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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
最終章 魔王誕生
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第七十四話 俺のおっぱいが!

マシンに入るとあとは何もすることがない。自然と会話が始まった。

俺達はそんなに会話があるグループじゃないが今は特別だ。


「なあ王様。この二週間、聞きたかったけど別に大した話でもないし、アレだから聞かなかったんだが……」


「どうしたんだアル。お前らしくもない奥歯にものが挟まったようなモノの言い方を」


「シシィと出会ったことは全くの偶然だ。だから思うんだ。

元々エースさんや飛行機を迎えに行く予定ではあったんだろ。

まさか俺と二人きりでこの船旅をする気じゃなかっただろうな?」


「言われてみればそうだな。まあ、お前が嫌だというなら俺は一人でもこの旅をするつもりだったが。

ありがとう二人とも。この前までの俺は無謀だった。二人がいなきゃ俺は気が狂っていたと思う」


「それはどうも。しかし王様、自分の魅力をまだよくわかってないみたいだな」


「何の話だ?」


「言ってたろ。エリーと二人きりだとなんかしちゃうからって。

ぶっちゃけ俺も王様と二人きりだったらなんかしちゃってたよ」


「おいおい。俺は胸も平らで、生理だって来たことないんだぜ」


「俺は自慢じゃないが守備範囲が広いんでな」


「小さい女の子も好きか?」


「失敬な。俺は小さい子にやましいことはしたことないぞ。

まあでもゆりかごから墓場まで、王様みたいなボーイッシュも全然イケる」


「へえ。実は俺も少しは興味あったんだよな。俺は男を自認しているが、女の子の方にも。

もちろんアルのことが男として好きだったわけじゃない。

アルを選んだ理由は厳しい環境に耐えられる忍耐力と戦闘力だ」


「それはどうも。自慢じゃないが俺は結構強いと思うよ」


「知ってるよ。お前の戦いは目の前で見たことある。だが問題はコロンビーヌだ。

コロンビーヌは強いんだよな。ぜひ戦闘要員にスカウトしたいところなんだが彼女の戦いは見たことなくて」


「もちろんだ。コロちゃんは天候を操ると言っている。"私の心はいつも雨降り"が口癖の面倒くさい奴だ」


「天候を操る?」


「正確には水だ。俺は炎を操る。王様、ノイトラのエネルギーの生み出し方は電気だけだと思ってるだろ?」


「違うのか?」


「熱や光として体内から出力する奴もいる。シシィならその辺詳しいか?」


「まあ一応は。陛下はノイトラについて知らなすぎます」


「ごめん……」


「アルさんは炎を操るって言ってますけど、多分それは元からエネルギーを熱として出力するタイプのノイトラだからでしょう」


「正確には熱として出力する"こともできる"ノイトラだがな。

俺は炎を自在に出すことが出来る。生まれつき他より、生み出せるエネルギー総量も遥かに多いらしい」


「そりゃすごいな。コロンビーヌは違うのか?」


「コロンビーヌは俺と割と近いタイプで、エネルギーを『振動』として生み出すんだ。

もちろん熱や電気としても出力できる。それらを複雑に組み合わせることでいろんなことが出来るらしい。

悔しいが俺より多彩なノイトラだ。天候どころか地震を起こすことさえ出来る」


「さすがは元"天使"だな。天才児というわけか。そういえば実の兄なのに俺は聞いたことがないんだが……アンリってどういう戦い方をするんだ?」


