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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
最終章 魔王誕生
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第七十九話 さよならリリシア


「ふふん、トーマ君。ハーレムだねぇ?」


「向こうが俺のことを好き好きしてくれるならそりゃハーレムなんだろうが」


「そりゃ無理だね。じゃあ我々はモジュールを構成する仕事に移るよ。

トーマ君は王にしか出来ない仕事をしてくれたまえ。そういうのってあるだろう?」


「あ、ああ」


俺は体よく追い出され、居住区に戻った。俺は王である。

これまでは描写されていなかっただけで、さまざまな決裁の相談が舞い込んでくるものである。

今までその手の話は非常にたくさん舞い込んできていた。やれケンカした、裁判だ、口論だ。


温厚なノイトラたちとはいえ社会生活をしていたら人とトラブるのは当たり前である。

だが俺の力があれば解決できる問題もある。特に、俺のような力を持つ者が現代にいればいのにな、と思うような件もある。


例えばだが、軍拡競争というものがある。

俺は理系じゃないのでゲーム理論の用語に詳しいわけじゃない。だからそれを端的に指す言葉を知らないのだが、軍拡競争は誰も得をしないゲームだ。

バカみたいにお金がかかるので、全員にとって損をする愚かな選択、それが軍拡であることは疑いようのない事実だ。

だが、国々は軍拡競争せざるを得ない。ほかの国より抜きんでた軍事力を持っていた方が安全だからだ。


何ならこれは自然界にも言えることで生き物たちの遺伝子の自然淘汰や進化は、誰も得することのない終わりなき軍拡競争であるといえる。


他にも、賃上げがある。企業は当然賃上げをしたがらないのだが、働く人々の賃金が一斉に爆増したらどうだろうか?

