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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
最終章 魔王誕生
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第七十三話 平和は次の戦争の準備期間である

「なんだか胸がいっぱいで。こんなに優しくしてもらったこと生まれてこの方なかったから」


スプーンを右手に持ちながら涙をこぼすシシィ。リリスがその涙をナプキンで拭いてあげた。

リリスは優しい子だ。俺はこれに大いに満足し、さらにシシィもすぐに泣き止んでパンを口にした。

これはパンに砕いたナッツをトッピングし、中にはチーズや様々な具材を入れた絶品料理である。

シシィもすぐに二口めをかぶりつき、息つくヒマもなく別の皿に手を出すなど、見ていて気持ちいいぐらいの食べっぷりだ。


「美味しいですよこれ。こんなおいしいもの初めて食べました。いつもこんなおいしい料理を食べてるんですか?」


「ウチの自慢のシェフが作っているんでな。

望むならシシィの故郷の奴ら全員にふるまうことだって出来る。

君も見ただろう。あの強力なレベル8のセキュリティが粉砕される様を……あ、いけね。

今思い出したんだけどあのセキュリティのうなじの文字見るの忘れてたわ」


そういえばあのセキュリティ、ガブリエルと言ったが上半身が粉みじんになってしまったのでもはやうなじを確認する術がない。


「すまん、こっちの話だ。シシィにはまだまだ教えなきゃいけないことがあるからな。

まず住んでもらう部屋なんだが、さっき言った通り途中で人を下ろしてきたんだ。

だから居住区は余ってるんで、好きに使うといい。一階の居住区にあとで案内する」


「すみません、ここまでしていただいて」


「もうシシィはこの船の一員だ。遠慮することはない。食べたら一階へ行くぞ」


シシィが食べ終わってから俺は彼女を食堂から連れ出し、とりあえずこれで集会は終了。

集めた面々は再び自分たちの持ち場に戻るなり、娯楽室でやり飽きたゲームをやるなり思い思いに散っていった。

一階の居住区はほぼ全部空いているので一番階段に近い場所を選んでシシィと中に入った。


実は俺もここに入るのは初めてだが、俺の部屋と何ら変わることのないシンプルなつくりだ。

ベッドと棚と、ちょっとした机があり、奥にバスルームに続く部屋があるだけだ。

トイレと風呂に関する注意事項を話し洗濯物やごみの話など地味だが重要な話が続いた。

俺は基本、心配性で生真面目。細かいところにまでこだわるタイプである。


そのため万が一の時の備えとして様々なものが備蓄されている倉庫は見ているだけで喜びを感じるほどだ。

シシィにも細心の注意を払って懇切丁寧に、失念した話がないようよく確認しながら生活の多岐にわたるルールを話した。

彼女がこの船に慣れてくれることを願いながら俺は彼女を自由にさせ、とりあえずそのまま二日が経過したころだった。


シシィには言っていなかったが、ノイトラの船員には船のエネルギー機関を充電することを義務付けている。

と言っても、今は俺一人で全部回している。ここ最近建設ラッシュをしていたからだ。


この船は穴を通ってやってきた。そこから大きく移動せずずっと停止しているわけなのだが、この周辺にはエグリゴリに駅を作らせるなどインフラを整備している。

中でも断熱性を持たせた専用の建物の中で人工光合成装置を動かしている。

二酸化炭素ならば地面の砂からほぼ無限にとれるため光合成の材料には困らない。

しかも地面の砂には水素が含まれているので、これらを使ってメタンガスを精製し、燃やすことでエネルギーを得ている。


これにより船の機関室や空気清浄室は俺一人で回せるぐらいに太陽から降り注ぐエネルギーで賄っているわけだ。

もう少しインフラ建設が進めばそれも完全に要らなくなり、むしろエネルギーの貯金が出来るとベンツも見積もっているほどだ。

そんな放電中の俺をシシィが訪ねてきた。


「あの……お邪魔だったでしょうか?」


「どうした。シシィは特別だ。別にこれをやる必要はないんだが」


「王様がどこかリリスさんに聞いたらここだと言うので。

でも大変ですよ王様。その胸……!」


「ああこれか。残量は少ないようだが別に体に異常はないし……」


「ダメです! 私の胸を触ってください!」


「ええ!?」


俺は変な想像をした。実際、シシィが着ていた服のボタンを取って胸をはだけたので余計にそう思ったのだが、もちろん真剣そのものなシシィの顔からは、一切性的な香りを感じない。

