第七十八話 兵器だよ、へ・い・き♪
「お前を死なせはしない。俺も四十を超えた老兵だ。お前たち若者を支えていくのが使命。
ベンツやブリュッヘルたちだってその気持ちは同じのはずだ」
親父がアイコンタクトをとると、その場にいたベンツやブリュッヘルといった革命軍の創設メンバーが打ち合わせでもしていたように首肯した。
「なんか……感動的なことを言っている気がするんだが、親父のセリフだからなんか素直に受け止められないわ、ごめん」
というのが俺の本音だったので思ったことを素直に口に出した。
親父は俺の暴言は気にせずスルーしてくれた。
「というわけだから、止めても無駄だぞ。だいたい俺はノイトラじゃないんだからな」
「ふん、わかったよ。じゃあ女医さん」
「あ、はい」
と突然俺に指さされて親父の愛人である女は立ち上がった。
そして俺は久しぶりに王の命令の力を行使することになった。
「親父は俺たちの船について来るそうだ。アンタは子供と一緒にここに残れ」
「は、はい、わかりました。喜んでわが王」
女医は赤ちゃんを腕に抱いたまま頭を下げて着席した。
「さて……この街の名前は何にしよう。いい案がないようなら俺が決めるが」
なんと誰も手を挙げようとしない。俺はため息をついて落胆しながらこう言った。
「あちゃー、俺ってそんなに強権的かな。誰も意見しないのかよ全く。
じゃあ今度こそここは満を持してリリシアの街にしようかな。よし、決まりだな。
今日からこの街はリリシアだ。エグリゴリ、カンバンを作るのはお前の得意とするところだったな?」
「リリシアの看板を作ればいいのか?」
さっきからずっと俺のそばにおり、食堂なのに何も食べないままじっと椅子に座っていたエグリゴリが口を開いた。
「そうだ。リリシアの誕生だな。ここに植民する者を募集する。
さっきも言った通りここは様々な面で非常に暮らしやすい環境にあると思う。
第一に気温は季節を問わず常に一定。光合成プラントを大量に設置してあるから、仮に俺のわずかな仲間以外の全員がここに入植したとしても生活していける。
それどころか余剰は貯蓄し、ローレシアやスフィアにでも売ればよい。
ここに造船ドックを作り、連絡船に大量の物資を乗せて向こうへ運び、代わりに冷凍のバターやチーズ、肉などを積んで帰ってくればいい」
「そういえば陛下、ローレシアでは家畜を輸入しているのを見ましたね」
とシシィ。俺はこう答えた。
「今思えば、俺たちも家畜をスフィアから積んで帰ってくればよかったかもしれないな。
家畜を飼い、汚染や廃棄物をしっかり綺麗にする設備を整える必要があるが、そうすればここで生卵を使った料理が食べられるようになる。
だがまあそれは今後、ここの入植者が決めればいいことだ。俺は諸君らをそのつもりで連れてきたが、入植の希望者は?」
すぐにアンケートを取り、スフィアから連れてきた全員が入植を希望した。
ここまで来た以上地表付近で暮らすことは決心してきたわけだが、俺たちはハッキリと宣言してしまった。
敵が来る、戦うと。南極は氷河が覆っている、そこへ行く、など意味不明で恐怖をあおるようなことばかり言った。
それをこのタイミングで初めて口にしたのは、彼らを確実にリリシアへ移民させるためだった。
ここで怖気づかせなければ、うっかり船について来るなどと言う奴もいるかもしれない。
それから一週間の時間を設け、みんなで地下に街づくりを行った。
リリシアの地下は鉄道が敷設されている。言ってみれば駅前一等地にいきなり開発の手を入れるわけだ。
俺自身は、この街づくりや開発、インフラ建設、投資といった仕事の部分が一番楽しいのである。
ふだんはつまらなそうに仏頂面をしているエグリゴリも建設の時は心なしかイキイキしてくれるし、博士も同様。
俺は二人とも心の底から大好きだし、俺自身も建設は好きだから、そんな二人と和気あいあいとしてみんなのためになる仕事が出来るのは幸せなことだった。