まず間違いなく、人々はたくさん消費し家を買ったり車を買ったり、将来に投資したりと多種多様な商品が売れるようになるだろう。

すると金回りがよくなって好景気になり、仕事も増え、より一層企業はもうかるという寸法だ。

だが全員が一斉に賃上げをしない限りその効果は見込めないため、一企業が大幅な賃金アップをすることはまずない。


このように日々の暮らしの中でも、"本人たちも全員が損する選択なのでやりたくはないのだが、やらざるをえない愚かな判断"と言うのは存在する。

これを俺の力で解決してあげることは十分に可能だ。俺は社会派な王様なのだ。


俺がベンツのところのプラントから居住区へ帰ってきたところ、船のタラップを上がってる途中に上からリリスにこう話しかけられたところから話は始まる。


「ねえパパ、ちょっと食堂まで来て」


「また食堂か。会議室を作るべきかな?」


「会議室なら操縦室とかでもいいけど。ほら」


二人して走って食堂まで向かうと中には深刻そうな顔をして席についているトントンとエリザベスなどがいた。

また、この船においてはやや重要な地位を占めつつあるアルの姿もあった。

そのアルが赤ちゃんを抱いているので俺はその子の顔を注意深く見てみたら、なんとベルンハルトだった。


「おいおい、なんで博士とコロンビーヌの子をアルが抱いてるんだよ。嫁さんに怒られるぞ」


「うむ……実はその嫁さんに離婚を切り出されてて」


「全く不思議とは思わんが、一応理由を聞いておこうか」


「いや、彼女によれば、よく考えたら一人の男と結婚するメリットなくないかと言われたんだ」


「おお……気づいてしまったようだなルカの奴も」


アルの嫁であるルカは正しい。彼女の嗅覚が俺とアルの肉体関係に気付いているかは定かではない。

だが、往復に半年近くもかかる旅にまだ幼い子供のいる夫を送り出す決断をしていた時点でもう気持ちは冷めていたんだろう。

さらに言えば、俺たちノイトラ王国の住民はシングルマザーでも生きていくのに全然困らない。


衣食住は保証されてるし子供は大学はおろか、小学校さえ行かせなくても構わない。

それどころか母親が子供を世話しなくても誰かしら子供を見ているので子供一人当たりの親への負担が非常に小さい。


「気付いてしまったなじゃねーよ。おかげで俺はコロンビーヌと浮気して愛想をつかされたと思われてるし」


「まあそれはともかくリリス、話って?」


「え、あの」


アルが俺のぞんざいすぎる扱いに何か抗議したがったような気もするが俺は無視した。


「うん。それが、エリーによると盗みが発生しているらしいの」


「盗みだと? なんでまたそんな無意味なことを……?」


生活は保障しているのだから物資を盗むほど生活に困っている人がいるとは考えられない。


「すみません王様、食糧庫の責任者に任命していただいた王様に申し訳が……!」


頭を下げたエリザベス。俺はすぐにフォローした。


「それより大丈夫だったか。盗みというのは食糧庫のカギだけだったか?

