最終話 氷の大地にて
これから先は飛ばしていいと思う。ということで、二年半後に話を進めていこう。
二年半と言えば俺が二十歳を過ぎたころのことだ。
この二年半にあったことをすべて書いていこう。膨大な事項になるが、大切なことだ。
まず俺とコロンビーヌの間には子供が出来、また帝王切開で出産。なお、この子も能力は受け継がなかった。
そのためトーマジュニアが誕生することはなく、国民の子供たちと同じく、核融合発電施設の上にある牧場で育った。
一応俺はコロンビーヌが嫌と言わない限りは子供を産み続けてもらうつもりだ。
俺の王の力は一子相伝と決まっている。そうでなければ王同士で争いが発生する。
特に俺がハーレムを作って好き放題種付けなどすると大変だ。
万が一ということではあるが、気が付いたら俺の子供が王の力を受け継ぎまくり、その母親同士がほかの男を巻き込んで抗争に発展しかねない。
少なくとも地球の歴史上の似たようなケースでは、そのようなことが起こっていた。
だから俺はコロンビーヌ一筋でなければならないのである。
そういう意味でも俺はコロンビーヌと結婚したことは本人が思っているほど不正解ではないと思っている。
俺はガチ恋したことがないのだが、それでも、彼女と一緒にいることは全く苦じゃないし、彼女のことがとても愛おしいし、美人だし、何より圧倒的に性格がいい。
聞けば夫婦の長続きの秘訣は浮気をしないのは当然として、男女の関係を欠かさないことと、適度な距離を保つことだと聞く。
俺と彼女は三つすべて満たしているから、比較的長続きしていけると思うし、一応彼女の連れ子という形になるハルトとの関係は俺も良好だ。
何の心配もしていない。次は牧場の話をしていこう。
この牧場には家畜や犬、猫、ウサギといった触れ合い出来る動物たちが飼われており、そのほとんどは屠殺されることなく平和に一生を終える運命だ。
子供たちはここに四六時中いるわけではないが、この大自然の中と船の中を行ったり来たりする。
これが、俺たちが地表へ出てきて初めて作った植民都市・リリシアまでの道のりに続々と作られ、その二つの間には高速鉄道も開通。
この高速鉄道というのは中が真空になった透明のチューブの中を電車が超音速で走るものである。
そのため俺たちの船が地表を時速二百キロメートルで走るのとは比べ物にならないほどの短時間で両者を行き来することができるようになった。
それによってますます建築ラッシュは加速し、地下に核融合炉が大量に作られ、地上には地球に近い環境を再現した施設が大量に作られる。
それとともにリリシアからの移民は加速し、わが都市国家エクアドルの人口は当初の百人ちょっとから十倍以上に。
もちろん隣町の人々を含めれば六十倍だ。当然だが二年半もあって他の町を吸収していなかったわけもない。
隣の居住区へ行ってはそれの中心にいるレベル8と、それが仕事しないのをいいことに好き放題やっている山賊じみたゴロつきを一掃。
人々に感謝と畏敬の念を存分に浴びながら、俺たちはこれらの人口を吸収していった。
むろん人口増加は都市国家の吸収だけではない。技術力が高く、医療水準が高くて生活コストが低いこの俺のエクアドルという国。
ただし、それに不釣り合いなある欠点がある。それは娯楽が少ないことである。
だから子供を作るぐらいしか娯楽がなく、人々の間では予想されていた通りベビーブームが起きていた。
その際に、いよいよ準備されていた俺と博士とハルトの悪だくみの結晶、アパレル業界と広告塔というのが活躍していくことになった。
地上の自然あふれる公園に行くためにはエスカレーターなどを利用する必要があるのだが、そこにポスターを貼りまくるだけで効果は抜群だった。
そこのポスターにはエリザベスのポスターが貼られ、モデルに抜擢した俺とコロちゃんの赤ちゃんが一緒に写っている。
当然、我が国のベビー服ブランドの商品の広告だ。これを貼りまくることで人々にこれを買わないといけないのではないか、という気にさせた。
そしてベビー用品の店に人々を誘導し、本来必要ではないようなボッタクリ商品まで売りまくった。
そしてこれとセットで保険への加入もするように誘導を行ったのである。
保険というのは医療保険と生命保険。我々は医療を提供するのに人件費以外はお金を全然必要としていない。
だからお金はとらなくてもいいのだが、国民皆保険制度を導入し、人々から保険料を大量に徴収している。
これによって医療従事者への給料は賄えているし、保険会社のものも含めた人件費を払っても余るほどのもうけが出ているのである。
牧場の方に話を戻すが、人間はカワイイに飢えている。どんな人間でもだ。
地上の公園では猫やウサギ、さらにはハリネズミやチンチラといった珍小動物までいるから独身者でも通いたくなる。
すると、その道中で例の広告を嫌というほど目にする。
二年半の間に結婚して子供が出来れば当然、ベビー用品を買わなければいけないと頭に刷り込まれるのだ。
そしてベビーブームが起きると、いったい何が起こるのか読者に三秒ほど考える時間を与える。
早い話クイズをしようじゃないか。答えはそろそろ出たかな?