「ああ。コロンビーヌは隊長と言ってたな。あの人は音を使うらしい。

振動を使うという意味ではコロンビーヌにもできることに過ぎないが、結構音使いもバカに出来ないらしいぜ」


「ふうん……あの二人、戻ったらもう結婚してたりしてな」


「かもな。コロちゃんが妊娠などしてたら連れてはいけないよな?」


「そうだなぁ……」


話を聞く限りでは、コロンビーヌは最強のノイトラみたいである。

もし妊娠してたら大変だ。連れてはいけない。戦力ダウンである。


「帰りはこの船いっぱいにノイトラを積んでいかなければならない。

出来れば……って、あれ。おかしいね。いつから帰る場所が地表になったんだ?」


「ははっ。さっきからボケよく挟むね王様」


「すまん」


などと話しているうちに時間は過ぎ、マシーンから出た俺たちは脱いだ服を再び着て、食堂へ飲み物を取りに行った。


「みんな、何がいい?」


「徹底的に休むんだって言ったろ。全員セルフサービスだ。王様は座ってろよ」


「言ってることがおかしいぞアル」


「だって王様だろ。お前は俺らの王だ。何か注文は?」


「よし、なら酒飲んじゃうか。いつもは酔わないようにしてるけど……何でもいいから飲みやすいお酒を」


「わかった。俺のとお揃いにしてやろう。シシィは?」


「私はお酒飲んだことないので……ちょっと怖いです」


「言っとくが、酔っ払いのそばで一人だけシラフでいる方が余計怖いんだぜ」


「じゃ、じゃあ飲みやすいのを……」


「わかった」


アルの言うことはその通りだ。酔っ払いと一緒にシラフでいるのはとてもつらいことだ。

介護する責任も出てくるし、いっそのこと三人で酔わねばやってられない。

ほどなくしてアルが酒を持ってきた。加水分解した純粋なアルコールをちょっとしたフルーツジュースで割ったやつだ。

こういう甘口なのじゃないと俺は飲めない。ぴりりとした辛口の酒を飲めるほど俺は大人ではない。


「かんぱーい!」


と俺は叫んで一口飲んだが、ふと疑問に思ってこう言った。


「何に乾杯だ。どうしよう?」


「何でもいいんじゃないのか?」


「じゃあノイトラたちの未来に乾杯と言うのは?」


「お、それいいね採用。ノイトラたちの未来にかんぱーい!」


「乾杯!」


グラスがチンと鳴って、カクテルが俺たちの胃に流し込まれた。俺は割とすぐ酔うタイプである。

酔っても意識ははっきりしていて記憶を失くすこともほぼないが、ある一定量のアルコールを摂取するとすぐ寝てしまう。

だから、これは俺が寝てしまって意識を失うまでに起こったことをあとから聞いて再現したものである。


「ようアル、俺と本当にやれるのか?」


「おいおい絡み酒か?」


「ほらどうなんだよ?」


と俺は自分の服のボタンをはずして胸をはだけた。

よいこのみんなが見ている地上波のテレビやユーチューブで放送してもいいぐらい、俺の胸は平らであり、乳首も大きくない。

見た目はド健全である。ここまでは記憶がある。普段の俺ならそんなことしないが、ちょっと開放的になっちゃったんだろう。


俺達が妙な雰囲気になっているのを、弱い酒を飲んでるだけで別に酔っていないシシィは恐怖しながら見つめていたという。

するとアルはなにが面白いのか、突然爆笑しだしたという。


「はっはっは。だから言っただろ。俺は守備範囲広いんだぜって。

おい王様、どのくらい男化してるんだ?」


俺の股間をアルが手でもぞもぞと揉みだした。そしてこうコメントしたとシシィは語る。


「まだ退化してないじゃないか。好きな男がいるのか。

当ててやろう。そいつはセシルだろ」


