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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
最終章 魔王誕生
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第九十話 嬉し恥ずかし♡初出勤♡

「アンリ、ガキのおもりがあるので俺は分体を稼働させる。残りはお前たちでやっておけ」


「赤ちゃんはベルンハルトとコロちゃんが見ているんじゃないんですか?」


「そっちのガキは心配要らない。ここで拾った孤児の方だ」


「新しい部屋で寝ていると言っているのに……トーマ様は心配性なんですね」


「パパはツンデレだからね。言ってることと行動がだいたい良い意味で逆なんだよね」


「確かにね」


「うるさいぞそこ。奴らの味方は今、俺たちだけだ」


「ところでこの女性はどうしましょうか、トーマ様」


アンリはその手でがっつり首根っこを押さえている、やせたベテラン娼婦について俺に意見を求めた。


「あんた読み書き計算はできるか?」


「いや……」


「ったくしょうがないな。やっぱアンタには娼婦でもしててもらおう。

さっきも言ったが我がエクアドルでは娼婦はいないんで丁度いいだろう。

そうそう。アンリ、避妊具って知ってるだろう?」


「避妊具……ああ、コンドームですよね。知ってます」


「え、あるの?」


「はい。たしか家畜の膀胱をおちんちんにかぶせるとか何とか聞いたことがあります」


アンリの知っている世界の技術水準だと、やはりこういうことになるらしい。

俺は大げさにリアクションした。


「ウゲーッ、恐ろしい。俺は軽い気持ちで言ったのに恐ろしいこと言うんじゃないよもう!」


「それがどうしたんですかトーマ様?」


「いやな。娼婦をやってほしいとはいえ、ウチの国民に性病とか広めてもらっても困るんだよな。

なんか病気とか持ってるかもしれないし、避妊具をベンツに作ってもらおうかと思って。

合成ゴムは作ってるし、ベンツなら作ることは造作もないことだろう。

独身男性も多いことだしアンタには娼婦をやってもらうが、その際にはベンツに避妊具を作ってもらえ。

まあそうでなくても、数か月生きていけるだけの金はさっき渡しただろう?