そう、答えは女性の美容とファッションに対する意識の変化で、若いうちから男受けを狙い、結婚しようとする。
同調圧力がかかり、子供を産んでいないと一人前扱いされないのではないか、と考えるようになったようである。
そして当然、子供を産むと体系は崩れがちだ。俺の母親などよく、俺を産んだから太った、などと度々愚痴っていたものである。
幸か不幸か、タマタマなのだが、エリザベスはその世間の需要に完全に合致していたのである。
彼女はふくよかで、抱き心地がとてもよさそうな、ふかふかしたまるで空に浮かぶ雲のような体をしている。
料理の鍋振りやメレンゲ作りなどで鍛えたのであろう。
ムチムチした筋肉と脂肪のハーモニーはよく働く雌牛のような出で立ちで、これぞわがノイトラ王国のセックスシンボルにふさわしい。
彼女こそマリリン・モンローでモナ・リザでクレオパトラなのである。
彼女こそが美の女神だ。ビーナスだ、アフロディーテなのだ。
そしてそのように宣伝文句をつけながら、彼女によく合う、そのままマタニティファッションとして成立しそうなゆったりした服を着させて広告を出したのだ。
その丸い顔、大根のような白くて太い腕、股の間に挟まって顔をスイカのように押しつぶしてほしくなるような極太の脚。
そして何より目を疑うほどの巨乳と、太くて長くてたくましい脚を支えるために発達した人間国宝に指定したいほどの大きなお尻。
これらが、女性にとって最も優れた特質であり、それを身に着けることが女性たちの使命であると広告したのだ。
母たちは家の中で娘に、「早くねんねしなさい。夜更かししているとお尻が大きくなれないよ?」
などと言って娘を寝かしつけていることだろう。このようにふくよかな女性がよい、というのは世間に円滑に受け入れられ、浸透していった。
世間には広告で彼女の着ているようなゆったりしたファッションが流行し、むしろ痩せている女性が太ろうとしているぐらいだ。
女性がファッションを重視することは別に男受けだけを狙ってのことでないことは重々承知の上で言うが、男が好きな女というのは、次のような思考実験をすれば大体見えてくるだろう。
まず自分が猛獣、例えばライオンになったとする。今日のランチにと適当な人間を食おうと思っている。
どういう人間がいいだろうか。男は女性より大きいので食いでがあるが、くさそうだし、硬いし体脂肪率が低いので栄養価が低そうである。
おいしく食べるには子供や若い女の方がいいだろう。老人は食べるところが少なそうだから論外だ。
キツイ香料のニオイや化粧品などの食品添加物が多いと食べる気はしない。ピアスやネイルも同様だ。
痩せすぎてる女や小さい子供は食うところがなさそうだし、できればふくよかなほうがいい。
となると、人間の筋肉で一番大きい大殿筋がよく発達し、ご丁寧に全身に脂肪をつけ、余計な香料や化粧品をつけていない自然体のエリザベスのような女が一番好ましいということになる。
とても食いでがありそうだ。最大の筋肉の塊であるお尻にかぶりつきたくなるし、ご丁寧に胸に栄養たっぷりな脂肪の塊をぶら下げてくれている、
彼女は端的に言うと男からすれば垂涎もののごちそうだ。
女を食うという表現もある通り、男にとって女を選ぶ基準と言ったらこんなものだ。
腹が減ってたら何でも食うが、何でも食べていいと言われたら大抵の男は彼女のようなタイプの女に食いつくはずである。
だからエリザベスこそがこの世で最も美しい女神であり、奇跡の産物なのであるという俺たちの主張は世間には広く円滑に受け入れられた。
それの副産物として、ふくよかな人に合う服を売るブランドがバカ売れして俺が儲かったのはもちろんのこと、もう一つ副作用があった。
俺の妻、コロンビーヌもエリーに近い体型なので絶世の美女として世間に受け入れられていったのである。
まあ、彼女は確かに本人曰く顔は地味だと言っているが、俺からしてみれば間違いなく絶世の美女である。
