第八十六話 技術と経済力で異世界無双
前回までのあらすじ
「俺」こと主人公のトーマはノイトラという種族の王であり、ノイトラ王国を建国した初代王でもある。
リリス、ベンツ、ベルンハルトなどノイトラ王国の様々な仲間を従え、ノイトラ王国から宇宙船で旅立った。
そして無限に続くかのごとき鋼鉄のダンジョンを進みに進み、やがて地表にたどり着く。
主人公たちがいたスフィアという世界は実は超巨大な惑星の中心部分にある閉鎖空間だったのだ。
この惑星は人類が"統治機構のセキュリティ"と呼ばれる機械の兵士に牛耳られていることが判明。
地表の少し下の地下街に隠れるように住んでいる人類はスフィアや無人の地表のことも知らない。
そして彼らは低い文明レベルになるようにセキュリティに管理されて平和に暮らしているのだった。
そんな中、トーマはなんとセキュリティをも倒せる力を持ってこの平和な地下都市に襲来。
辺境の地をエクアドルと名付けて植民都市を形成し、圧倒的に高い技術力、情報力、経済力を活かしてのどかな地下都市で無双を開始する!
といった感じのストーリーになっています。詳しくはぜひ一話から読んでくださいね。
ここから初めて読むという方はあとがきの人物紹介をご覧ください。
「待て待て。そうではない。ここには仕事がある。
二人の旦那さんも仕事を探しているようだし、いっそここに住んで、ここで二人とも仕事をしてみては?」
「でも私は事務の仕事が……」
「なるほど。旦那がしっかりしてないと、奥さんがしっかりしてないといけないようだな。
じゃあ新婚のアンタ、そしてしっかり者の奥さん。二人に提案があるのだが聞いてくれるだろうか?」
「なんでしょうか、総督さん?」
俺は妙齢の女性二人にこう言った。
「簡単に言うと、まずしっかり者の奥さんにはトラック運送業をやってもらいたい。
あんたには水を運ぶ仕事をしてもらうというわけだ」
「車ってこの街に来たときのあの乗り物のことですよね。
運転はしたことないけど頑張ります!」
ぶっちゃけこの主婦がトラックで事故を起こそうと別に興味はない。
可能な限り気を付けては欲しいが、今はそんな時間もないので俺は無責任にこう言った。
「頑張ってくれ。新婚の奥さんには、この水を売ってもらいたい」
「水を売る?」
「そうだ。通常の半額、つまり二リットルで一ドルで販売するんだ。
売り上げの一割はアンタの、もう一割は運転主の給料にするとしよう。
ああ、そうだ。手が空いている者がいるからつけよう。アル、ブリュッヘル、仕事だ」
そう俺は言ってからアルに通信を入れ、上のように今呼び寄せた二人は俺と女性二人のそばに走ってきた。
「紹介しよう。アルとブリュッヘル。用心棒だ。二人とも、この女性の店を守れ」
「店って何の?」
「水を売る店だ。その他もろもろ、雑用にでも使ってくれ。
二人とも仕事がなくて困っていたようだからな。
たった今からお前らは警備会社エクアドル・セキュリティの社員だ」
「わかりました」
「おい王様、何だよ警備会社って俺知らないぞ!?」
「俺が今作ったからな」
「有無を言わせん感じだな……」
ブリュッヘルは大人なので、すぐに折れてくれて女性店主のガードはこれで人選が決定。
女性店主たちは喜んでくれた。この決定により、バス便のほかにトラック運送業者も新たにエクアドルに誕生。
余って余ってしょうがないくらいの人工光合成プラントによって作ったガスの使い道が出来た。
まあ、作っている量が膨大過ぎて、車を何台か動かす程度では雀の涙ほどの消費量だが。
次に、俺は安くお水が買えて安い値段でお風呂にも入れて大満足のマダムたちが俺に帰りの挨拶をしてきたのでこう言った。
「誰か、仕事してなくて何か仕事が欲しいという人がいれば話をしよう」
と言うと女性たちは口々にこう言ってきた。
「ダンナに甲斐性がないんだから。仕事をくれるっていうならやるわ!」
「私だって!」
「そうそう!」