あのバスで向こうへ行け。向こうについたら色々世話してやる」


この辺で会話を切り上げ、俺は意識を分体に移した。

分体はいつでも使えるようにアーセナルに保管してあり、俺はこれを遠隔のインターネット通信で動かして地下都市に戻った。

地下都市に戻った俺はエスカレーターで下に降りながら、そろそろ自動車教習所でも作るか、と思いたった。


トラック運転手やフォークリフトの運転手などは結構たくさん必要だからな。

さっきのおばさんも、年を取ったらなかなか今の仕事は続けていけないだろうし、別の仕事をさせた方がよさそうだから、やはり教習所は必要だ。

とはいえ、それ以前に、俺はそれよりさらに必要なものを悟り、頭を抱えるばかりだ。


「まったく。とりあえず読み書き計算を教える初等学校が必要じゃないか……!」


確かに我が国には初等教育すらない。これは重大な問題だ。

王を自負する俺ではあるが、我が国にそのようなゆゆしき問題があり、これを気づいていながら放置しているわけで、大変よろしくない。

実際、子供たちも数が増えてきた。ベルンハルト世代はあと五年もすれば小学校に入れねば。

つまりは五年以内に小学校を作らないといけないわけである。


いずれは高校、そして大学を作って研究も進めねばならないだろう。

また、親父もいい年だ。医者を養成するのに十年かかるとして、最初の医者を養成するのに四十三歳の親父は五十三歳までかかる。

これは大変だ。大学、特に医大を急いで作らないと親父の寿命もあるからな。

俺達は医療技術が極めて乏しい。ちょっとした病気で死に、ケガや病気は治る方が珍しい。


五十を過ぎれば人はいつ死んでもおかしくない。これもやはり、小学校と同じで五年以内に作らないとマズい。


街づくりを、国づくりをすることがいかに大変かが身に染みる。

その小学校に入れるかはともかく、身寄りなく学もない、何も持っていない少女二人は俺の世話が必要だ。


アンリと通信しながら、彼女らの借りたアパートを教えてもらってそこに俺は顔を出した。

そして一から十まで実にいろんなことを教えねばならなかった。まずはカネの話だ。


「二人とも。今から銀行へ行くぞ」


「銀行?」


と二人は同時にオウム返しした。俺はすぐにこう答えた。


「そうだ。行くったらいくぞ。徒歩数分だ」


このエクアドルもなんだかんだで狭いので徒歩数分圏内に大抵のものはそろっている。

この二人がシェアハウスしている部屋があるアパートのすぐそばに銀行もあった。


俺は銀行へ行き、まだ銀行員が一人しかいない銀行の受付で、銀行総裁兼銀行員のマクギリス氏と目が合った。

有能な彼はすぐさま必要な書類をトレーに置き、これをカウンターの向こうの俺にそっと差し出してきた。


「総督殿。こちらが借用書になります」


「しゃくようしょ?」


「そうだおチビちゃんたち。お前らのしばらく分の家賃、食わせた飯代、風呂代、最低限の衣類代。

全て込みこみでこちらの借用書に記載されてる。要はお前らの世話代は銀行から借金したわけだな」


「また借金か」


とサラは慣れたもののように言った。世知辛い。俺は話を続ける。


「数か月も食料品店で働けば返せる額だ。まあ、別に娼婦の仕事をしたいというなら俺は止めはしないが。

その方が早く稼げることは確かだろうからな。俺からも早く自由になれることだろう」


「この人でなし、悪魔ー!」


「やっぱそんな甘い話はなかったか……!」


「それとこれを渡しておく。当分の生活費だ。千ドルもあれば二人で暮らしていけるだろ。

むろん借用書にはこれも含まれている。どうするかはお前たち次第だ。

俺の言うことを素直に聞いて給料をもらって借金返して自由にするもよし。

手っ取り早く色仕掛けで稼いでもいい。カネを持っていて心優しい誰かに保護してもらうっていうのも手だな」


「あ、なら総督。総督に色仕掛けで保護してもらうっていうのは?」


ミナはもう客を取ったことがあるのである種割り切っているらしく、服の襟を引っ張って乳首を見せて誘惑してきた。

俺は瞬間湯沸かし器みたいにそれをみてカッと頭に血が上って危うく殴りそうになった。

服の襟を引っ張ったら伸びるからやめなさい。お母さんに教わらなかったのか?


「やめておけ無駄だ。俺はケツとタッパと胸がデカイ女が好きなんだ。

さて、カネの話は終わったから次は食料品店に行くぞ」


俺は無理やり二人を連れまわし、銀行の近くのさまざまな物を売ってる雑貨店に向かった。

ここには俺のよく知る双子、マリーがいる。ちなみに片割れのミリーはバスの運転手だ。

彼女らは孤児だったとはいえ、収容施設で読み書き計算くらいは習っており、なんなら簡単な物理学なども習っているという。


彼女の働く職場に遊びに行き、俺は狭い雑貨店の中を子供を連れて回る。


「お前らの職場は内装はこの店とほぼ同じだ。よく覚えておけ。

まずは客としてモノを買ってみることだ。そうすれば売る側の気持ちもわかってくる」


「ちょっとおかしいよこれ! ねえ総督!」


「あん? どうした?」


十代前半とは言っているが、それより明らかに子供っぽいサラは俺への警戒感はもうあまりなく、すっかり打ち解けてくれている。

彼女は店に売っているパンを指さして大声で俺を呼んだ。


「ねえ、これ一斤が一ドルってどういうことなの?

