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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
最終章 魔王誕生
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第九十一話 核融合と兵器廠

「お、久しぶりに一緒にいくか。案内してくれ」


ということであとの仕事は全部エースに丸投げし、両方とも分体の俺とベルンハルトは連れ立って官邸を出た。

官邸を出てエスカレーターを上がり、地表に設置されている、紫外線を避ける断熱性の高いチューブ状の隔壁の中を一緒に歩いていく。

するとやがて冷却塔の林立する地帯の向こうに巨大な施設のようなものが建造されているのが見えた。


大きさはちょっとわからない。大きすぎて、巨大であるということ以外はわからないのだ。

高さは百メートル以上の壁があり、これが総延長何キロメートルになるかわからないぐらいずっと続いている。


これをたった数週間のうちに、俺が知らない間に作っていたとは驚愕だ。


「スゴイ壁だなぁ。これをいつ作ったんだ?」


「冷却塔を作った工場ですよ。この星の歴史上でも有数の巨大建築物が産声を上げました。

一応この施設の技術はネット上には残っていましたから作れましたが」


「何を作る気なんだ?」


「こっちです」


ベルンハルトは答えず俺を焦らす。我慢してついていくと、途中で検問があり、男たちが二人で茶を飲んでいるところだった。

俺達に気付いた男二人組は慌てて直立不動の姿勢をとったのち敬礼した。


「これはこれは総督。視察でありますか!」


「警備か。ご苦労。銃を持っているとは物々しいな?」


「我々は元々分隊長殿の部下でありますから。どうぞお通りください」


「わかった。おいでベルンハルト」


「はい」


ベルンハルトは俺に抱っこされてくれた。俺的には猫を抱っこしている感覚だ。

犬ならむしろいつでも抱っこウェルカムだ。

それはそれで可愛いが、本人の気が向いたときにしか抱っこさせてくれない猫やベルンハルトのような態度も可愛い。

俺はいつしか、天才児で可愛げのない仏頂面のベルンハルトが愛おしくてしょうがなくなっている自分を自覚した。


ぷにぷにのほっぺや、ミシュ〇ンマンのようなむちむちの腕を搭載していない分体でさえこんなに可愛いのだ。

奴は仕事人間なのでなかなかその気にはならないが、いつか意識を戻した本体も抱っこして触りたいと密かに思う俺だった。


「ここがそうです。ここは核融合発電施設になります」


「ついにそこまで来たのか俺達は。核融合!」


「はい。素材である水素などは無限にあるのでもうほぼ無限に等しいエネルギーが得られるということです」


「しかしベルンハルトよ。それはわかったが、ただでさえプラントで大量のガスを作りエネルギーを得ているわけだろ。

そうなると、エネルギーが余るだろ。ていうか今も余っているはずだが」


「はい。ですからこの施設が要るんですよ。行きましょう」


衛兵の後ろの扉を抜けた俺たちはさらにそのまま、電気の点いた明るい廊下を進む。

その先にさらに扉があって、開けてみると話が分かってきた。


壁の中は見渡す限りの大地。大量の有用な資源を含む砂で覆われた大地にどうやって建築したのだろうか?