「わかる!」
俺は女性たちが乗り気であることは十分わかったので、こう提案した。
「実は一番最初に声をかけた二人も俺から仕事を割り振った。
うちで働いてくれることになった。あなた方にも仕事をお願いしよう。
二人一組を作ってくれ。あんたら十八人で偶数なんだから作れるだろ?」
しばらく待って、九組の女性コンビが出来たところで俺は仕事の説明を開始する。
「まず、この街で仕事をするというのなら歓迎する。
ダンナや子供も連れて移住してくるといい。旦那の仕事も都合しよう。
そうしようと思っている人は手をあげてくれないか?」
二人手を挙げた。この女性たちのパートナーは相手がいなくなったので、その二人は新たにコンビを組み、八組十六人の女性たちが残った。
俺は手を挙げてくれた二人にこう言った。
「ここを気に入ってくれてどうもありがとう。すぐにでもダンナさんたちを連れて移住するといい。
仕事を割り振ろう。さて、そうでない皆さんにはとりあえずその水を家に持って帰ってもらうとするか。
だが、後でもう一度来てほしい。仕事を与えよう。それとも今話を聞くか?」
「今がいいです!」
「私多分帰ったらもう話忘れてるわ」
などと女性たちが口ぐちに、今仕事の話をしろとせっついてきたので俺はこれ幸いとばかりに話を進める。
「我々には大量のアルコールの備蓄がある。飲みきれないほどのな。
詳しい話はあとで聞いてくれれば答えるから省略するが、ともかくアルコールは大量にある。
あなた方にはトラック運送をしてほしい。車の運転が出来る人はいるか?」
手を挙げてくれたのは一人だけであった。
「なるほど。まあいい。アンタの仕事はアルコールを満載したトラックをここから近くの街へ運ぶこと。
その街で売り子をしてくれる人が二、三人必要だ」
「あ、アルコールですって。そんな高価なものをどうして大量に持っているんですか?」
「やはり水が貴重ならアルコールも相当貴重なものらしいな。
話は簡単だ。アンタらは相場の半額で不当廉売し、市場を制圧するのだ。
もしくは酒場や飲食店を開き、酒類をやたらと安い値段で売ってもいいかもな。
給料は追って相談させてもらう。店が好調なようなら給料は弾む」
「今日は一旦帰ってもいいですか?」
「もちろんだ。気が向いたら来てくれればいい。いつでも大歓迎する。
では運転手、マダムたちを送ってくれるかな?」
「はい」
運転手は俺も知っているノイトラ、ミリーである。
彼女の話題はこれまでもしてこなかったし、これからもほとんどしないが、優秀な人材は適宜使わせてもらう。
彼女をバス運転手に配置したのは正解だったと思う。真面目だし、強いからバスジャックも心配しなくていいからな。
実に三十人の来客を相手して一気に疲れた俺はホテルに戻って風呂に入りに行った。
同じようなことはその次の日も、またその次の日も続いて、気がついたら俺とベルンハルトの分体は赤道などとうに超えて非常に遠いところまで来ていた。
「だいたい、ここまでで一万キロメートルは来たかな?」
アーセナルの狭い操縦席で俺が言うとベルンハルトは俺の方を振り向きもせず、モニター越しに見える代わり映えのない景色を眺めつつ無機質な答え方をした。
「そうですね。あと二週間も走ればリリシアに到着してしまうでしょう」
「長かったなぁ。そういえば最近電波塔を建設してないけど、いいのか?」
「複合型で行くことにしたんです。元々地下にはケーブルがあると言いましたよね」
「ああ」
「それに対し、鉄塔を作って地上に予備の電線を張ってきましたが、工期短縮のため、ひたすらケーブルを今伸ばしてます。
電波を飛ばすより、ケーブルの方が早いし劣化なども少ないですからね」
「そういうもんなのか」
「はい。これからは五千キロメートルに一度のペースで鉄塔を建築していきます」
「わかった。ところでベルンハルト、俺は一つ気になってたんだが」
「どうかしたんですか?