君に渡していたんだから、部屋に入られたようだが」


「それは平気です。私は普段ずっとここにいるので……部屋に戻ったらカギがなくなってまして」


「ふむ。アル、彼女の護衛についてやってくれないか。お前強いんだったな」


「それはいいが、犯人捜しはどうする。俺たちのこのノイトラ王国には警察なんていう高等機関はないぜ」


「面白いじゃないか。犯人探しなんて面白そうだろみんな。みんなも退屈してたところじゃないか?」


「だが――」


とトントンが声を発してみんなは黙った。トントンはなんだかんだで俺たち若い衆には尊敬されているのだ。

親父は素行のせいかあんまり尊敬されていないようだが。トントンは続ける。


「確かに犯人探しも重要だ。だが並行して考えなければならないのは、そもそも構造的な問題だ。

君も言った通り盗みをすること自体が、ある種不可解なことだよね」


「たしかに」


「それを解決する能力がトーマにはある。アル君、赤ちゃんは我々が見ているからエリーについてあげてくれ」


「わかりました。あ、そうだ。コロンビーヌ」


「なに?」


「お前ほら持ってたろ。あの、手帳だ手帳」


「うん。誰かに連絡?」


「エースさんに。博士も色々と権限持ってるからな。たくさんカギとか持ってるだろうし。

彼女には当分博士の護衛に行ってもらった方がいいだろう」


「博士ってその辺無頓着そうだもんね。了解」


俺はこの会話を聞き、リリスからさらに詳しい話を聞かないことには始まらないと判断。

すぐに横のリリスにこう言った。


「盗みというのは食糧庫の食糧なんだよな?」


「そう。業者でも入ったみたいにゴッソリで。カギが盗まれたみたい。

まあ別にプラントでいくらでも作れるんだけど」


「面倒くさいな。とりあえず博士には扉と鍵の改修を頼んでおこう。

しかし不可解だ。食料は転売できるわけでもないだろ……ほかに街はないからな」


「誰かに売って稼ぐにしてもお金があったところで……って感じはするよね。

ここからほかの街へ行くのに約二か月かかるっていうのにね」


「何故だ。何故そうなるんだ……?」


「とにかく俺はエリーの護衛。エリーは部屋でじっとしててくれ」


「あ、はい」


「了解した。アルは護衛。俺は念のためリリスと一緒に居よう。

こんな俺だが相手がノイトラであれば無敵だからな」


「それは私も同じなんだけど」


「じゃあ俺は博士の護衛に行こうか」


「嘘です」


リリスは三歳児だけあって非常に情緒が分かりやすい。

俺を出迎えてくれた当初はそっけない態度だったが、やっぱりずっと会えなかったので寂しかったらしい。


「勝手に出て行って悪かった。じゃあ行くか。とりあえず現場だな」


俺はしょうがないのでリリスと一緒に犯行現場となった食糧庫へ向かった。

中に入ると寒い。そして、何もない。がらんどうである。


「うわっ、こんなことって……」


「犯人を割り出すのは簡単だが……しょうがないやるか。

リリス、食糧庫を閉めて出るぞ。ノイトラたちに通信をしろ」


「わかった」


リリスはこの周辺にいるすべてのノイトラに例外なく通信しだしたので俺の頭の中にもこう響いてきた。


「こちら王政です。食糧庫のカギを盗んだ人、食糧庫から食料を盗んだ人は船のタラップ前に至急出頭してください」


それからほどなくして四人ほどのノイトラが船のタラップ前に集まってきた。

俺はそこへ向かう途中で気づいたのだが、そこに集まってきている彼らを見下ろす形で俺たちがタラップの階段を降りていくのである。

この形になるように仕向けたリリス、なかなか性格が悪い。それはともかく俺はリリスと一緒に階段を降り、出頭してきた犯人の前に立った。


面倒くさいがこれも仕事のうち。俺は彼らの前で話をすることにした。


「それで、結局なんで食料をあんなに大量に盗んだんだ?」


「しょうがないだろう。俺たちには仕事がないんだ!」


「解せん話だ。ノイトラならいくらでも仕事があるはず。発電に応じて給料は払っているはずだが?」


「もう出来ないんだ……!」


「もうできない?」


さっきから四人の中でリーダー風のやつがずっと話をしているのだが、そいつの言っている"もう出来ない"ということの意味が分かった。


「これ以上力を使ったら死んじゃうのか」


「そうだ。俺たちはもともと牧場にいた。あそこから救い出してくれた王様たちには本当に感謝している。

だが、俺達にはもう発電する能力がない。だから船に乗ったんだ。

あそこに、スフィアに発電できないノイトラの居場所はなかった。でもここにも結局なかった……!」


「そうだなぁ。このリリシアでならノイトラの能力を絞り出さなくても生きていけるのだと言ったのは他でもない俺だ」


「確かに船にいる間は無料の食堂で食いつなげた。でももう限界なんだ。

盗んだのは悪いと思うが、この場所に俺たちの仕事場はない……!」


確かにこの地表付近の街リリシアにおいては仕事場が二極化している。ノイトラならだれでもできる発電の仕事。

あるいは医者やベンツの仕事、エリザベスの料理などのように高度に専門化された仕事に二極化してしまっていた。


だからこのようにあんまりスキルがなく、発電も出来ない疲弊したノイトラには居場所がなかったようである。


「それを何で早く言わない!」


俺はキレた。もちろん今回の犯人たちにではなく自分にだ。


「俺はすべてのノイトラの味方だ。そうなる前に言ってくれればよかったのに。

だがお前たちだけでそれを消費するのではあるまい。買おうとしてたやつが誰か答えろ」


盗っ人たちは俺の命令通りに食料を売りさばこうとした顧客の名前を吐いた。

俺は知らなかったのだが、あとでシシィに詳細を聞いたところそいつらは有名なデブだった。