私の知ってるパンはその三倍ぐらいすると思うんだけど」


「おお、サラは賢いな。昔にある程度教育を受けたと言っていたっけな」


「それよりこんなに安いなんておかしくない?」


「気が付いたようだな。ミナも聞いておけ。それがカラクリだ。

俺達はある方法を使ってものすごい安い値段で小麦を作り、パンを焼くことができる。

そしてこれをお前らの街で通常より安い値段で売ることで、莫大な利益が出る」


ミナは年下のサラよりも頭が鈍いことはしっていた。

話を分かっているのかわかってないのか微妙な顔をしながら話を聞いていたが、別に俺はそれに配慮はしない。

この話のキモは、むしろ利益よりも客の占有率だ。

明らかにパンの値段が安くなればもう怪しいとか言っていられない。

庶民は必ずこれを買うことになるわけで、そうなればパンを含めあらゆる食料品のシェアは我々が占有することになる。

あまりにも強力すぎる、"食の支配"だ。


例えば現代日本はアメリカに頭が上がらなかったわけだが、それはただ単に軍事力や歴史的背景だけが原因ではない。

アメリカ産の農産物、およびアメリカを経由して製造される食品が日本の食卓に大きな影響を及ぼしていたからだ。

具体的には大豆や小麦、お肉や卵などだ。

豆腐や味噌やしょうゆといった実に日本的な食べ物でさえ、元をたどれば原材料は国産ではなくアメリカだったりカナダ産だったりする、

そのぐらい胃袋を握るという形での経済的結びつきはともすると危険、と言えるほどに強力な絆となる。

俺達の場合、アメリカなどよりも容赦なくやるつもりだ。


「よし、それじゃこのパンを使って俺の得意料理を作ってやろう。

特別だからな。お前たち、上へ行くぞ」


俺は強引なタイプである。少なくとも女と子供に対しては。女の子ならなおさらだ。

有無を言わせず食料品店を出て上へ続くトンネルのエスカレーターに向かい、二人を連れて上へあがった。

エスカレーターには窓など便利な物はなく、ある程度のところで切れて途中からは動かない階段になり、階段を少し上ると隔壁となるフタがある。

俺はこれを開けた。開けた先も密閉されていて外気とは遮断されている。

透明なドームで覆われ、これがプラントに繋がっているのだった。


「外を見るのは初めてか?」


女の子二人は答えられないくらいパンを抱えて言葉を失っていた。

地表には狭い地下都市では見たことも考えたこともないような大きな機械のようなものがある。

アーセナルや旗艦ミレニアムアヴァロン号だ。もちろん俺は旗艦を指さして言った。


「あそこに行くぞ。ご飯食べさせてやるから」


徒歩で数分の距離にある旗艦へ戻ったのはただ単に子供たちにメシをふるまうためだけではない。

俺は基本的に、一つのことを一つの目的のためだけにはしない性質だ。

一石二鳥、三鳥を狙っていく。まずは厨房へ行き、二人の持っていたパンをナイフでカットしてクロックムッシュを作ってあげた。

そしてお砂糖たっぷり甘めのコーヒーを淹れてあげ、ついでに別メニューも作った。

カットフルーツだ。病人食などでは定番である。

二人の分のほかにコロンビーヌの分も作っておいて、二人にはコーヒーと二品の軽食を食べさせた。

二人には感想を聞くまでもない。


さっきご飯をアンリに食べさせてもらったのに二人はこれに食らいつくように食べてくれた。

作りがいもあるというものだ。二人が完食するのを見届けてから俺はこう告げた。


「よしじゃあ一緒に来い。お前らだけ特別だからな」


「どこに?」


「妻を見せてやるよ。病気したうえに妊娠してるから、ほとんど外に出られなくてな。

ここには医者が常駐してるからここにいるのが最善なんだ」


「妻……!」


「いやあ、お前らを引き取るとき勘違いされたから妻に変な話が行ってないといいがな」


その後三人で操縦室横の俺の部屋に入ると、コロンビーヌは特に変哲もなくベッドで寝ていた。

コロンビーヌは子供好きとはいえ、一緒にしておくべきではないと俺を含めて周りが判断したので、ベルンハルト共々、赤ちゃんたちは医務室の親父たちに預けてあるのだった。


「寝てるなぁ……やっぱ起こさないようにしておこう」


「顔が見えない……!」


「見る必要ないだろ。いくぞ」


俺はさっき厨房で軽食を作るついでにカットしたフルーツをベッドのそばに置き逃げし、コロンビーヌには気づかれないように部屋を出た。

そして長い廊下を歩きながら二人に長い話をしだしたのだった。


「二人とも、そろそろ出産する彼女とその子にかけて誓うが、俺は困ってる子供がいれば必ず助ける。

お前たちのことも必ずな。俺達がヤクザごとき鼻で笑える理由もこれで分かっただろう?