「お前、俺を提督としか呼ばなくなったろう」
「別に呼び方なんて何でもいいでしょう」
「それで思ったんだが、お前もしかして、コロンビーヌが俺に取られたことが気に入らないのか?」
図星だったようでベルンハルトは少しの間沈黙を続けていたが、やがて怒った様子もなくこう言ってきた。
「僕もどうしていいかわからないんですよ。二人とも大好きですから」
「おっ、そうなのか。よかった。実は俺もお前のことが可愛くて仕方がないんだが……」
「このクッションなどは良いですよね。
これは提督の発案のようですが、子供のことをよく考えていないと発想できないようなアイテムです」
そう、あれからというもの俺がエースと一緒に作った、転倒時に幼児の後頭部を保護する背負うタイプのクッションをベルンハルトはずっと身に着けている。
かわいい。多分ベルンハルトは自分が可愛いことを理解しているようだが、話してみると可愛くない。
「そうだろう。俺はお前を愛してるからな。今は前と違って愛想がないけど、まあ息子なんてみんなそんなもんだろうしな」
「わざとよだれ垂らしたり、お漏らししたり、あれも中々面倒だったんですよ。
ところでリリシアに戻ったらどうしましょうか。恐らく向こうでもガスが余ってしょうがないでしょうが」
「ベルンハルト、お前も知ってると思うが何か月か目を離していた隙に、俺たちの都市はひどく発展しているものだ。
予想を遥かに超えてな。果たして、どうなっていることか。到着が楽しみだな」
「ですね」
それから実に二週間もの時が過ぎ、俺とベルンハルトの二人が乗ったアーセナルRと、それに随伴する巨大な格納庫を搭載した資材運搬船が、リリシアに到着した。
俺達が地表に出てきて初めて作ったコロニーだ。
そしてここまで俺たち分体の意識が都市国家エクアドルにいる俺たちによって操られている以上、電波塔を建設する工事は成功しているということを意味している。
「長かったなぁハルト。男同士二人っきりで一か月近くもぶっ通しでこんなところに缶詰でさぁ」
「長かったですね。僕はエクアドルの経営の方にはあんまり関わってないんですが、そっちはどうですか?」
「順調だよ。移民も増えてるし、ほら、一か月経ったから給料も払わないとイカンだろ?」
「ちゃんと払えたんでしょうね。まあ彼ら水が貴重品のようですから、最悪お水の現物支給でもいいかもしれませんけど」
「大丈夫、水を現物支給とかいう最悪の事態は避けられたよ。
むしろカネがもうかってしょうがない。当初の目論見に反してお風呂屋さんはまだちょっと儲かってないけどな」
現在アーセナルを国庫にして対応しなければいけないくらいにお金がもうかってしょうがない。
恐らくは隣町の人口のほぼ全員が俺たちの水の売店を利用しており、お風呂を売りにしたホテルにもそこそこの人が来てくれている。
そのため今まで仕事がなくてヒマしてたアルやブリュッヘル、それに隣町の無職のおっさんや主婦たちも大忙しの様である。
これならば念願の銀行建設、社会保障制度の設立なども間近だ!
「水とアルコールの販売がうまく行ってるみたいですね」
「ああ。俺はお金が好きで好きでしょうがないんだが、ハルトにも少しアイデアを聞いてみたいね」
「そうですね。あれ、ちょっと待ってください?」
「どうした?」
「ほら、あそこ。博士のラボです。天文学を研究したりさまざまな物を作ったりと色々してたじゃないですか」
「そうだな。すぐ放棄になっちゃったが」
「何故かあそこに博士がいるんですが」
俺は言われた通りに見てみると、確かに観測所には白衣を着た身長が低めの人がいる。
恐らくはベンツであろうと思われるが、それより俺が気になったのはやはり、冷却塔だろう。
ここにも冷却塔が設置されているのだ。一応ガスを冷却して圧縮、封入する施設は前にもここにあったと思うが、塔のようなスタイルではなかったはずだ。
塔の他、巨大な倉庫みたいなものや造船ドックみたいな建物があったりして、建築ラッシュが進んでいるようである。
「どうして博士が……?」
俺達はとりあえずアーセナルを停め、その中に大量に駐車してある車両の一つのエンジンをふかした。
二人で乗り込み、博士の観測所へ行ってみると確かに、観測所の表にベンツの姿があった。
「どういうことだ?」
「話に聞いたことがあります。この世には博士のクローンが何人もいると」
