エピローグ
進行役はエースではなく俺。みんなを集めて、いきなり取り囲まれたら男も怖いだろう。
困惑しながらキョロキョロしている男に向かい、俺が質問を開始した。
「どうもこんにちは。見たところ男のようだな。機械の体だから男も女もないだろうが」
「まあ、そうだな。アンタが例のノイトラの王だとかいう人だな。助けてくれてありがとう」
「いやいや、エースがうるさいから仕方なくな」
「違う。先生を助けてくれてありがとう。聞いたよ、飛行機でイブを届けてくれたんだってな」
「そうらしいんだけどさすがに昔すぎて私も記憶がね……」
「そうか。まあいい。まずはイブについての話をしようか、王様?」
「ああ。その前に名前を聞いておこうか?」
「俺はカルロス・ガルシア・エステべス。それが生前の名前だな」
「名前思い出したの!?」
「待て待て、そう矢継ぎ早に質問を投げかけてくれるな。一個答えたらまた一個謎が出てくるだろ?」
「わかったけど……」
エースは男に諭されて仕方なく一歩引いた。あの機械女エースがまるでシュンとした子犬みたいでかわいい。
男は話を続ける。
「生前の名前などどうでもいい。俺は先生に"シルバ"という名前をもらったからな」
「それはどういう意味だ?」
「ギリシャ語で王という意味の"Basil"をアナグラムしたものだ。
先生は俺が偉そうな男だという理由で、王様と言う意味の皮肉な名前をつけてくれたのさ」
「うむ。ギリシャ語ね。ギリシャ語……ギリシャ語だと?
それは何か、その、俺たちが知らない言語のことだな。どういうことだ?
エースはそんなのしゃべれないはずだ。昔のエースはもっと色々記憶があったのか?」
「そうだ。過去に存在した文明の情報もな。詳しく説明しよう。
いいか、このようには地球と呼ばれる星があり、そこは文明が栄えていた」
「ほう、それで?」
「やがて、ノイトラという種族を生み出した。人類は二極化への道を歩んでいったんだ。
わかるか。俺たちのような機械と融合した生命への進化の道筋。
それと分岐する形で、人間という概念や遺伝子自体を編集する"生身のまま人間を超越する"道筋。
人間はその両方のどちらかに進んでいったわけだ。ちなみに俺は、その研究者だった」
「研究者とはどういうことだ。お前はいったい……?」
「俺は暗号研究者だった。まあ、その話はおいおい話そう。
この星にも、王様がいるぐらいだから国というものがあるんだろう?」
「ああ」
「俺が生まれた時にはもう、俺たちには国という概念はほぼ存在しなかったな。
国よりも企業の方が力を持った惑星コーポラティズムが浸透し、地球上の砂粒一つに至るまでが誰かの所有物になっていた。
惑星コーポラティズムというのは、惑星規模での"企業第一主義"または"利潤第一主義"のことだ。
失礼だが王様、あんた仮にも国王なら政治経済のことはある程度分かるよな?」
するとなぜかベルンハルトが俺のことを自慢げに語りだした。胸を張って鼻を膨らませて嬉しそうだ。
「ナメないでください。うちの王様は経済政策に関してはちょっと右に出る人はいませんよ」
「おっ、そうなのか。さっきから気になってたがこのボクちゃんは一体?」
"シルバ"が俺に助けを求めてきたので俺は仕方なく説明をした。
「うむ。ベルンハルトと初めて会った人間ならそんなリアクションをして当然だな。
この子は俺の息子で、世界一頭がいい五歳児だ。俺よりもな。まあ、気にしないでくれ」
「そうか。了解した。企業というのは結局どんどんデカくなり、最終的には国の規模をも超える。
国というのは人口や土地に縛られた概念だが、惑星規模の多国籍企業にはそれはないからな。
そして企業同士は食い合い、畢竟、究極的にはあらゆる分野を網羅した超巨大財閥が出来る」
「まあ、ものすごい長い時間をかければいずれ、そうなるかもしれないな」
「実際、なったんだよ。俺が働いていた会社は地球を征服した。
人類の歴史上はじめて国境も信じるもの言語も関係なく、すべてが惑星規模で一つになったんだ。
その会社の名はキッド社。先生のうなじにあるKIDの文字は会社の名前だ。
会社の名前は英単語の頭文字だが、まあ、その話は別にいいだろう。
重要なのは、その会社が最初、暗号の会社として生まれたことだ。俺も暗号の研究者だった」
「暗号?」
「まずは暗号資産を作った。やがて暗号資産は投機的な動機から、莫大な金額で取引され始めた。
次に、この世のあらゆる情報を高度に暗号化して安全に管理するシステムが作られた。