俺達は無敵なんだ。最強だ。あの街がお前たちを苦しめてたんなら――」


「本当に……本当に助けてくれるの?」


「私たちをあの息苦しい街から……?」


チョロイ。と俺は思った。女の子たちはウルウルした目で俺を見上げる。

期待のまなざしだ。女の子というのはこれが得意なもので、その気持ちを忖度して汲み取り、百二十点の対応をしないと怒られるものである。

俺は役割を演じるのは割と得意な方だ。かっこいい救世主を求められているならそれにこたえるまでのことだった。


「覚えておけ、俺は総督のトーマ=アラン・ロラン。この世の全てを手に入れる男だ。

ところでお前たちはそろそろ家に帰れ。職場はまだ建築できていないから、出来たら連絡する」


「あの、総督。私!」


「どうしたミナ」


「私総督のためにお尻と身長のデカい、グラマラスな体になります!」


「頑張れよ。そのためにはたくさん食べてぐっすり寝ないとな」


「はい……!」


「二人とも帰るんだ。俺はまだ仕事が残ってるんでな。

下の医務室に赤ちゃんが三人いてだな、最近あんまり顔出してないから見に行かないといけない」


「わかりました……それじゃ」


俺は二人を二階のタラップまで送ると、次に船の一階の医務室へ入った。

すると、赤ちゃん二人に挟まれてベルンハルトが寝ていた。

その横にはベルンハルトと血は繋がらないが、ほぼ同い年なので家族みたいに育っている男の子が寝ていた。


こいつはラインハルト・ドラクスラーという恐るべき名前の二歳児である。

もちろん、ベルンハルトにとって彼は頭が子供なので興味の全くない存在だ。

ベルンハルトの興味のある人間は自分の知らないことを知っている人間や自分並みに頭のいい人間くらいのものだからな。


それらの子供を親父の彼女だとかいう女医がじっと見つめている場面に俺は遭遇した。


「どうも。四人とも調子はどう?」


「あら王様。ほかのコたちはさっきミルク飲んで寝たわ。

ベルンハルトくんは分体を操るために本体は寝ているみたいね」


「ありがとうございます。親父はどっかいったの?」


「なんかのプロジェクトがあるとかで、地表の造船ドックでなにかしてるみたいだけど……?」


「道理で最近顔を見ないと思った。顔を出してみようかな。ただし本体で。

俺は分体だからここに体を置いておく。邪魔だったら倉庫に片付けておいていいから」


「わかったわ。あなたいつ眠ってるの?」


「日サロに入ってるときとかよく寝てるよ。じゃ、俺はこれで」


俺は医務室で無造作に通信を解き、意識は再び隣町に戻ってきたのだった。

気が付くと目の前にはみすぼらしい見た目のベテラン娼婦がいた。

俺はこれと目が合うと舌打ちした。


「チッ、起きて早々見る顔がこれか」


「失礼な奴だねアンタ。何が気に入らないの?」


「全く。あんた俺の母親そっくりなんだよ。痩せてて顔色が病的に悪くてすぐに死んじまった。

思い出すからその顔見せんじゃねえよ。あんたも清潔にしていい物食べて健康になるんだぞ」


「なんなの……心配してるのか口が悪いのか……?」


ベテラン娼婦は不思議そうに首をかしげたあと、俺の前から姿を消した。

体を起こしてみると、どうやら俺は分体を遠隔操作している間に本体が移動させられていたようだった。

俺は一応外にいたはずなのに――むろん、外と言っても地下空間ではあるのだが――天井が頭上にあって窓や壁が周囲を囲んでいる。


そして、ここが新しい食料品店の店舗の中だとそこから何拍か遅れて俺は理解した。


「トーマ様。子供たちはどうでした?」


とカウンターのところにいて、コンピュータを操作しているアンリが言った。

たかだか食料品店の事務や会計の作業に仰々しいことである。


「ああ、大丈夫だった。家に帰らせた。特に問題はないだろう。

赤ちゃんもよく寝てたよ。内装はもうこれで完成したのか?」


「ええ。もう開業できるんじゃないですか。向こうからトラックが到着すればですけど」


「早速注文しよう。アンリ、俺の今から言う商品を打ち込んでくれよ?」


「わかりました」