「お前こそセシルのことまだ引きずってんのかよ。全く……んひゃっ!」


「お、どうした?」


「やめろってくすっぐったい……あはっは、もうやめて!」


などと、俺は股間を触られて笑い出したというのがシシィの証言だ。


「やめろと命じないなら続けろと言ってるとみなすが?」


「俺らどっちも既婚なんだから。そういうことはシシィにやれよ」


「なんで私に振るんですかもう!?」


「俺は三人でやってもいいけど?」


「うーわ。全く男はケダモノだな。そうか、わかったぞ。

お前が嫁さんと微妙な関係だったのはアレだ。授乳中だから求めても応えてくれないんだろ!?」


「ぎくっ」


「嫁さんが構ってくれないからって邪な情動を俺に向けんな。

まったく、男は嫁さんの妊娠中や授乳中に浮気するとは聞くが……」


「頼む王様。俺を止めてくれ。自分じゃ止められないんだよ!」


「おいおい。止まるなら今のうちだぞ。嫁さんも悲しむぞ?」


そう俺はニヤニヤしながら言い、しかも煽情的に股を開きだしたというからびっくりだ。

俺は酔うとからかい上戸にでもなるのかもしれない。自分の知らない一面を垣間見た。


「なあ、俺もう十六だ。この歳まで生理が来なかったってことはせっかく持って生まれた女の機能は早晩退化してしまうってことだ。

男なら、女が一人この世から消えるのは惜しいって気持ちわかるだろ。俺もせっかくなら使ってみたい」


必死過ぎてびっくりだ。なぜそんなに俺は男に抱かれたかったのだろうか。

結局シシィによれば、俺とアルはお酒の魔力のせいもあり、一線を越えたらしい。


突然舌を入れるぐらい深いキスを俺たちがしだしたので、シシィはてっきり俺たちは元々そういう関係だったのだと判断。

それからどんどん事態は進んでいき、これ以上は自分もまきこまれそうだとシシィは判断したそうだ。


怖くなって一階の居住区に避難し、その後のことはよく知らないとのことである。


そして気づいたら俺は食堂のすぐ外の娯楽室で倒れており、若干の二日酔いで軽い頭痛を覚えながら起き上がったというわけだ。

水を飲んで少し落ち着き、バスルームに湯を張って、堅い床の上で寝ていたために余計に疲れた体のコリをほぐしつつ、汗をかいて老廃物の排除を促したのだ。


約一時間もの間バスルームにコップと水差しを持ち込んで、汗をかいては水分補給を繰り返した。

これでようやく酒のせいで体の中にたまった毒素が抜けてきた俺は、腹が減ったので食堂へ向かった。


すると食堂に来てパンとフルーツを自分で皿に盛って食しているシシィと目が合った。


「お、おはよう」


「もう正午過ぎですよ。ずいぶん長い間……あ、そういえばアルさんは?」


「俺も見てないが。部屋で寝てるのかもしれないな」


「そうですか……」


このあと、シシィは俺が昨夜酔って何をしでかしたかを克明に語って教えてくれたというわけである。

全てを聞かされた俺は開口一番にこう言った。


「道理で股が痛いと思った!」


「え、それだけですか?」


「それだけって、何が?」


俺は首をかしげた。シシィも首をかしげた。


「だって、そういうことは結婚してからじゃないと……」


「まあいいんじゃないか。俺、生理なんて来てないし子供も出来ないからな。事故だ事故」


「怒ってないんですか。アルさんのこと」


「どうして?」


「酔ってる間に半ば無理やりなんてひどいですよ」


「そうかな。俺の方も誘ってたみたいだし。何で怒ってるんだシシィ」


「私、陛下という人がわかりませんよ。本当はアルさんのことが好きだったんですか?」


「いや別に。特別好きではない。話も合うし、いい奴だから友達としては好きだが」