男に人気が出てしまったのはちょっとだけ嫉妬するが、まあ俺は余裕のある男。そのぐらいは笑って受け流すのみである。
ファッション業界、ベビー用品店、保険会社、そして家を売ったり家賃を取る不動産業。
そして人々に必要不可欠な水、食料の売店やホテル、地味なところでは公共交通機関や医療機関など。
これらはすべて俺の所有であり、売り上げはすべて俺の儲けとなる。
早い話、旧ソ連並みの超計画経済社会が実現している。その計画経済を主導するのはすべて俺だ。
そのため税金がないという天国みたいな国なのに、政府は想像を絶するほどの儲けを手にしていた。
別に計画経済がやりたかったわけじゃあない。だが仕方がないのだ。
とはいえ、その点においては多少は希望もある。
この国にも俺が断トツのナンバーワンとしてもそれに次ぐ資本家が何人かは生まれているからだ。
まずはエレン。娼婦たちを派遣する会社の社長をしているが、その売り上げをビジネスに使うことで売り上げを増やしていた。
彼女は俺が見込んだ通り頭のいい人だったので、俺に与えられたチャンスを何倍にもしてくれた。
具体的にはまず女たちの服装を統一して制服にし、その制服には広告を打った。
それはエレンの所有する物件の広告で何のお店かというと、それは口にするのもはばかられるようなお店である。
早い話がラブホテルとアダルトショップを合わせたような場所で、わざと近寄りがたい異様な外観になっている。
近くを通るとなんかいい匂いがしているのだが、同時にギシギシという木が軋む音と喘ぎ声が聞こえてくる、気がする。
実際には防音されているので聞こえてはこないが。そのお店には様々なものが売っていて、俺もついつい買いたくなるようなものがいっぱいだ。
怪しげな薬や、なんに使うのかもわからない恐るべき形をした道具たちが並ぶ。
だが本当にためになりそうな物も売っており、中でもエレン自費出版の性行為に関するマニュアル本はこのお店以外の書店にも並び、ベストセラーとなっていた。
そしてこれらの店での売り上げは不動産ビジネスに投資され、いくらかのマンションやホテルをエレン社長は保有している。
その家賃収入や印税収入などは相当なものだろう。
今では十五人体制からずいぶん人手の増えた娼婦たちの仕事の稼ぎでさえ、不動産業に比べれば大した稼ぎではないという。
次に説明不要のベンツ博士だ。
やろうと思えば俺を抑えてトップに立てるほどの力の持ち主である、
本人はビジネスに興味がないのだが、ハルトや元革命軍メンバーが協力して医薬品メーカー、建設会社などといった様々な事業で我が国に欠かせない仕事をしてくれている。
中でも一番儲かっているのはやはり、携帯電話代わりの手帳を販売する会社だろう。
ローンで買ってもらうので銀行も儲かっていることになる。
他にも銀行頭取や保険会社の役員など金持ちは増えたものの、それと並行して借金を抱えた人が増えた。
というのも経済が活発化してくるにつれ、借金して一発逆転。
お店か何かを持ち、成功を収めてやろうとする輩が出てきて、残念ながらこれは失敗するものが多かった。
儲かるのは銀行だ。利息を取り、毎月大きく儲けている。
次に、エリザベスも立派な資本家の仲間入りを果たしていた。
彼女はもともと食料担当大臣という内閣の一員であったうえ、レストランの新しいチェーン店の店主である。
これが大盛況。店主のエリザベスのようになりたいと女性たちに人気で行列ができるほどだ。
エリーは抜群に美味いがカロリーの高い料理を出してくれるので、確かにここに足しげく通えばエリーに近づけるのは間違いなかろう。
店が大忙しで儲かっているうえ、モデルの仕事も半ば無理やりさせられており、彼女は儲かった金を使う暇もないありさまだ。
俺ですら彼女に気を使って、お客の女性たちがピーチクパーチクと話しながら並んでいるお店には遠慮して行けないほどである。
彼女自身は全然金儲けには興味ないのだが、例によってハルトが俺の知らない間に一枚かんでいた。
ハルトと言えばこいつは五歳になったのだが、相変わらずの不愛想ぶりである。