俺は持っていた手帳でエクアドルの方に通信を入れ、食料担当のエリザベスと通話をつなげた。


「もしもし、こちらトーマ。エリザベス。今仕事は大丈夫だよな?」


「ええ、もちろん。どうかされましたか?」


「食糧庫の貯蔵は順調だろうな」


「はい」


「食糧庫の食糧を購入させてもらいたい。

配送はトラック運送業者に頼んでほしい。

むろん、隣町に出店した店舗の倉庫にこれを搬入してほしいわけだな」


「はい。食料担当を王様に任されたのは私ですから。

ご注文はなんでしょう?」


「いやそれが、とにかく全種類持ってきてほしいんだ。

全種類を均等に持ってきてほしい。別に代金を支払う必要もないんだが、銀行から借金して支払う。

要するに銀行にツケておいてくれ。あと、パンは百キログラムほど頼む」


「承知しました。すぐに」


「あ、まだ電話は切るなよ。少しだけ言わせてくれないか?」


「何でしょうか?」


「君は綺麗だエリー。この世で一番美しい。誰もが君に夢中になり、憧れる」


「え……あの、王様。何をおっしゃってるんですか?」


「これは事実だ。それに異を唱える者がいれば俺が思想と価値観を矯正しよう。

君にはわかってほしかっただけだ。俺がその気になれば美人の基準すら変更できるということをな。

君が常々、自分の容姿のことを愚痴っているのは知っているが、もうその必要はない」


エリザベスは胸が大きく腰つきはまるで遮光器土偶のように豊満なカーブを描いている。

背が高く腕や脚は丸太のようにたくましく太い。

ただ脂肪と、肉と、逞しい筋肉をその下に備えた一流の関取のような体をしている。

尻は目を疑うほど大きく、スカートや薄手のパンツなど履けたものではない。

それなので普段は厚手のジーンズを履いているのにそれでもまだ後ろから見ると尻肉は見る者に激しい主張を叫び続ける。


むしろ、厚手のデニム生地で無理やり圧迫しながら押し込めて隠している方が、そこから外に出たがっている尻肉をかえってより性的に見せるほどの巨尻だ。

いわゆる可愛い女の子像とは真逆を行っているので本人もその骨太でどうやっても痩せてくれない体を呪っている。

そのことは俺を含め、ノイトラ王国民の大半が知っている。


それがどうしたというのか。俺が美人だと言えば彼女こそがマリリンモンローでクレオパトラでモナ・リザだ。

彼女こそが美そのものなのだ。もはや信仰しかない。女神なのだ。


「詳しい話はまた今度な。じゃあエリザベス、忘れてるかもしれないからもう一度確認するぞ。

パン百キログラムに、食糧庫にある食べ物をありったけなるべく種類豊富にトラックで」


「わかっています。銀行にツケるんですね」


「ああ。頼んだ」


「わかりました。ちょっとびっくりしましたけど、美人と言われたのは初めてなので嬉しかったです」


「これから飽きるほど言われることになる。君こそが美そのものになるのだ」


「はい。楽しみにしてます。それでは」


エリザベスはスルースキルが高いらしく、俺の言うことはうまく受け流して電話を切った。

トラック運送業者の責任者は、スフィアから連れてきたコールドスリープ組の人々の中から無作為に選んだ人だ。

別に登場するわけじゃないのでわざわざ名前は出さない。

エリザベスに通信した後はもちろん、分体を再起動して、俺はエクアドルにいるガキ二人の家を訪ねた。


「あ、総督!」


最初会った時と比べるとかなり態度を軟化させてくれた二人は、シェアハウスし始めた一緒に住む部屋の玄関から出てきて俺の分体に叫んだ。


「不便だなお前たち。お前ら今から言うことをよく聞けよ。

俺は面倒見のいい方じゃない。一回しか言わないからちゃんと覚えるんだぞ?」


「何でしょうか。何でもいいですよ!」


「まず、今からバスで仕事場に向かえ。お前たちの上司のアンリから色々と教えてもらうといい。

次に、仕事から帰ってきたらベンツ博士という人を探して手帳を買うんだ。

もちろん代金は博士から銀行に連絡行って、借金に加えてもらうようにしておけ」


「ところで総督、この借用書なんですが」


「どうしたサラ」