大地というのは文字通りの意味で今すぐ種をまけば植物が芽吹くような土が広がっている。

俺達が入ってきた入り口付近にはトントンとその息子、妻の姿もあり、また、ここには牛やトリ、豚にヤギが放し飼いにされていた。


わずかではあるが芝生が広がり、今後もこれは増やしていく予定と思われた。


「放牧地というわけか。工業的畜産ではないとはな。

遊びに来たぞ。おーい博士」


「あ、トーマ君。まだ秘密にしてたのに見つけちゃったか……イヤしんぼめ!」


「いやあ面目ない。ここは牧場というわけか?」


「いやね、ここは実験施設なのだよ。詳しいことは発案者のボスに説明してもらうといい」


「わかった」


親父の説明は次のようなものだった。


「では話そう。ここは三層構造になっている。地下一階は核融合発電施設だ。

そして地上一階は自然に近づけた放牧場。二階は人間用の空間になっている。

見ての通り大規模なものになるからお前には隣町から労働者を連れてきてもらいたい。

必要な人手はざっと三十人といったところか」


「いや、それは構わないが、人手と言ってもどういう業務をするかにもよるだろう」


「うむ。動物の世話は必要ない。自然放牧しているだけだからな。

食糧として食べるために飼育するというより、ここで生き物が安全に暮らせるかを確かめるためのものだ。

屠殺や世話は最低限の人数でいいだろうが、経験者はスフィアからの者だけだろう。

ここは第二のスフィアを作るための実験場というわけだな。

最初は俺たちもそりゃあ、テラフォーミングを考えたさ」


「でも無理だろ?」


「ああ。この星の土壌は有用な資源が含まれるものの、強いアルカリ性で居住は困難。

この寒い気温を暖かくしてみたところで植物が育つのはまずムリだ。

そのため、酸素を増やしてのオゾン層の形成も見込めない。

だが俺達にはガキがいるだろう。それはもうたくさんの……そしてガキはもっと増やす予定だ、そこで!」


「子供たちが自然とともに暮らせる環境づくりがしたい、というわけだな」


「そうだ。その実験場としてまずは牧場を作ることにしたわけだ。

ところでトーマ、お前は今難問に直面しているな。女は出産の際にそれはもう高い命の危険のリスクに直面する」


「そうだよ。ヤなこと思い出させんな」


「ここの上には人間用の空間があると言ったな。緑はあるが動物はいない。

人間用の空間だ。ちょうどいいから案内してやれベンツ」


「はいボス。じゃ、トーマ君とベルンハルト、車に乗ってくれ」


牧場の入口付近には駐車場があり、牧場の外周には車用の道路が作られている。

また、それとは別にこの牧場の外周にはらせん状のスロープがついており、これが天井まで続いている。

どうやら二階に続くようだ。そしてその道を俺とベンツとベルンハルトが車で向かうというのは明白である。


三人で車に乗り、二階へ行ってみると二階にも出入口付近には駐車場があって、そこにいくらかの仕事用の車が停めてあった。

どうやら二階のさらに上の天井には俺もよく知る人工光合成プラントが設置されており、恐らく上の光合成プラントでは動物の飼料や人間の食糧を生産する。

それを運搬したり、仕分けしたりする人手が欲しいということだと思ったが、それとは別に仕事場があるということがわかった。


駐車場のそばには、四角い三階建てぐらいの高さの建物があり、それを指さしてみるとベンツはこう言った。


「あそこにはもう一人の私がいる。ベンツ二号だね。ラボで仕事をしているのだ」


「あそこはラボか。だが急造の人員ではものの役には立たないぞ?」


「うむ。その奥に立体駐車場が見えるな?」


「ああ」


立体駐車場は外からもある程度仲が見える作りになっており、そこには当然ではあるが、一般人の移動用の車両でなく仕事用の車両がある。

そのほぼすべてがトラックとフォークリフトであるようだ。

この立体駐車場のすぐ近くにはスロープがあり、上の光合成プラントで働く用の車両であると考えられる。


「さて、ここは我々が知る中では最も大きな電力の集積地帯だ。

その電力で物質を生み出す。その模様はラボに行けばわかるよ」


というので三人でラボに行ってみると、中には言われていた通り、ベンツ二号がいた。


「やあみんな。ベルンハルトもここのことは知らないよね?」


