲に付き合わされたジョウに一刻も早くお礼の品を渡したいという理由もある。あそこの店の大福は何度か食べたことがあるがめちゃくちゃおいしい。俺が玲瓏豊で手土産として持って来てほしいランキングを作るなら、TOP10には食い込んでくるほどのお気に入りの店だ。

そんな少し打算的な考えも含めの提案だったが、妹馬鹿の紫雲からするとそれはそれは素晴らしい善行のようで。


「なんて心優しい素晴らしい考えだ!自分だけではなく屋敷の使用人たちのことまで考えるとは。美しいだけではなく慈悲深くもあるなんて。桃華は玲瓏豊、いや、国の宝だ」


瞳の中に光が集まったようにキラキラとした目線で俺を見ると興奮気味に一息で身振り手振りを加えながら話した。まるで芝居を演じているかのような動きなのだが、これが紫雲の対妹のデフォルト行動なので今さら何とも思わないのが俺に時の流れを感じさせた。


「兄様、馬車で立ち上がるのはおやめください」


止まらない紫雲の妹賛歌をBGMに馬車は目当ての店へ真白の雪道をゆっくりと進んで行く。


新年明けましておめでとうございます。

今回の小話では前回のお話で主人公が自分が本物の桃華ではないと明かして、それでも優しく受け入れられたことをきっかけに主人公の中で家族との壁がほぼなくなった様子をちょこっと描いています。※ちょっとだけ呼び方をかえています。「お兄様」→「兄様」などです。

少しでもお話を楽しんでいただけたら幸いです。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

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