第九十二話 俺の息子が死ぬほど天才すぎて困る件
「アンリは左側を。リリスは前方。俺は右側の街を回ることにする。
一応各自ヤクザに出くわした場合は助けを呼べ。じゃあな」
俺たちはそうして解散し、俺は言った通りにベルンハルトを抱っこしながら大通りを右側に向けて歩いて行った。
「あ、そこの主婦。よかったらこれどうぞ」
と俺はその辺を歩いていた主婦にビラを手渡した。主婦は子供が好きだ。
特にハルトのような可愛い美形な子はな。すぐ引っかかってくれた。
「あらあら。女の子ですか?」
「この子はベルンハルト。男の子ですよ奥さん」
「かわいい子ですね。このビラは……?」
「ほら、街はずれに水を売ってるところあるでしょ。有名なんじゃないすか?」
「それはもう! ここ最近はあそこでしかお水を買ってませんよ……いつも助かっています」
「俺はそこの経営責任者でしてね。実は今日新たに水の売店のそばに食料品店を開いたんだ。
パン一斤一ドルにした。そのほかの食糧も安くしておくよ」
「うう……行きたいのはやまやまなんですけど周囲の目が」
「どうして?」
「バブー」
ハルトが赤ちゃんを装って相槌を打つと主婦風の女性はこう答えた。
「ほら、ヤのつく自由業も目を光らせてます。彼らのシノギになってるんですよ。
土地も食糧も水も全部。領主様は我関せずなので好き勝手してるみたいですよ」
「なるほどな」
俺たちのスフィアでもそうだった。
スフィアの様子に神であるエグリゴリは興味がないのでその下の王族だのといった権力者が好き勝手していたのだった。
「よかった、ありがとう。あんたのおかげで話がスッキリしたし、礼を言っておこうかな」
「ありがとう……ございます……?」
「ああ、それとこれ。ビラが百枚だ。あんたは十人ほどの知人にこれを十枚ずつ配ってくれ。
知人はそのまた知人に九枚配ればあっという間に百人のお客がくるってわけだな。
俺たちはその前にヤのつくおじさんたちを始末することにする」
「え、始末って――」
「こいつのことは頼んだよ」
俺はビラの束を主婦に手渡すとそのまま水の売店のあるところまで戻ってしまった。
まだ誰も帰ってきてない食料雑貨店に戻ってくると早速ハルトにこう言われた。
「パパ、もしかして……?」
「ああ。エースを連れて行こう。もっとも俺だけでもなんとかなるかもしれんが」
「私ではどうだ?」
「エグリゴリか。どうした?」
「私はイブだ」
私には本体も分体もない。そう言っていた当人だが俺に本体を見抜いてもらえないと怒るらしい。
なんとなく憮然とした表情をしているように感じた。
「お前の手段は危険だ。乱暴だしな。それよりもっといい方法がある」
「それはなんだ?」
「移住させるんだよ。エース、移民局の仕事、後で頼むな」
「わかってるわ。でもいきなりやってきたよそ者の言うことに従って移住するかしら?」
「考えがある。どうやらこの街の人間はテクノロジー的に遅れてるようだから、テレビでも見せてやったら一発だろう」
「どうやって見せるの?」
「その点に関してはベンツに……いや、ハルト、出来るか?」
「話を整理させてください。つまりパパの言いたいことはこういうことですか?