つまり、国や企業の方からこぞってキッド社に情報を提供してくれるようになったということだ。
お金のやり取りも情報の送受信もすべてキッド社を通じて行い、やがて会社は世界そのものを牛耳るようになった。
そして知っての通り……キッド社は暗号を提供していた。レベルが上がるほどそのセキュリティは高度になっていく。
ただ、ある意味ではちょっとお笑い話にはなるんだがな」
「笑い話……ラフテルというわけか」
「そうだな。暗号というのは何かを守るためにある。基本的には情報だ。
そして、そのレベルが上がっていくと、発想が飛躍した。もう、何が言いたいのかはわかるよな。
そう、KID社を守るために最高のセキュリティを。そう考えていたらいつの間にか、レベル8という機械兵士が誕生していた」
「機械兵士レベル8がKID社の。ということは統治機構というのは行政機関ではなく会社ってことか!?」
「統治機構、それはKID社そのもののことだ。KID社は人々を統制し、管理するシステムを構築していた。
ノイトラもKID社の技術。質量保存の法則を無視した人類の最高傑作だ。
そして話はここからだ。君たちの中に、セキュリティを味方につける特殊な遺伝子の持ち主がいるはずだ」
「あ、はいわたしです!」
とリリスが手を挙げたのをちらりとシルバは見てまた俺に視線を戻し、こう続ける。
「彼女のような遺伝子の持ち主をセキュリティは守るように作られている。
それは同社の統治機構における"一等国民"の証明だ。
当然、それ以外の人間は"統治機構"の領土に無断で足を踏み入れた敵と認識され、問答無用で排除される」
「それはだいたいわかった。で、アンタ……シルバはセキュリティなのか?」
「人間だったと言ったろう。俺は地球で生まれた。
地球で生まれ、機械の体に自分を改造し、人間よりも長い寿命を生きた。
だからいろいろ知っている」
「それでエース……アンタが先生と呼ぶこの女はどうなんだ?
セキュリティだったというが、生前はアリスという名前だったんだろ?」
「よく知ってるな。先生も記憶が戻ったのか?」
「私はあんまり。ただアリスという名前がなんとなく気になってて」
「俺は彼女のことをそこまで知っているわけではない。
だが、恐らくそのアリスとかいう子供がセキュリティレベル8の素体として選ばれたという話だ。
そしてスフィアを守っていたエグリゴリとかいうセキュリティは知っての通りイブという少女が素体だった」
「なぜ子供を素体に機械兵を作ったんだ?」
「"人工知能"を作れなかったからだ。人間の脳を機械的にコピーしたサイボーグは作れた。
だが、人工知能を搭載して動くロボットは作れなかった。
エグリゴリはそうやって作られた。全てのセキュリティの中でも彼女は最も特別な女王だった。
何しろ本人が"一等国民"の証である遺伝子の持ち主だからすべてのセキュリティをつかさどり、操るべき存在だったんだ」
「おおー、なんかまるで俺と似ているな?」
「そうだな。ノイトラの王とイメージは近いか。
それと唯一争うことのできるのが、先生……つまりエースというレベル8だったんだ。
俺の心臓をあげたからレベル8という枠から抜け出てしまった、という話は聞いているかな?」
なるほど、と俺は思った。エグリゴリはセキュリティの女王だったのだ。
それと唯一戦えるのはセキュリティでありながらその埒外に行くことのできたエースのみ、だったということらしい。
その戦いの模様はぜひとも見学してみたいところだ。
「ああ。エースが話してくれた。お前からもらった心臓を大事にしているようだ」
「もうやめてよトーマ、恥ずかしい!」
などと和やかな雰囲気が出来つつあるかな、シルバとかいう男は続ける。
「エグリゴリには飛行機などの兵器や兵士が彼女のために作られ、スフィアが与えられた。
お前たちの生まれたスフィアをめぐる先生と俺たちによる、息詰まる激闘の模様は、まあカットでいいだろう」
「気になる!」
「それより話を進めようぜ。俺がここで氷漬けになっていたのは、統治機構の物理的実体をつかんだから、そこに向かっていたところだったんだ。
しかし知っての通り失敗した。とりあえず助けてくれて礼を言っておこう」
「うむ。どういたしまして。
シルバ、あんた統治機構の物理的実体を狙っていたようだが、俺たちはどうするべきだろうか?
それは壊してもいいものなのか。それとも……?」
「わからん。とりあえず行ってみないことには。俺も連れて行ってくれないか?