「ええ。見たところ砂みたいなのを作っているようなのですが、何なんですか?」


とベルンハルトが指さしたのはベンツの後ろの巨大なタンクだ。

推定で数百トン以上の質量を収められるような巨大タンクだ。

よく日本の水族館でジンベエザメが泳いでいる水槽があるが、あれと同じようなサイズである。

ラボをほとんど占有する巨大な半透明のタンクの中身はベルンハルトでもわからないのだから俺にわかるわけがない。

ベンツ二号はこれにこう答えた。


「物質を生み出すことは我々にとって避けるべき事だった。

エネルギーの無駄になるからだ。その点においてこの地表の砂地は実によかった。

何しろそれ自体が無限にも思えるような資源だったからね。

これを加工して建材も作れたし、言うことなしだったが、これからは違う」


ベンツ二号は後ろのタンクを指さして続ける。


「これは窒素酸化物、リン、カリウム、セレンなどといった生物に必須な元素を詰め込んだ砂。

つまりは最高の肥料であるというわけだ。これを蒔いた土では植物もぐんぐん育つ。

労働者にはこの砂を小分けにしたのをトラックで運び、各地の食糧生産基地や牧場に運んでもらう」


俺は知っている。ベンツは嘘をつくタイプではないが、裏表はそれなりにあるタイプだ。

俺にまだ言ってないことがあると確信し、俺は単刀直入に言った。


「そりゃあ確かに役立つが、博士の狙いはそんなところじゃないんだろ。

わかるよ。付き合いもいい加減長いしな。第一、外から見たラボの大きさが中から見た大きさとあわない」


「ふふふ。そう言われたら仕方がない。答えよう。

実は二階があるのだ。行ってみる?」


「当然だ」


今度は四人でラボの二階に行くことになった。ラボの二階への通路は一般には秘密だ。

実は裏口に非常階段がつけてあり、二階へはここからしか入れないようになっていた。


二階へ行ってみると、エネルギーを入力して物質を作るエンジンのそばには大量の工作機械が並んでいた。

言うまでもなく、これら機械を作るのには金属が必要だがこの星には金属を掘る鉱脈みたいなものは皆無だ。

金属を作るにはまずエンジンで金属を生み出す必要がある。そうして生み出して作った金属を用いた機械の数々。


今度は俺が見ても何が何やらわからない代わりにベルンハルトがこう言った。


「ここは機械……いや自動車などを作る工場ですね。何故隠す必要が?」


「ベルンハルトは頭がいいが、あまり人生経験がないからね。トーマ君ならわかるかね?」


「機械を作っているということは、兵器か?」


「そうだ。確かに自動車も作ってはいるがね。秘密にするのもわかるだろう。

では二号棟へ行こう。これも非常に重要な建物だからね」


俺たち四人はさらに移動し、このラボのすぐ隣にある二号棟とかいう工場みたいな建物に入っていった。

二号棟には相変わらずイブの分体のエグリゴリがおり、機械を使って作業をしている風だった。

ここは一号棟とは異なり、一階から二階までがブチ抜きで三次元的に巨大な工場になっていた。

相変わらず技術力の偏りがエグいが、ここは別に隠すようなものは何もなかった。


「レールに車体……いよいよ鉄道が建設というわけか」


エグリゴリが一人だけいるこの工場内では鉄道が準備中だった。

現在駅はあるもののその先につなげられないので開店休業中の鉄道。

これがあればバスよりも早く、たくさんの人数が運べるし貨物列車の方も運航できれば経済活動がよりスムーズになるだろう。


「うむ。ほかにもここでは紡績機械や建設機械などを製造している。

列車の片手間だがね。ほかに必要なものがあれば言ってくれ」


「では、ここに地表の砂を運び込むためのトラックとプラントを製造してくれ。

そしてゴムを合成する工場を作ってほしいんだ」


「それなら砂を運ぶ用のコンテナも必要だね。この二号棟で簡単に作れるが。

しかしゴムは既に作っているし、それほど需要が急増するとは思えないが何か考えでもあるのか?」


「ああ。ベルンハルトは医療も詳しいから男女の営みについてもよく知っているよな?」


「もちろんです。それがどうしたんですか?」


「なら話すが、例えば性的な快感をなるべく損なわないような、薄いゴムの膜を作ることが出来たらどうだろうか?

