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11.酸っぱくて甘い(小話)

「翠国の第二王子が来ています」


紫雲の元にその報告が届いたのは甘味時にさしかかろうとした時だった。

白紙にはなったが他国の要人から桃華に婚約の打診があったのはつい最近の話だ。シンとレンの話からその要人は青河国と友好関係にある翠国の第二王子であることは容易に想像がついた。翠国には王子が三人、姫君が一人。一番上の王子は既に時期君主と公布がされていて年齢は二十歳、第二王子は紫雲より一つ上の十四歳、第三王子は桃華と同じ十歳だったはずだ。二人が見た年格好に該当するのは第二王子しかいないからだ。

確かに桃華のぜんざいは最高に美味だが、婚約の決め手にぜんざいを選ぶ男などと縁を結ばせる訳にはいかない。それに、他国の王子に嫁入りとなれば、玲瓏豊から離れることができない紫雲とは気軽に会うことも出来なくなる。そんなことになったら紫雲は生きていけない。本能が訴えている。桃華には幸せな結婚をしてほしいが、別にしなくても全く問題ない。どちらにしろ玉家で何不自由なく生涯を過ごしてほしいだけなのだから。


「ジョウ、桃華はあの庭園に居るのか」


「はい。セツを連れて桃紫華を見に行っているはずです」


「セツと一緒なら問題ないか、シンとレンは護衛につけているか」


「庭園へ先回りするように指示を出しております。今は屋根上で待機しているかと」


「よくやった。まったく折衝部の役人共め、急に招待状を寄越せといってきたのは第二王子と桃華を会わせるためだったんだな。なんて小癪な奴らなんだ。王子の顔を知っている二人を見回りに出していて良かった。にしても桃華と話したこともないくせに婚約だなんてふざけた奴め。一度そのツラを拝んでみたいと思ってはいたが、こんなに早くその機会が来るとはな」


「若様、次にそのような乱暴な言葉遣いをされましたら、武術の稽古時間を三倍にします。

宜しいですね」


「・・・わかった、改める」


桃華に関することになると簡単に理性の箍が外れてしまう紫雲にとって、ジョウの存在は非常に心強いものだ。道を踏み外しそうになったときに正しい道へと戻してくれる。あまり口には出さないが紫雲はジョウのことも大好きだ。



庭園へ到着するとやはりそこには翠国の第二王子が桃華と会話しているのが見えた。走ってきた勢いのままで間に滑り込んで、目の前の男にガンを飛ばしてやる。いかにも賢そうな見た目の優男だ。セツに事情をきいて何もなかったことを確認してから、色々と言いたいことがあるのと桃華から引き離す為に桃紫華の下へ連れて行く。俺と対峙した瞬間に桃華と話していたときの優しげな雰囲気が鳴りを潜めた。表面上はとても人当たりの良い笑顔を浮かべたままだが、目は笑っていない。


「紫雲様は私の正体を知っているようだ」


「翠国の第二王子でしょう」


「ご名答。よく私が来ているのがわかりましたね」


「家に虫が入ってきたらそれがどんなに小さくても気付きますでしょう。それと同じです」


「なかなか面白い方だ」


「僕は面白くありません。あなたの何もかもがね」


「桃華様への婚約を持ちかけた件で不興を買ってしまったのですね。どうしたら挽回できるでしょうか」


「今すぐ国にお帰りになればほんの少し見直すことができます。そして二度と玉家の敷居を跨がなければ完璧です」


「これはまあ、手厳しい」


「では門までお送り致します」


紫雲は言いたいことだけ言うとさっさと桃華の元へと歩き出した。横に控えていたジョウがそーっと近付いてきた。


「若様、言葉遣い」


「丁寧だっただろ?」


「誠に」


桃華を守るためなら相手が誰であろうと俺は戦う。ジョウはいつだって俺に付いてきてくれるってわかっているから、敵が大きくても挑んでいける。


「相手は引くでしょうか」


「あいつはそう簡単に引き下がるような奴じゃない。警戒は怠らないようにしよう」


「御意」




ていう感じで桃華の元へ戻ったのに、第二王子は結局身分を明かしてしまい、桃華はその事実に動揺して体調を崩して一日寝込んでしまった。俺はといえば事の顛末をきいた両親から大目玉をくらい長い長い説教を受けた上に、桃華のお見舞いにもいけないという苦渋の一日を過ごす羽目になった。厄介者が現れなければ玉風会のあとに桃華と新作の甘味作りを予定していたのに。あの野郎、許すまじ。




桃華の兄として絶対に婚約なんて、認めてやらない。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

桃華の話とは違う世界観の作品を1作品アップしておりますので良ければご覧下さい。急に書きたくなったので書いてしまいました。こちらもよろしくお願い致します。

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