それも生半可なデブではない。よくそんな体で、健康を害さずに生きていられるなと感心するレベルの奴だ。


「今の状況はみんなにとって良くはない。全員にとって長期的に損をする選択ではないだろうか。

俺達は損だ。お前たちは盗みが後ろめたいし、デブたちは結局健康を損なうことになる。

まったく、博士にカギと扉を改修してもらう間に俺も忙しくなりそうだ」


俺はこの事件を解決するためにそれなりの手間を要したが、全く骨身を惜しむことはなかった。

博士に食糧庫の扉を改修してもらっている間にまずはデブたちを集めた。

そしてデブたちには厳しい食事制限を課した。彼らはデブだが、俺の王の力を使うことにより自らの意思で厳しい食事制限を行うこととなった。

これは必ず成功する。俺の王の力は絶対だからな。現実のダイエットもこう上手くいけばいいのだが。


そしてもちろん、元牧場にいたノイトラなど、発電が出来なくてそんなにスキルもない人の居場所づくりも重要な課題だった。

彼らに課された仕事はちょうどいままさに必要な仕事。そう、プラントの収穫物の運搬だった。

プラントを増やしたばかりなので、そこから生成されたものを倉庫に集積したり、フルーツを収穫するなどの仕事は仕事場が増えている。


俺はノイトラの王だ。俺のいる場所、そこがノイトラ王国だ。俺こそが法だ。

つまり俺のそばにいるノイトラに居場所がないなんてことは絶対にあってはならない。

手に職がなくてもいい。十八で牧場に送られてずっとそこで働いていたんだからそれは当たり前だ。

エネルギーが生み出せなくてもいい。牧場で搾り取られていたんだがから。


俺が昔牧場送りになっていた仲間の世話をしたり、病的な食い意地の仲間を世話している間に、ベンツの仕事は着々と進行していっていた。

地下の造船ドックは不眠不休で稼働しており、その中では工作機械での作業とエグリゴリの手での細かい作業が息の合ったコンビネーションで仕事をしている。

旗艦ミレニアムアヴァロン号はすでに説明した通り、横幅が足も含めて三十メートルぐらい、長さ五十メートルくらい、高さ十五メートルくらいになっている。

これの数倍以上の超巨大な戦車や武器庫・アーセナルなのに、見る見るうちに完成していく。

一日ごとに見に行ってみても見に行くたびに作業は驚くほど進行していて、二日に一隻のペースでアーセナルや戦車が作られていた。


俺も仕事の合間にドックに併設された格納庫にアーセナルを見に行き、エグリゴリに案内してもらった。

アーセナルは丸くてかわいらしい形をしているが、別に可愛いもの好きのベンツの趣味とかではない。

これは正面を流線型にして空気抵抗を受け流しつつ、可愛らしさを両立したものである。

そしてこの丸いドーム状の背甲のような部分にはアーセナルによって変わるが、エグリゴリに案内されたアーセナルにはすさまじい量のガスタンクがすでに搬入されていた。

これでもまだ半分くらいだが、このガスタンク群は、現代日本で例えるなら百万の人が住む街を明るく照らし、暖房で温めることもできるぐらいの量だという。

このガスはちょっと調合するだけでニトログリセリンやTNTなど恐ろしい爆薬に化けることが出来るとエグリゴリには説明された。


「エグリゴリ、ほかの部屋はどうなっている?」


「操縦席になっている」


「ほかに部屋はあるか?」


「ない」


どうやらアーセナルの構造は、本当にこれで終わりらしい。ここに載せられているのは本当に燃料のみ。

他のアーセナルも武器や弾薬、小型戦車などを積載しているようだが、同じような構造だろう。

人間が住む居住区が必要なところを、エグリゴリが操縦するので不要になっている。

その分のスペースを格納庫として使用できている。潔いほどに合理的だ。


「移動速度は?」


「旗艦と同じだ。最大で時速250kmほど」


この大きな格納庫の下にはクモとかヤドカリみたいに細い足がいっぱいあるのがアーセナルに乗る前に見えたが、旗艦ミレニアムアヴァロン号と同じくゾロゾロと足を動かして走るようだ。


「ところで、エグリゴリ。俺は最近お前の本体を見てないんだがどこにいる?」


俺がここに帰ってきてからというもの、全くエグリゴリの姿を見ていない。

分体なら見ているが本体は見ていないのだ。


「私たちに本体と分体という概念は必要ない。あえて言うならすべて本体だ」


「お前……ははーん、なるほど。よくわかったぞ」


俺はピンときた。俺は頭は切れる方だと自負している。俺を案内しに来ただけの分体エグリゴリはいつも通り、不思議そうに首を傾げた。


「何を言っている?」


「エグリゴリ、つまりお前こういうことだな。俺がお前を愛してるなら分体も本体も見分けられるって話だ。

よしわかった、本体を見つけちゃおう大作戦開始だ!」


「ほんとに何を言っているんだこいつは……?」


「まずは通信だな。まさか俺から通信がかかってきたら分体全員一斉に出ているわけじゃないんだろう」


と言って通信をかけると、感覚的に理解できた。俺の目の前にいるのが、その本体だった。


「お前が本体だったんだなエグリゴリ。なあ、提案があるんだが、お前のことをイブと呼ばせてはくれないだろうか」


「何故だ?」


「本体なんだから特別扱いするのは当たり前じゃないか?

お前はエグリゴリという名前を気に入っているようだから、分体の方は変わらずにエグリゴリと呼ぶから」


「そうか。それで構わない」


「じゃあ切るぞ。愛してる」


と言って通信を切るとエグリゴリ、いやイブは不思議そうに首をかしげていた。


「愛してるとは通信後に言う必要があるのか?」


「あるって言ったらお前も言ってくれるのか?」


「認識した。私もお前を愛してるぞ」


ほ、本当に?