向こうの工場でテレビや大量の手帳を作って無料で配って、エクアドルの様子を生配信して移住してきてもらうと」
「正解だ。携帯やテレビを売る儲けが減ることはもうこの際どうでもいいことだな。
無料で配ってエクアドルの清潔な暮らしを見て行ってもらおう。
給料に比べて生活費は安いし、税金もなけりゃヤクザだっていない。
総督はこうして住民のために汗水たらして働いているし、風呂にも毎日入れるんだぜ。
テクノロジーも進んでる。行くっきゃないだろう」
「そうですね。ではもう一人の僕の分体を使いましょうか」
「あれ、ハルトの分体って官邸にいるのだけじゃなかったの?」
「旗艦には昔から博士のラボがあったでしょう。僕の二体目の分体はずっとそこでラボにこもってましてね。
まあ、基礎研究が一つ終わったところですし、手が空いたので。
逆に官邸の方の僕の分体はまだ法律の仕事がまだまだありますからね」
「うむ。とにかく移民させて人口を増やし、都市に密集させるのだ。
そうすれば効率的に金も儲かることだしな。そのためにも一刻も早いテレビ局の開設が必要だ。
それを受信するテレビと携帯電話もな。記念すべき最初のテレビ放送だ……やるぞハルト!」
「やるのは僕です。僕の本体はそのまま抱っこしていてくださいね」
「わかった。俺も建設の指揮をしないといけないから向こうへバイクで戻るぞ。
ほかの皆はトラックに乗って戻れ。俺はハルトを連れてバイクで帰るから」
「あ、じゃあ私サイドカーね」
リリスが俺が乗るよりも先にすかさずバイクに乗った。
「しょうがないな。ハルトもリリスの甘え上手なところしっかり学ぶんだぞ」
「お姉ちゃんが教えてあげるね」
「学びませんよ」
俺たち親子はわいわい言いながらも三人でバイクを駆り、エクアドルへ戻った。
エクアドルは夜用の照明が点灯している。
ここは地下空間なのでやろうと思えば一日中明るく照らすことも出来るが、八時間ごとに違う照明が点くようになっている。
そうでないと人間の健康に異常をきたしてしまう恐れがあるからな。
そういうわけでやや暗めの照明がついた地下都市エクアドルに戻ってきた俺たちは早速ベルンハルトを俺の腕の中から下ろした。
そしてよちよち歩きのハルトに歩調を合わせながら歩き、地表へのエレベーターを目指す。
当然、ここまででメシやトイレ、風呂や睡眠の休憩はない。俺達は自由業だからな。
地表のエレベーターを上がって地表へ出て、旗艦へ戻る方向の隔壁を歩いていると向こうからもう一人の小さなハルトがよちよちと歩いて来るのが見えた。
「お、あれがハルトくんの分体ね。心なしか小さいけど」
「数か月出しっぱなしですからね。その間に本体の僕も大きくなりましたから」
「なるほど。あの分体が何を研究してたって?」
「抗生物質です」
「はい?」
「どうやら地下都市の連中、パパが望んでいたほどのテクノロジーがなかったようで。
まあしょうがないでしょうね。スフィアと状況は同じなんですから。
そうなったら結局僕らで抗生物質を作るしかなかったわけですが」
「作れたのかよ。まじで?」
「まじです。博士も一応開発しようとしていたようですが僕とはまるでモチベーションが違いますからね。
僕は母親の命を助けたくて必死なんですよ。その僕に不可能なことがありましょうか」
およそハルトのキャラには似つかわしくないような熱血な言葉に俺はたじたじだった。
冷静沈着頭脳明晰、の熱血キャラというのも面白い奴だ。そして結果を残してくれるのだから素晴らしい。
「抗生物質のデータが造換塔とかに残っていたの、ハルトくん?」
「いえ。姉さま」
「ねえさまだって、聞いたパパ?」
リリスもすっかりハルトのかわいさにやられて腰砕けになりながら俺にキラキラした輝く目を向けてきた。
しかしなぜこんな仏頂面の生意気なガキなのに、可愛いのだろうか。変なフェロモンでも出してるのだろうか。
「ああ。でも話の腰を折るんじゃないリリス。結局のところどうだったんだ?」
「医療関係の技術は造換塔から意図的に消し去られていました。
