歴史
どこの家にも歴史がある
柱の傷は背比べした跡
飾り棚には思い出の数々
我が家には、定番の壁の穴
息子がいる家は、壁に穴が開いてるのはセオリー
私自身は姉妹だけで育ったので、実家の壁に穴は開いていなかった
写真立てには、あの頃の家族
人の姿は変わり続けるから
時を止めて切り取られた記憶
当時は、こんなに穏やかな毎日が来るとは思っていなかった
出産して五日後に、子どもの障害を告げられた
母子同室で静か過ぎる赤ちゃんに疑問はあった
聴力検査にも引っかかっていた(後に聴力は問題ないことが判明)
三人目の子は今までとは違っていた
DNA検査の結果が出るまでの1ヶ月
たいていの障害のある子の親がそうであるように、無知な自分の考えではわからないから
あれこれネットを検索した
合致する特徴
身に覚えありの体験
同輩たちの残した手懸かりを必死にたぐり寄せ、答えを探す
そんなわけない
いや、そうかもしれない
考えても仕方ない
もし、そうだとしたら?
同じように模索した親たちの記録を血眼になって読みながら、心の奥で打ち消されていく希望
諦めにも似た気持ちで眠れない日々を過ごした
はっきりするまでは、周囲には言えない
嬉しいはずの報告は嘘の塗り重ねだった
結果が出てくれた方が、すっきりした
診断が決まって、私は泣いた
母親であれば、健康に生んであげられなかったことを悲しむのは当然の思い
幸せな人生を与えられないかもしれないと、涙が流れた
答えを聞いた半信半疑の帰り道
腕の中の命を見つめながら思った
だから何?
例え五体満足に生まれても、ニートや犯罪者になる人間だっている
事故に遭ったり、人生の途中で不運に見舞われることなんてザラだ
どう生まれようと、確実に幸せになれるかはわからない
あの老いた医者は、私たち親子に向かって戦力外通告を告げるように話したけれど
まだ何もわからない
障害について無知であるが故に、幸か不幸か私は無垢だった
目の前の事実の受け取り方が決められなかった
周囲の反応は様々だった
私の代わりに泣いてくれた人
気を遣って距離を置く人
大丈夫だよと他人事だから言う人
運命に翻弄された人間が持つ疑問
なぜ私がこんな目に?
真面目にバカ正直に生きてきたのに
いったい自分が何をしたっていうのか?
なぜ神様はこんなことをするのか
どうして私の子を選んだのか
答の出ない思いばかりだった
誰に聞くこともできない、答えられる人間なんていなかった
当時の私にわかったのは
この子は特別かもしれないけれど
私のかわいい子どもであることは、兄や姉と何も変わらない
小さな愛しい命は、ただ輝いていた
それだけは、間違いなかった
十年以上の歳月を経て
ようやく振り返ることができる思い
私と同じ立場の親である人々はどう思うだろうか
人の思いは皆違うので、ここに書いた気持ちは私個人のもの
共感も批判も自由ですが、それぞれの心の中に留めておいて下さい
これは、私だけの思いです
当時の私との対話です
めっちゃくちゃ頑張ったな、私
尊敬に値する思いだよ、私
すごいな、私
最高だよ、本当に