第九十三話 俺は携帯電話会社かよ!
「あ、あの。総督さんですね」
と話しかけてきたおばさんに俺はこう答えた。
「ああ、そういうアンタはさっきのメリルとかいう人のお母さんだね」
「はい。娘は向こうで元気にやってますでしょうか?」
「今アンタと話してたでしょうが。心配だったら行けばどうだ?
見ての通りバスが待機してもらっている。それに乗ればいいだろう。
しかし百聞は一見に如かずと言うからな。よければそのバスに乗って観光しに行ってみないか」
ここまでは予定通り。バスの定員は五十人ぐらいだが、その分の人たちを乗せてホテルへ向かい、風呂に入れて料理を食べさせるのだ。
気持ちいいはお金になる。そして人は当然、気持ちいいに集まる。当たり前だ。
そうあれば二度と帰りたくなくなるはずだろう。
そのために、女工以外にも何人かの早期移民組に声をかけてあり、ホテルで観光客を誘導する係を任せてある。
「ちなみにお肉と卵は既にそこ、食料雑貨店に搬入してあるから欲しければ買い求めるといい。
値段は一キロあたり三ドルだ。それでは店員の紹介をしようか」
俺はパブリックビューイングの反対側にある食料雑貨店を指さした。
自分たちの話題が聞こえてきたので、まだ制服も出来ていないままとりあえず着の身着のまま仕事についたアンリ、ミナ、サラの三人が店から出てきた。
むろん百人を超える人々の注目を一身に浴びて緊張した面持ちでアル。
「紹介しよう。彼女はミナ、客引きと荷物出しだ。レジ打ちのサラ。
二人とも最近までこの街でヤクザ屋さんのもとで娼婦をしていたとか。
そしてあの巨乳で美人のお姉さんが店長のアンリ。用があれば呼ぶといい」
一人、また一人と人々はパブリックビューイングから離れて食料雑貨店へ入りだした。
そして出てくる人出てくる人、お肉や卵、パンなどを買えるだけ買って外へ出てくるではないか。
「おお! パパ、じゃなかった総督。すごい売れてますね!」
とリリスもご満悦。俺はそれに輪をかけて嬉しくなりながら言った。
「そうだなリリス。もっとも、移民が進みすぎると一時ここの店舗は人が入らなくなるかもしれないが」
「じゃあどうするんです?」
「人口が増えたらこっちに逆輸入という形で街を増やし人を入植させることになるだろう。
まあ当分はここでの仕事がなくなるということはないだろうが。
さて、問題はヤクザ屋さんなんだよな。一体いつになったらお出ましになるんだぁ?」
こんなに目立つことをやっているのにヤクザが出てくる様子は全然ない。
それどころか領主とかいう奴の治安部隊や兵士みたいなのも出てこない。
少なくとも領主の館には衛兵がいたのだが、まさか兵力があの二人だけということもあるまいに。
「まあいいか。おーいアンタたち、家に食料を買って帰るのはいいが、話があるから戻って来いよ!?」
「あの、お話というのは……?」
「あら、母さんせっかく安いのに食糧買わなくていいの?」
「いいのよ。そんなことより私、夫と一緒に移民することに決めました!