と食い気味に聞きたいところではあったが、せっかくいい空気なので余計なことは言わないでおいた。

その後、まだ仕事があるというイブをほとんど無理やりと言った形で連れて行き、二人で船に戻る。

俺達の居住区は三階にあり、一番奥まったところなのだ。

だから部屋に帰る途中すべての部屋の前を自動的に横切ってしまうことになるのだが、途中、なにやら二階の食堂が騒がしいことに気が付いた。


「食堂で何かあるのか?」


イブの言う通りだ。居住区も地下に建っているというのに、もう習慣になってしまっているので俺たちは食堂になんかあると集まる習性が身についていた。


「そうかもしれんな。イブ、行ってみよう」


行ってみると、すっかりみんなに馴染んだシシィや普段忙しくしているベンツまでもが食堂に集まっているではないか。


「おいおいどうした。俺を誘わないなんて王様ちょっぴり寂しいぞ」


と言いながら俺が食堂に登場すると中にいたリリスが申し訳なさそうに言ってきた。


「ごめんなさい。でもパパ、エグリゴリに会いに行くって言うから」


「そうか。なんか気を遣わせたのか。ホレ、この通り本人と一緒に来たぞ。それで……?」


「この集まりのこと?」


「そう。リリスは知ってるんだよなこの妙な集まりを」


「プラントの収穫なんてあとあと。今日はおめでたいことがあったの。アルさんとエリーが結婚したの」


「え、お前ら接点あったっけ?」


と主役の二人に俺が聞いたところ、エリザベスは顔を赤らめ、アルに肩を抱かれながらこう答えたのである。


「それが、この間彼が私を護衛してくれることになったでしょう?」


「交際一週間で結婚かよ。お熱いねぇ。おめでとうエリー、そしてアルも」


「ありがとう王様。こっちも紹介しておこう。新婦のコロンビーヌだ」


「……え?」


まだウェディングドレス姿ではないものの、コロンビーヌはエリザベスと同じく顔を赤らめながらアルのそばで立っていた。

その腕には赤ちゃんがいる。ベルンハルト・ディーゼル=ベンツである。

俺は頭が真っ白になるくらい驚いたが、気を取り直して咳払いしてからこう続ける。


「まあいい。エリーと結婚するよりかは意外ではない。しかし、ベルンハルトは可愛いなぁ。

博士の子だからな。それにイブが初めて抱いた赤ちゃんっていう、特別な子なんだ」


俺はもうすでに立って歩けるまでになっている博士とコロンビーヌの子のほっぺをつんつんしながら言った。


「イブって、エグリゴリのことですか?」


「ああ」


「私も赤ちゃんが欲しい」


「え?」


何を言い出すかと思えばイブが信じられないことを言い出した。

一同、静まり返る。俺も絶句したのだが、そんな中親父はギャグを飛ばした。


「おお、じゃあ作ったらいいんじゃないのか。なあトーマ?」


「何言ってんだ親父。出来ないだろ!」


「パパとイブの子なら私がいるんだけど?」


リリスが胸を張っていったのだが、イブは一刀両断した。


「お前は赤ちゃんではないので可愛くない」


「なっ!? ちょっとパパ、この人セキュリティだから私に丁寧な態度取るんじゃなかったの!?」


「もうセキュリティじゃないからな。俺が統治機構からこの手に奪ったんだ。

きっと人類史上初だ。レベル8を口説いたなんて豪胆な男はな」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょパパ。どうするつもり?

