その関係、恋と呼ぶにはあまりにも意地っ張りで危険
「大変な目にあった…」
あれからジョッフィーは全然機嫌を直してくれず登校時間がギリギリになってしまいとても焦った。
「めずらしいな〜。優等生ルイーズがまさか遅刻か!?って」アイザックが茶化すように言う。
「まさか、馬が拗ねるとは思ってなかったんだよ」
医務室の前を通りかかった時だった。
「ふざけないでちょうだい!!わたくし、そんな事をする為にここに来た訳じゃ無いの。学校の評判に泥を塗らないでいただきたいわ!!!!」
医務室から聞こえる強気な女子の怒声。管理棟からの転移魔法の気配。医療教育管理教師の宥めるような声。一緒にいたアイザックは少し面白がった、しかしゲンナリとした表情で呟いた。
「うわぁ、早速白衣の洗礼受けてる奴がいる…」
今日の朝礼で担任が言ったアレだ。
ーーー今日から癒術専門校戦闘部隊科の学生が研修に来る。教師は管理棟から遠隔で様子を見ているが同様の敬意を払うように。
「白衣の洗礼?」
「先輩から聞いた話なんだが、まだ12、13才のの俺らって強い体格が出来上がってないだろ?例外はいるけど。ただ男とは強いものと聴かされて英雄を夢見て育った奴ばかり」
「うん。」
「で、実家の権力をかさにこの時期に来た可愛い癒術師の卵ちゃんを侮辱する。戦闘部隊の研修生は男がほとんどだからラッキーとでも思っているんだろう。もちろん、彼女達が学んでいるものが癒術だけだと思って。」
「それで?」
アイザックはここからがヤバいんだよと続ける。
「まず前提として癒術戦闘部隊志願者は戦闘しか学ばない。少しでも振り落とされたら他の将来に進むように言われる。その上どの程度の怪我まで自分が対処出来るのか実践経験を積んでこの学校に研修に来る。」
私は初めて自分より努力しているかもしれない存在を知った気がした。怖すぎる。アイザックも怖いようで顔色が悪いまま続ける。
「1、2学年の頃は研修の女の子の方がほとんど力が強いんだ。すぐに無力化される。しかも2人体制。即座に監督責任者を呼ばれる。呼んでも来ない事があった場合、この国の癒術部門最強の権力者に訴える権利を得る。そして、女性特有の追い詰めて行くようなお説教。面倒くさい反省文。力で勝てるようになった3年生になる頃には馬鹿な事はしなくなる。」
「なんと言うかちゃんとしているんだね…」
「おまえの家の取り組みだろ?知っておけよ」
アイザックが何でも知ってるだけだよと返す。こちらの会話はひと段落したが、あちらの言い合いは未だに白熱していた。教師は上手く宥められずオロオロしている。パートナーの女の子も未だに声をかけている様子はない。
少し助けに行こうか。
「ルイーズ、修羅場だぞ!?」
ーーー
「失礼します。……ライズ伯爵令嬢?」
「あらルイーズ様。お久しぶりですわ」
振り向いた少女はとても良く見知った者だった。当然、組み伏せられている候補生も。
「とりあえず、ずっとそいつを押さえつけるのは大変でしょう。代わりますよ、アイザックが。」
「「はあ!?!?!?」」
それから2人から聞き出した事の顛末についてはアイザックと2人で頭を抱える。お互いどう考えているかが鮮明に分かった。
ーーーなんだ、只の痴話喧嘩じゃないか。
その一言に尽きる。
押さえつけられていた候補生はセン殿だった。話している時の鋭い視線に少し申し訳なくなった。
ロゼッタ嬢の「わたくしが何しようと勝手じゃない(騎士になるって言ったあなたを支えたい)」VSセン殿の「だからって男所帯にくるんじゃない(心配だからそんな事考えないでくれ)」の攻防戦は要はそう言う事なんだろうと想像出来ない方がおかしかった。
「一気に疲れたな」
「ああ、もう二度とごめんだ。あとルイーズ、令嬢の唇に人差し指かざして黙らせるの二度とするなよ。生きた心地がしなかった。」
「あれは姉上が私によくやってたから有効だと思って…」
「はあ!?おまえそんな事されてたの。ちくしょうなんて羨ましい。絶対やるなよ、その内背後に気をつける生活する事になるからな」
どうやら異性と認識される人にはしない方がいいようだ。確かに異性への接触は非常時以外に忌避されている。だからこそ、そういった事に憧れを抱くのだろう。
「……あれほど言い合う恋ってどんなものなのだろうな」
「ルイーズがそれを言うと洒落にならないからやめてくれよ!?」
「わかってるよ、憧れとかじゃ無くて純粋な疑問だから」
あの日の約束を叶えるために頭の片隅から排除し続けた事。今の王家や貴族間の状態を見ても私には縁のないものだから。くだらない事に心を惑わされる訳にはいかないから。私にとって異性は同じ仕事をする存在で、自分よりも条件の整ったライバルと言った方が近いだろう。




