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16:改めてはじめまして。

 あれから二年が経ち、アディナは十歳、か。

 私は二年前、アディに伝えた通り、小さなお店を構えていた。


 今はもう会うことも無い継母が勝手に契約し、使用したお金を返すために伯爵家前当主アマーニ様と結婚することを決めたあの日。

 そのひと月くらい前にはある程度の資金が貯まっていました。飲食店で言えば、四人がけテーブルが二つとカウンター席が五名分にキッチンがあれば狭いような、小さなお店。


 その店舗を商会長経由で買い取る予定を計画していた、その矢先でした。継母に売られたと知ったのは。


 商会長には相談していたので、契約のことを知った商会長が私のためにお金を貸すと言ってくれたのは、私がお金を貯めて店を出すことまで知っていたからでしょう。

 でもね、正直なところ貧乏だったからこそ、借金をすることが大変だと理解してました。


 お金を持っている人の方が借りることが多い、とか聞いたことがありますけれど、本当に切羽詰まった人が借りるものではないのでしょうか。

 話が逸れました。

 お金は借りるのは簡単でも返すのは難しいじゃないですか。


 何しろ「お金を作る」って言われますけど、野菜を作るように畑にお金を撒いたら増えるわけじゃないですしね……。

 働いてその対価でもらうわけですよね。

 なんの努力もせずにお金をもらえる人もいるみたいですけど、そういう方は稼ぐ大変さを知らないので、手にしたお金をあっという間に遣い切るみたいです。

 また話が逸れましたね。


 つまり、それだけお金を手にするって大変なことだから、借金はなるべくしたくなかったのです。

 売られた先が人を奴隷にするとか、奴隷じゃなくても玩具にするとか、愛玩動物にするとか、そういうような噂のある人とかだったら遠慮なく借りていたとは思いますけど、伯爵家にそのような噂は無かったようですから。


 結果的に、介護の担い手どころかただの話し相手でしたし。期間限定でも可愛い孫と交流出来ましたし。


 売られたことはショックでもあったし、まぁそれだけ私のことを嫌っていたのね、あの継母は……なんて納得もしましたけど。

 伯爵家に居た時間は、無駄では無かったと思っています。それに、僅かながらですが少し高位貴族の思考やらマナーやらに触れることが出来ましたからね。下位貴族とやっぱり差があるのね、とも分かりましたから。


 高位貴族になればなるほど、勉強することが増えるって噂じゃないんですね。

 最低限のマナーしか知らない私なので、カーテシー一つとっても指先まで意識を傾けるとか知りませんでしたからね。

 高位貴族、大変です。


 まぁだから、伯爵家から帰った私が早速お店を開いて(場所をキープしておいてくれた商会長には感謝です)、アディを待つのは年単位になることは、初めから分かっていました。


 だから先日、十歳にしては綺麗な筆跡の手紙で、許可が下りたからお店に行きたい、と書かれてあるのを読んだ時は、アディが凄く頑張ったことに胸が熱くなりました。

 私が最初のお客さま?

 と書かれてあったのを読んだ時は、それは叶わなかったわね、ごめんね、なんて思ってしまったけれど。


 実際には飲食店では無いから、客席は無いけれど。刺繍教室を行うのでお店の半分の半分のスペースに、刺繍を習いたい生徒さんようのテーブルと椅子はあります。

 まだ二人ほどですけど、きちんと生徒さんも居まして。その辺りは、私の近況報告としてアディに話題を提供することにしましょう。


 そんなこんなで、手紙に書いてあった日を迎えて。


 大通り沿いではないから馬車は近くの場所停めに停めてあるのでしょう。

 店の外で待っていれば。

 リサさんと、護衛を三人連れた、伯爵家を出る時よりも背が伸びて、少女らしくなったアディナが目に入りました。


「おばあちゃま!」


 駆け寄ろうとしていたのか、アディが満面の笑みを浮かべて一歩を踏み出そうとして、リサさんに何やら言われ、ハッとした顔をして、一度足を止めて深呼吸をしてからゆっくりと歩いて来たアディは。

 私から三歩ほど離れた距離で立ち止まって、成果を見せてくれるように、綺麗なカーテシーを見せてくれました。


「いらっしゃいませ、お客さま」


 その姿に応えるように、私も丁寧な接客を心がけて頭を下げます。


「今日はよろしくお願いしますね。改めて。……はじめまして、店主」


「はい、はじめまして。伯爵令嬢様」


 頭を上げた私に、澄まし顔でそんな言い方をしたアディにクスリと笑って、私も澄まし顔で返します。

 ふふふ、と少女らしい溌剌さで笑ったアディ。


「おばあちゃま、お店、楽しみです」


「ええ、楽しみにしていて、アディ。でも、その前に会えなかったときのお話をしましょう。美味しくて甘いお菓子とお茶はいかが?」


「ぜひっ」


 別れたときと変わらない笑顔で、アディは了承してくれました。

 本日は貸し切りなので、クローズドの看板をドア前に置いておいて。

 リサさんと見たことのある護衛の顔を見渡してから私はアディを店内へ招きました。


 ーーこの日をきっかけに、アディが訪れてくれて、いつの間にか伯爵令嬢のお気に入りのお店、と噂されて小さな店内にお客さまがギュウギュウと押し込められるように押し寄せることになるなんて、予想もしていなかったですけれど。


 可愛い孫は、私のお店に幸せを運んでくれる、幸運の少女でもありました。




(了)

お読みいただきまして、ありがとうございました。


ラストは最初から決まってました。

恋愛要素を強くしてみることも考えてみたのですが、ラストはお店を開いたオリーヴの元へアディナが訪ねる、というものだったので、恋愛要素は微要素(匂わせ程度)にしました。

恋愛ものは本当に難しいですね……。


恋愛ものを書けるよう、精進します。

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