「そのうちの一人か? ともかく降りて話を聞いてみよう」
とりあえず俺は車から降りて、「よう博士!」と言ってみたがベンツは話を遮ってきた。
「立ち話はいいから中へ入りたまえ。紫外線がきついからね」
「そうか。じゃあベルンハルト、お邪魔しようか」
ベンツに観測所の中へ招き入れてもらった。中はさほど変わっていないが、紙の資料の数が増え、コンピュータも増えていた。
俺達を暖炉そばのソファに座らせたベンツは俺たちにコーヒーを淹れてくれた。
ベルンハルトにはココアを入れてくれた。一応ベンツにとっても息子になるわけだから優しいのだろう。
俺は猫舌なので、これをいただく前にこう聞いた。
「あんたベンツ博士だよな?」
「私はベンツの分体だよ。ベンツは今、ローレシアにいる」
「なにっ。分体をどうやってここに送ったんだ?」
「君たちと同じだよ」
「なにっ」
「行き来するだけで二か月ぐらいかかるなんて非効率的だと思わないか。
ネットもつなげたし、巨大なエレベーターを設置したからこれまでと比べると三分の一程度の時間で行き来できるようになったよ。
ところで、君たちの船には何が積まれているんだね?」
驚いた。俺達がしようとしていたことくらいベンツはとっくに発案済みであり、しかも工事すらすでに着手していたというのだから何だか敗北感すら覚える。
「提督の言っていた通りですね。僕らは勝手に、一番先に進んでいるから自分たちが最先端だと思い込んでいたが、実はそうでもないようです」
「おお、そういえばベルンハルトは知能がずば抜けて高い天才児なんだってね。
ネットが繋がっているからそっちの情報も手に入るようになったよ」
「何でもお見通しか。じゃあ俺に世継ぎが生まれるって話は?」
「聞いたよ。あ、そうだ、ベルンハルト。ちょっとIQテストしてみよっか?」
「ハン、僕も舐められたものですね」
とベルンハルトは腕組みをし、不愉快であることを表明した。
ベンツの分体は気にせずに問題文を読み上げだした。
「暗い夜の谷に一つ、つり橋がかかっていました。その向こうには山小屋が見えます。
寒くて暗い夜の山ですから、凍死や動物に襲われるリスクもあり、グズグズしてはいられません。
ここに四人の人と即席のたいまつが一本だけあります。
Aさんは一分で対岸へ行けます。Bは二分。Cは五分で、Dはケガを負っており、十分かかります。
つり橋は古いため、最大二人でしか進めません。
橋を渡る場合は、早い人は遅い人に合わせてあげるしかありません。
この条件で、可能な限り早い所要時間で全員対岸の山小屋に入るには?」
難問である。情報量と条件が非常に多い。二歳児に出す問題ではない。
そのため、口頭で一度聞いたくらいでは理解し情報を整理するという、思考のスタートラインに立つことすら難しい。
まずこの問題の解決のためのとしては、対岸に渡った人は、片方が戻ってきてたいまつを戻さなくてはいけないという点にすぐ気づいて前提にする必要がある。
また、二番目に遅いCと一番遅いDがペアで渡るのが一番時間の無駄にならない組み合わせであると気が付けるかもポイントだ。
俺だったらこんな問題、口頭で聞かされたら三回ぐらい聞きなおして五分悩んだ後、わからないと降参してしまうところだ。
もちろんすぐにベルンハルトは答えたが。
「答えは十七分が最短でしょう」
「なるほど。訳を聞く必要はなさそうだね。正解」
「そんなことを話したかったわけじゃないでしょう博士?」
「まあ、そうだね。ええと、数日前から君たちが来ることはわかっていたから、来たら何を見せるかとか、どうおもてなしするか皆で相談してたんだ。
といっても、その二隻の船に誰が何人乗っているのかはわからなかったんだけどね」
「俺たちは分体だ。本体は別にいるし、食いものは必要ない」
「ふむ。ところで、この辺の地面を見たかね?」
「地表には大量のプラントが出来ていたな。俺達がここを出発した時の何倍もの面積の。
他にも色んなものが建っていた。地下は手狭になってきたのか?」
「地下は居住区だからね。話は聞かせてもらったよ。面白いことをやっているそうではないか」
「と言うと?」
「おカネを儲けようとしているそうじゃないか。そのうえ、それを使って地下都市を支配しようというのだね?」
「そうだが、何かいいアイデアでもあるのか?」