しかしよちよち歩きしていた二歳のころと比べて格段に機動力が上がった分、俺も把握してないようなことを次々と行っては事後報告してくることが多くなった。
というか、俺に事後報告してくることでさえ氷山の一角でもっと色々手を出しているものと思われる。
先述の通り、俺の国民はほぼ全員がローンで携帯電話代わりの手帳を購入し、これにより一人一台以上携帯電話を持ち、とりあえず誰もが連絡を取りあえるようになった。
そのため、当然こうなってくるとハルトほど賢い者でなくてもビジネスチャンスを思いつくはずだ。
そう、食事のデリバリーサービスだ。小さくて軽い電動バイクも携帯電話もある。
そして何より、大人気のレストランがある、となればこうなるのも必然といったところだろう。
エリーの店は店舗が複数に分かれた。店主である本人が料理を作って接客してくれる本店と、弟子が作る分店がいくらかだ。
弟子の作る分店は厨房が床面積のほとんどを占め、接客一切なしと、分店は工場みたいな感じである。
そしてオーダーが来れば料理を作り、ハルトの会社の専門のスタッフがこれを届ける。
ハルトの会社は中間マージンをいただき、エリーの店は儲かるという寸法になっていた。
これにより五歳のハルトはもうすでに億万長者となり、ベンツ博士の息子ではあるが、博士と同じくらい頭がいいのに博士とは違う形でその賢い頭脳を用いている。
果たして五歳のハルトが何にそれだけのお金を使っているのかはわからないが、俺の方も負けてはいられない。
俺はハルトを好きにさせることまでが役目だと思っている。
頭のよすぎる子供は周りの環境のせいで、または自分の意思で自分の可能性にふたをすることがある。
俺はそれを防ぎ、総督の息子として、誰も批判や攻撃が絶対に出来ない安全圏に入れて守ってあげる必要がある、
それさえしてあげれば完了だ。ハルトの能力を発揮できる環境さえ整えればこのようにして末恐ろしくなるほどの成果を上げてくれる。
五歳の子供には不釣り合いの莫大な財産を持っていることも決して心配はしていない。
隣町を制圧してから二年半後、俺はいつも通りに日課となっている施設の訪問をしにいった。
ここは大量の子供がいる。俺はこの二年半ずっと探していた。ノイトラの寿命が減った分を元に戻す方法を。
しかしそれはどこを探してもなく、人間たちの技術力はむしろ俺たちよりも低かった。
拍子抜けだった。だから、ノイトラの仲間たちを助けるにはとりあえず人口を増やすしかなかったのである。
そういうわけで人工の自然を構築した居住区には大量の子供がいる。
それを育てる施設があるが、ここには保育士一人あたり子供が二十人という過密ぶりである。
俺の子供もいるこの施設だが、過密なので子供はほとんど牧草地の中に放し飼いみたいなもので、自由にさせており、保育士は事実上羊飼いのようなもの。
自分から動かない赤ちゃんを世話するちゃんとした保育士と、羊飼いのごとくほとんどの時間を走り回る子供の自由にさせるテキトー保育士に施設は二分されている、
テキトー保育士に対して求めるのは女性もしくはノイトラであることのみ。
俺の子は上の子が走り回るフェイズに入り、下の子はまだ自分では動かない。
「これは総督!」
「またお子さんですか?」
などと応対され、俺は人工牧草地の中に建てられた保育施設の本体に入った。
ここは簡素な作りで三分割になっており、保育士の休憩所、給湯室がセットになった部屋。
そして赤ちゃんが産婦人科のように大量に保育器の中に入れられた乳児室では、もちろん給湯室で作られた粉ミルクを適時保育士があげる。
最後に、一歳以上の子供は全部一緒くたにされて最後の大部屋に収容され、遊んだ後のお昼寝をしたりインドアな遊びが出来るようになている。
ハッキリ言って、俺はこんなところで幼児期を過ごすのは嫌だ。
実際金がないわけじゃないのだ。だがこの施設の惨状は金をケチっているからではなく人手不足だからだ。