「友達として好きな人とやっちゃったんですか?」


「いいだろ。別に減るもんじゃないし」


「返す言葉もないです……」


俺に呆れたのかシシィは下を向いてしまった。するとそこへ話が終わるのを待っていたのか、廊下の方からアルがやってきた。


「すまん!」


開口一番そう言ったかと思うとアルは頭を下げてきた。


「話聞いてなかったのか。俺は別に構わないぞ」


「だが……」


アルは意外そうな顔をして言った。確かにシシィやこいつは、俺が女的なものの考え方をしていたならばとっていたであろうリアクションを想定して言葉を発している。

そのため、俺と話がかみ合わないのだ。普通女だったら、酔って寝ている間に自分と関係をもった男のことを嫌悪するのが自然だろうと思うが、俺は別に何とも思わない。


「俺はかねてから興味があったんだよね。男に抱かれるの。

でも酔ってたから全然どういう感じか覚えてないんだ。シラフでもっかいやるぞ!」


「ええ!?」


「ええ!?」


俺の言うことってそんなに意外だろうか。アルとシシィは心底びっくりしたように大声を上げたのだが、俺にはその気持ちはよくわからない。


「いいだろ減るもんじゃあるまいし。酒は飲むなよ」


「お、おい。俺はてっきり……」


「でも意外に嬉しいもんだな男に体を求められるのって。クセになったらどうするんだよ」


「王様……俺もお前のことシシィと一緒でわからなくなったよ」


「お前だって溜まってたんだろ。俺だって溜まってたに決まってる。

こういうのは発散しないと体に毒だ。そうだろ。

エグリゴリと結婚してたからさ、俺だれかに体を求められるなんて初めてなんだよね……」


男に抱かれる感覚に興味があった俺だが、そのことは残念ながら酔っていて全然覚えていない。

多分途中から寝ていたと思う。だが、男に求められることの快感は確かに覚えてしまった。

今でも俺はアルがそばにいるとなんか変な気分になって心臓の鼓動が早くなる。


なまじ男が女の肌をどれだけ熱く求めるか自分で知ってる分、それを自分に向けられると決して悪い気にはならなかった。

でもアルはバツが悪そうに頭をかいてうつむいている。


「悪いがもうやらん。王様が乗り気でも俺には妻が……」


「まあこのことは誰にも言わないでおいてやるよ。でもな。

二週間でこれだろ。あと何日あると思ってるんだよこの旅。

俺はお前が襲ってきてくれるのを楽しみに待ってるよ?」


「うぅ……」


何だかまるでアルは俺に罵倒されて泣かされたあとみたいに憔悴したような顔で食堂を出て行ってしまった。


「やれやれメシ食いに来たんじゃなかったのかよ?

シシィ、あいつにあとでパンとお茶でも持って行ってあげてくれないか?」


「それはわかりましたけど……」


「まだ何か文句があるのか?」


「いえ。ただ考え方がずいぶん違うんだなぁと」


「悪かったな。シシィにはちょっと刺激が強すぎたか……」


それからというもの、アルは俺を避けるようになった。大変心外である。

酒は人間の本性が出る。確かに俺はアルを誘ったようだが、先に手を出したのは向こうの方なのだ。

というか、いくら溜まってるからって女と同じ機能が多少退化せずにまだ残っているだけの男の体である俺に劣情を抱いたアルの方が悪いに決まっている。

なのになんだか、アルが俺を怖がって避けていると俺が一番最初に誘い、アルを罠にかけたみたいではないか。


しかもシシィまでも俺によそよそしくなり、体の関係を持つことは案外この船の精神衛生上よい働きをするんじゃないかと勝手に思っていた俺の期待とは裏腹に、会話が目に見えて減った。