「うむ。少し地下を見ていくといい。案内しよう。徒歩で大丈夫だ」
「わかった」
何と博士は話もそこそこに観測所の床板をバカっと音を立てて開いてみせた。
ここにも地下の入口があるようだが、ややこしいのは地下と言っても二種類あるという点だ。
気づいていたと思うが、この星の地表は極めて分厚い砂の堆積層になっている。
組成は以下の通り。
炭酸カルシウム、氷、リン酸、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、重曹、水晶、メタンハイドレート、水酸化カルシウムなどなど。
その他多岐にわたる物質があるのだが、おおむね色味は白いものがほとんどである。
さて、これらの堆積層は非常に分厚く積み重なっているわけだが、その下に隔壁があり、俺の本体のいる都市国家エクアドルなどはこの隔壁の下にある。
ややこしいのはこの点で、ベンツはこの二種類の地下をほとんど区別していない。
隔壁の上の堆積層は砂が積もっていて岩盤らしい岩盤はあまりないため、掘削しやすく、地下空間をベンツが作ったようだ。
さらにその下には隔壁があり、この隔壁の下には元々空間があったが、この隔壁の下の空間と砂に掘った地下空間をベンツは区別していない。
それぞれに行き来できるトンネルがあり、地上に建てられた建物ともつながっている。
そういうわけで、砂に掘られた比較的浅いほうの地下施設をエスカレーターに乗って進んでいくと、妙な工場のようなところに行きついた。
がっしゃん、がっしゃんと機械が音を立てているので何事かと思ったら、なんとここは繊維工場だった。
働いているのは俺も顔を知らないが、みんな女性っぽい感じがあったのでノイトラであろう。
ノイトラたちが大きな機械を動かして様々な繊維製品を作っている。
恐らくその糸はシルクやコットンではなく全て化学繊維であると思われる。
「なるほど、化学繊維で繊維製品を作ってるようですね博士」
とベルンハルトは俺のセリフを奪うかのように見たまんまのことを言った。
ベンツはこれに大きくうなずいてこう答えた。
「そう、彼女らはノイトラだ。主に衣類を作っている。
基本的に十年は品質保証できるし、十年経ったらリサイクルする予定だ。
その他、地表で何十万人でも生活できるようインフラは日々、続々と整えているんだ。
人々の服飾もこうして雇用を増やせるわけだし、私は重視しているよ」
「考えたな博士。ここにある機械は予備はあるか?」
「さすがに機械の予備までは。だが機械を作ること自体は可能だ。
現物と設計図は渡そう。早い話、向こうでアパレルメーカーを立ち上げてみてはどうかな?」
「なるほど。博士、あんたはまるでここの王だな」
「そんなに褒めないでくれよ」
「別に褒めてはいないが」
「博士は皮肉が通じないタイプですからね。気にしないでトントン」
「ああ。ベルンハルト、お前は可愛いな」
と俺は言ってベルンハルトの頭をくしゃくしゃにした。
彼の言う通り俺は皮肉を言ったつもりだ。
だって、俺の遺伝子を入手して好き放題できるベンツがそれを所有している以上、ノイトラの王の力すらも思うがままだ。
事実リリスを俺に会わせず独占しておくことも出来たはずだ。
まあ、リリスがその気になればベンツを煮るなり焼くなり好きにできることも事実だが。
早い話、ベンツは俺に反逆することが出来るのだ。だから王のようだと言ったのに、通じなかった。
と思ったら、ベンツは笑いながらこう言ってきた。
「ククク、そんなつもりがあったならとっくにやってるよ。
安心して、私は君のことが好きだから何があっても信頼を裏切るような真似はしないよ?」
「思ったより皮肉が通じてたみたいだったな」
「みたいですね」
「そっちこそ気にしないでくれ。ただの軽口だ」
「わかってるよ」
「繊維工場の機械か。アーセナルにならいくらでも積んでいけるな。
遠慮なくもらっていこう。この俺が、まさかアパレルメーカーをやることになるとはね」
「アパレルメーカーだけじゃない。紹介したい人がいるから来てくれないか」
「わかった」
ベンツは工場の設備機械のことは一旦おいておいて、別の件で俺たちを拘束することになった。
さっきエスカレーターで降りてきたが、ここからさらにモノレールに乗った。