言われた通りに心臓のあたりに手を当てると、シシィの胸が光った。


「私もそうたくさん残ってるわけじゃないですが、少しでも……」


「これはどういうことだ?」


「ノイトラはこういう風に能力を譲渡しあうことが出来るんです」


「ほぉ。それは全く知らなかった。

やはりシシィを連れてきてよかったな。俺の判断に間違いはない」


俺はシシィの胸から手を離した。別に何の実感もないが、言われてみれば心なしか元気になれた気もする。


「お望みなら私のすべてを。私の命は陛下のものです。私の存在はあなたがいてこそですから」


「大丈夫だ。この"ビアンカ"の地表には太陽が降り注いでいる。これを利用さえできればノイトラたちの力を使う必要もない」


「やっぱり陛下って鈍感なんですね」


「鈍感なのか。普通能力が劣化してくると何かの感じがあるのか?」


「そうじゃないですって。全くもう。そこまでボケられるとちょっと……」


「そういえば俺の知り合いが男に"俺の心臓を君にあげる"と言われて本当に受け取ったらしい」


「そんなことが。ノイトラですか?」


「いや。だが俺もそんな情熱的なセリフを言ってみたいものだね。

しかしシシィには感謝だ。いいことを聞かせてもらったよ。

望めば存在の全てをか。だったらもしもの時はリリスを……」


俺はリリスの顔を思い浮かべた。リリスの劣化具合は別に進行していない。

だがもしもリリスが倒れた時は俺が何とかできるのかもしれないと思うと少しだけ安心感が芽生えた。

リリスは俺のスペアだということだが、リリスの代わりはどこにもいないからな。


「あの、聞きたかったんですが、リリスさんと陛下はどういう関係なんですか?」


「なんでそんなこと気になるんだ?」


「だって私……陛下のこと好きですから」


「好きと言うのは……リリスが俺とどういう関係かがシシィにとって重要だということだな?」


「そうですよ。距離も近いですし。なんかこう二人で秘密を共有しているっていうか……」


俺は苦笑いした。シシィは俺がエグリゴリと新婚であると知っているのにかなりストレートに恋愛感情を表明してきた。

しかもまだ会って三日目である。まあ確かに気持ちはわかる。俺も同じ立場だったらそうなっていたかもしれない。

実際シシィはかわいい子だ。素直で実直。エグリゴリさえいなかったらその気持ちに積極的に応えたかったくらいだ。


それだけに俺は誠意を込めて真摯な態度を返すのだった。


「リリスは恋人ではないよ。だいたいエグリゴリが俺の新妻だって知ってるだろ?」


「でもあの人はレベル8だという話じゃないですか。まさか本当に……?」


「まさかとは何だよ。セキュリティとノイトラが結婚したら悪いのか?」


「そ……そうは言ってませんが……」


「お堅いんだな、シシィの故郷は。君のことをもっと教えてくれないか?