空気も重いし、これならおかしなことをしなければよかった、と一応俺は反省した。

だがそれはそれとして俺はアルに逆セクハラをしだした。


アルのたくましい筋肉を搭載した体を手で撫でたり、仕事をするときなどに必要以上に体をくっつけたりなど。

初日と二日目は無視されたのだが、三日目になるとさすがにアルにも我慢の限界が来ていた。

例の事件があってから一週間後、俺とアルが二人きりで空気清浄室でナッツとフルーツの収穫を行っているとき、俺がいつものようにセクハラしていると怒られた。


「おい! もう最近なんなんだよ!」


「なあなあアル、悪いとは思うよ。でもこれ以上分かりやすくできないぐらいわかりやすく誘ってるじゃないか」


「何を言ってる?」


「俺、アルに求められて本当に嬉しかったんだ。俺のこと嫌いにならないでほしい」


「別に嫌いじゃなが……俺には妻がいるだろ。王様も新妻がいるじゃないか?」


「それがな、俺が女を抱くのを想像すると、確かにエグリゴリへの罪悪感があるからその気には全くならないんだよな」


「だったら……」


「でも何でだろう。アルに抱かれても罪悪感は全然ないんだよな。

それは多分俺に恋愛感情はないからだと思う」


「相手したらやめてくれるか?」


「それはもちろん!」


俺は今アル、というか男にとってある種理想的な状況を作ってやっていると自負している。

男の理想の女とは、体の関係もある女友達というやつだ。

恋人や妻ほど面倒くさい責任がなく、体の関係もあり、かつ一緒に居て楽しい友達。これが堕落しきった現代男性の理想なのだ。


これはまさに今の俺だ。あと腐れもないし責任もない。体の関係はむしろ俺の方から誘っているくらいだ。


「もう一回やっちまってるんだ。割り切っちゃおうぜ。アル、俺にこの間したみたいなキスしてみろ」


もはやこれは俺の命令である。王の力は発動し、俺たちは男同士なのにキスしてしまった。

不思議と嫌な感じは全然しない。むしろこの数日ずっと待ち望んでいたので幸せな気分ですらある。


「命令はここまでだ。お前に求められなきゃ意味ないじゃないか。そうだろ?」


「何が目的だ?」


「さあな……実は俺が真っ先にこの閉鎖環境でイっちゃってるのかもな。で、どうする?」


「まったく、初めて王様と会った時はこんなことになるとは思いもしなかったよ……」


結局アルは続けた。別にその最中のことを詳しく描写する必要はないと思うので省略しよう。

結論から言えば俺は味気ないこの閉鎖環境での単調な日々に生き甲斐のようなものが出来た。

ノイトラは好きな相手に性別を合わせ、十八歳ごろまでに選ばなかった方の性別の機能は退化し、大人になっても両方残っている人は稀だという。

そのノイトラは大半が女型になっているのもわかるというものだった。

エグリゴリと結婚している限り、俺の体の性別はどっちでも関係ない事なのでいっそのこと十六歳の今からでも女型のノイトラになろうかと思ったくらいだ。


あれから俺によるセクハラはなくなり、アルも自分から手を出してこないが、それはそれとして俺を避けることもなくなったし、心なしか優しくしてくれるようになった。

ただ、アルの部屋に俺が行ってまで誘うと仕方なく相手をしてくれた。

だがシシィは俺によそよそしいままだ。仕方ない。俺のことが好きだとはっきりこの前口にしてきた。

それはつまり俺を男として好きということであり、俺が男型ノイトラのアルにご執心なのは気分が悪いだろう。


悪いがシシィの相手をすることを考えると俺はエグリゴリに対して罪悪感がある。アルとの時は不思議とそれはない。

そんなこんなで、三日に一回くらいのペースでアルと体を重ねつつ俺はいつも通りに仕事をつづけた。


その日も、俺の一日はいつも通りに始まった。朝食はアルが当番でクロックムッシュを作ってくれた。

まずフライパンで生の食パンの表面を香ばしく焼き上げ、それに特製ソースを塗ってから備蓄されているチーズとベーコンを挟んだものだ。