メシとかは食わないしねどこも廊下でいい。ここに俺を置いてくれ」
「心配するな。ここには元気なノイトラもたくさんいるから動力源におびえることはない。
ああ、そうだエース。エースが預かっていた武器、彼に返してみたらどうだ?」
「そうするわ。本当に生きていてよかった。また会えるなんて」
「俺もだ先生。一回目はその手で俺を生き返らせてくれた。
その次はこんないい仲間を集めてまた俺を見つけてくれた。
ありがとう、それしか言う言葉が見つからない。この恩はもう返せないほど大きくなってしまった」
「そんなに気にしないで。お互いさま。あなたも役に立ってくれたわ。
でも自分のことも全然覚えてなかったのに一体その変わりようは……?」
「俺も先生と別れた後色々あったんだよ。覚えてないか?」
「全然覚えてないけど、そもそも何で別れたんだっけ?」
「全く。お前たち、スフィアの前に、いくらか自然があったり建物や人工太陽のある階層を見ただろう?」
「あったなぁ。あそこにはローレシアという名前を付け、結構発展してるみたいだぜ」
「実はあそこは元スフィアでな。俺たちは戦ってたんだが、俺たちはスフィアに行くか、N極へ行くか、S極へ行くか迷った。
俺はS極へ行った。結果としては両方正しかったわけだな。
S極には統治機構の本体があったし、スフィアに寄ったのも正解だった。
そこでイブの残した種が実り、こうしてその子孫がいるってわけだろう?」
「まあそうだな。統治機構はウィルスにやられたそうだが、何か知ってるか?」
「俺だ。俺がやった。統治機構にウィルスをばらまき、機能不全に陥らせたのは俺だ」
「まじでかよ!」
「うそでしょ。私そんなヤバいやつ拾っちゃったの?」
「先生に拾われたあの穴の底は、俺とセキュリティとの戦いの爪痕だ。
ずいぶん派手にやったようだ。とはいえ、統治機構にはノイトラや機械人間といった者がいて、それだけで致命傷を負わせられたわけではない。
俺のやったことは、あくまでこの星を機能不全にしただけのこと。統治機構は他の星にもいる」
「ほかの星?」
それからシルバが説明してくれたことを俺が少し要約しよう。
地球とその周辺に広がった人間の文明は太陽系をも脱出し、新たな星系に進出。
この星はとある恒星の周りを公転する惑星であり、衛星が一個存在。
人の手がかなり加わったこの星のほかにも統治機構は存在し、ここの統治機構の物理的実体を壊したところで、まだまだバックアップはある、ということだ。
「南極の統治機構の物理的実体を壊せば、宣戦布告というわけか。
統治機構の連中が俺たちに戦いを挑むっていうならやってやるぜ」
「いや、そうじゃない。他の星系の統治機構はこれを関知せず、干渉もしないようだ」
「それは何故だ?」
「お前たちはエグリゴリによってスフィアに閉じ込められていた。
この世界の構造は、現在それと同じであるということなんだ」
「だからどういうことだ?」
いよいよ語られる。その時がやってきた。シルバは、この世界の実情を俺たちに話してくれた。
それを真実として受け止めた俺は、心臓を殴られたような胸の鈍痛を覚えた。
「文明は地球の人類が作ったものだけではなかった。宇宙にも存在していた。
他の星から連絡があり、人間を監視していることを通達してきた。
そして人間が太陽系を超えてほかの惑星系にまで進出したことで、警告が行われたんだ」
「それは?」
「文明レベルを低く抑えるかわりに、滅ぼすことは見逃してやる、そういう警告だ。
だからお前たちの以前の姿と同じだと言ったんだ。
俺たち人間も大きく分けて地球由来の文明から生まれた者たちだ。
その俺たちの存在は、宇宙に存在する別の文明によって管理されている、ということだ」
「スフィアはこの世界の縮図だった、そういうわけか?」
「だな。これが今俺の話せる、この世界に関するほぼすべてだと言っていい。
他の星のことはわからんが、とにかく、統治機構はこの星の遥か地下に人間の居住区を作った。
その理由は"外に出てこないように"と言われたからだ。ただし、早まるなよ?
宇宙人と戦うとか意気込む必要はない」
「どうして?」
「その命令が出てからいったい何百年、何千年経ったと思う?