好きな食べ物は。故郷はどんなところだ。親兄弟は?」


「私の故郷のこと皆さんには話さなきゃですよね……」


「一緒に食堂へ行こう。全員で集まるときはあそこと決まっていてな」


「わかりました。お話します」


というわけで一時間後には全員で食堂に集まり、シシィへの大質問会が始まっていた。

もちろん司会進行は俺だ。質問をするのも全部俺。まずは主役のシシィにこう聞いた。


「さっきも聞いたが、年齢と好きな食べ物など教えてくれるかな?」


「ね、年齢ですか。十五歳。好きな食べ物は特にありません。食べられるだけマシという生活だったので……」


「なるほど。悪いことを聞いたな。すまない。故郷はどんなところなんだ?」


「私たちの故郷はノイトラと人間の入り混じる居住区なんです。

セキュリティたちは基本、S極にあるとかいう"エデン"なるもののほかに興味はありません」


「な、何だって?」


「エデン。楽園という意味らしいです。楽園がS極にあり、ここが統治機構とセキュリティの中枢。

それを維持するためにノイトラが大量に必要なのでノイトラの居住区があることはセキュリティには基本黙認されています。

そしてその中に人間が混じっていてもセキュリティはあまり興味がありません」


要するに、セキュリティは人間やノイトラが居住区を作って暮らしていることをある程度黙認している。

だが、その代償としてノイトラをエデン維持のために利用しているということでいいはずだ。

また、シシィの言葉によれば人間たちは害虫のようにノイトラの生み出すエネルギーにたかって生きているようである。


「だがこの間のホラ……あのガビみたいにやたら仕事熱心な奴もいるわけだな?」


「はい。セキュリティ……特に高性能な知性を持つレベル8以上のセキュリティは完全に暴走しています。

何故かと言うと統治機構は彼らに一切の命令を与えていないからです。多分、何百年も何千年も……」


「統治機構の物理的実体はS極にあるとのことだが、それを守るのもセキュリティが独自の判断でやっているということか?」


「はい。誰も近づこうとはしません。レジスタンス以外は」


「レジスタンス……フッ、どこにでもいるもんだ」


と親父が言った。これには親父と同じく、いわゆるレジスタンス的な役割である革命軍の創設メンバーでもあるトントンも同調した。


「そうだね。人間、どこでも考えることは同じだ。しかし微妙なところだな。

トーマ、我々の敵は一体どちらだと思う。人間かセキュリティか?」


「聞くまでもないことだぜトントン。そりゃどっちもだろう。

どっちにしろノイトラからエネルギーを搾取している存在であり、そいつらはそれを取り合ってるだけだとシシィの話から分かった。

行こう。ノイトラたちを解放しに。その際に犠牲者が出るのは残念ながら避けられないことだろうな」


この物語はどうすれば終わりを迎えるのか。あるいは、志半ばで俺が倒れることでしか終わらないのか。

それはこの戦いではっきりすると俺は直感的に理解した。この戦いこそ最後の大決戦。

愚かな人間どもには悪いが、ノイトラの解放こそが最優先、それがこの船の船長である俺の決定だった。


まず解放ありき。その後インフラを建設し、徐々にノイトラの負担を減らしつつ人間もある程度暮らしていけるようにはしてやるつもりだ。

そのノウハウはすでにあると言っていい。セキュリティだってうわさに聞くレベル9が来ない限りはそれほど恐れるに足りないはずである。

この戦いに負けたり、大きな損害を出すなどとは俺は全く思っていない。全く躊躇はなかった。

俺は続ける。


「それでシシィ、ここから故郷は遠いのか?」


「S極の周囲には非常に広大な氷河が立ちふさがっています。南半球の大部分を覆いつくすくらいの氷河が」


「そんなに? そりゃさぞ絶景だろうなぁ」


という俺の旅行好きのインスタ映えを気にする女子大生みたいな浅い意見とは対照的にベンツは科学的な点に注目していた。


「ふむふむ、なるほど。水素と酸素が土壌に大量に含まれてるので水はどっかにあるだろうとは思ってたが。

それだけ質量が南北で偏っていると重力も南半球のほうが強そうだなぁ……」


「難しいことはわからないですけど、とにかくそういうことです。

ええと、そもそも人間は赤道付近以外ではろくに生きていくことは出来ないんですよね。

だから私の故郷も赤道にあります。そしてその先の氷河の大地には知っての通りセキュリティがウロウロしています。

私は故郷でセキュリティに身柄を引き渡されて……例のセキュリティには一年以上は連れまわされました」


「ふーむ。そう考えるとあの大家族はすごく惜しかったんだなぁ。

もう少しで俺らに見つけられて保護してもらえてたかもしれないのに。

だがもう安心だシシィ。ということは俺たちがあのセキュリティをぶっ殺した件がほかのセキュリティに伝わり、ここまで追っかけられることはまずないと考えていいな?」


「まずないでしょう。彼らの通信可能距離はほんの数百メートルくらいですし」


「実は俺らもそんなもんだよ。中継局や電波塔、有線のケーブルなど使わない限りはな。

それならいい。よし、シシィのおかげですごい色々なことがわかったぞ。

みんな聞いてくれ。これから俺たちはスフィアまで戻る。

