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7:すれ違っていたようで。さん。

「アディナは、おばあちゃまと呼ぶのか」


「お祖父様と結婚したのならお祖母様でしょ? お祖母様と呼んでって言われたけれど、リサがおばあちゃまの方がかわいいって言ったから」


 アディナ様の説明に前伯爵はなにか思うところがあったのか、身体を起こして……直ぐにゼスが身体を支えて……私をきちんと見た。

 前伯爵が名を溢すが、それは私の父の名だった。


「父をご存知でしたか」


「そうか、オリーヴは彼の娘か。彼は元気か。妻を亡くして酒場で出会った女を妻に娶ると聞いた時、諌めたのだが聞き入れてもらえず仲違いしてしまったが。学園では同じ領地経営科だった。彼は二つ年下だったが図書室で良く読みたい本が重なっていたから声をかけたらウマがあったんだ」


 楽しそうな前伯爵の声に父のことを話すのは迷ったが、尋ねられてしまったからには答えないわけにもいかず。

 私は父が亡くなったことを手短に話した。


「亡くなった? いつだ? 病か? 事故か?」


 前伯爵の青褪めた顔に食いつきぶりを見るに、それなりに父のことを可愛がってくれていたのかもしれない、と思って父が病に罹った頃のことや、亡くなった時期を伝えた。

 真剣な顔で聞き入った前伯爵は、おかしいな、と呟いた。


「オリーヴ、君の話が本当であるならば、ゼスから聞いた君が後妻となった平民の女に意地悪している暇はどこにあったんだ」


 父が病に罹った時期から亡くなるまでの時期で、そこに気づいてしまう辺り、前伯爵は頭のキレる人なのかもしれないが、私は意地悪く言ってみる。


「父が病に罹っても、継母を虐めている時間を作ったかもしれないです」


「それは有り得ない。君の話では君が十歳の時に彼は病に罹患した。いくら平民の出身とはいえ、子を産んだ大人の女が十歳の娘に虐げられるような状況に陥るものか。君に味方する使用人が手伝っていたのならともかく。もし、オリーヴに手を貸す使用人がいたのなら、逃げ出せるものか。私は彼の家が裕福ではないことを知っていた。確か使用人は五人くらいしか雇えなかったはず。下位貴族とはいえ、爵位持ちの貴族家で五人は少ない。使用人の仕事量が多いはずだから、君に手を貸して後妻を虐げている暇などあるものか」


「さすが、前とはいえ伯爵様ですね。そこまで分かってしまわれるとは……」


 いや、ホントに凄いです。まぁ我が家が貧乏だと知っていたからこそ、なのかもしれませんけれど。


「私に敬意を払うのなら、全て正直に話しなさい」


 威圧感増し増しの声音で、父と後妻が再婚した日から、この伯爵家に来るまでの日々を話すことになってしまいました。もちろん、私が売られた経緯と後妻が娼館のオーナーに買われたことまで。

 ちなみにその辺りのことは、リサさんにお願いしてアディナ様の耳に入らないよう、配慮してもらいましたけどね。


「そういうことだったのか……。私は愚かだな。諌めたのに聞き入れないから、と仲違いするのではなく、手助けを求められてもいいように少し距離を置いておくだけにしておけば良かった……。彼が私より先に死ぬなど思ってもみなかった」


 前伯爵は項垂れる。私は父を可愛がってくれた人がいたことが嬉しいけれども、反面、疎遠になった理由に納得出来てしまったから責めることも無いが複雑な気持ちもあった。


 正直。

 せめて疎遠じゃなかったら良かった、と思ってしまった。

 父が倒れた時に祖父以外で相談出来る人として前伯爵が居たら……と思ってしまったのは確かで。

 後見人のレンホさんは祖父も父も亡くしてから、いえ亡くしたからこそ王家から派遣してもらえたわけで。

 執事と私と領地の祖父の側近で、倒れた祖父や父に代わって男爵家を支えたのは……辛い時もあったから。

 でもそれももう今さらだし。そこまで図々しいことが言えるわけでもなく。後悔している前伯爵に、私は曖昧に微笑むことしか出来なかった。


 父と前伯爵のすれ違いは、アディナ様と前伯爵のすれ違いとは違って、もう解消出来ない。


 ふと、私はそう思って。


「父と前伯爵様とのすれ違いは、もう解消出来ないのですね……」


 言葉が零れ落ちた。

 前伯爵は、目を見開いて私を凝視し。


「そうか、そう、なのだな……。オリーヴ、私のことは前伯爵ではなく、アマーニと。書類上とはいえ君の夫だからな」


 不意に私に名を呼ぶ許可を与えてきたのは、二度と会えない父の代わりに、娘の私に名を呼んで欲しいということなのだろうか、と考え。


「畏まりました、アマーニ様」


 私は静かに受け入れた。

 どのみち私はこの方と暫く同じ屋根の下で暮らすのだ、と思って。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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