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ヴェスパラスト大陸記  作者: 揚惇命
一章 動乱期

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絶望の蓄積

 父の死。母の不貞。守るべき国民たちからの蔑み。それらを真っ向から受け、気を失ったカイルが目を覚ました。

「ルイスよ。目が覚めたか?」

「ルイス?おじいちゃん、誰?」

「なんじゃと。まさか、そんな。カイル様、このランダスがわかりませぬか?」

「カイル?ランダス?」

「そんな(カイル様まで、心を無くしてしまわれたのか。この国は、もう本当に終わりやもしれぬ)」

「そこ、煩いぞ。子供が目を覚まして、良かったじゃねぇか。明日も早いんだ。寝かせてくれ」

「すまぬ(カイル様が産まれた時は、あんなに盛大に沸いたが。その後、ファイン様が溺愛するあまり、外に出さなかったのがここまで功を奏するとは。同じ王宮兵士ですら知らぬものが居るのは良いことなのかわからぬが)」

「仕事?」

「お前は、何も心配することはない。ゆっくり休むのだ」

「うん。おじいちゃん」

「ワシが守らねばならぬ」

 目を覚ますと看守の怒号が聞こえる。

「起床の時間だ。いつまで寝てやがる奴隷ども」

 この収容所には、生き残った王宮兵士10万が奴隷として、集められていた。

「1人足りねぇな。またあのガキか。いつまで、サボってやがるつもりだ」

 ランダスが看守に跪き弁明する。

「どうやら、あのような売女の姿を見て、ショックを受けたようで、心を病んでしまったのですじゃ。どうか勘弁してくださらんか」

「ならん。あのガキも奴隷なのだからな。働かぬというのであれば、この場で殺すだけだ」

「おじいちゃん?何してるの?」

「良いのじゃ。良いのじゃ。まだ、寝ておるが良いぞ」

「ふざけるな。このジジイ。ガキだから働かなくて良いと考えてるのか。生きてるだけ感謝せよ。そのガキ以外の子供は、オズモンド皇帝陛下様が経営する孤児院に預けられたのだ。それを断ったのは、ジジイ貴様ではないか。若いうちに苦労させるものだったか?大層立派なことを言っておきながらいざ蓋を開けてみたら働かさないとは、どういう了見だ」

 ランダスを何度も蹴り踏みつける元国民の看守。かつての近衛騎士団の隊長のこのような姿を見て、怒りに震える者や知らないフリをしている者、関わりたくないと仕事を優先する者がいた。そんな中、カイルは、勇敢にも飛び出した。

「おじいちゃんを虐めるな」

「なら働け」

「わかった。何をすれば良い?」

「この石を運んで、積み上げる。それを繰り返すだけだ」

「わかった」

 カイルにとっては、その石は、とても大きくとても動かせる物では、なかった。

「この役立たずが」

 ビシンバシンとしならせたムチを打ち付けられるカイル。

「痛い痛いよぉ〜〜〜」

「泣いても意味はない。ここに残ったのなら仕事をしないければ、生きている価値はない。これ以上滞らせれば、死んでもらう」

「御役人様、どうかしばらくの間、この子が仕事をできるようになるまで、補佐することをお許し下され」

「ほぅ。お前が2人分働くと。そういう認識で構わぬな?」

「はい」

「せいぜい、老体に鞭打って、2倍働くが良い。だが、貴様が死んで、このガキが仕事を覚えていなければ、このガキも共に死んでもらう」

「わかりました。誠心誠意、頑張らせてもらいますじゃ(なんとしてもカイル様が生き残るために力をつけて、石を運べるようになってもらわねば、そのためなら2倍働き寿命が縮もうとも構わぬ)」

 その日からランダスと共に石を運ぶカイル。2倍分働くランダスは、着実に寿命を削っていた。そんな生活が5年続いたヴェスパラスト歴2011年、カイル10歳の時、とうとうランダスが仕事中に倒れ、そのまま床に伏せった。あれからランダスは、カイルと2人きりの時にカイルの昔の話を話したりして、記憶を戻そうと試みたが記憶が戻ることはなかった。

「ジジイ、起きろ。奴隷は、仕事終わりでしか休むことは許されねぇんだよ」

「待ってくれ。じいちゃんは、こんな状態だ。とても、働けるわけが無い」

「だったら死んでもらうしかねぇな。仕事もできねぇ奴隷にタダ飯、食わせる余裕はないんでな」

 ビシンバシンと床に伏せるランダスへと容赦ないムチが炸裂するのだった。

「ガハッ。グフゥ」

「やめろ。死んじまうだろう。俺がじいちゃんの分まで働くから元気になるまで、寝かせてやってくれよ」

「ほぅ。あの石を1人で運べぬお前が2倍分働くとは、よく言えたものだな。良いだろう今日一日様子を見てやる」

「ありがとうございます」

 カイルは、必死に2人分の仕事をした。そう、この5年で力は、着実に付いていたのである。

「なかなか、頑張ったじゃねぇか。だが、残念だったな」

「どういう意味だ?」

「ククク」

 カイルは、急いで戻った。その時には、ランダスはもう虫の息であった。

「ゴホッゴホッ」

「じいちゃん、そんな嘘だよな」

「カイル様、先に行く不忠をお許し下され」

「じいちゃん、不忠とかなんなんだよ。俺は、何も覚えてないんだ。思い出せないんだよ」

「今は、それでも良いのじゃ。ゴホッゴホッ。いつか、思い出した時のためにこれだけは覚えていてくだされ。例え、どんなに立派な理由があろうとも人が人を虐げては、決してなりませぬ。ゴホッゴホッ。あぁ、ファイン様、迎えに来てくださったのですな。今、参りますぞ」

 最後にフゥーと息を吐き切るとランダスは、動かなくなった。永眠である。享年85歳であった。ファイン王の祖父の時代から3代に仕えた宿老の死、カイルを逃すことも最後まで守ることもできなかった。だがカイルの傅役として、天命を全うしたといえよう。ランダスが居なければ、カイルは5歳の時に殺されていた。それは間違いようがない事実だ。

「じいちゃん、なぁじいちゃん嘘だよな。じーいちゃーん」

 カイルは、涙が枯れるまで泣き続けた。記憶を失ったカイルにとって、ランダスは、祖父も同然であった。そして、固く誓うのだ。必ずや記憶を取り戻し、この国に何があったのか突き止めることを。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

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