イブはその通り赤ちゃんが欲しいって言ってるみたいだけど」


「コロンビーヌ、ベルンハルトくれよ」


「いくら王様でもあげません!」


とコロンビーヌがクスクス笑いながら言った。ちょっと冗談ではすまされないような発言に見えるが、ギリのギリギリでセーフだ。

というのも、コロンビーヌに「ベルンハルトをよこせ」と俺が言えば、コロンビーヌは俺に赤ちゃんを差し出したはずである。

そう言っていない時点で俺にその気がないことは明白なので、コロンビーヌも笑って許してくれたというわけだ。


そんな俺たちを見かねたベンツがみんなの中から俺の方に歩み寄ってきて、こう言ってくれた。


「まあまあ、今日はめでたい日だ。特にアル君たちが主役のめでたい日だからね。

イブくんが赤ちゃんを欲しいと思う気持ちもわかる。私が何とかしてあげよう」


「その方法とは?」


「あとで説明するから、今は幸せな三人を邪魔しないことだ」


「わかった」


「俺もあの三人が幸せならいいけど……」


誰も三人同時に結婚することに言及しないので俺はあえて何も言わなかった。

と思ったら、なんと後日、リリス経由で信じられないことを俺は聞かされた。

なんと三人で結婚するというのは文字通りの意味で、三人で結婚するという意味だったのである。


俺もイブもてっきりアルが二人と結婚するということだと思っていた。

イブも不思議がってリリスにはこう言っていた。


「待て。私は結婚するということは他の人間とは結婚しないということだと聞かされていたのだが」


「うん。あの三人はすごくこう、特殊な形態の結婚をしててね。

あ、ところでイブのことはママって呼んだ方がいい?」


「お前の好きにしろ。お前の呼び方に興味はない」


リリスはイブに邪険にされながらも真面目に説明を続けてくれた。


「それで、あの三人はそれぞれがそれぞれと結婚するという形態をとったらしいの。

エリーとアルさんが子供を作るし、アルさんとコロンビーヌさんも子供を作るけど、コロンビーヌさんとエリー同士でも愛し合ってるらしいの」


「なるほど。エリーとコロンビーヌはいわゆるこう……バイというか、両刀というか、男女どっちでもいけるということなんだな?」


「そういうことみたい。パパがノイトラ王国の法律なんでしょ。こういう結婚は法律的にどうかな?」


「そうだ。俺こそがノイトラ王国。ノイトラを一人称で語れるのは俺だけだ。

自由な結婚、大いに結構。三人以上で結婚するのも、法律で認めよう」


「私の聞かされていたものとはずいぶん違うようだな。結婚というものは」


「いっそのこと、結婚って人それぞれで無限に様々な形があってもいいのかもね」


「なるほど。わからない」


とイブが言っていると、そこへ新たな刺客が出現した。

俺達のいる船の操縦室横、三階の居住区に、ベンツらが出現したのだ。

操縦室の横には左右に部屋があり、左の部屋はエースとベンツの部屋だ。

エースもベンツもフラフラしているので、この船が航行していない時は、この部屋に二人がいることは滅多にない。


だが今日に限ってベンツとエースが俺たちの前に現れたのである。

何を言い出すかと思えば、開口一番意味不明なことを言ってきた。


「さあトーマ君、選ぶといい!」


「何を? 尻派か胸派かってことか?」


「いやそうではない。そろそろ艦隊が完成しそうなので、我らの王にはどこに誰が乗るか決めてもらわないとね」


「そっか。俺はどこでもいい。博士のいるところに俺も行く」


「ちょっ……それ奥さんの前で言わないでよ。なんかプロポーズみたいだぞ!」


「私も男性にそんなこと言われてみたいわ……」


「おい悪乗りすんな二人とも。彼女も困ってるだろ」


イブは、あまり意味はよく分かっていないのだが、コケにされている気がするとは思っているようで顔をしかめていた。


「とはいえ、トーマの言うことは合理的である。ベンツお前はこの船にとっても重要人物だ」


「そうだな。それにリリスは俺たちの娘だから一緒に居るのも当然だし。

贅沢を言えばエリザベスも欲しかったが、彼女はコロンビーヌやアルと一緒に居させてやりたいしな」


「なるほど。確かに私と君が一緒に居るのは合理的だ」


とベンツは言った。博士と俺とリリスの三人はかけがえのないほど重要人物なわけだが、この三人が一つに固まっていることは重要だ。

特にこの旗艦に固まっていることはな。逆に、他は別に誰でも良かった。