この世には性病もあるし、望まない妊娠で苦しい思いをする人も居ることから、そういった薄いゴムの膜が作れたらいいと思ってな」


「なるほどね。薄いゴムか。考えておこう。

強度や薄さに関して私の技術で問題ない思う。

気になるのは、気持ちよさを評価するには被験体が必要になると思うけど……?」


「俺を見るんじゃない。俺は妻が臨月だしそりゃ無理だ」


「残念だなぁ。じゃあ適当にその辺の夫婦にでもモニターしてもらうけど」


「そうしてくれ。じゃあ、最後にもう一か所だけ見ていくとするか」


二階へ上がってきてすぐの駐車場のそばには無骨な四角い建物があり、外観からは何の建物なのか一切不明だ。

二号棟から出て徒歩で数分歩き、そこへ戻るとベンツ一号はこう説明してきた。


「あそこは人工子宮が置いてある。希望する者はあそこで自分とパートナーの子供を作るわけだね」


「あっ、つまりそういうことか。

親父が言っていたのはつまり、女の妊娠や出産の苦しみを完全になくそうということか」


「うむ、見に行ってみよう」


というので行ってみると、中には人工子宮の水槽がざっと百個以上はあり、不気味なマッドサイエンティストのラボみたいな雰囲気を醸し出していた。

そしてそれら全て中身は肉眼で見るとカラではあるものの、実際には肉眼で見えないだけでもうすでにそこに"ある"ということがわかった。

ベンツのいつものクセで右下の方にラベリングがしてあるからだ。

誰と誰の子、命名誰々という風なラベリングがズラっと並び、水槽にはもう受精卵が浮いているようだ。


「あの、博士。あの水槽が気になるんですけど」


ベルンハルトが指さした水槽を見てみるとラベルに信じられないことが書いてあった。


"ライナー・ディーゼル=ベンツとコロンビーヌ・ナルボンヌの子、命名トーマス・ディーゼル・ベンツ"


