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レベル1:少女の娯楽

 レベル。

 生まれた時から、私にとってはそれが全てだった。


 この世に生まれた人は、『レベル』という単位で成長していく。あらゆる経験をするたびに、あらゆる技術のレベルが上がる。


 そして、その具体的な数値を見ることができるのは、特定の魔法を扱える人物だけ。そんな人はなかなか居ないため、一般的な人が自らのレベルを知ることは極めて困難であり、故に気にすることも少ない。


 しかし、偶然にも私は生まれた時からその魔法……鑑定魔法を使うことができた。レベルを知ることが容易であり、故に気にした。気にし続けた。


 だから、だろう。

 私は生まれてから3年後に、孤児となった。


 理由を覚えているわけではない。

 けれど、物心が付いた頃には疾くの昔にその魔法を十全に使えるようになっていたのだ。加えて、日常的に自らのレベルと経験値を確認する癖まで付いていた。


 それはそれは気味の悪い子供だったろう。突然(くう)を見つめると、何かを見つけたように笑うのだ。そしてなんの前触れもなく、何かに取り憑かれたように走り始めたり、空を蹴り始めたり、叫び声を上げたりするのだ。


 私なら、そんな子供は怖い上に薄気味悪いと感じるだろう。できれば共に居たくはない。


 もちろん、子供の頃の私が悪いと思っているわけではないけれど。

 ただ、結果として孤児院へ連れていった両親を恨むつもりも無ければ、古巣に戻る気も毛頭ないというだけだ。


 果たして孤児となった私は、より一層レベル上げをする様になる。


 孤児院に来てから3年の月日が過ぎ、私の家事系能力のレベルが滅多に上がらなくなった今日。

 綺麗な礼服に身を包んだ、中年ほどの男性が孤児院にやってきた。


 皺一つ無い高そうな生地、立派な白髭、表に止まる馬車。明らかに貴族である。


 院長は彼と一言二言話すと、私を含む数人を彼の前に並べ、口を開いた。


「ここで預かっている者のうち、家事に長けた女子。計9名でございます」

「そうか」


 その貴族は院長を後ろへ一歩引かせると、並べられた私たちに対して一言、質問をした。


「君たちの中で最も家事に長けたのは誰かな?」


 ふむ、これは難しい質問だ。

 実のところ、家事の能力は頭ひとつ抜けて私が抜群に高い。だが、問題はここにいる9人の中で私が最年少であることだ。

 それも、最年長のリリアーナは11歳。今年で6歳である私が彼女より長けているというのは中々初めて会った人からしたら受け入れ難い事実だろう。


 ……とそんな風に考えていると、リリアーナが緊張した面持ちで声を発した。


「一番家事が得意なのはこの子だよ、です」


 そう言って、隣に立っていた私の背中を押した。


 礼服に身を包んだ彼は、不思議そうに「本当かい?」と私たちへ問いかけた。

 黙って全員が頷く。

 それを確認して、訝しげな視線を今度は私たちの後ろに立つ院長へ向けた。疑っている、というより十中八九嘘だと思っているのだろう。


 当然と言えば当然だ。普通に考えたら口裏を合わせてるようにしか思えない。

 それに、理由なんていくらでも想像がつく。年齢が下の子を先に孤児院から出して上げたいとか、下の子の方が使えないから孤児院にいらないとか、色々。


 チラリと後ろを振り返れば院長は困惑した表情で首を横に振った。

 まあ院長は基本的に家事とかそういったことには関わらない。実際、何も知らないのだろう。


 そんな院長の反応を確認した彼は、また私たち……いや、私に目を向けた。そして私と目線を合わせるように屈むと一言、鋭い口調で尋ねてくる。


「本当に、君が一番上手いんだね?」

「……はい。この孤児院では、私が一番家事に長けていると存じます」


 仕方ないので、事実をそのまま告げる。

 すると、彼は驚いたようにピクリと眉を上げた。


「君、名前は?」

「シュナ、と申します」


 私の返事にふっと小さく笑い、そうかと一つ頷くと、屈んでいた姿勢を元に戻した。


 それからまた院長と小さく言葉を交わすと、孤児院から出ていった。

 やがてガラガラという馬車の音が遠ざかってから、院長は私にこう言った。


「明日、君は貰われていくことになった。ここで過ごすのは今日が最後だから、皆にきちんと話しておきなさい」

「はい。わかりました」


 夕食時に皆にそれを言うと残念そうな声が上がったが、深く関わっていた人もいなかったのでそれだけだった。


 それから私は、大部屋に戻っていつもの日課に励む。音を立てると怒られるため、音を立てない私独自の経験値取得メニューである。

 このメニューで獲得できるのは魔力操作、無詠唱、空間把握、異空間理解など様々な技術の経験値だ。

 多くの技術に触れるほど、一つの技術で得られる経験値は減少するが、毎日やるのならこれが最も効率が良い。


 そして何より、この独自メニューの優れた点は布団の中で目を瞑って行えるため、周りからは寝ているように見えるということ。


 流石に変な行動をしすぎては気味悪がられると1年ほど前に自覚したのでそういった自重を始めていた。


 ……と、こうした日課を行った後、鑑定魔法で経験値の獲得状況を確認してから、改めて布団へ潜る。


 明日からは生活環境が大きく変わるだろう。そうなると、この日課も今日で最後かもしれない。


 ……レベルを上げやすい環境だといいな。


 そう願いながら、私は意識を手放した。

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