が、それはそれとして、その模様を事細かに話してもつまらないという人も多いだろうからここもダイジェストで語ろう。
まず建設したのは倉庫とトンネルだった。
人工光合成プラントの存在により、ノイトラたちの生活を養い、その上エネルギー源となるガスを生産して余るほどである。
しかもこの光合成プラントは食糧生産においても役立っている。アーモンドやナッツ類にフルーツ、野菜、穀物。
肉こそ輸入したもの以外は食べられないが、プラントさえあればすべての栄養をまんべんなく摂取できるくらいに食料を生産している。
これはみんなの腹を満たしさらに大量に備蓄出来るほどの生産スピードだが、そんなプラントにも一つ問題がある。
当たり前だが日の光を浴びさせるため地表に設置しなければならず、その作業も地表で行う。
この際に強い紫外線を浴び、入植した労働者が健康被害にあう可能性が指摘されていた。
そのためプラント全体を大幅に改修することで俺たちは合意し、楽しいお仕事が待っていた。
働くのも仕事をするのも元来嫌いじゃない。特に嫌な上司とか鬱陶しい同僚とかはおらず、自分でやりたい仕事をやりたいだけやれるのは大好きだ。
この改修工事では、まず地下空間は最初から空いているので地下に倉庫を建設し、トンネルを作るのも楽勝だった。
地盤は死ぬほど堅いので落盤事故などは全く心配要らないし、その工事自体は一日で完了したほどだ。
時間がかかったのは広大なプラントの改修工事だ。もともとビニールハウスのように断熱性の高い建物で広大なプラントを覆ってはいた。
だが、収穫物を回収、運搬するのには最初に建てたままの姿では非効率であった。
地下にモノを運ぶための出入り口が一か所しかないし、徒歩でしか出入りできないようになっている。
そのため収穫物は、船に積んでいた運搬用のちょっとした軽トラに手で積んで船に運ぶか、その辺に雑にガスタンクを積み上げるなどといったことをしていた。
これではイカン。まあ別にガスタンクは適当に放り出しておいても構わない頑丈なつくりのものだが、今後はこのリリシアはローレシアやスフィアとも交易をするのだ。
基本的には肉や乳製品を輸入し、リリシアからは人工光合成プラントで得た大量のガスを詰めたタンクを売る。
もしくは、エネルギーを入力すると任意の物質を作れるエンジンを使って様々な物質を作って売るかだ。
このエンジン、今まではノイトラの発電によってしか動かせなかったが今は違う。
ここリリシアでは太陽のエネルギーがあるので、それを使って様々な物質を生み出すエンジンを動かせるのだ!
その物質を作るエンジンを太陽光を使って稼働させ、新たな建築資材を作るという好循環を作る。
というわけだからそれらの源であるプラントを改修する工事は必須だ。商品を安全に、かつ効率的に管理する倉庫の建設もマスト。
そしてプラントから倉庫へ迅速にものを運べ、さらに地下の居住区から安全に仕事場であるプラントへ移動できるトンネルも要る。
逆に言えばこのシステムを一つ完成させればあとはこれを増やしていくだけでよい。
この星はとにかく非常に大きい。地球の何倍もある上、海や山などに乏しい平地ばかりの土地だ。
多少クレーターなどで起伏もあるが、それでも地面が平らだから本来、建物などを建設して都市を発展させるには最高の土地が広がっている。
地表を一パーセント程度でもプラントで覆えれば数十億人を養うことも容易いはずである。
なのになぜ統治機構も人間の集落もそうしないかは理解に苦しむ。技術はあるはずなのに。
同じことをすればノイトラのエネルギーを取り合う必要もないのに。
とまあ長々と語りはしたが、要するに非常に大きな地下空間に居住区を建設し、そこから直接プラントへ行って作業が出来るトンネルを建設した。
これならば作業は非常に気温が下がる夜間でも可能となる。紫外線対策もばっちりだ。