それだけではないわ。息子や孫たちも引き連れていきます!」
「それはいい。アンタ子供は何人いるのかな、おばさん」
「三人です」
「そうか。子供を三人育てたなら名医だと聞く」
「え?」
「つまり子供のことなら何でも知ってて忍耐力や子供との接し方、様々な知識や技術を身に着けてるということだ。
言い忘れてたが我がエクアドルでは目下、赤ちゃんを育ててくれる人を募集だ」
「孤児が多いんですか?」
「うむ……そう言うと語弊があるが、まあそんなところだ。ベビーシッターと保育士がいると助かる。
アンタのような経験豊富な人が欲しかったんだ。出来れば同年代の主婦友達とかも誘って移民してくれないか?」
「わかりました。声をかけておきます」
「助かる。ところで――」
話を続けようと思っていたらイカニモ系の奴が近づいてきたので俺はにやりとほほ笑んだ。
そのイカニモ系の奴らが道の向こうから近づいて来るのが見えると人々は話していたのをやめて押し黙り、逃げだしてしまった。
もう俺の仲間以外にここら辺には人っ子一人見当たらず、ヤクザ屋さん風のガラの悪い五人組の男だけが悪目立ちしている。
すると突然、俺の耳元で後ろからイブが小声でささやいてきた。
「どうする。殺すか?」
「殺さねーよ。アンリ、出番だ」
「いいんですか? 僕がやったら殺してしまうかもですけど」
「構わん。やれ」
「わかりましたけど」
アンリは俺の指示通りに店の中から歩み出て、その代わり、ミナとサラは店の奥に引っ込ませた。
もうすでに店長として、年長者として、子供たちに慕われているようである。
アンリは隊長気質というか、割と俺以外の相手には姉御肌なところがあるので決して不思議ではない。
アンリはまっすぐ自分たちのところへ向かってくるヤクザの前に無表情で仁王立ち。
逆に後ろの子供たちには背中で安心させながら、男たちに向かってこう言っていた。
「何の用ですか。お客さんではなさそうですね」
「困るんだよお姉ちゃん。その子らはうちの大事な商品でね」
「勝手なことされちゃ困るんだよな。ケンカ売られたら俺らはほら、買うのがルールだから」
「そして徹底的に叩き潰して二度とその気を起こさなくさせるのが鉄則でね」
「なるほど。奇遇ですね。我々も同じなんですよ」
「なんだって?」
「我々の掟の方が百倍厳しいですけど」
アンリは手のひらをヤクザに向けた。何をする気かと思ったら、突如としてヤクザたちがぶっ倒れたではないか。
しかも目を抑えて転げまわり、さらにはゲロを黒くて滑らかな地面に吐いたかと思うと、足元がおぼつかず、立とうとしてもまたコケてしまう。
そして生まれたての小鹿でももうちょっと手際よく立つぐらいにフラフラしながらヤクザたちはアンリによって秒で全滅させられてしまった。
一応みんな息はあるみたいだが、一体何をされたらああなるのだろうか。
「おっとアンリ、お前一体……?」
「トントン、なんかこう……すごいね」
俺やリリスたち観衆がコメントに困っているとアンリは簡潔に説明してきた。
「僕はノイトラとして生み出す"エネルギー"を波の形にして出力することが出来ます。
人間の頭蓋骨の固有振動に合わせた周波数を指向性を持たせて飛ばしました」
「すると……どうなる?」
「目まい、頭痛、吐き気。聞き続けると頭蓋骨が割れる周波数の音です」
「恐ろしいことするよな、アンリ」
「まだ優しいほうでしょう。ところで寝ていられると邪魔なんですけど、こいつらどうしましょう?」
「大切な人手だ。ほどほどにしておけ。しかしヤクザが出てきたということはいよいよだな。
確かこの街を牛耳ってるのはこいつらで、ショバ代も巻き上げているとのことだったはずだ。
つまりその尖兵をヤッちまった以上は戦争ということになる。ククク、良い人のふりはもうこれで終わりだな」
「戦争……本当に戦争をするんですか?」
「ああ。ただし、俺たちは圧倒的に強い。そのことを向こうに悟らせないように戦力を引き出させてから一気に叩く。
というわけだサラ、お前には吐いてもらうぞ」
「私まだお昼食べてません」
「違うわ。ヤクザたちの根城とかがあれば教えろ」
「根城ですか。私たちほら、ちょっと前まで娼婦だったじゃないですか?」
「そうだな。その時どこに住んでたんだ?」
「この街の中心街……領主様の館がある付近に私みたいな孤児も住んでました」
「まあ、どこもそうだろうな。繁華街だ。娼婦なんだから人が多いところに置いておかないとな」
「私は総督には感謝してます。助けてもらったから。
悪いですけど、その、どうせなら同じ仲間たちも助けてほしいなって」