サラは持っていた借用書を俺に差し出し、怪訝な表情でこう聞いてきた。


「あのこれ、勘違いだったらあれなんですけど、やっぱりそうですよね。

借金の名義が総督になっています。これはどういうことなんですか?」


当たり前である。仕事をしてないし学校にも行っていない十二、三歳の子二人に銀行はお金をかさない。

銀行は信用第一だからな。当然、すべて俺名義に決まっていた。


ところで話は変わるが俺は聞いたことがある。これは親父の受け売りなのだが、まず、男というのは女を幸せに出来る男がいい男の条件であると認識している。

だから結婚の時などよく「幸せにする」とか「幸せにしてやれよ」といったセリフが飛び交うことが多い。

実際、俺もそう思っているし、常々誰か大切な人を幸せにできる男になりたいと考えている。

あと下ネタになるが、セックスで女を気持ちよくできるのがいい男である。

これは間違いなく男たちの共通認識の中で、確実にある。

その証拠に男性向けポルノで女性が気持ちよがっていない作品は極めて少ない。


むしろアヘ顔や過剰な喘ぎ声など、気持ち良がりすぎるぐらいのポルノ作品が多い。


ただただ女性が嫌がっているだけのガチレイプものなどの作品は絶対に好まれない少数派だし、俺も大嫌いだ。


それと比べるとやや正反対な印象を受けるのだが、親父によると「いかに男に損させることが出来るか」が女の考えるいい女の条件なのだという。

従って、女性と食事に行ったときに割り勘などもってのほか。

奢ってあげたとしても、割引券を使うなどしてお得にお買いモノすることは避けるべきであるという。


というのも、女性にとっては男性にどれだけ身を切らせられるかがいい女の指標であるため、割引券などはまさにこれと相反する。

つまりそれは、「私のこともお手軽に手に入れようとしているのか」と捉えられてしまう。

そして「お前は出来るだけ安上がりに済ませたいファストフード女」という風な侮辱と解釈されても仕方がない事なのだという。


男女を逆にすれば、男性が女性に「一緒に居てもつまらないしセックスが下手だ」と言われるようなものだ。


もし親父の言うことが本当なら、確かにこれは、自身の存在を全否定されたかのごとき強烈な屈辱を感じてもしょうがない。

男女を逆にすることで、恋愛経験の非常に薄い俺でも容易に実感できる。

俺だったら同じようなことがあったら二度と立ち直れる気がしない。

だから絶対に食事の時は余計なことをせず奢れと親父にアドバイスされたことがあった。


むろんこれらは全て親父の独断と偏見であることは留意すべきだが、専門家の意見として一応俺も心に銘記してある。

だから、今回の場合、俺はポジティブな意味で親父の言いつけを守っていることになる。


このガキどものために俺はわざわざ借金を引き受けてやっているわけだからな。

もっとも、その借金をしている銀行の元締めは俺である。

総裁はマクギリスだが気分次第でいつでも罷免できる以上、実質的経営者は俺だ。

よって、この借金はどれだけ膨らもうが俺の懐は痛まないのだが、孤児の少女たちはさすがにそこまで知る由もない。


親父の言っていたことに当てはめるなら、俺は彼女たちに好まれる行動をしているはずだからだ。

男女のことは親父ほどわからないがこれだけは言える。

言葉よりも行動の方がより確かに人の心に響く、これは間違いない。


「借金のことは気にしなくていい。さあ、早く一緒に来い」


「そういうわけにはいきませんよ。私たち頑張ります、精いっぱい働きますので!」


「よかった。さっきはああ言ったが、やっぱり娼婦の仕事はこんな子供にしてほしくないからな」


とほほ笑みかけると頬を染めながら二人はぼーっと無言で俺を見てきた。

完璧だ。もう完全に二人は俺に心を許していた。

とはいえ二人には娼婦なんていう危ない仕事をしてほしくないのは本当だ。

病気や妊娠のリスクがあって命の危険につながるし、男やヤクザとの関係は犯罪に巻き込まれるリスクもある。

俺の庇護下に居てほしいのは本当だ。そんな俺は演技なのか本心なのか自分でもわからないが、ともかく優しい声音で二人に話を続ける。