約一週間が経過したころのこと。俺たちはみんなで建設に駆り出されていてそのことをすっかり忘れていたのだが、ベンツのラボが船内ある。
ここに俺は呼び出された。呼び出した当人であるベンツはその中で待っていて、すぐに部屋を出て船からも降り、なんと地表に出た。
地表にはこの一週間一度も出なかったので全く知らなかったのだが、観測所やプラントのほかにもう一つ、新たな建物が経っており、それもトンネルに接続されていた。
俺は地上と地下をつなぐトンネルから出てきて紳士的にも年を召したベンツの手を取って階段の最後の段を登らせて非常に白くて目が痛くなるような地表の世界にたたずむ緑色の目に優しい建物を指さした。
「あれはまた新しいプラントか?」
「そうだよ。あれはここの砂を有用な物質に変える新しいプラントだ。
やはり、王様であり船長でもある君を一番最初に招くのが筋かと思ってね」
「それはどうも。明日には出発するからな博士。ちょっと見回ったらすぐ地下に戻るからな」
「わかってるよ。ああ、それとトンネルとは直に接続してるからあそこで夜を迎えてもちゃんと家に戻れるよ」
「よかった。では案内してくれ」
俺達はさっき出てきたトンネルをすぐ戻ってフタを閉め、そこから地下道を二分ほど歩いて階段を昇った。
階段を上がれば地上である。ここ地上の新しいプラントは俺には理解不能な機械が並んでいる。
それらが大量に連結して一つの流れ作業を延々と繰り返しているさまを見るのは、まるで小さくなって人間の体に入り込み、内臓の循環器が体のメンテナンスをしているのを見学しているような気分だった。
「ここは地表の砂を処理するプラントだ。こっちで素材を選別して三方向に分かれ、三種類の工程を経てこの三つのガスタンクにそれぞれ素材が溜まっていくというわけだね」
などと説明されたがさっぱり意味不明だ。俺は開き直ってベンツに無理難題をいった。
「ゴメン全然わからん。要点だけ言ってくれ。わかりやすくな」
「無茶言うなぁ。まあつまり、こっちが二酸化炭素のガスタンクだ。低温にすることで圧縮している」
「そんなもんどうするんだ?」
「まあ待って。こっちは水素のタンクだ。人工光合成プラントでは水から水素を取り出して二酸化炭素と結びつけ、炭化水素を得ると説明しただろ?」
「あ、ああ。俺もまあ理系じゃないけどそのぐらいならギリギリなんとかついていけるよ」
「この地表に水はない。話によれば南極に山ほど氷として水が存在するというが、ここでは取れない。
だから船の水でプラントを動かしてたんだが、ここの砂から水素が取れるので光合成に水は必要ないのだ」
「……つまり?」
「光合成しなくてもこの施設内で炭化水素を合成できる。
具体的には化学繊維、ビニール袋、高密度プラスチック建材、ガソリン、燃料用ガスなどなど。
早い話、この砂は夢の素材と言っていい。最後に残ったのは塩とカルシウム。
人体の必須栄養素だ。有毒物質でもないからその辺に捨てるなり、料理に使うなり、栄養サプリメントにするなりして構わないね」
「ほお……なるほど。ここの砂はいい素材だっていうのはわかった」
「思ったより伝わってくれてよかったよ。まあ毒性があるものも含まれているけどね。
具体的には塩化カリウム。摂取しすぎると心臓発作を起こして死ぬ」
「えっ!?」
どうやらこの星の砂は生物が生きていくにはかなり難しいようだ。
ベンツの分析によれば塩やアルカリ性のものが多数含まれているようだから、もしもここに海があったとしても生き物がまともに住めない死の海になってしまうだろう。
「ところでトーマ君。私は興奮して夜も眠れない。
君は言ったよね、これは戦争だと。たった一言命じてくれるだけで私は作れるのだが」
「なに?」
「またまた、とぼけちゃって。兵器だよ。へ、い、き!」
俺はゾッとした。ベンツはヤバいやつだ。能力も発想も人間を超えている。