別に差別するわけじゃないが、保育士に男を使いたくないのは同じ施設に実の子を通わせる親として当然の心理である。
比較的若い女性で、ヒマのある女性を雇わなければいけない上に子供の数がいきなり爆発的に増えだしたので人手が追いついていないのである。
それならせめて広い敷地で、人工ではあっても大自然の中でノビノビ育ててあげるぐらいしか出来ることはない。
「元気してたか。よしよし」
と俺は保育器に入っている俺とコロンビーヌの次女の頭を軽く撫でると、また仕事に戻ろうとドアを開けて外に出た。
そして以前からずっと愛用しているサイドカーつきのバイクにまたがったその時だった。
ブロロロ……。
何やらトラックが大群で入り口から入ってきて、人工牧草地の中に設置された駐車場に次々と駐車し始めたではないか。
トラック運転手は我が国に爆発的に増え、保育士の妻とトラック運転手の夫というのはゴールデンコンビ。
わがノイトラ王国の連邦の一つ、この都市国家エクアドルでの最も多いパターンであると思われる。
降りてきた運転手も幾人かはここの保育士と抱き合っているほどだ。
そんな中、トラックから明らかにおかしな奴が下りてきた。
五歳児のハルトである。トラックの助手席には誰も乗っていないから一人で乗ってきたようだ。
ハルトは降りてくると俺の顔を見て鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「あれ、総督。ここへ来られてたんですか?」
「いつも来てるぞ。それでなんだお前。何をここに持ち込む気なんだ?」
「昔僕が言ったことを覚えてらっしゃいますか総督?」
「なんだっけ。ヒントなさすぎだろお前……!」
「この国には自動化技術が乏しいと言いましたよね。
いよいよ納品の日が来たので、直々にCEOの僕がここへ来ました」
「何の話だ。ロボットでももってきたのか?」
「正解です。じゃあ久しぶりに」
とハルトは寄ってきて俺のバイクにまたがった足の間に入ってきた。
もちろん俺は片腕でこの体を包み込んで俺の胸にハルトの後頭部を押し付ける。
俺は甘えてきたハルトにこう聞いた。
「ロボットってまさか保育ロボットか!?」
「はい。中に入りましょうよ」
「おお、わかった」
俺はバイクのエンジンを切って中へ入り、ハルトの会社のスタッフが中へ機械を運び込んでいくのをただただ眺める。
保育ロボットが二台、子供が昼寝する大広間のような場所に設置された。
保育ロボットはあえて人間臭さを排除したデザインになっている。
いわゆる不気味の谷現象を回避したいのか、まず足元はコロコロとした車輪がついており、台車のようになっている。
その台車のような下半身と地続きで上半身が続いており、手足はついておらず、頭はあるが、これには目鼻口がない。
高さは一メートル四〇センチメートルくらい。ほんの少しだけ不気味だが慣れたらカワイイかも、といったデザインだ。
白を基調とし、ピンクをあしらっていることからも出来るだけ親しみがあるように作られているご様子。
「こいつらの言うことを子供たち聞くかな?」
「このロボの機能は主にカメラです。それともビームが撃てるようにしておいた方がよかったですか?」
「ガキどもを御するためにはそのぐらいでもいいかもな」
「本命はこっちです」
ハルトが案内してくれた乳児室では保育器が次々と取り替えられ、新たな保育器が据え付けられていた。
恐らくこれも保育器型ロボだろう。ハルトはこれについても説明してくれた。
「これは保育器型ロボットで、保育士の手帳につながってます。
無理やりアプリケーションをインストールしておきましたから今すぐにでも使えるはずですね」
「赤ちゃんのバイタルデータを取って送信する感じか?」
「はい。マイクロバブル発生器つきシャワーが設置されているので赤ちゃんが泣くと音声を検知し、自動的にシャワーしてくれます。
実験は重ねましたが、汚物の取り残しはないはずです。要するにほとんど放置してても大丈夫です」