ベルンハルトとは父母ともに同じなので天才児が生まれるのではないかとベンツは期待しているようであった。


「よかったなベルンハルト。弟が増えたようで」


「よくないですよ。弟妹ならもう二人いますし」


「そうだったな。博士、何のつもりだこれは?」


「私は君の役に立ちたい。寝ても覚めてもそのことばかり考えている。

見てよこれ。滑稽だろ。私が君に出来るのはこれだけのことだ」


「これだけって、博士は俺の仲間の中でも最重要人物だ。

誰よりも役に立ってくれている。欠かすことの出来ない存在だ」


ベンツは乙女みたいに頬を染めて体をくねくね捻りながら照れたかと思うと急に寂しそうに笑いながら言ってきた。


「嬉しいなぁ、嬉しい。それだけでまた三日三晩寝ずに頑張れるよ」


「休めよ。あと水分は多めにとって塩分控えめの食事でな」


「気を付けるね。うん。あ、そうそう。

こちらの核融合発電所では今までと比べ物にならないほどのエネルギー収支が見込める。

光合成プラントの欠点は、広く面積を取って並べるため仕事場が分散して仕事をするうえで移動距離が長くなることだ。

これからはもう、この核融合発電所とセットで冷却塔を作るだけ。非常に省スペースだよ!」


「ううむ……土地が余ってるのに人口が少ないせいで省スペースにしなきゃいけないとは。

核融合はいいが、テレビ局の準備の方はどうなってる?」


「まあ、作るだけなら可能なんだけどね。クルーがいないからね。

脚本家もいなきゃカメラマンもいないし、当分放送は出来ないだろうね」


「しょうがないか。しかし博士、ここの赤ちゃんたちをいったい誰が世話するんだ?」


「だから連れてきてほしいんだよ、人材を。

出産を終えたらコロンビーヌくんは戦力として計算できるでしょ……でもまるで足りないよね」


「あと九か月の猶予があるというわけか。それだけあれば十分だ。

博士は疎いかもしれんが地下都市には、出稼ぎに来てる主婦層が結構多いんでそのツテで何とかなると思う」


「わかった。頼んだ」


話が終わり、俺はもう帰ろうかなと思っていたら腕の中のベルンハルトが突然こう言いだした。


「あの、博士。言いたいことをまだ言い終えてないんじゃないですか」


「このマセガキ。親に向かって生意気だぞベルンハルト?」


「総督は黙っていてください。僕は博士に聞いてるんです」


「そう言われても……私に出来る精いっぱいのことを伝えたじゃないかハルト。

私は彼の役に立ちたい。ただそれだけでいい。私はそれで満足だ」


言っていることと表情が反対であり、ベンツのセリフは嘘であることは丸わかりである。

それに対して俺はベルンハルトに任せることにする。俺よりも上手くやるだろう。

第二の母親であるベンツの世話をベルンハルトは焼き続ける。


「僕の本音を言いましょうか。僕は博士のそういうところ嫌いです」


「そんな!」


「要は構ってほしいんでしょう総督に。でも総督は忙しいんです。

僕やリリス……他にも構ってほしがっている人は大勢いますし、仕事もたくさんありますから」


「お前そこまで言うことはないだろぉ……!」


「否定しないってことはそういうことでしょう。

じゃあ僕らは行きますので。さ、総督帰りましょう」


「わかったよ。送ってくよ」


博士は結局、表に停めてある車に乗り込んで俺たちをそこに載せ、車でこの施設の入口まで送ってくれた。

俺はその間無言を貫いていたが、廊下を歩き、衛兵さんたちの横をベルンハルトの分体を抱っこしながら抜けると、小声でこう聞いた。


「仮にも博士はお前の親だろ。なんであんな冷たかったんだ?」


「博士は総督が好きで好きで仕方ないんですよ。息子だからわかるんです。

なのにあの態度、冷たくもなるというものですよ。

本音を言うと僕はママと総督には別れてほしいので、博士があなたに一歩踏み出すのなら、それは別にいいんですが」


「おいおい。そりゃないだろ。仮にもコロちゃんは俺の子を妊娠してるってのに」


「だからですよ。あなたのせいでママは死にかけたというじゃないですか」


「それはそうだが……その……それはスマン」


「いいですか。人工子宮ってあるでしょう。だからあれさえあればいいんです!」


「親父たちに入れ知恵をしたのはお前か?」


「そうですが?」


どうやらさっきの二階の人工子宮部屋はベルンハルトの発案だったようである。

妊婦の苦しみや命の危険となるリスクをなるべくゼロにしたいとのことのようだ。

どれだけ強く母親を思っているかわかる。なんだかんだでこいつも二歳児だからな。


「いいこと思いついた。彼女の子宮を帝王切開するだろ。

そして赤ちゃんを人工子宮に移すんだ。そうすれば出産せずに済むんじゃないか?」


「理論上は出来るでしょうがママの体はもうギリギリのギリの状態ですよ。

万が一赤ちゃんが助かっても母体に危険が及ぶリスクは高いです。

感染症にかからなかったのは本当にたまたまですから」


「必要なのは抗生物質……だろ。本当にそれの情報ネット上にないのかな?