そしてエースや希望者を拾ってここへ戻る。要する時間はおよそ三か月といったところか。

その旅に出るまでにここでの生活基盤を固めよう。地下に家を建設し、三か月を耐えてほしい」


「全員船に乗ってここを離れるじゃダメなのか?」


とブリュッヘルが聞いてきたが俺はこれに明確にノーを突き付けた。


「聞いたろ。赤道付近じゃなきゃ人は暮らせないって。

俺たちはその限りではない……技術でそれを克服し、ここに住むことを可能にしたんだ。

ここは希望だ。スフィアからも可能な限りのノイトラを連れてきたいんだ。

必要最低限の人数で行く必要がある。善は急げだ。仕事にかかろう」


それから約一週間、俺たちは仕事に明け暮れた。日中は地表で人工光合成プラントを建設し、光合成でメタンガスを蓄積する。

そして出来た大量のガスはタンクに貯蔵し、夜になれば地下に潜って家を建設して、そこで夜を過ごした。


最初の三日は建設に費やし、次の三日はガスの蓄積に費やした。

プラントは順調に稼働し、四日目の時点ですでに俺たちが必要とする全エネルギーを光合成で賄い、貯蓄まで出来るまでになっていた。

この貯蓄を船に大量に積みこむことに最後の一日をかけた。


また、これとは別に俺たちは地表の砂をかき集めて段ボールに入れて船にありったけ積み込んだ。

これはどういうことかというと、意外かもしれないが二酸化炭素を大量に含んでいるからだ。

二酸化炭素といえば厄介者、要らないものというイメージが強いし、まあ事実なのだが、我々は超高効率の人工光合成プラントを持っており、これを様々なものに加工できる。

つまりそれの原料となる二酸化炭素を大量に含んだ砂は実は宝の山なのだ。


さて、これで出発の準備は完了。


そして最後の日の夜には食堂にみんなを全員集合させ、その輪の中で俺がメンバーを発表した。


「一緒に行くメンバーはまず俺。アル、シシィ。この三人で行く。厳正に審査した結果、これがベストだと判断した。

エリザベスはみんなに美味しい食事を欠かさず作ってくれ。博士とエグリゴリはヘリコプターや列車、駅、その他様々な役に立つものを作ってくれ。

親父、トントン、ブリュッヘル。武器は持ってるだろう。もしもの時はみんなを守ってくれ」


「わかったが……どうしてその三人なんだ?」


というトントンの疑問に俺はすぐさまこう答えた。


「一番大きいのは、俺たちはストレスや孤独、そして退屈に強いということだ」


アルは言うまでもない。イザベルと一緒に一年以上生活していたらしいのだが、その際どんな劣悪な環境でも耐えていた。

しかもその劣悪な環境でさえイザベルのことを第一に優先していたというから、その忍耐力は推して知るべし。

またシシィも生まれてこの方生きるのが辛いのは当たり前のことだったらしいから、忍耐力はバッチリだろう。

俺もその点は大丈夫である自信がある。


「第二に、俺たちは全員ノイトラだから万が一備蓄のガスが切れても船の機関を動かすエネルギーを出せる。

第三に、トントンやブリュッヘルといった戦闘要員はこの旅には必要ないどころか、この新しい村にこそ必要だ。

第四に、三人とも若くて健康だから医者もいなくて大丈夫だ。

出来れば一人連れていきたいが……夫婦を離れ離れにさせるわけにもいかないからな。

第五、二人きりだと絶対俺、シシィになんかしちゃうからアルが必要だ。

第六、エグリゴリは連れていきたいが、アルが妻を置いていくのだから俺だけズルするわけにはいかない」


と、非の打ちどころのない反論を俺は行った。トントンは納得したようでこれ以上質問はしてこなかった。

俺は改めて話を続ける。


「俺達はエースや、スフィアに置いてきた飛行機などを回収してここに戻ってくる。

ノイトラも増えるし戦力は相当な増強になる見込みだ。俺たちが戻ってきて、お前たちも無事だったなら。

その時はいよいよだ。いよいよ戦いを挑むことになるだろう。

この星の反対側にいる奴らに! ノイトラを虐げているセキュリティと人間どもに戦いを挑むのだ!

最終戦争だ。南半球を覆う氷河も溶け出すほどの激しい炎を浴びせてやるのだ!

以上、解散。名前を呼ばれなかったみんなは船を降りてくれ。

アル、すまないな。まだケンカ中とはいえ夫婦を引き離すような……」


「いやいや、王様だって新婚じゃないか。新妻を置いてくんだろ?」


「そうなるな。だがエグリゴリは強い。みんなを守ってくれるだろう。

頭もすこぶるいいからベンツ博士との相性も抜群だ。

船旅に一緒に連れて行ってもせっかくの能力を無駄にすることになる。

どっかで聞いてるんだろエグリゴリ。あえてお前に通信はしない。

そのままで聞いてくれ。俺はこの人選に自信を持っている。お前がここに残るのがベストだと信じている。

俺は行く。飛行機を積んで戻ってくる。お前が操縦するヘリに俺も乗るのを楽しみにしている」


エグリゴリに反応なし。俺は一向にかまわなかった。いつものことだ。

俺からの一方通行。何かが帰ってくることなど期待していたらキリがない。

猫のようなもので、エグリゴリに愛想がなくても当然。当たり前なのである。


その日は英気を養うために眠りにつき、朝を迎えた。

そして、まるでジメジメした場所の岩の下に潜む気色の悪い生き物が、突然岩をひっくり返されて驚いたかのようにして、俺たちはたったの三人だけで暗い穴へ落ちていくのだった。