そんな奴に、兵器なんて作らせていいのだろうか。
と思ったと同時に俺は年甲斐もなくキラキラしたベンツの目を冷たい目で彼女の近眼眼鏡ごしに見つめながら言った。
「博士。アンタはいつもそうだ」
「え?」
「そんなこと言っといて実はすでに作ってるんだろ?」
「まさか。今回は設計段階に留めてあるよ。君の許可さえもらえればいつでも作れるようにね」
「作ってんじゃねーか!」
とは突っ込んだが、俺はちょっと咳払いして間を作り、ややあってからこう続ける。
「――まあ、とはいえ、俺に許可を取ろうというその姿勢には好感が持てる」
「それはありがとね?」
「神妙な態度だ。意外だな。忠誠心なんていう柄にないもんでも芽生えたのか?」
「さすがに事が事だ。君は五年近くも前に言っていたね。ノイトラと人間は共存していくべきだと。
人間はノイトラを食いつぶすだけ。足手まといの無意味な存在。そう主張する者も多かったうえでの話だ」
「今も変わっていない。可能な限り人間の命も奪わないようにしたい。
だってそうだろ。博士のおかげでこの地表世界は太陽のエネルギーで活動できるようになったじゃないか。
人間たちを養うだけのエネルギーを太陽は与えてくれている」
「うむ。その言葉が聞けてよかった」
「殺すとしたらセキュリティだけだ」
「しかし、いいのかね。君はエース君を愛してるし、エグリゴリとは結婚もしているんだろう。
セキュリティに"人間"を見出しているのは他ならない君ではないか」
ベンツと俺の言う人間とは"尊重すべき存在"のことだ。その命や意思、自由を尊重し、危害から守る。
それが俺にとっての人間だ。だからノイトラやセキュリティ、はたまた可愛がってる動物であっても俺はそれらを"人間"と定義する。
逆にれっきとした人であっても救いようのない悪人や危害を加える存在ならば人間とは定義しない。
「知ってるよ。俺の行動は矛盾だらけだ。それに対して言い訳する気は全くない。
人間でも俺の仲間に危害を加えるような奴は容赦なくぶち殺す。矛盾も罪も全部俺が引き受ける」
「その言葉が聞きたかった。昔の君も可愛かったけど、よくぞここまで成長したね」
ベンツは俺にハグしてきた。俺は特にそれに対して抵抗はしない。
「あんたは俺のかーちゃんかよ。博士、兵器開発の許可を出す。設計図があれば見せてくれるか?」
「どうぞどうぞ! さあこっちだよ!」
ベンツはプラントの奥の事務室みたいなところに俺を招き入れ、その部屋の机の引き出しから中から恐るべき設計図の数々を持ってきて、ざばぁっと机の上に雑多に広げた。
まずは一枚目。脚がついていて二足歩行する戦車のようなものをベンツは見せてきた。
「これは二人乗りの戦車だ。"レイブン級二足歩行戦車"と名付けたよ。
一人が操縦、もう一人が砲手だね」
「砲手ね。博士、楽しそうだな」
「ククク、楽しくてしょうがないよ。砂地が広がっているから車輪は使いにくい。
戦車は二足または六足歩行がいいだろう。索敵も背が高いほうがしやすいから二足がいいと結論付けた」
「なるほど」
「そしてこっちが飛行機だ。爆弾を落とせる。こっちは六足歩行戦車だ」
「ふむふむ」
「だが、これらよりも早期に開発しなければならない兵器があってね。
それがこれだ。題してアサルト・アーセナル・アライズ。A3計画だ」
「……それはどういう?」
「説明しよう」
ベンツは部屋にあった黒板にチョークでガンガンと音を立てながら文字を書いていく。
Assault Arsenal Allies。頭文字をとってA3計画。
しれっとベンツのやつ、英語はおろか古代文字までマスターしてやがる。
恐るべき学習能力だ。現代に生まれていたらノーベル賞とかとってたかもしれない。
「われらがミレニアムアヴァロン号は優れた設計だ。何しろ私が設計したものだからね。
あらゆる事態に対応できるように大量の脚を設計した。これが大当たり!