むしろそれって消されちゃった可能性とかないかな?」


「消されたってことは残ってないってことでしょう」


「それもそうだな。じゃあ俺たちは帰ろうか。官邸に戻せばいいんだったな?」


「そうですね」


「じゃあ道中一つお前に聞きたいことがあるんだが」


「なんです?」


俺はベルンハルトを肩車して歩きながら話を続ける。


「お前俺のこと嫌いなのか?」


「そうじゃないですよ。むしろ逆です」


「好きってことか?」


「はい。僕を頼ってくれて嬉しいんですよ。総督は僕が子どもだからって子ども扱いしないですから」


「そう言うならもっと頼ってしまおうかな。とにかく帰ろうベルンハルト。

ここにはもう用はないだろう。お前、芝生で遊ぶタイプでもないだろうしな」


「まさか。ここにはもう来ませんよ」


俺達はその後肩車をしたままで官邸へ帰り、エースがいないので官邸に俺たちは当然ながら二人きりとなった。

いつもの通りに、ベルンハルトはちっちゃいので限界まで座席を高くした彼専用の椅子にハルトを乗せた。

するとハルトは俺に珍しく甘えてきた。


「博士はいつもああなんですよ。総督にかまってほしくて、でもストレートにそう言うのは恥ずかしいから直前で逃げるんです。

総督の役に立てればそれで十分だとか。もうあんなのは放っておきましょう。

本人がそう言ってるんだから構ってあげなくていいでしょう」


「そうだな。息子のお前が博士の代わりをしてくれるなら博士もそれはそれで本望に思うことだろう」


「これからは僕が王国の顧問になりましょう」


「ああ。それでなんだが、そろそろ俺のことパパって呼んでくれるか?」


「えっ」


「えっ」


「本当にいいんですか?」


「何が?」


ベルンハルトは思いもかけないことを言ってきた。


「そう呼ぼうとは思ってたんですが、僕がパパというとなんだかあなたに父親としての責任が出てきちゃうじゃないですか。

僕は義息子ステップサンなわけですし、そこまで背負わなくても」


まあ、ベルンハルトのように自立した生活力があって俺が守り、育て、お金を世話してあげる必要のない義理の息子というのは距離感がムズい。

例えばそういう息子を持つ女と再婚した男がいたとしたら、ほとんど構わないだろうし、息子の方も義理の父に興味ないだろう。

問題はベルンハルトが二歳で外見がカワイイことであり、俺が構いたくてしょうがないこと。

そして向こうも案外まんざらでもないということだ。だから難しい。


「背負わせてほしい。俺は今中途半端な状況でさ。

コロンビーヌと正式に結婚してるわけじゃないし、イブとも離婚したわけではない」


「知ってます」


ハルトは俺に溢れんばかりの親愛を込めて微笑み返してくれた。天使かい君は。

余談だがハルトはルックスがとてもいい。もちろん親バカではない。

両親であるベンツとコロンビーヌは平均的なルックスなのだが、ふしぎとベルンハルトは頭だけでなく見た目の方も奇跡的な傑作だ。

本人は息子と言っているので自分を男と思っているようだが、男女どっちか区別つかない、いや、つける必要のない可憐さと息を飲むような造形の美しさを併せ持つ。


俺は可愛すぎて今すぐ猫吸いみたいに息を荒くしながら抱きしめたくなったが我慢をした。


「でも彼女の子であるお前のことは背負わせてほしい。

俺がノイトラの王だからだというよりも、彼女のパートナーとしてのお願いだ」


「わかりましたよパパ。ここでの仕事はここまでにしましょう。

僕は本体でパパの本体のいる隣町へ向かうことにします。

向こうにはエースさんもいますが、僕にも出来ることは沢山あるはずですからね」


「わかった。何か必要なものはあるかハルト?」


「向こうにはバスで行きます。必要なものは向こうにバイクのエンジンがありますから、あれで作ればいいでしょう。

早速向かいます。パパは分体を船に戻してください。

僕の本体はそれと入れ替わりで船を出て向こうへ向かいます」


「付き添いなしで平気か?」


「そう言うなら付き添ってくれますか?」


「ああ。別に俺の分体と本体が一緒のところに居てはいけない理由もないしな……行こうか」


俺はハルトの分体を本人の椅子に残すと地上の船に戻り、医務室に向かった。

もちろんベッドには本体であるベルンハルトがいた。