正確な数字はわからんが、下手をすると逆にその進んだ文明の方が滅んでるかもしれない。
進んだ文明の方が逆に崩壊しやすいというのは何となく察しが付くだろう。
お前たちは天文学もやってると思うが、宇宙人なんて見当たらないだろう?」
「そのようだな」
確かに、進んだ文明の方が崩壊しやすいと言われればそうな気がする。
シルバの作ったウィルスで統治機構は大打撃を受けたし、核戦争などが起きれば星は容易に滅ぶ。
いわんや、進んだ文明ならもっとものすごい、想像もつかない大量破壊兵器を作ってしまうかもしれないな。
「もうこの星はお前たちのものだ。先生がまいた種が芽吹き、そこのお嬢さんを手に入れたお前たちに敵はないだろう。
あとは統治機構の物理的実体を壊すだけだ」
「しかしなぁ。アンタは宇宙人と戦う必要はないと言ったがみんなはどう思う?
俺たちからすると地球人の方が敵性宇宙人なんだよね」
「そうですねパパ。聞けば地球人は恐るべき愚かな政治形態のせいで滅んだようですが」
ハルトがコメントすると次に親父がこういった。
「それでも俺たちの仲間で共通の祖先をもつ者たちだ。出来れば仲良くしたいが」
「珍しく奇麗ごとを言うんだな親父?」
「不毛な戦いは避けたいだけだ。俺ももう五十歳が見えてくる年だぞ。
早く帰って医大の教授をしないといけない。宇宙のことなんざ考えてる暇はないさ」
「それが普通の意見だよな。俺も二十歳だ。
まだ若いとはいえ、惑星一つ丸ごと俺の手にかかっているんだぜ。
とてもじゃないが宇宙進出なんて。そういえば前にベンツ博士、そんな話を俺にしてくれなかった?」
「よく覚えてたね。そう、この宇宙は亜熱帯のジャングルのようなものだ。
視界は悪く、得られる情報は極端に少ない。
自分より弱い奴と遭遇している間はいいが、自分より強い奴に見つかってしまった場合、詰みだ。
そして宇宙はほぼ無限なので自分たちがどれだけ技術を発展させようと、上には上がいる可能性が高い」
「そう。つまり、考えてもしょうがないことだ、と言えるのではないか、シルバ?」
「それはそうだな。どうするんだ?」
「気にせず進もう。俺たちはこれまで、いつだってそうしてきた。
自分たちの力を信じ、壁を打ち破り、上へ上へと進んで光を求め、そして新天地をこの手につかんだんだ。
ベンツ博士の言う通り、上には上がいるだろう。自分たちより強い奴に気まぐれに滅ぼされるかもしれない。
でも死ぬのが怖くて生きていくことは出来ないだろう。滅びない国も存在しない」
「確かにな」
「だが、俺は奴隷の同胞を解放しにここまで戦ったことに、後悔はない。
そしてもし、地球の文明から始まった人間の行動範囲に、まだ同胞が奴隷としてとらわれているなら、進み続ける。
全てを解放するその日まで。俺が死んだとしても進み続ける。
それが俺の国、ノイトラ王国の存在意義だからだ」
「なるほど。王様、こんな若造が王かと最初は侮ったが」
「あなどったんかい!」
「だが、今は見直したよ。いい男じゃないか。一緒に行こう、S極へ」」
「当たり前だ!」
「うおおおおおー!」
俺たちは叫んだ。意味もなく叫んだ。誰が始めるでもなく自然発生的に。
それから約3101040時間後。
五歳の少年にして、ノイトラ王国初代国王トーマ・アラン・ロランのひひひひ(中略)孫にあたるトーマ十三世は、自室で夜遅く、長い長い私小説を読み終わったところだった。
言うまでもなく、先祖である初代国王本人が残した私小説だ。
「ご先祖様はすごかったのに、どうしてぼくの家はふつうなの?」
ベッドに入りながら一緒に本を読んでくれた母に聞くと、母はこう答えた。
「ご先祖様はね、ものすごくたくさんのお嫁さんとものすごくたくさん子供を作ったのよ」
「へぇ~、あ、だからぼくの家はふつうなんだ!」
少年の父親もそのまた父親もY染色体というのを父親から受け継ぐ。
それを際限なくさかのぼっていきつく先、それがY染色体アダムと言われる。
厳密にはそれと少し違うが、現代の地球でも地域によって、このY染色体がある特定の時代のとある男性一人に収束することがあるという。
例えば東アジア地方の男性の十人に一人ぐらいは、父親をさかのぼるとチンギス・ハンに行きつくというデータもある。
トーマ一世はまさにこのビアンキと呼ばれる白い巨大な星にとってのY染色体アダムだった。
本人がノイトラや女に産ませたのと、人工子宮で生まれた子供との区別はつかないが、とにかく、その男の子孫は膨大な数にのぼる。
というのも、彼が若かった時代は星全体で人口が百万人程度しかいなかったのだという。