「元気出たみたいで俺も嬉しいよ。あの街は俺とお前たちでぶっ壊して作り変えてやるんだ。

一緒に出来るか、二人とも?」


「はい!」


「精いっぱい頑張ります。私バカだしあの、アレなんですけど」


「心配するな。いざという時は俺がついてる。初出勤がんばってねー」


「ハイ、総督!」


俺は人心掌握に長けた方ではないが、さすがにここまで世話してやって甘い顔もすれば、もう完全に二人は俺の支配下に入ったようであるとわかった。

俺は満足しながらエスカレーターに乗って船に戻り、医務室に自分の分体を戻して本体に意識を戻したのだった。


さて、エリザベスに注文した荷物を満載したトラックは電話を切ってから三十分ほどでこちらに到着した。


到着したトラックの荷物は孤児二人を含む俺たち全員で倉庫に運ばれ、数万ドルの代金を俺は借金して支払った。

ものすごい額の借金が続いているが、同時に、我がエクアドル国では回収も容易だ。


というのも、現在我が国はろくに法整備もなされていないのだが、特に税金が全くないのが特色だ。

税金がない代わりに国営企業が非常に力を持っていてお金もある。

その国営企業の一つがこの食料雑貨店である。

維持費と人件費を考えなければ、売値から原価を引いたものが全部儲けになる。

消費税や法人税などまどろっこしいものは一切ない。そして、ここが開店すればすべての儲けは俺のところに入ってくるのだ。


「よしっ、アンリ、二人に商品の陳列を教えてやれ」


「はい、僕も素人ですが。トーマ様はどうされますか?」


「俺は用事があるのであの女を呼ぶ、その間に陳列を完了させておけ」


俺はそう言って店舗から出ると手帳で連絡し、エースに電話をかけた。


「あ、もしもしトーマね。急にどうしたの?」


「そろそろ店が開店するんでな。明日の開店を予定しているんだ」


「ああ……懐かしいね。あの機械の出番ってわけね?」


「さすがエースは理解が早い。印刷機で大量にビラを発行したい。

アナクロなやり方だが効果的だろう。材料と印刷機をトラックで持ってきてくれ」


「わかったわ。でも無理しないでね」


「無理なんかしてないよ。俺は人を使って働かせてるだけだからな。

あ、そうそう。親父がプロジェクトを進めてるとかなんとか聞いたけど、そうなの?」


「博士もそれにかかりっきりらしいわ。だから最近あんまりエクアドルの景色が変わってないでしょ。

博士が二人して働いてたら、エクアドルの景色は変貌してるはずだからね」


「確かにな。俺は今からまた向こうの分体を使うから直接会って話そう」


「わかったわ。じゃあね」


分体を動かすのは疲れるがそうも言っていられない。

俺はまた雑貨店の事務室の椅子にどっかり座って目を閉じ、通信を使って船の医務室に置いてあったもう一つの自分の体を起動した。

医務室の俺は目を覚まし、すぐさま官邸に戻った。


官邸と言っても今は使われていない部屋がほとんどであり、エースと一緒にベルンハルトの分体もそこにいてコンピュータでなんかしているところだった。


「よう二人とも。俺だ。元気してた?」


「心配ならあなたの体の方ですけどね、総督。印刷機が必要なんですね?」


印刷機は今となっては懐かしい、ノイトラ王国建設初期に居住区に表札をつけるためにベンツ博士が作ってくれたものだ。

今ではあの日々は遠く思える。まさかあの時の俺は、妻や子が出来るとは思ってもみなかった十二歳の子供に過ぎなかった。


「ああ。エース、トラックでもっていってくれるか?」


「わかってるわ。予備の車両使わせてね。あ、そうそう。

博士とボスたちの仕事なんだけどベルンハルトくんも一枚かんでるんだっけ?」


「僕の分体を一体そっちにやっています。巨大なプロジェクトですからね」


「それってどういう?」


「総督がお忙しくないようなら行ってみたらいいんじゃないですか。

地上にとんでもないものが建設されてますよ。良かったら一緒にいきます?」


「お、久しぶりに一緒にいくか。案内してくれ」



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