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ヴェスパラスト大陸記  作者: 揚惇命
三章 仲間集めの旅

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名もなき暴食の四天王

 目の前の断崖絶壁を一つずつ手をかけ足をかけ、時に滑らせながらなんとか登り切った頃には、手も足も豆だらけになっていた。途中、何度も挫けそうになり落ちそうになるたびにリリスやミューラやマモーネが助けようとするがその度にあの鳥風情が助けたら俺を崖から突き落とすと脅していた。全く、やっとそのふてぶてしい顔を見てやれるぜ。

「カイル様、よくやり遂げましたね。お久しぶりでございます。といっても貴方様は覚えていらっしゃらないかもしれませんが」

「その顔は、あの鷹?」

「もしかして記憶が?私のことがわかるのですか?」

「うっ頭が」

「アンタが新しい四天王?私のダーリンに随分なことしてくれるじゃない」

「坊やを虐めてくれたわね。魔王様から直々に気に入られてるからってこんなの許されないわよ」

「私の情報網でもわからなかった四天王の正体がまさか怪鳥と名高きフレースヴェルグだったなんて」

「少し黙って居てもらえますか子猫ちゃんたち」

「私が子猫だと!」

「雌豚の方が良かったですか?」

「この鳥が」

「冗談ですよ。カイル様を守ってくださり感謝しております。カイル様の奥方様たち」

「奥方様だなんて、エヘヘ」

「そんなこと言われたことないから、ヤバいかも」

「私がカイル様の妻。なんて良い響き」

「(チョロいチョロすぎる〜って昔の私なら言ってましたわね。でもカイル様を守ってくださり感謝しているのは本心です)」

「大丈夫だ。お前は俺のことをよく知っているみたいだな。何故だ?」

「やはり記憶喪失とお聞きしたのは本当のようですね。私はイーリス様に救われ、カイル様を守護するように頼まれ、魔物でありながら鷹のフリをして、カイル様の鷹となりました。今から20年前のことです」

「あの映像で見たのはその時のことか。じいちゃん。いや、映像ではランダスと呼んでいた」

「ランダス叔父様、お懐かしい響きです。カイル様よりも私の扱いがお上手でしたね」

「俺はあの日が初めてだったんだ。下手で当たり前だ。だがじいちゃんのことを語れる相手はもう居ないと思っていた」

「ランダス様はカイル様を本当の孫のように慈しんでおられましたから」

「あぁ、俺が今日まで生きてこられたのもじいちゃんのおかげだ。そんなじいちゃんを死に追いやったのも俺だが」

「それは違います。ランダス叔父様はカイル様を守るという立派な務めを果たせなかったと悔やみながら亡くなったのではないでしょうか」

「じいちゃんが俺を守れなかった?それこそ違う。俺がこうして生きていられるのはじいちゃんがあの時助けてくれたおかげだ」

「えぇ、私もそう思います。でもカイル様が御自身を責められるのと同じようにランダス叔父様も御自身を責めになったのではないかと。ですから御自身をこれ以上責めることをランダス叔父様も望んでおられないでしょう」

「あぁ、確かにそうだ。じいちゃんは俺を守って立派に戦い抜いた。俺のヒーローだ」

「えぇ」

「ダーリン、さっきからずっと親しげだけど知り合い?」

「あぁ、うっすらと思い出した記憶で曖昧だが恐らく」

「それにイーリスに救われたって?」

「私は鳥族の峡谷で産まれた魔物だったのですがここより落ちて死にかけの私を拾ってくださったのがイーリス様だったのです。救われた私はイーリス様に何か恩返しがしたいと願い出ました。すると、やがて御自身の息子であるカイル様に与えられる鷹として、守ってほしいと頼まれたのです。ですが、当時私はカイル様の掌に乗るほどのサイズ。守ってあげられるほどの力は持っておりませんでした」

「要は責務を捨てて逃げ帰ったってことだよね?」

「えぇ、否定は致しません。救ってくださったイーリス様も守れず。カイル様を守ることも叶わず。私はこの鳥族の峡谷に帰り、2度とそのようなことにならないように腕を磨きました。イーリス様もカイル様も生きていることはなんと無く感じていましたから」

「その時、アンタが乗せてあげれば、坊やのこと守れたんじゃない?」

「えぇ、掌サイズの私にカイル様が乗れればですが」

「無茶を言うなミューラ。コイツはコイツなりに考えた行動だ」

「えぇ。それではカイル様、記憶を取り戻す覚悟はできましたか?」

「記憶を取り戻す?そんなことが可能なのか?」

「はい。私にカイル様が名を授けてくだされば、私の本来の力を使って、カイル様を過去の世界に送ることができます。起きたことを変えることは叶いませんが御自身の身に何があったのか。住んでいた国に何があったのかを知ることは可能かと」

「過去の世界に送れるのに変えられない?何故だ!」

「要は貴方が歩んできた世界に誰にも認知されない影として、貴方を送ることができるということだけです」

「そんなのダーリンが苦しむだけじゃない」

「坊やを苦しめることは許さないわ」

「カイル様、無理をしてまで記憶を取り戻さなくても」

「いや、俺をあまりにも知らなさすぎる。今一度過去に触れる必要があるだろう。ヴェルン、やってくれるか?」

「ヴェルンですか?良い名前をありがとうございます。では、カイル様もう一度苦しめるかもしれませんが。過去の世界へと誘いましょう」

 ぐらんぐらんぐらんと体が揺れるとその場に倒れた。

「大丈夫なのよね」

「えぇ、意識だけを過去の世界に飛ばしました。御自身を取り戻すことができれば覚醒できましょう」

「坊やが目覚めるまで待つしかないと」

「えぇ、そうなります」

「カイル様、どうかご無事で」

「大丈夫です。カイル様は強くなられました。あの頃より、耐えられず全てを忘れることしかできなかった幼子と違います。きっと、イーリス様やファイン様がどれほど愛してくれていたかわかるでしょう」

 目が覚めた俺は25年前のレインクラウズクリア王国にいた。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

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