「元からそのつもりだ。俺はヤクザに喧嘩を売りたかったからお前らを呼んでくるよう娼婦のおばさんに頼んだんだぞ?」
「えっ、そうだったんですか!」
「最初からお前たちの仲間も全員助けるつもりだったよ。だから教えろ。
俺たちは強い。この世の誰よりも強い。心配はしなくていいから」
サラは一瞬泣きそうな顔で俺を見た後目を伏せ、ぐしぐしと手で目をこすった後、赤い目をしてこう言ってきた。
「はい。良ければ今から案内します」
「助かるよ。聞いたなリリス。俺が先行するから、手の空いてるものを集めて武装させろ」
「アイアイサー。それじゃエースさん行きましょう」
「そうね。私が行くとオーバーキルかもしれないけど加勢するわ」
「助かる。じゃあな」
俺は通信をひと段落させると、サラの手を取った。
「じゃあ案内してもらおうか。ていうか、徒歩で行ける距離なんだろうな?」
「総督はこの間、領主様に徒歩で会いに行ったんでしょう。だったら大丈夫だと思いますけど」
「そうか……了解した。まずは領主の館に行くか。アンリ、ついてくるか?」
「はい。ミナちゃん、ここにいるよりはいっその事ついてきたほうが安全だよ」
「わかりました、てんちょ」
「護衛のアルたちはここにいてくれ。連中が性懲りもなくきて嫌がらせしてくるかもしれないからな」
「了解した」
「チッ、久しぶりに実戦かと思ったが」
血気にはやる仲間は護衛に残し、準備完了。
てんちょと慕われているアンリもミナという読み書きも出来ない子供と手を取り、俺たち四人で歩き出した。
もう周りにはろくに人がいない。客たちは雲散霧消して帰ってしまった。
もう客がいなくなろうが構わん。
俺たちは領主を倒し、ヤクザも倒してこの付近一帯を制圧する。
ここからさらに向こうへ行けば別の領主がいるはずだ。
そこも制圧し、徐々に中央も無視できない存在になっていくことが、この都市国家エクアドルの目的である。
それはそう長いことかからないはずだ。中央ごときに俺たちは負けない。
俺たちの兵力は一万人ほどのノイトラだけに過ぎないが、もし仮に二〇二〇年代の地球人類と戦争になったとしても勝てるくらいの軍事力がある。
俺たちはもう、神だの王政だのに翻弄されるターンからは卒業をしたのだ!
「ヤクザのヤサだとかいうところはここか?」
俺が住宅街を少し路地に入ったところにあるお屋敷風の家を指さすとお嬢ちゃんはうなずいてくれた。
「私たちがいたところです。どうしましょ?」
「やることは一つだ。突入するぞ」
「トーマ様、今のあなたは分体ではなく生身です。危険なことはする必要はないでしょう」
「アンリ、お前はどれだけ俺と付き合いがあるんだよ。俺が身の安全のために後ろに引っ込んでいたことがあったか?
俺はリーダーだ。リーダーとはその名の通り仲間の前を歩き、導くもんだろう?」
「それは……!」
「わかったな、では行こう。お邪魔しまーす!」
と屋敷の門を開けて中へ入り、玄関から勝手に入った。
すると中の人はおそらくすべて女性。彼女らが最年少である仲間のサラたちを見て駆け寄ってきたではないか。
「もうどうしたのアンタたち。心配したんだから!」
「探しに行こうって言ってたのよ?」
「いくら何でもアンタたちにお泊りコースなんてないもんね」
などと口々に女たちが言っていて、門と玄関のあいだにあるスペースには俺たちを含めて二十人ぐらいが密集していた。
「あら、あなたたちが迷子のこの子たちを連れてきてくれたのね。ありがとう」
と一人のリーダー風の女が俺の方へ寄ってきて握手してきた。
この女は明らかにほかのイモっぽい娼婦と比べても段違いに美女だ。
それでリーダー風の空気を醸し出しているのだろう。どことなくみんな彼女に遠慮をしており、また尊敬と嫉妬をしているような感じがする。
俺は彼女と目を合わせながら笑顔を作ってこう返した。
「どうも。俺はトーマ、この世のすべてを手に入れる男だ。
この辺はヤクザが牛耳ってるようだな。アンタたちはその支配下にあると思って間違いないか?」
「もしかしてそうなの?」
俺は意味不明なことを口走る女に、それの意味をある程度は察してこう言った。
「多分そうだ」
「そうなのね。あなた達子供たちからヤクザの話を聞いて助けに来てくれたのね?」
「そうだな。俺たちにはその力がある。
俺は別にアンタたちの娼婦という仕事に対し否定するつもりは全然ないんだ。
やるならやればいい。ただしその儲けはヤクザに吸い上げられるのではなく、アンタたちで山分けすればいい」
「しかしそんなこと領主様とヤクザが許さないわ」
「実は俺たちはいまだにこの辺のことをよく知らなくてな。
聞きたいんだが領主とヤクザの戦力はどうなっているのかな?