これは人口爆発を防ぐためでしょう。だから自力で作りました。理屈はわかっていたんですよ。
要するに微生物の細胞分裂を抑制する物質を――」
「なるほど。わかった」
「わかってないでしょう」
「わからないということが、わかった。説明はしなくていい」
「そうですね。とにかく微生物をこれでもかというくらいに殺す薬が出来ました。
実は博士、ウジ虫の研究もしてましてね。ウジ虫は牛糞や動物の死骸を生物分解してくれる存在です」
「ああ、俺たち今からそこに行こうと思ってたんだよ。核融合発電所の上の牧場にな。
博士はそのことを研究してたってことだな?」
どうやら博士は非常にオーガニックでなるべく自然に近づけた牧場を作りたいらしい。
そしてそうなれば木とかも生やしたりしてみて、シカとかウマとか食べ物にはしない動物も放ってみたり。
そしてそこに人間も遊べるようになれば完璧だ。素晴らしい牧場、というより公園の完成だ。
俺も確かに経済優先な人間ではあるが、このように一見そこまでお金にはならない施設も許す寛容さを持ち合わせているつもりだ。
確かに、家畜を詰め込めるだけ詰め込んだ牧場の方が肉や卵や乳製品がいっぱい収穫出来て経済的にはそれが正解だ。
だが、地下都市や荒涼とした地表の中に突如として緑あふれる美味しい空気のある公園が出来たら、それはそれで人々の役にたつはずだ。
「はい、博士は牧場に放つウジ虫の研究をしてたんですが、ウジというのは非常に不衛生な環境でも死なないどころか、むしろそれを好みます。
糞尿や腐乱した死体とかね。その際に強力な抗菌物質を作って体を守っていることが判明したんですよ。
あとはこれを解析して独自の人工リボソームに突っ込むだけです!」
「なんだって?」
「ほかにもカビとかから抽出した抗生物質もありますが」
「カビって言ったら……なるほどな」
カビから抽出した抗生物質というの成ろれも聞いたことはある。ペニシリンだろう。
ところで俺の聞いた話では、マゴット治療というのがあるという。マゴットとはそのままウジの意だ。
ケガなどした場所にウジを住まわせると、壊死したところを食べてくれて、抗菌作用のある体液でこれを保護してくれさえするという。
むろんそれがやがて羽化したらただの鬱陶しい羽虫なのでそうなる前にブチ殺すが、赤ちゃんの間は役に立ってくれるらしい。
この治療を俺が生きていた現代日本でやっていたということは、逆に言えば当時の技術ではまだそれは再現できていなかったということだ。
もしその抗菌物質とやらが、ハルトの言う人工リボソームで当時の日本でも合成できていたとしよう。
それならその薬を点滴でもすればいいわけで、わざわざウジ虫治療などしないからな。
なんというか、変な所で魔法じみたテクノロジーを持っているものである。
その人工リボソームとやらでどうやら合成に成功したようだ。
「ていうかもしかしてさ、ハルト。本当にすごいのはその人工リボソームとやらなんじゃないか?」
確か中学の理科か、あるいは高校の生物でリボソームって習った気がしたが、俺はそれが何なのかよく覚えていない。
リリスもバカな方ではないがさすがに話にはついていけてないようだった。
「まあそうですね。これを使えば、例えば牛乳や卵なんかも、それを生むメスの家畜なしで出来ますし。
リボソーム自体は博士の発明ですが物質の発見は僕の手柄ですからね」
「別にお前のこと凄くないなんて言ってないだろ。。ハルトは凄いよ」
「博士、あえて集約された大規模な工業的畜産にはせずに、ウシやトリにストレスを与えない広くて安全な牧場にしたでしょう。
それはもはや人工リボソームを用いた工場を使い、例えばウシの乳房だけを作ってそれを動かしておっぱいを出させるみたいなことが出来るからです。
とっくにそれは稼働してますからね。あ、言ってませんでしたっけ」
「言ってない言ってない。まあ言ってたとしても頭に入ってなかっただろうけど」
「とにかくそういうわけで、生物の作る様々な有用な物質はとりあえずそれの遺伝子をリボソームにぶち込めば出力することが出来ます。
それと同じ要領で僕は抗菌物質の生成に成功したわけですね。