「というわけだ博士。この船とは別にアーセナルには食糧庫を搭載したものもあるはずだ」


「あるね。アーセナルの目的はあらゆる物資の大量貯蔵にあるからね」


「そちらには残る人員の全員を入れてくれ。イブ、その他の全てのアーセナルはお前の分体に任せてもいいか?」


「構わない」


「そうか、ありがとう。その代わりといってはなんだが、あとでプレゼントがある」


「プレゼントだと。贈り物ということか」


「ああ。エースもイブやその分体のエグリゴリと協力して、アーセナルや戦艦なんかの操縦・点検を頼む」


「わかったわ。ところでさっきから何を博士に熱い視線送ってるの?」


「ん、バレたか。実は二人で秘密の話があるんだが、今から三十分くらいでいい。

博士の時間を俺に暮れると嬉しいんだが……?」


「パパっていつもそう。博士に会うたびそれ言うよね?」


「ね。何の話してるんだろうね二人で!」


などとリリスとエースが意気投合していた。俺はこれを無視してベンツの顔をうかがう。

ベンツはもちろん笑顔を作り、二つ返事で承諾してくれた。


「うん、わかったよ。早速行こうか」


「先に行っててくれ。俺も後で行く」


「ちょっと何? 通じ合い過ぎでしょ二人とも!」


「とか言いつつ、全然通じ合ってなくてすれ違ったりして……?」


などとエースやリリスが心配していたが、それは杞憂に終わった。

俺はちょいと仕事があるので空気清浄室の点検をし、その後ベンツとの待ち合わせ場所に向かった。

ベンツはすでに手にバッグを持っていた。何を用意したのか確認してみる。


「よう博士。珍しくバッグなんか持って。中身は?」


「これ……今後要るかなと思って」


ベンツのカバンの中を物色してみると、赤ちゃん用品が大量に入っていた。

ベビーパウダーのようなもの、おしゃぶり、よだれかけ、小さい靴下、運動靴、ミルク、哺乳瓶などなどである。


「あの子をもらいに行くんだったよね」


「そう。やっぱり博士と俺っていいコンビだよな。わざわざ言わなくても通じてたんだから」


「さすがにね。エグ……じゃなくてイブくんにプレゼントがあるって言ってたわけだし」


「うん。じゃあ入ろうか」


そこはコロンビーヌに与えられた個室だった。

俺たちはそこへ入り、新たな旅の前にコロンビーヌに頭を下げて頼むことにした。

ベルンハルトを譲ってくれと。何も勝算なしに頼むわけではない。


アルは連れ子をうっとうしがるような男ではない。器の大きい、いい男だ。

とはいえベルンハルトがいるよりは、いない方が彼とコロンビーヌの夫婦関係は円滑に行きやすいだろう。


その子の実の親であるベンツが子どもを譲ってくれないかと言えば、断るべき理由はこれといってなかった。


「コロンビーヌ、ベルンハルトを譲ってくれないか。今回は俺も本気だ」


「私からもどうか頼むよコロンビーヌくん」


「やはりその、エグリゴリさんが赤ちゃんを欲しがってるからでしょうか?」


「無理強いは決してしない。あくまで母親であるコロンビーヌの自由にゆだねる。

断ってくれても本当に全然気にしないから、これ本当に」


「それはまあ、私たちは一蓮托生。同じ艦隊にいるんでしょう?

会えなくなるわけじゃないんでいいですが……」


「が?」


「艦隊同士で移動できないじゃないですか。たまには船を停止させて――」


「それは心配ない。博士、後ろのアーセナルと旗艦はもう最初から連結してしまおう。

艦橋を通っていつでも移動できるようにするんだ。出来るよな今からでも」


「もちろんだとも。君の要望は最優先で聞かせてもらうよ」


その後のことは一気にカットしてしまおう。その後もまあ色々あったがこれはダイジェストで。

俺はコロンビーヌに頼み込んでベルンハルトを譲ってもらい、この子を俺、イブ、そしてベンツの三人で共同して育てつつ、リリスにもお姉ちゃんをやってもらうことになった。

つまり、事実上俺と博士とイブの三人で結婚したような形になったのだ。イブもこれを了承した。

やはり遺伝子上では父親にあたるベンツがいたのと、そもそも俺とリリスには王の力があるため、ベルンハルトが暴れたり泣きわめいたりということは全く心配要らなかった。

寝ろといったら寝るし、黙れといったら泣き止む。最高の赤ちゃんだ。


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