このモノレールは透明なチューブに覆われた線路の中を走っており、チューブの中は極限まで空気を抜かれた真空である。
そのため、細いチューブの中を超特急で走っても猛烈な風が発生してチューブがちぎれる、といった心配はない。
むしろ空気抵抗がないのでスムーズな加速と減速ができる。
走行中に窓を絶対に開けられないのが玉に瑕だが、それを除けばスピードも速くて清潔で明るくて外観もよい優れた乗り物だった。
さっきのエスカレーターといいこれといい、ちょっと見ないうちに細かいところまですさまじい発展を遂げたリリシアに俺は驚愕を禁じえなかった。
だがこんなのはまだ序の口である。俺達はその後モノレールの駅に到着し、それから降りてベンツの案内の元、地下街を歩く。
地下街はやはり駅前というだけあってそれなりに賑わいを見せていた。
むろん人口が三桁もいないので、それ相応程度の賑わいではあったが、今後さらに発展していくことを予感させる活気があった。
まず駅前のすぐ近くには役所があった。それから生活必需品を全般的に売っているデパートのようなものがあった。
駅前中央デパート、と言う名前そのままの営業実態である。
「目移りしてないで。そこじゃないよ。ホテルに行こう」
「ホテルと来たか。アンタ昔からホテルが好きだなぁ」
「覚えてたの。嬉しい」
ベンツが素で喜んでいたので俺はムカつきすら感じながらこう切り捨てた。
「乙女みたいな反応すんな」
人物紹介
①:トーマ
親父がおり、叔父のこともトントンと呼び二人は彼の王国の重臣的扱いで旅に同行している。
子供はコロンビーヌという妻の連れ子である二歳のベルンハルトと三歳の娘リリス、ほか赤ちゃんが数名。
セキュリティ・レベル8と呼ばれるアンドロイド、エグリゴリまたはイブと呼ばれるアンドロイドと仲良し。
その仲間であるエースというアンドロイドとも仲良し。
②:ベンツ博士
常軌を逸した頭脳を誇る万能の天才。現在四十歳手前ぐらい。
ノイトラ王国におけるほぼ全ての技術開発、あらゆる業務を担当し実質的な最高実力者だが権力には興味なし。
相性がいい人同士を勝手に選んで人工授精し、人工子宮で勝手に育てて産みだし、それを遺伝子の持ち主に育てさせるなど外道行為を頻繁に行う。
己の意識をインストールした分身体、ベンツ二号を作るなどマッドサイエンティストぶりは自分の身にさえ及んでいる危険人物。
一応女らしい部分もあり、ノイトラという種族の王であるトーマと一緒に居ると三十歳以上も年下なのに乙女になる。
➂:アンリ
ノイトラという種族の一人。十九歳で巨乳のお姉さん。トーマの腹違いの姉。
腹違いの弟、トーマに絶対の忠誠を誓っているほか、エリザベスという料理人との間にベンツによって勝手に作られた子供がいる。
トーマとの共通の親父のことは大嫌い。最近は弟に色々と仕事を押し付けられ始めている。
マリー、ミリー、コロンビーヌといったノイトラとは昔からの馴染みで四人とも王には忠誠を誓う。
④:リリス
三歳でありながら成長促進剤を用いて無理やり大人にされ、代謝も早く、そのため寿命が短いというかなりお労しい出生の過去がある子。
トーマの遺伝子とイブという特別な遺伝子の持ち主を勝手にベンツが掛け合わせて作ったうえ、成長促進で赤ちゃんから無理やり大人にされた。
父親であるトーマと同様王の力を持ち、ノイトラという種族は彼女に無条件で絶対服従する。
その特異な出生だが、父親からは軽く受け入れられて、生まれて初めて自分の能力や役割とは関係なく自分自身を愛してもらえたので心酔。
父親のトーマをナメている輩やちょっとでも傷つけるような奴は強い敵意を向ける。
とはいえ貴重な遺伝子を受け継いだ超重要人物。
⑤:親父
本名はトーマス・ドラクスラー。四十歳過ぎでトーマとアンリの父だが、二人のことは一切育ててない。
そのため二人には嫌われている。だが、なんだかんだで親父は必要だった。
というのもかつて革命軍という組織を立ち上げ、様々な有能なメンバーを集めたのだが、その際にベンツという化け物じみた天才的頭脳の天才を引き入れていた。
他にも人材は組織にいっぱい抱えていて、それがそっくりトーマのノイトラ王国にも受け継がれたので親父のおかげでノイトラ王国がると言ってもいい。
だが親父本人が何か大したことをしたかというと微妙。
今はなにやらベンツと新たなプロジェクトを進めているらしい。