もっとも、人工リボソームは博士の発明なのでちょっと悔しいですが」
「あの博士に負けたくらいで悔しいと思えるだけで充分すごいよハルトは」
普通あれほどの天才がいたら、俺とは頭の出来が違う。張り合ったって無駄だ、という具合に人間は勝負を避ける。
俺だってそうだ。そうしないと心が守れないからな。
俺もベンツがいるからベンツの得意分野は全部博士に(ベンツ)任せてやるべきことに専念できる。
張り合うことはしない。唯一ベンツに張り合えるとしたら実の息子のハルトだけなのだ。
「分体の僕が術後の管理をしますので、今はちょっとママの手術の準備をしてたところなんです」
「どこか悪いのか?」
「いえ、帝王切開して人工子宮に赤ちゃんを移す手術です。ママはもう二度と出産する必要はありませんからね」
「う、うむ。そうか。お前の弟妹であり俺の子でもあるわけだから。頼んだぞ」
「言われなくても。あ、そうそう。博士にはもう無料配布用の携帯電話やテレビを大量発注しておきましたよ」
「おおっ、助かる」
「あとパブリックビューイングできる特注の大型モニターも。旗艦に用はないでしょう。
我々は一旦エクアドルに戻った方がいいと思いますけど」
「だが俺は一つのことを一つの目的のためだけにはしない主義でな。
分体のお前や博士に会いに行くのはもちろんのこと、コロンビーヌの顔も見に行きたかったんだ。
だから仕事の用はなくても旗艦には用があったってわけだ」
「ああ、それなら面会謝絶ですよ」
「なにっ」
「抗生物質で体の中の雑菌を全て殺している最中です。いくらパパでも今面会はしない方がいいかと」
「ぬぬ……わかった。そこまで言うなら会いに行くのはやめておこう。ここ数日まともに会話してないんだがな。
モニターや携帯電話を運ぶトラックの運転手は誰にしようか?」
「それも発注済みです。僕について来てください」
「いや、抱っこして行こう。お前はどこへ行くか指示してくれ」
俺は結局ベルンハルトを二人も抱っこすることになった。
ハルトらの指示で一旦エクアドルへ戻った俺たちは結局この日、解散ということになった。
実はけっこうこの日の一日だけでも働きづめだったのでハルトなりにパパのことを心配してくれたのじゃないかと思う。
今日はせっかくだしホテルにでも泊まるか。ということになり、俺はホテルの風呂にハルトとやってきた。
そして案の定、混浴風呂の脱衣所まで来てもまだリリスがついてくる。
「おい、お前は女湯に行けよと何度言わすんだリリス」
リリスは股間に穢れたバベルの塔はないし胸もそこそこある。
ノイトラであることは間違いないが、三歳とは言えかなり女性型だ。
それは実はハルトも同じだったりする。聞いたことがある。
男というのはもともと母体内で男性ホルモンを浴びることで徐々に男型になっていくのだと。
ところがこの二人は人工子宮で生まれたため、生まれつきそれがなかったものと思われる。
「別に混浴なんだからどこい入ってもいいでしょ?」
「俺は心配になるよ。お前友達とかいる?」
「まるでパパにはいるみたいな口ぶりに聞こえるけど」
「ぐっ……わかったよ。一緒に入ろう」
俺は痛いところを突かれたのでもうそれ以上反論はせず、大人しくリリスと一緒にハルトの本体を抱えてお風呂に入った。
するとそこには、見慣れた赤ちゃんを抱っこしているアンリの姿があった。
その子は普段ハルトや親父の世話になっているが、本来はアンリとエリザベスの子であるルカと博士に名付けられた子だ。
そしてそれと一緒に居るのはシシィと、そして例の孤児の双子だった。
「どういう組み合わせだ……?」
と口にしながら俺はイスに座って体を流し出した。体を洗って湯船に入り、彼ら五人に近づいていくと、向こうもこっちに挨拶してきた。
「トーマ様、いよいよ明日はテレビですね。映像の撮影とかはどうするんですか?」
「リリスがやれ」
「え、私?」
「リリスは店員じゃあないしな。向こうに行く用事はないんだからこっちに残って撮影が適任といったところだろう」
「僕も姉さまが適任だと思います」