もう聞いてるだけでも美味しそうだが、もちろん絶品だった。アルは料理の出来る方ではないが、エリザベスが船に置き忘れたレシピノートを忠実に再現したとのこと。

肉や乳製品はもともと数十人規模の人数が長期間消費することを前提に食糧庫に備蓄されていた。

それが俺たち三人だけでやっているのでバターやチーズを大量に使用するフレンチも気軽に食べられるというわけだ。


その絶品な朝食クロックムッシュをアルが淹れてくれたくれたコーヒーと一緒に堪能していた時だった。


「む?」


と横のシシィが俺の方をみて言った。


「どうしたんだシシィ?」


「いやそれが……ちょっと失礼しますよ」


なんとシシィはクロックムッシュを食べる手を止めて俺の服のボタンに手をかけ、俺の胸をはだけた。

俺はいつも薄着なのだ。服一枚いじられただけで上半身は裸になってしまうのだが、なんとシシィは難しい顔をして俺の乳首があるあたりを見つめる。


「ふうむやはり。私の心配してたことが起こってしまいましたよ……」


「なんだって?」


「あれから十日以上。もうそろそろ例の階層に差し掛かるところですよね。

それであの……すみません。アルさんもこれ見てください」


「ぬっ、これは!?」


アルも驚愕の表情を浮かべて俺の胸を凝視する。何のことかわかってないのはこの場で俺だけだ。


「だから何だよ?」


「そ、その胸……大きくなってる……」


「そうか?」


俺は自分の胸に手をやった。すると十三歳のころに戻ったみたいにぷにょんとした柔らかい脂肪の塊を触った感覚があった。


「おっと。大変だ。胸があるぞ」


触った感じは手のひらサイズ。貧乳というか成長途中という感じだ。


「それ放置しておくともっと大きくなりますよ」


「なにっ」


「もう、だから言ったのに。それもちろん心当たりがありますよね……ないとは言わせませんよ」


「なあシシィ、これってもしかして俺のせい?」


「アルさんのせいじゃないですよ。悪いのは陛下だと思います」


「うわやばっ、どうしよう。このまま地表に帰ったら俺……誰と何をしたか一目瞭然じゃないか!」


「マズいと思いますよ。アルさんの不倫は私は別に黙っててもいいですが……陛下の姿が雄弁に物語ってしまってます」


「なんてこった。ちょっと男に抱かれることに興味があっただけなのに。

どうしよう。このままだと俺ママになっちゃうよ。男の姿に戻りたい!」


「あ、そうだ。男らしくなりたいんだったら筋トレするのはどうですか?」


「それだ、名案だ!」


聞いたところによれば筋トレは男性ホルモンを増加させるらしい。


「それから男性型のノイトラとはもう接近禁止ですよ。あ、逆に女性型を抱けば男らしくなれるんじゃないんですか?」


「いや、それはちょっと。一線を越えた感じがするじゃないか」


「もう一線は超えてると思いますけど……」


「なあアル、シシィが俺をゴミみたいな目で見るよぉ」


「知るかよ!」


「出会った当初は俺のことを尊敬のまなざしで見つめてたのになぁ」


「尊敬を失うようなことばかりするからでしょ。でもまあ、逆に心の距離は縮まったのかなって思いますけど」


「それはありがとう。それだけずけずけ言ってくれてるんだから間違いないよ。

シシィ、言うタイミングが意外になかったんで言えなかったんだけど、話がある」


「えっ、今ですか。その格好で?」


「もちろんだ」


俺は小さなおっぱいを丸出しにして続ける。


「しかしこのクロックムッシュは絶品だな。まあそれはともかくシシィ。

スフィアやこの先の中間都市に住むというのも考えてみないか?」


「と言いますと?」


「上へ帰るにはまた一か月以上の旅が必要だし、地表は戦場になるから地下深くにいた方が安全だ」


「私は陛下の忠臣です。何があってもおそばを離れません」


「なにっ」


「私が生きているのも全てあなたのおかげです。あなたが私の生きる意味です。

それだけのことを私にしてくれたんですよ。安全地帯になんか行きません」


「そ、そうか。下らんことを聞いて悪かった。じゃあ今日中に行くぞ、中継都市ローレシアに!」


