9:ユジェン伯爵と失くす日常。ご。
「伯爵様がそれを仰いますか。私がアマーニ様の後妻として参列すれば、好奇の目に晒される事でしょう。私は今さらどうでもいいのですが、アマーニ様は恩人です。その恩人の不名誉な噂になりそうな私が参列するわけにはいきません。前妻を亡くされてから後妻を娶らなかったアマーニ様が後妻を娶ったことすら衆目の的でしょうに、それが私だとしたら金で買われたなどという噂になりかねません。事実ですが、わざわざ話題を提供してアマーニ様の名誉を損うような噂を立てられる必要などありません」
アマーニ様がもっと性格の悪い方だったとしたなら嫌がらせ行為で参列して、ユジェン伯爵家の醜聞として噂を立てられることを考慮などしなかったはず。
でもこの別邸で気難しいと聞いていたアマーニ様が私を気遣ってくれていたから。私はアマーニ様のために醜聞になりそうな話題を提供するようなこと、つまり私自身が公の場に姿を見せないことに決めました。
「そうか。そうなのか。そこまで考えていたとは」
伯爵が変に感動したような顔つきになりましたけど見なかったことにしておきましょう。
というか、あなたが、私を、悪女だと思い込んで、金で買うようなことを仕出かしたんでしょうに。
なにを感動したような顔をしているんですか。ああでもこの主人だからゼスのような使用人……。いえなにも言うまい。
アマーニ様、息子や使用人の教育……どうしていたのですか、なんて死者に思いを馳せるのも良くないですね。うん。既に大人ですしね。
「兎に角、ここから先は伯爵様にお任せします。私はこの別邸にてアマーニ様の冥福を祈りますので。アマーニ様の名誉と後々はアディナ様が女伯爵として爵位を継がれた時に、醜聞にならないようにするためにも私は表立って動くことはしたくないので」
ゼスに指示してゼスが動いてたし、一応伯爵のところに意見を聞いていた体裁は取れていたし、アマーニ様が亡くなられて数時間で伯爵が正気に返ってくれたことは有り難かったし。世間的には私が動いたことは知られてないでしょうし。
アマーニ様が後妻を娶ったことは知る人は知っているかもしれないけれど。前伯爵だから社交場から遠ざかっていたわけだし。私もデビューしていない上に貧乏男爵家出身だから目立つわけじゃないし。私自身も目立つようなことは無いし。
私が夫の死を悲しんで伏せている、ということで葬儀の参列を取り止めても身内は元より世間もアレコレとは言わないでしょう。
実際のところアマーニ様の死は悲しいし、冥福を祈る気持ちはありますけれど。
その気持ち半分、これからの自分の身の振り方をどうするのか半分です。
アマーニ様は男爵家に帰れば良い、と仰ってくださいましたけど。まぁ私もその方がいいのは山々ですけれど、一応買われた身ですから。買った相手、つまり伯爵の意見も聞かないで男爵家に帰って、金返せ、とか言われても困りますし。
だってねぇ、アマーニ様の後妻の役割を一日いくらと契約時に決められていたのなら、残りの金額は私の貯金でなんとかなる、とか、異母弟が頑張ってくれたお金と合わせれば返せる、とか。そういった計算が出来そうですが。
あの契約書、そこまで詳しく書いてなかったですからね……。
そうしたら伯爵の気持ち一つです。私が私を買い戻せる額では無かったし。異母弟を信じて待つしかないですし。そうすると伯爵家から出て行くのは、アマーニ様の恩を仇で返すことにもなりかねないですし。
男爵家としてではないけれど、異母弟からすれば実母が異母姉を売ったことは契約書という証拠品がある以上、異母弟の預かり知らぬことだったとはいえ、足を引っ張る材料になりかねないし。
アレコレ考えると得策じゃないですよね、男爵家に帰るのって。きちんと私を買った金額を一括で返して堂々と伯爵家から出たいし。
アディナ様のことを思えば醜聞になりそうなことは避けたいですし。
ほんと、これから先どうしましょう。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