「だろハルト。今日中に博士にカメラをもらっておけ。
撮影の方は……そうだなぁ。まあ女の子はみんな天性のカメラマンというからな、大丈夫だろ」
「わかったけど」
「サラたちはシシィと会うのはこれが初めてか?」
「はい。店長の彼女だと聞いてますけど」
「そうそう、こういうのだよな。シシィはここに溶け込んでくれてるようでほっとしてる」
「それは誰か特定の個人を批判してるわけ?」
俺は怒っているリリスを無視して続ける。
「彼女を受け入れてくれたアンリにも感謝だ」
「それはありがとうございます陛下」
「こんなところでも仕事の話をしてしまう俺を許してくれ。
なあシシィ、この辺は君の故郷ではないんだろう。逆に君の故郷はどんなところなんだ?」
「私の聞いていた話では赤道の地下都市だったそうですから、ここからそう遠くない場所のはずです。
私の知っている故郷とこの辺の景色はほぼ一緒ですね。
故郷もろくに政治が機能してなくてテクノロジーも極めて低かったんです」
「そうかぁ……ここには進んだ技術があると俺は思っていたんだがなぁ。
シシィの故郷なんだから当然ノイトラもいるだろ。俺は必ずノイトラを救いたいと思っている。
モタモタと何か月もここにとどまっているから、シシィにはそうは見えないかもしれないが」
「そんなことは。私は陛下のことは信じていますから。ノイトラのことを考えてくれているという一点だけは」
「おいアンリ、シシィってこういうキャラだったのか。なんか遠慮がなくなったていうか」
「彼女も打ち解けてくれたってことでしょう。普通は恐れ多くて王であるトーマ様にこんな口は利けませんよ」
「まあそういう見方も出来るな」
「その点、まだこの子たちはそこまでは打ち解けられてませんね。
トーマ様には尊敬や感謝はしてるようですが」
「まだ初日だからな。二人とも、明日から頼むぞ。お店を本格開業するからな?」
「わかりました、お任せください」
「この命に代えても!」
「ほら。とても打ち解けるなんてものじゃないでしょうトーマ様」
「全くだな。今度はシシィみたいに幻滅されないよう格好いい王様で居続けないとな」
その後は話もそこそこに、とりあえずこの日はハルトたちと一緒にホテルに泊まって眠った。
特に時間的な制約があるわけではないが、俺は朝、ハルトに起こされたので仕方なく起きた。
「起きてくださいパパ。仕事ですよ」
「わかったわかった、ちょっと待て」
俺は部屋で顔を洗ったり歯を磨いたりして身支度した後ハルトにこう聞いた。
「ハルト、昨日は確かトラックの運転手を用意してると言ってたな」
「ええ。僕です」
「お前かい! 車運転したことあんの?」
「いえ。まあイケるでしょう」
「足届かないだろう」
「トラックは電気制御で動いていますから大丈夫です。僕が設計したトラックなんですよ?」
「じゃあ大丈夫か。念のため誰か大人がついてた方がいいんじゃないか?」
「平気です。赤ちゃん扱いしすぎですよ。
荷物を出す用のリフトは用意しておいてくださいね」
「わかった、手配しよう」
「僕は先に出ておきますから、パパは店員の方々を連れてバスで来てください」
「わかった。ちょっと待て、連絡をつけよう」
俺はとりあえず朝一番にアンリに電話をかけ、店員たちを連れてバス停に来るように指示。
その後、新たに脳内通信を使ってイブに通信を入れたのだった。
「イブか。こちらトーマ、荷物を下ろすリフトと水のタンクを積んでトラックを操縦し、隣町へ行ってくれ。
俺もバスを使って向こうへ行くから現地で合流しよう。集合するのは食糧雑貨店の駐車場だ」
「承知した。殺し合いになった場合はいつでも呼べ」
「わかった。そうならないことを願うが。俺もいくとするか」
我が国の精鋭を集めたこのプロジェクト。これもいよいよ大詰めに近づいてきている。
客は集めることに成功している。水を買いに来る客はアホほどいるし、彼らには手帳を配ればよい。
だがその前にパブリックビューイングを設置だ。
俺とハルト本体はバスに乗り、俺たちがそこへ到着するのと前後する形で分体のハルトがトラックに乗って到着。