落ちていくのはもちろん比喩表現だ。登ってくるのと同じ要領でアンカーを使って降りていく。


事前に示し合わせていた通り、三時間交代でこの操作をしていく。

全くの素人のシシィではあるが、操作自体はあくびが出るほど簡単なので問題はなかった。

むしろ簡単で考えることがなさすぎるのが困りどころであった。とにかく眠たくなる。

そしてだんだん死にたくなってきて、やがてこの船に乗ったことを後悔し始めるのである。


しかもこれを三か月続けるのかと思うと気が狂いそうであったが、やはり、こういう嫌な役回りはリーダーであるところの俺が率先してやらなければならないと思っている。

だいたい、群れのリーダーというものは群れが大きくなればなるほど楽が出来る。


だがそれはつまり、群れが小さくなればなるほど逆に楽が出来なくなるということだ。

誰がどこで自分たちの働きのおかげで楽をしているのか、ということがこのたった三人の閉鎖環境では嫌でも見えてしまう。

俺は別に共産主義者ではないが、こういった特殊な閉鎖環境では完全なる平等が絶対に必須である。


仕事も休みも使う資源も、絶対に平等でなくてはならない。

十名ほどで回していた仕事を俺たち三人で分担しながら単調な日々を過ごすこと二週間が経過したころのことだった。

その日も俺は真っ暗な操縦席の窓を眺めながら今日の料理はなにを作ろうかと考えていたところだった。


食事の準備も当然全員で平等に分担している。

今日は俺の当番に決まっていたので、エリザベスのには足元にも及ばないがまあ食えないこともない料理を当番の日には毎度出していたのだが、今日はなにか新しい料理にでも挑戦しようかと考えていたのである。

そんな俺のところに珍しくアルとシシィが揃ってやってきた。


「王様、ちょっといいか?」


「どうした二人とも?」


「次の階層へ降りたら丸一日休憩にしよう。俺たちはかなり疲弊が溜まっている」


「そうアルさんと相談して決めたんです。陛下も休みましょう。一日だけですから」


「そうか。明日は当番がなしということだな。じゃあ今日のご飯と明日の昼ご飯と晩ご飯、俺が作り置きしよう」


「えぇ……もお、陛下はどれだけ真面目なんですか?」


「そんなのは明日考えようぜ王様。別にパンとか缶詰だけでいいじゃん休みなんだからよ」


「お前が適当過ぎるんだよアル。まあ、休む時は徹底的に休むっていうのはいいことだけど。

よし、じゃあ久しぶりに日焼けサロンにでも行くか」


「何ですかそれ……?」


とシシィが言うとアルが秘密の会話とでもいうようにヒソヒソ声で答えたのだが、もちろん無音の操縦室に俺たちだけなのでめちゃくちゃ明瞭に聞こえていた。


「王様がひそかに建設させた日光浴施設だ。どうやら母方の先祖にワカメか何かがいたらしい」


「ええ!?」


「聞こえてるぞ。母方の先祖はワカメじゃなくてコンブだ」


「ええ!?」


シシィは、正直会った時から多少察してはいたが、かなり素直で純朴。

悪く言えばアホの子だった。俺たちが冗談を言うと面白いくらいに過剰なリアクションをしてくれて非常にからかいがいがある。


「悪い、冗談だよ。もうすぐ下につく。そしたら向こうでまた話そう」


「わかった。俺もやってみるか……」


ということになり、三人で日焼けサロンへ入った。もちろん三人しかいないので全部セルフサービスである。


「何ですかこれ。大丈夫なんですか?」


初めて日焼けマシンを見たシシィが不安そうに言った。俺だって初めて見た時はそんなリアクションをしたものである。


「何が楽しくて肌なんか焼くんだ?」


「健康のためだよ。もちろん体の健康もそうだけど真っ暗な闇ばかり見つめてるだろ俺たち。

船旅は嫌いじゃないが、こればっかりはどうも精神に来る」


「そういわれると、浴びといた方がいい気がするなあ……」


「確かに吸い込まれそうな外の空間を見てると頭がおかしくなりそうですよね……」


「俺達は三人だけだ。一人頭がおかしくなると連鎖的に全員おかしくなるぞ」


と言って俺は肌を焼き始めた。この日焼けサロンが俺のお気に入りといっても週に一回、三十分くらいだけしか焼いてないので俺の肌もさしてみんなの色とかわるところはないが。

俺に倣って二人もマシンに入って焼き始める。ちょうど三機作ってもらっておいてよかった。

ベンツに三機作ってもらったはいいが、日サロに付き合ってくれるのはせいぜいリリスだけ。

他の皆は怖がってマシンに入りたがらなかったからな。


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