「はい。仕事にかかりましょうか!」


「ああ。操縦はもう一日中俺がやる。みんなは空気清浄室や養魚場やその他メンテナンスをしてくれ」


「わかりました!」


「わかった。王様、あとで操縦室に、リネン室から包帯を届けてやるよ」


「俺ケガしてないけど?」


「サラシをまくんだよ胸に。わかったな?」


「わかった。じゃあごちそう様」


ここから先のことはカットしよう。八時間ほどぶっ通しで下へ降りていると、穴の開いていない床に差し掛かった。

この下の階層は空気を満たしていなければならないということである。

ここだけは船外作業をせねばならない。ここは中継都市である。


だから、この階層は上や下とも行き来できるように床と天井に弁が付いている。

そうでなくては毎回床をブチぬき、階層に住む人に被害を与えかねないからな。

この弁は中から開けてもらえた場合のみ船で通れるようになっているのだが、弁の中には気密扉があり、人間一人で入れるようになっている。


そして気密扉には有線の電話が引かれており、俺はもちろんこれにコールした。

電話をかけてから十秒もしないうちにコールにノイトラらしき高い声の人が出てくれた。


「はいもしもし。こちらローレシア役場コールセンターです」


「こちらトーマ。ノイトラの王だ。ミレニアムアヴァロン号を中へ入れてもらいたい」


「かしこまりました。少々お待ちください」


その後弁が開き、俺も船に入って、船ごと巨大な気密扉の中に入れてもらった。

気密扉内にはウィンチをひっかけるフックみたいなのがあるのでこれにウィンチをかけていつも通りの形で下に降りた。

ここへ来るのも実に四か月ぶり近くになる。


俺の操縦する操縦室には窓があるので、アルもシシィもその窓にくぎ付けだ。


「うわぁ、この二人以外の人と話せるかと思うと楽しみだな」


「本当に人が住んでるんですねここに……」


「そうだ。シシィのことも少しは紹介しておかないとな。行くぞ」


俺達はウィンチをひっかけて少しずつ下へ慎重に降りていき、着地したらいつも通り操縦室の無数のスイッチのひとつを押した。

そうすればウィンチのフックが収納され、引っ掛かりがなくなって外れる。

これを外して急いで巻き取る。火花が出そうなほどの勢いでウィンチを巻き取り、俺たちはついに中継地点ローレシアの一個手前の階層へたどり着いた。


ここは知っての通り、非常に大きな自然がある。ムシもいれば鳥も猿もいるという蒸し暑いジャングルだ。

ここには用はないのでもう一つ下の階層へ向かう。

この階層にも下の階層にも空気があるので、弁は必要ない。

この階層の床の一角が扉状になっており、ウィンチをひっかけるフックがあるのも相変わらず。

ここまでくればスフィアへも一日で行ける。俺たちはまた一つ階層を降りた。

急な来訪だったのにも関わらず、集落のある場所のはずれにある空き地に着陸した俺たちをエースとアンリだけが歓迎してくれた。


「久しぶりね。地表へはつけたの?」


「ああ。久しぶりだなエース。アンリも」


「久しぶりですねトーマ様。新顔のようですが……彼女はベンツ博士の変な実験体とかじゃないですよね?」


「彼女はシシィ。地表の街で生まれたというノイトラだ」


「よろしくお願いします……アンリさんのことは道中聞きました」


「どうも、トーマ様とは腹違いの兄弟だ。よろしく。

ではトーマ様たち、地表につけたのですね。あれから五か月近くが経過してますね。

ということはここから地表まで二か月ぐらいかかるんですか?」


「急げばもうちょい早く着くが、まあそんなところか。

実は俺たち三人を除き、全員上に置いてきている。

話はあとだ。とりあえず村の中心部へ行こうじゃないかみんな」


「そうですね。行きましょう」

南極に統治機構がある。それにたどり着いたら話は終わりです。

ですがその前になろうでよくある内政ターンに突入し、これがまたすごく長くなるかもしれません。

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