「それいつも着けてるよな?」


俺が指さしたのはベルンハルトが背負っている赤ちゃんの転倒時のケガ防止用の背負うタイプになっているクッションだ。

頭のとこがドーナツ型になっていて後頭部がケガしないように守っている。

これは俺が奴に何か月か前に贈ったやつだ。


「パパにもらったものですから。また肩車してくださいよ。分体だから疲れないでしょ?」


「ああ。お前が甘えてきてくれて俺嬉しいよ。可愛くてしょうがない」


俺は子供は好きな方ではないのだが、案外ベルンハルトのおかげでまだマシになってきているようだ。

リリスの場合は同じ俺の子でもこうはいかない。

甘えてきてくれても体は成人女性なのでこんなにたくさん触れ合おうにも俺の方が遠慮してしまって触れ合えないのである。


俺はベルンハルトを肩車したまま船を降りてバスに乗り込んだのだった。

それから俺はバスの中でハルトの芋虫みたいに柔らかくてむっちり肉が詰まった腕をモミモミしつつ時間を過ごしたが、やはりそれだけでは俺は満足できない。

というのも、イブが俺にキスして何の感じもしないと言ってたように、分体では体の感覚がほとんどないに等しく、ハルトと触れ合ってもあまり何の感じもしないのだ。


「早くバス着かないかな。早く本当の腕でお前を抱きしめたい」


「僕も同じ気持ちです。結局やるのはビラ配りですよね。僕もやりますよ」


「じゃあ一緒に配ろうか。俺がお前を抱っこしていくからお前はビラの束を持っててくれ」


「わかりました。僕を連れていってくれれば必ず役に立ちますよ」


「親子だけあって博士と同じようなこと言うんだな」


「僕がパパのことを好きなのは、遺伝なのかもしれませんね」


ニコニコしながらベルンハルトは俺に言ってきた。なんだかすごい上機嫌でちょっとコワイ。


「俺も好きだよ。愛してる」


などと言いながら俺がハルトの頭を撫でているうちに気付けばバスは目的地に到着したのだが、するとそこで運転手のミリーにこう言われた。


「私もうそろそろシフト終わりの時間帯ですよ。

晩御飯作らないと。交代要員もいないですし、帰りのバスは出せませんよ」


「それでいい。ミリーの言う通り交代要員はいないんだから、無理しなくて大丈夫だ。

俺たちはバイクで帰れるから。じゃあ行こうか」


「ハイ。我ながら僕は可愛いと思うので、僕をだっこしながらビラ配ったら人々の食いつきがいいと思いますよ」


「そうだな。ハルトは可愛いからな。よし、行くか」


俺はとりあえず本体のいる店舗に戻った。

そしてリリスにハルトを一旦渡し、分体を寝かして本体が起きて、再びこれを抱っこした。


「やっぱり本体で抱っこするのが一番だな。まったくもったいない」


「え、何が?」


「リリスは赤ちゃん時代がスキップされてるからもったいないって言ったんだ」


「うわ言うかなそういうこと。どうせ私は可愛くないですよ!」


と、へそを曲げてしまったリリス。俺はここに仕事をしに来たのではあるが、リリスに対するフォローは必須である。

既にエースの働きにより印刷機が稼働していたが、ビラ配りは後にして俺はリリスにこう言った。


「リリスは可愛いんだからモテるだろ。彼氏とかいないのか?」


「何言ってんの。私三歳なんだけど!?」


この反応を見るに、アルの言っていたことは杞憂ということでいいらしい。


「なんか安心したよ俺。リリスはもうほとんど大人だと思って接してたからな。

これからは接し方を変えるか。これからはベタベタしてもいい?」


俺はリリスの肩を抱いて俺の胸に引き寄せ、リリスとベルンハルトの顔がくっつきそうになった。


「いやそれは……!」


リリスが明らかにやめてほしそうにしていたのでさすがの俺もここは無理強いせず、結局仕事に取り掛かることにした。

例によって仕事の割り振りは俺がやることになったのだった。


「エグリゴリとエースは印刷機を回しておけ。サラとミナの二人はここで店番だ。

万が一ヤクザが来ても、エースたちがいる限り勝ち目はないからな」


「了解した」


「わかったわ」


「アンリは左側を。リリスは前方。俺は右側の街を回ることにする。

一応各自ヤクザに出くわした場合は助けを呼べ。じゃあな」


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