「ご飯だけか?」
「ええ、さすがにミルクをあげる機能まではないですね。あと五年もらえれば出来ると思いますけど」
「このスピーカーみたいなので声を拾うわけか」
と保育器の中を指さすとハルトはこう補足してきた。
「それと逆に音声を流すことも出来ます。すでに音声は録音してありますよ」
「音声を流す?」
「はい。乳児期は言語の習得に欠かせない時期ですからね。まあ僕はそうでもなかったですけど」
「お前と比べるのは酷だろ……」
「はい。サンプルボイスが大量に入っているので言語の習得に困ることはないでしょう」
「やっぱさすがに無理か。こう、ロボットでばーっと簡単に子供を世話させるなんてこと」
「やろうと思えば出来るんじゃないですか。エースさんの分体を大量にコピーすれば」
「エースのコピー?」
「ええ。あの人は僕や博士でもまず作れないような人工知能を有し、繊細な体の動きも可能で感情があり、とてもやさしい人です。
赤ちゃんを任せても大丈夫でしょう。その分体を大量に作ることに誰の拒否反応もなければいいんですが」
「うーん……確かに、そう考えるとそれはちょっと急進的すぎるよな。
お前のプランは慎重かもしれないが、妥当ではあるよな」
「はい。丁度いいので領収書の方、受領してもらえますか?」
「ああ」
俺はハルトから領収書を受け取り、天文学的な値段に目をむいた。
「……この値段はなんだ、ハルト?」
「いやあ、開発に思いのほかお金がかかってしまいまして……てへ」
「てへってお前」
「可愛いから許してくれますよね?」
ハルトは目をウルウルさせながら上目遣いで見てきた。
俺が許すと確信しての行いである。
「フッ、当たり前だろ」
俺の方は別に金はバカみたいに儲かっているので何の問題もないことだ。
俺は領収書を懐にしまうと次にこういった。
「まだ終わりじゃないんだろ?」
「ええ。アレは完成しました。総督、もうそろそろ、ここを支配するのも飽きたんじゃないですか?」
「飽きたってことはないぞハルト。色々仕事はある。初期に比べたら楽になってきたのは確かだが」
上の方で長々と説明した通り、俺とその仲間は儲かりすぎている。
上手く行き過ぎてやることがなくなってきたほどだ。
具体的には俺は、生活必需品を売る店と不動産業と運送業と建設業をすべて握っている。
不動産ビジネスにおいては人々の住む家の家賃をすべて売り上げとしており、しかも光熱費と言ったエネルギー部門さえ俺の管轄だ。
つまり人々がお風呂に入ったり、暖房つけたり、クーラーつけたり、家庭で料理をすることでさえ俺の儲けとなる。
もちろんそれ以外に、国自体俺が作ったからだが、すべての軍事・警察権も完全に握っている。
これにより、税金を一切取らないという政治体制であるにもかかわらず俺の支配体制は盤石で、経済基盤も真っ黒な黒字体制なのだ。
そして俺のグループ内にはハルト率いる通信サービスや医療関係を牛耳る部門もある。
同じグループ内で保険会社、銀行、アパレル業界と、儲かる業種はほぼすべて掌握した。
特にファッション業界では無から価値を生み出すことによって爆発的なもうけを産むことが出来た。
そう、女神エリザベスの存在のおかげでだ。
少しでも彼女に近づける、ということこそが女性たちにとって至上の価値となった。
だから借金してでも高い服やクツやバッグを女性たちは買いあさることとなったわけだが、当然、これを借金してでも買うのは男も同じ。
それを女にプレゼントできるのがいい男である、というのが半ばこの国では常識化していた。
俺から独立して大きな勢力になっているのはエレン社長ぐらいのものだが、彼女の会社とて俺の気分次第で吹けば飛ぶくらいのものである。
そして現在、俺たちはもうすでにこの赤道付近の地下にある人間の居住区を分かっている限りすべて掌握している。
奴隷のノイトラたちも全員助けて、彼らが生み出していたエネルギーは地上のソーラーパネルと、核融合発電で全て賄っている。
これにより、もはやノイトラ人口を増やすという必要すらなくなった。