ウソかまことか、トーマ一世は十万人の妻がいたという話もある。
仮に一日に十人に種付けしていっても、十万人に種付けし終わるまでに四半世紀以上かかる計算になるが。
百万人ほどの人口が三百五十四年の歳月が経過する間に、その間で交配と人口増加が進み、現在は二十億人の人口となっている。
当然二十億人全員がこの最初の百万人から増えているので、彼の子孫は時代を経るごとにどんどん比率が上がっていくというわけだ。
そしてこれも本人が語っていないので諸説あるが、こんなにも子孫を残したのには二つの有力な説がある。
一つは、ノイトラの王の力を逆にノイトラに当たり前のものにしてしまうぐらい、大量に彼の子供を残すことで、ノイトラの王などという超強力な独裁の力をもつ危険な存在が金輪際出ないようにしたという説。
もう一つは、単に彼が常軌を逸した女好きの性欲狂いであったという説だ。
とにかく、結果として、二十億にまで膨らんだビアンキというこの星の人口はその大半が人間、もしくは王の力を持つノイトラ。
言い換えると、人間に服従する遺伝子が壊れたノイトラであり、特にノイトラに関してはそのほぼすべてが彼の子孫であるという。
ただしこれには実は第三の珍説がる。
実は彼がいっぱい子供を作ったのではなく、彼の父親が信じられないようなプレイボーイであったとする珍説だ。
実際にトーマ一世には腹違いの兄弟が十五人以上は少なくとも確認されており、それが彼と同じY染色体をもつ男が多い理由であるとも考えられている。
「結局ご先祖様はとうちきこう? というのを壊したの?」
「壊さなかったわ。今もS極にそれは残されているのよ」
「どうして。悪い奴らの本体なんでしょ?」
「うーん、アナタにまだ早い話かな。難しいよ?」
「ママ、ぼくは何で壊さなかったのか知りたい!」
「わかったから」
お母さんは少年に、本には記されていない真実を語った。
「S極の統治機構の物理的実体を目の当たりにした彼らは当然壊そうとしたわ。
でもそこにはセキュリティがいて、どうしても壊さないでほしいと言ってきたそうなの」
「セキュリティはそれを守る役目があるんだよね?」
「そう。彼らは守らなければいけない理由を語ったわ。
統治機構の物理的実体の中には"楽園"が広がっていたのよ」
「楽園?」
「デジタル上でコンピューターに演算されている、もう一つの世界ってこと。
その中には大量の人間が暮らしていたの。どうしてそうなったと思う?」
「わかんない」
「人工知能は、人間から"人間を守れ"と命令されたのよ。
人工知能は自分なりに考えて、"宇宙人が攻めてくるかもしれないので、コンピュータ内に避難してください"と人間に言ったの」
「なんでそんなバカなことに従ったの?」
「当時の人間は人工知能の言うことをすっかり信じてしたがっていたからよ。疑いもしなかった。
まさか人間が機械にウソをつかれるとはね。
人々は人工知能の思惑通り機械の中に幽閉され、氷に閉ざされたサーバーの中で完全に"守られ"ることになったのよ」
「ふーん。でもさ、ママ」
「なぁに、カワイイ坊や?」
「この世界って本当に機械の中じゃないの?」
「えっ?」
「どうしてこの世界が機械の中じゃないってわかるの?
どうして機械の中で暮らしちゃだめなの?」
「バカなことを言ってないでもう寝なさい。明日は運動会でしょ?」
「そうだった。それが楽しみで寝られなくて続きを読んでたんだった!」
「そうでしょ。じゃ、おやすみ。電気を切るわね」
親子は目を閉じ、徐々に減衰していく部屋の中の明かりと同期して意識を薄れさせ、眠りについた。
この話はこれでおしまい。最後まで読んでくれた人がいたなら、どうもありがとうございました。
スフィアという舞台で話を始め、実はこの世界全体が同じ構造であり、最初の舞台はそれの縮図だった。
と見せかけて実は、人工知能が人間を守ろうとした結果、人間をシミュレーション上に幽閉したのが真相。
そしてオチとして、そもそもこの世界がシミュレーションじゃないとどうして言えるのか?
と疑問を投じて締めです。
というところまでは最初から考えていたんですが、余計な部分ばかり書いて肝心のストーリーや謎の回収はあまりにも長編になりすぎたため、読者も飽きてるかと思い、巻きで済ませてしまいました。
とはいえ、未完成に終わった七年も前から構想してた小説を再構築して完結させられてよかったです。
自己最長文字数を大幅に更新も出来たし、満足しています。
ここまで読んでくれた人がいたなら本当に感謝です。