地表の砂地も南極の氷河も、これならば苦も無く踏破していけるだろう」
「だが……?」
「そう。だが、戦闘能力はない。装甲は硬くて厚いが、攻撃能力はほぼ皆無である。
乗り心地を重視し、歩くときは大量の脚でぞろぞろと歩くため姿勢が変わらないのだが、攻撃側にとっては非常に攻撃しやすいということだね。
そこでこの船を護衛する船がいる。しかもそれらの船は戦闘力があり、物資を貯蔵する外付け倉庫の役目も果たす。
それがA3またはトリプルエー計画だ。ククク、面白そうだろう?」
「楽しくなってきたな。設計図を頼む」
「わかった。我々の現在の人員を考えると、そう何隻も護衛艦隊を増やすことは出来ないよね。
そこで二重ダイヤモンド型の陣形を取ることにした。中央に旗艦であるミレニアムアヴァロン号を」
ベンツはムカデ型宇宙船、ミレニアムアヴァロン号の設計図をテーブルの中央に置き、その前方、後方、左右の四方向を囲むのは"ブルー・アーセナル"と名付けられた青い変な形の船が配置されていた。
この船もやはりというか、ムカデ型だ。ガサガサと今にも動き出しそうな大量の脚が細長い胴体に規則正しくたくさんついている。
「このアーセナルっていうのは?」
「先ほど説明したレイブン級二足歩行戦車やスフィアから積んできた古代兵器、バイクや飛行機を積んで走る装甲車両だ。
アーセナルはそれぞれ役目が異なり、弾薬庫や武器庫を兼ねるもの。飛行機やバイクを積むもの。
二足歩行戦車を格納するものなどに分かれている。そしてそれらを護衛するのがこの四機だ」
我らがミレニアムアヴァロン号を囲むアーセナルそれ自体には攻撃能力はないようだった。
あくまでその名の通り武器庫や弾薬庫としての役目。だがさらに外側を護衛する前衛艦はその限りではなかった。
ムカデ型ではなく六足歩行の戦車。しかも聞くだけで物騒な兵器が山ほど搭載されている。
ミサイル、榴弾、ビーム兵器に火炎放射器まで。
エースの持っていたレベル8の兵器を参考にしたので簡単に作れたとベンツは言っていた。
「そしてトドメにヘリコプターだ。これはエグリゴリ君と一緒にもうすでに作ってあるのだよ」
「なんと。ちなみになんだが博士、こいつを作るのにはどのくらいかかる?」
「ここは化学処理プラントだが近くに造船ドックもある。任せておくといい。
人手はそこまで借りる必要はない。エグリゴリ君一人がいれば十分だ。
期間はそうだな。二週間あればいけるよ」
「そんな馬鹿な。ミレニアムアヴァロン号一隻作るのに二年。
アーセナルや戦車を作ってたらどれほどの時間がかかることか!」
「それがそうでもない。私の作ったモジュール工法を使えば工期は大幅に短縮できる」
「そ、そうなの」
「説明しよう。それでは地下の造船ドックに行こうか」
造船ドックがどこかと思ったら、さっきこのプラントに上がってくる時に見た地下空間にトンネルがあり、そこを抜けると見渡す限りの地下空間全体がすべて造船ドックになっていた。
しかもすでに説明されていたアーセナルのひとつがもう完成しかかっている。
俺はベンツの技術力の急速な高まりにめまいがしそうだった。
「これがモジュール工法。部品ごとに加工、製造し完成までにはこれを組み立てるだけでいい。
人手は十分足りていることだし。おーいエグリゴリ君」
と呼ぶと俺は背筋が凍った。大量のエグリゴリがドックのそこかしこからひょこっと顔を出したのだ。
武器庫の役割を果たすアーセナルの舳先のようなところから一人、操縦席らしきところの窓にも二人見える。
ドックの下の方で車両を運転してるエグリゴリもいればクレーンを操作しているエグリゴリもおり、ちょっとしたホラーだ。
いくら俺がエグリゴリを愛しているといってもこれはちょっと怖い。
それどころか俺はさっきからベンツと肉体的接触は全くないながらも、ラブラブで蜜月の時間を過ごしていたこともあり、なんか妻に浮気現場が見つかったような気まずさがある。
「呼んだか?」
ほぼ一斉にエグリゴリたちがそう口にした。
そういえば、こいつらはエグリゴリが何かの作業や建築をするために大量に用意していたものである。
エグリゴリは消さずにおいておいたというわけだ。考えたな。
これならばアーセナルや周りの戦艦や戦車などを操縦する人手の心配は全くないようだ。
「ふふん、トーマ君。ハーレムだねぇ?」
「向こうが俺のことを好き好きしてくれるならそりゃハーレムなんだろうが」