俺たちに残された大きなタスクといえば、ハルトに言われたアレのみだ。
南極に残された、氷に閉ざされた統治機構の物理的実体。
ハッキリ言ってそんなのは俺が個人的に興味があるだけで、ほかの人間にはどうでもいいことだろう。
「そろそろ動き出す頃合いだな。行くか、氷の海へ」
その後の模様はカットでいいだろう。このあまりにも長すぎた物語もこれで終幕。
俺たちの戦いは、この旅をもって一旦の区切りとなる。
まず、俺たちはずっと死蔵されていた旗艦ミレニアム・アヴァロン号とアーセナルたちを率い、南極点へ向かった。
正確には南極点付近の特定の位置だ。そこにノイトラ牧場のエネルギーがどんどん吸収されていたのを俺たちはつかんでいた。
この時、あえて供給するエネルギーを残したままにしておいたことは結果論ではあるが、英断であったといっていいだろう。
詳しく説明しよう。俺と少数の仲間たちは数か月かけて船で移動し、南極付近にまでやってきた。
いくら何でもこの極低温の莫大な氷河の海の中ではセキュリティとて動けるものではない。
全てが凍り付いた死の世界を徐々に南極点へ向かっていた、ある日の朝のことだった。
俺がいつも通り気持ちよく二度寝をしようとしていたその時、船内放送でエースの声が響き渡った。
「緊急連絡。みなさん、ごめんなさい!」
「連絡するなら連絡をしろ!」
と俺が自分の部屋で叫ぶと、ドアの向こうの操縦室にいたエースから直接こういわれた。
「ごめんねトーマ。私としたことが取り乱したわ。単刀直入に言うけど、あの人を見つけた」
「誰だよあの人って?」
「私が助けてあげたあの人よ。きっとスフィアにやってくると、助けにやってくると誓っていたあの人!」
「あの人!?」
俺は急いで部屋を飛び出して操縦席の窓から外を見た。南極にはいわゆる降水はほとんどないので死ぬほど見晴らしがイイ。
見晴らしがよすぎる。一面氷なので、太陽反射がまぶしくて目が潰れそうなほどに見晴らしがいいのだ。
それなのでエースは氷漬けになっている男を発見したという。確かに、眼下にそれは見える。
「氷の掘削には二十四時間以上はかかるだろう」
ベンツは適当に試算した数字を俺に言ってきた。もちろん俺は即答した。
「今更二十四時間なんて……何メートル下に埋もれてるのか知らんが、何日かかっても助け出そう」
「了解した。では始めるよエースさん」
「はい、博士。よろしくお願いします。私の個人的な願いではありますけど、それでも!」
「そんな念入りに言わなくても分かってるよ。我々も彼のことは気になっているのでね」
「よろしく!」
まあ、その後の模様もカットでいいだろう。巻きでいこう。重要なのはそれからだ。
男を氷から掘り出したはいいものの、それから一週間もの間、男を目覚めさせるのは難航した。
ハルト、エース、ベンツといったわが船のメンバーの頭脳がフル回転しても一週間かかるほどの難工事。
ただ幸い暇ならいくらでもある。南極点への道のりは想像を絶する気が遠くなるような距離だからな。
船を走らせながら極寒の大地を一週間。ついにその時が来た。男が目覚めたのだ。
水の氷だけでなく酸素や窒素、二酸化炭素が固体化したのも混じった絶対零度近い氷の中に閉じ込められていたから助かったようだ。
俺はその場に居合わせたわけじゃないのでまた聞きになるのだが、目が覚めた途端男はこう言ったという。
「先生、どこ行ってたんだ。ずっと探してたんだぜ?」
このボケっぷりには数百、もしかしたら数千年以上もの時が経過してようやく再会できて感動しているエースですら男に手を上げ、張り手で男が吹き飛んだほどだったという。
幸いその際に彼が壊れることもなく、すぐさま数少ないメンバーを呼んで彼を環状に取り囲み、会議が始まった。
とにかく早く完結させたかったので、話は巻きで。次回はエピローグです。
現在R18版でbitレベルで同じタイトルの作品をやってるんですが、こっちもよかったらどうぞ。