この辺の人口はどうなってる?」
「人口は……多分この辺は五千人くらいだと思うわ」
「ハッ、鼻で笑っちまうぜ。なあアンリ?」
「ええ。話になりませんね」
「アナタたちは何万人もの大きな都市からきたの?」
「いや。俺たちの町の人口は数百人というところだ」
「少ないじゃないの。一体その自信はどこから……?」
「よかったら俺たちと一緒に街に来てくれないか。
きっと楽しいぞ。俺たちはお前たちの五百年先を行く技術力がある。
とはいえ、もう出し惜しみをする必要はないだろう。
アンタらの安全を確保したら連中をぶっ潰すからできれば全員で来てほしい」
するとここへ読み書きができないほうの子供、ミナが絡んできた。
教育はないものの、頭はそんなに悪くないようで今自分がこう言えば俺のためにも仲間のためにもなるとわかっているみたいだった。
「そうですよ、私たちはこの目でしっかり見ました。
向こうでの生活はこっちとは比べ物になりません!」
「比べ物に?」
「はい。全てのものの値段が安いですし優しい人もいっぱいでとにかくすごいんです!」
「どーんってデッカい機械とかお城みたいなのもあってすごい迫力でもうめっちゃヤバいんですって!」
ボキャブラリーが貧困な女の子たちなので自分の思っている半分もリーダー風の女には伝えられていないようである。
悔しそうだ。だが彼女は優しい人なので笑顔で二人の頭を撫でながらこう言ってくれた。
「そうね。私もついていこうかしら。あなた達のところへ」
「アンタ見たところ育ちがよさそうだな。気品さえ感じる」
「それはどうも。お上手なのね」
「やはり俺たちのところへ来るべきだ。そういえばここは人口五千人と言っていたな。
隣町は中央に近いと聞くが、その方が人口は多いのか?」
「私たちは隣町との行き来が認められていないわ。
中央は栄えているらしいけどね」
「そうか。風通しの悪い地下都市なんか俺が全部ぶっ壊してやるよ。
特別に見せてやろう。ホラ、この手帳を見てみろ」
「どれどれ……」
俺は女に手帳を見せ、そして彼女はその手帳の画面に女の子が映っているのを見て驚いていた。
「パパ美人さんにはすごい優しいんだね?」
「わ、絵がしゃべってるわ!」
「リリス。この人はリーダー格の人みたいだから丁寧に付き合っているだけだ。
それでリリス、俺が言いたいのはそんなことじゃない」
「どうしたの?」
「もうわかるな。わがノイトラ王国の戦力を投入する。
戦車を出すぞ。ブリュッヘルは装甲車両に乗るよう伝えておけ。
アーセナルの投入だぞ。俺たちの兵器の大半はこの狭い町に入らないが」
「わかったわ。アーセナルの管理はエグリゴリさんだから彼女に伝えおきます、パパ」
「ご苦労。俺は女を十五人くらい連れて帰還する。移民局に連絡して準備させておけ」
「わかった。おもてなしの準備もしておくね」
「了解した。帰ったら頭撫でてやろうか?」
「ご褒美ならほかのでお願い。じゃあね」
と言って俺たちが通話を切ると当然、リーダー格の女は俺にこう聞いてきた。
「あの、パパって。そういうプレイの一環なのかしら」
「あの子はリリスだ。毎回そのことを説明するのが面倒くさいので、もういちいち説明しない」
「あら」
「とにかく一時間もすればここいら一帯は俺たちが実効支配することになる。
移民局も忙しくなるぞ。五千人の人間が一気に移民局の仕事になるんだからな」
「それって……!」
「手始めにこの街を掌握する。仕事があるので来い」
リーダー格の女が俺についてくるのでほとんど無意識的にほかの女もなんとなく雰囲気に流されてそれにゾロゾロとついてくる。
俺は彼女らとベルンハルト本体を連れてエクアドルへとバスで戻り、移民局にいった。
移民局にはエースの分体と数人のノイトラが事務員として働いている、
スフィアに残してあるノイトラ王国と同じく、移民局というよりは国家総合管理事務所になっている。
そのため住民の戸籍管理のほか不動産屋さんの真似事などもしており、管理する必要のある事柄をほとんどすべてここで一括管理している
「ようエース。こちらは隣町から連れてきた娼婦たちだ。娼婦って知ってるよな?」
「バカにしないでよ。住民登録ね?」
「ああ。住民登録のほかにウチの子会社を作って彼女らにやらせようと思うんだ」
「ちょっと待って。住民登録はともかく子会社ですって?」
「ああ。先に住民登録を済ませてくれ」
