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2:知らぬ間に売られていました。いち。

 異母妹カティの結婚式から五日。

 廊下の窓から庭を見ながら、双子の片割れである異母弟と二人というのは少し寂しいものね、と思っていた私の耳に異母弟の憤った声が聞こえてきました。エントランスだわ、と足を向ければ、案の定異母弟・キーシュが怒ってます。


「キィ、どうしたの」


 カーティミーをカティと呼んで、キーシュのことはそのままキーシュと呼んでいたら、自分も特別な呼び方が良い、と怒っていたのはいつだったっけ、と思いながら彼の愛称を呼べば。


「姉上、今さらあの女が我が家に帰って来るって言って来ました!」


 男女の双子だからあまり似ていない顔立ちと思いそうだけど、二人共に継母であるアジーナにそっくりの顔立ちと色合いをしています。

 酒場の看板娘だったアジーナだけあって、ピンクブロンドの髪とイエローグリーンの目の愛らしい顔立ちで。

 双子はその継母にそっくりなので、小さな頃は異母弟も女の子のようでした。今は、男らしい筋肉質な身体つきになってきたけれど、でも怒った顔をしてもちょっと可愛いのよね。

 さておき。


「あの女? 帰って来るって……」


 怒る異母弟の話が理解出来ず、ちょっと考えて気づく。もしや継母か、と。


「そう、あの女だっ!」


「ちょ、ちょっと待って? あの女って、カティとキィの実母よ?」


 混乱と焦りの中、私は異母弟の荒ぶる姿に落ち着くよう言い聞かせます。

 異母弟は怒りを湛えた顔で「あんなのは母親じゃないっ」と言い切りました。

 ……まぁ確かに双子を捨てたようなものだし。そういう意味では母親とは思いたくないのだろうけれど、産んだのは確かにアジーナ。


「お、落ち着いて、キィ。その、帰って来るってどういうことかしら」


 三歳まではアジーナに育てられたでしょうに、なぜあの女呼ばわりなの、と思うけれど……考えてみれば、父が病に罹患した途端に逃げ出した人が、まともに育てていられたのかしら。今となっては分からないけれど。

 兎に角、異母弟に詳しいことを聞きましょう。

 荒ぶる異母弟が深呼吸して、手紙を差し出してきました。話の流れから察するにアジーナからの手紙とみて良さそう。


「読んでいいの?」


 確認してから目を通せば、噂で夫が亡くなったことを知った。カーティミーとキーシュが寂しい思いをしているだろうから、近々母が帰ります。もう寂しい思いはさせない、と書かれてありました。


「ええと、出奔したことの謝罪も父を見捨てた謝罪もあなたたちを置いて行った謝罪も何も無いのね」


 まさか、こんな簡潔な手紙を寄越すとは思っていませんでした。


「それもそうですが、姉上のことを何一つ書いてないのも腹が立ちますよ! 私もカティも姉上があの女から甚振られていたことは知ってます。それでもあなたは私たちを見捨てなかったのにっ。あの女は姉上への謝罪文も無ければ、姉上を気にする文も無く戻って来ようなんて……どれだけ図々しいのでしょうね!」


 ……キーシュもカーティミーも、本当に私のことを知っていたのね、と憤る異母弟を見て、ややズレたことを考えていました。……だって、怒る異母弟を宥めているのに、落ち着かないから。


「キィ、私のことは構わないわ。いきなり七歳の少女を娘と思え、なんて無理だもの」


「それでも姉上を虐げていい理由にはなりません」


 私がなんとか口にすれば、異母弟がバッサリ。いや、まぁそうなんだけどね。


「それにしても……帰って来ると言っているけれど結婚してからこの家を出て行くまでに貴族法を覚えなかった……のね」


 貴族法を覚えなかったのかしら、と口にしようとして、エントランスで憤る異母弟を宥める私とのやり取りをずっと黙って見ていた執事が、途中で激しく首を横に振った時点で、覚えることが無かったことを知ります。


「ああ、そうか、あの女、元は平民でしたからね。貴族法を知らないのか。でも後妻でも貴族と結婚した以上、貴族法を勉強する必要があるのに。でもそうか。それならもう、帰る場所なんて無いことを教えてやれるのは楽しそうですね。よし、カティを呼んでやろう! この手紙を見れば五日後に到着予定らしいし。まだ王都内の子爵邸に居る予定のカティなら一日で来られる!」


 手紙には帰る日が書いてあったのだけど、ちょっと異母弟さん? 新婚の異母妹に知らせるって何を言って……ああ、止める間もなく走って行ったわ。

 ああなると、止まらないのよね。……ってそうじゃない。止めなくちゃ。


「ちょっとキィ、走らないっ。もう成人したのだし男爵になるんだからっ」


 後ろから大声を出したけど、多分もう聞こえてないわね、あれ。


「お嬢様、ああなるとキーシュ様は止まりませんから無理でしょう」


「いや、でもね、新婚のカティを呼ぶってちょっとどうかと思うのだけど」


 執事が諦めたように言うから私もそういうわけにはいかないでしょ、と返せば、執事は達観した顔で宣告します。


「きっとカーティミー様に押し切られてドレイク様もいらっしゃいますよ」と。


「我が家の恥を他家に知られるのは拙いのでは」


「ドレイク様も家族だと思えば宜しいのです。それに五日後ですよね? 確か、その日は王家公認の後見人殿がいらっしゃる日では?」


 私は、サァッと顔色が変わっただろうことを自覚します。そうでしたっ。異母弟に爵位を譲渡するための打ち合わせに後見人の方が来る日がその日じゃないの!

 日程変更が簡単にはいく相手じゃないです。

 いや、後見人として我が家と自家を行ったり来たりしていた方ですが、月の半分は我が家に居たような方ですが、文官としてそこそこにお偉い立場の方なので、王城でのお仕事を勤めながらの後見人職だったから、あちらの都合に合わせている以上、日程が動かせられないってやつでした!


「ど、どうしたらいいかしら」


「無理ですね。後見人殿が来る前に追い出すか、いらっしゃって帰った後にあの女が来ることを願うくらいですね」


 ……執事よ、あなたもあの女呼ばわりなのね。いや、そうじゃなくて。

 ……神頼みになってしまうのね。でもこういう時ってそう都合良くいかないのが世の常よね。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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