1:弟妹に婚約者を見つけました。に。
この年祖父が領地で倒れてしまい、執事は領地と王都を往復していました。私も孫として認めてもらえていたから偶に執事と一緒に祖父の元に行きました。あと、祖父にようやく当時三歳の双子を置いて継母が出奔したこと、それから現在双子は私と執事とメイドたちで何とか面倒を見ていること、双子の貴族教育を始めたことなどを伝えました。
それを聞いた祖父は、この国の爵位継承に女性が立つことは可能だけれど、例が少ないために私が爵位継承すると風当たりが強くなる可能性を示唆し、貴族教育を始めたのなら……本心では認めたくないと言いながら、双子を孫として認めてくれました。異母弟が後継になれるわけです。
多分、後継問題が気掛かりだったのか、気掛かりが無くなったとばかりに、そこからあっという間に祖父は亡くなりました。
後妻が貴族になりたがっていたことを祖父は把握していて、手っ取り早いのは貴族との結婚。だから父の再婚を反対していたこともこの話し合いの時に聞きました。
一方で女性の爵位継承は風当たりが強くなることを祖父は懸念していたらしく、私のことが心配だったとも言ってくれました。それは素直に嬉しいことでした。
祖父ともう少し会っておけば良かったと後悔したものの、簡易ですが祖父の葬儀を終えて、領地は祖父の側近にお願いして王都に戻りました。
そして。十五歳。
十六歳から十八歳までの三年間、貴族の子息子女は学園に通うことになっていまして、我が家は貧乏ですので学費を安くしてもらう予定でした。
貴族家は身内の喪に服す期間がおよそ一年。だから祖父の喪に服しつつも、入学準備をしていたのですが。
父がとうとう寝込んでしまい、起き上がることが出来なくなってしまいました。
この時双子は八歳。
父をお願い、とは言えず。学園には事情を説明して入学をしないことを決断しました。学園側は途中入学も認められると言って、父が回復したら途中入学をすれば良いと言ってくれたことは嬉しかったのですが。
父は寝たきり。無理だと思いました。
執事とメイドたちと共にではあるけれど、下の世話もしました。父はそのことを済まない、と言い、恥じているようでした。
一年後、父は逝ってしまいました。
多分私に世話をさせることが嫌だったのか、食事を摂らなくなっていましたから。無理やり食べさせても戻すことさえありました。だから覚悟はしていました。
覚悟していても意味が無いくらい、喪失は辛かったけれど。
でも立ち止まっている時間はありません。
父の葬儀も簡単に済ませるしか出来ないほどお金がないので、簡単に済ませた後。
父の後継者を一年の間に決めて王家に届け出ないと、貧乏とはいえ男爵家が途絶えてしまう。そういう法律だと執事が教えてくれました。
祖父が懸念していたように女性の爵位継承は風当たりが強いことを執事も懸念していたので、父の喪明けまでに必要な書類を作成して、異母弟を後継に届け出ました。
十五歳で祖父が亡くなり、およそ一年喪に服し。それから一年で父を看取りそこから一年喪に服し。
気づいたら私は十八歳。成人年齢に達していました。それでも七歳下の双子は十一歳。まだまだ爵位継承は出来ません。
王家はそのことを踏まえて、異母弟が成人を迎える十八歳まで後見人を紹介してくれました。王城にて仕える文官の方。後見人が後継教育も行ってくれるらしく、執事も立ち会いながら異母弟に後継教育が始まりました。
双子の貴族教育が順調だったこともあり、後見人が私の婚約者探しを行おうか打診してくれました。
高位貴族だと幼い頃から政略結婚で婚約者を見繕う傾向がある我が国。下位貴族でも学園に通う頃には婚約者を見つけることが多いもの。
併し懸念事項がいくつかありました。
一つ。学園に入学し卒業していないこと。貴族の子息子女は高位も下位も関係なく、自家の家格や婚約者の家格或いは派閥などを考慮しつつ、学園入学中に勉強しながら人脈作りも兼ねます。だから学園に通っていない私は何の人脈も無いから結婚するメリットがありません。
二つ。貧乏男爵家なので借金は無いが、それだけです。人脈も無いなら貧乏男爵家の娘で更にメリットがありません。金も人脈も無いし、領地も取り立てて目立つ特産品が無い。無い無い尽くしです。
三つ。双子が私と離れることを嫌がりました。これはまだ十一歳の双子に母は行方不明。父と死に別れ。という現実は辛いものがあるだろうから仕方ないこと。仕方ないけれど貴族子女としては行き遅れの可能性が高くなります。成人してから三年以内に結婚することが貴族では通例ですので。
家族が居なくなることは双子にとって辛いでしょうけれど。
三つの懸念事項を考えながら、後見人と執事とメイドたちと話し合って。結局、私は婚約者探しを諦めました。後見人は最後まで私に双子たちのことは気にしなくて構わない、と言ってくれました。
家族を失って寂しいのは私も同じ。
母を亡くし父と二人だけだった時、仕事と酒に逃げた父を思い出すと……ここで双子から逃げる事は父と同じ気がして、出来ませんでした。
お読みいただきまして、ありがとうございました。