女たちはごちゃごちゃと文句を言い出したが、結局諦めて住民登録を行った。
それでわかったのだが、リーダー風の女はエレンという名前だということだった。
俺は住民登録を済ませせ、仲間にも同じようにさせてくれた彼女にこう言った。
「それではエレンとやら。何度も言うが俺はあんたらの娼婦という仕事を否定するつもりはない。
転職するならそれはそれでもいいが。娼婦という仕事は国が管理しようと思っている。
いいか、俺たちの国は会社が牛耳っている。というか、社長である俺を頂点とした"会社が国"だと言った方が正しいか。
だからこの国に存在する組織はすべて"本社の子会社"だし、アンタらの会社も同じだ」
「じゃあ私たちは会社を持てるということ?」
「ああ。俺たちの国には税金らしい税金は存在していない。
だから売り上げは全部会社で保有し、社員の働きに応じて給料を支払えばいい」
などと話している間にもブロロロ、という音が外から聞こえてきて、地鳴りがする。
装甲車に乗って兵器を装備した兵士たちが隣町へ出兵する音である。
俺の手帳にもリリスたちから電話がかかってきて、いよいよ兵士たちが出撃したと連絡がきたくらいだ。
「なるほど。兵士たちが来たらしいな。会社を興したら早速最初の仕事だ。
あの兵士たちを労ってあげたいのでアンタらに仕事を頼みたい。一発いくらだ?」
「一発十五ドルになっているわ」
「それで普段アンタらはそのうち何割くらいもらえるものなのだ?」
「まさか。九割は巻き上げられているわ。あのヤクザのやつら……!」
話がそれてしまった。ここにはヤクザがいないことをいいことに、ここぞとばかりに女たちは口々に悪口を言い出した。
ヤクザは構成員には娼婦にタダでヤらせる、つまりほとんどレイプみたいな形で仕事をさせるだとか、妊娠しててしまったときの保障などがないとかだ。
俺は黙って話を聞き、しばらくして女たちがようやく黙ってくれたところでこう返した。
「うむ。ヤクザの肩を持つわけではないが、彼らにも事情があるのだな」
「なによ事情って?」
「エレン、アンタならわかるはずだ。娼婦というのはか弱い女が性欲ギンギンの男と身一つで取引する危険な商売だ。
アンタらの客を引き、悪い客からは守らねばならないのでその手間賃が必要だったわけだな」
「それにしたって私たちのお仕事の成果をかすめとりすぎよ!」
「わかってる。だから売り上げは全部アンタらの会社の好きにしていいと言ったはずだ。
それにアンタらを悪い客から守るのは、この国の警察だ。
つまりそれに対しお金を払う必要はない。客引きは自分らでやってもらうが、今回のように俺が仕事を依頼をするケースもあるだろう。
ところで、悪い。仕事を依頼するのが早かったな。社長と会社名を決めてからにするか」
すると誰が言うでもなく女たちは一人の女を指さした。エレンのことを誰もが推しているらしかった。
「そんな。私が社長でもいいの、みんな?」
女どもはうなずいていた。これほどのカリスマ性。エレンとかいう女何者だろうか。
よっぽど優しくて古株でみんなを世話してくれていたのだろうか。確かに美女ではあるものの、ベテランではあるように見受けられる。
三十歳から三十五歳くらいだろうか。
「どう見てもそのようだな。ではエレン社長、依頼を受けてくれるか?」
「わかったわ。兵士さんたちを慰安したらいいのね」
「ああ。仕事量はアンタが管理して俺に報告し、金を請求すればいい。一発十五ドルだったな?」
「ええ。口なら十ドルだけど」
「……そうか。まあいい。では仕事を頼んだ。戦争が始まったからしばらくここにいろ。
ではエース、話は以上だ。事務作業を行ってくれるか?」
「わかったわ。バスの運転手のミリーちゃんにはいつでも出発できるように待機させておけばいいのね?」
「ああ。俺は適当なところで分体を操作する。エース、会社の起業祝いだ。
俺にツケといていいから、何か彼女らのためにメシのデリバリーでも頼んでくれるか?」
別にお祝いのつもりはない。女たちは痩せてるのが多く、お金を巻き上げられているというから腹が減っているだろうと思ったのだ。
腹が減っては戦が出来ぬのは女も同じ。女たちには元気な状態で兵士たちを労ってほしかった。
「わかったわ。優しいわね。全く初めての人には優しいけど既存の人にはそのまんまなんだから」
「俺は携帯電話会社かよ。じゃ、俺は行くからな」