パカっと開いたトラックのドアから小さいハルトが出てきて、地面にはとても脚がつかないのでジャンプして着地していた。
「ハルト、むしろよくそれで車に乗れたな」
「さっきアルが乗っけてくれました」
「そういやアルもお前の父親みたいなもんだったからな。トラックの荷物を出すのは――」
「あ、そろそろ見えてきましたね」
俺たちが元来た道から、トラックがこっちへ走ってくるのがハルトが指さしたことによって俺も気が付いた。
三十秒ほど待っているとトラックが停まってイブが降りてきた。
イブはそういう性格なのでこれといって特に挨拶もなく、降りてくると俺たちに一瞥もすることなく荷台を開けた。
荷台にはいくらかのフォークリフトが乗っている。
荷台にイブが消えたかと思うとフォークリフトに乗って無言でスーッとゆっくりしたリフト特有のスピードで登場したのがシュールだった。
「イブ、まずは一番デカイのをここに設置しよう。設定は任せていいか?」
「無論だ。お前は娘と連絡をとって放送の準備をしろ」
「ああ」
生配信でないと意味がない。離れたところと自分たちが会話できていると実感できないとこっちの住民も移住する気になれないだろう。
こっちの住民が持っている情報を整理すると、まず俺たちはヤクザや領主をかほども恐れない大胆な態度を持つ。
その根拠が、明らかにこちらと比べて高すぎる技術力であることは、ただ水を買いに来た主婦から見ても明白である。
そして俺たちは謎の技術により安く食糧や水を売っており、何十人かの人々が、もうすでにエクアドルに就職及び移民している事実。
それに関しては技術力が高かろうが低かろうが噂というものが広まる速度はさして変わらないものだ。
だからもし俺がリリスなら、生配信を開始する前に当然のことながら、もともと隣町にいたのを移住してきた人に友情出演してもらう。
俺よりリリスは頭悪いということはないだろうが、リリスならわかっているだろうで仕事をするのは危険だ。
すぐに電話しようと思ったが、イブが設置してコンセントに電源を接続したモニターに映ったリリスを見て安心した。
「もしもーし、これ映ってる?」
「リリス、こっちの声は届いてるかー?」
「はーい届いてまーす!」
その後テストを繰り返しているうちに、野次馬がどんどん集まってきてくれた。
水を買いに来ている客自体がたくさんいるし、ビラを手にしている事からしてビラを見てきた人もいる。
パブリックビューイングには物珍しさに子供から老人までくぎ付けだ。
なんか自分の娘が百人以上の人に見られているのは恥ずかしいのだが、とにかく俺とリリスは話を続ける。
まずは台本通りに、大量の水を溜めたタンクを見せる。
冷却塔から凄まじい量の結露した水分がパイプを通じて送られてくるこのタンクはホテルの中にある。
そしてたかだかタンクを見ているだけで沸いている皆さんが言葉を失う光景がリリスによってお届けされた。
「はーい。こちらが我が帝国ホテルの目玉、大浴場になりまーす!」
画面に映し出された湯けむりと泡と清潔な白いタイル、ぴかぴかの鏡、どれをとってもこの隣町の人々にとっては憧れのものである。
「ここ男湯だぞ、おーい」
「おお、ペペの股間が無修正で映っていますね!」
俺たちにとって唯一まとまな医者なのでそれはもう忙しい親父だ。
別に浴場の男湯でリラックスしてくれているのはいいのだが、百人以上の知らない人に無修正で全裸を見られてしまった。
他にも俺の見知った顔の連中が何人か男湯に入っており、同じく裸を見られてしまっていた。
お届けするのが女湯や混浴風呂でないだけまあマシだが。リリスは続ける。
「皆さん、このように我がホテルでは素泊まりなら一泊二十ドルからになります。
もちろん素泊まりでもホテル内のお風呂はご利用自由になります。
専門のスタッフがお届けするご飯付きの宿泊プランでも一泊につき五十ドルからと、大変お得ですよ!」
「素晴らしいなリリス。だが見苦しいので男湯はもういい」
「はーい総督!」
しいと思うだろうが、そこにはなーんも裏はないよ」




