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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第一章 ボーイ・ミーツ・ボーイ
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第七話 未知との遭遇

俺の足は気づけば孤児院に向き、わずか一時間程度しか滞在しなかった、あの懐かしのシスターマリアンヌの家に到着していた。

シスターの家、孤児院の前に来てみるとその玄関のところでシスターが何かしていた。


近づいてよく見てみると玄関前には沢山の荷物が置いてあると気づいた俺は、シスターがその荷物を中に運び、また残っているのを移動させようと玄関前に戻ってきたのを見計らって言った。


「どうもシスター。戻ってきました」


「あら。思ったよりは長く耐えたようねトーマ君。どうだった、ゲットーでの暮らしは」


「最悪だったね……それより荷物手伝うよ」


俺は自然にシスターに接近を試みる。ちなみに置いてあったのは丈夫な紙袋に入った小麦粉など。

恐らく善意か何かの寄付だろうと思い、俺はこっそりシスターに聞いてみた。


「シスター。これって誰かからの寄付なの?」


「ああ、卒業生のコよ。ゲットーに住んでるの……退役兵でね」


「退役かぁ。なんか聞いた話だと、ノイトラは兵士にされたら危険な最前線へ行ってすぐ死んじゃうって」


「そういう子もいるけど、彼は昔から後方勤務だったわ」


「彼?」


珍しい。男型の奴も俺以外にいるらしい。俺はシスターと一緒に荷物を運びながら話を続ける。


「男型のノイトラよ。まあ私の先代の時代に卒業したんでしょうけど……四十代くらいだったわ」


「ふーん。ほかになんか言ってた?」


「あら、知り合い? その人、自分と同じ男型のノイトラがいないかと聞いてきたのよね」


「へえ。会ってみたいな。名前とかは聞いた?」


「いいえ。ゲットーに住んでる退役兵はあなたの言う通りかなり珍しいわ。

また今度外出許可をあげる。会いに行ってみるといいわ……すぐ見つかると思うから」


俺は九十九パーセントその人は俺の父さんの知り合いの革命軍である、と考えた。

だからあまり根掘り葉掘り聞かずに自然体を装う。


「そうっすね、シスター。ゲットーでの体験は最悪だった。

橋の下で野宿して、河川敷で寝て、ろくな食べ物食べなかった」


「たしかに。ちょっと痩せたんじゃない?」


「でも貴重な体験でした」


「よかったわ。どんな感じだった?」


「運命の味がしました」


「なにそれ。うふふ……」


シスターはナチュラルに俺を見下している、そういう差別意識は浸透している。

とはいえ、かなり打ち解けて話をしてくれる。俺にとっては救いだ。

つい今朝のこと、母を埋めたばかりの俺にはシスターをどうせ俺のことを差別してる、などとして、心の壁を作って拒絶することなどできるわけなかった。


「でも友達が出来たんですよ。いや、兄弟と言ってもいいかな」


「いいじゃない。ということは男の子かしら」


「そうですね。ここに男型のノイトラって他にいるんですか?」


「いないわ。まあ小さい子たちの中には、あなたぐらいの年まで成長したら男の子らしくなってくる子もいるかもだけど……」


そう、ここは女だらけだ。なのにどうしたことか。

俺はその後数日この施設で暮らしてみたが全然モテない。

同部屋の二人は一応戻ってきた俺を温かく迎えてはくれたがそれまで。

やはり本で読んだ通り俺たち男型のノイトラは最もモテない性別なのだ。


しかし、男型のノイトラが母の血筋から生まれる時、それは解放の戦士となる、という話だ。

そしてそれが俺だという。誰を誰から解放するのか。俺は考えると憂鬱になるので考えないようにしながら日々を過ごした。

初日にちょっとだけ図書館で本を読んだが、俺は変わらずにこの世界の情報を少しでも収集するため、図書館にこもって本を読み漁る日々を過ごしていた。


そんなある日のことだった。戻ってきて一週間もしたころのことだったろうか。

全く思いがけない言葉が図書室にいた俺を探しにきたシスターから発せられた。


「やっぱりここにいたのね。あなたに面会の申し込みが来てるわよ」


俺はパタンと古い本をたたみ、椅子から立ち上がるとシスターに怪訝な顔を向ける。


「誰ですかシスター。セシルって男だったらうれしいな」


「ああ、前にその子のことはなしてたわね。でも違うわ。お父様よ」


「お父様?」


俺を引き取ってくれた父はいることはいるが、その人は俺に会いに来ることはあるまい。

六歳から六年育てた俺は、孤児院で少しの間育ったら、そのあとは兵士になり、二度と戦場へ戻ってこないかもしれないのだ。

もしも俺だったら二度と会いたくはない。変に情を育ててしまいたくないものだ。


「いやー、まさかあの人があなたの実の父だったとはね」


とシスターがはにかむので俺はひょっとして、と考えが及んだ。


「あの人ってもしかして、この前小麦粉とか差し入れしてくれた人ですか、シスター」


「よくわかったわね。ゲットーで会ったかしら」


「いや……でも会いたいと思ってました」


「よかったわね。じゃあごゆっくり。早く面会室へ行ってきなさい。

入り口のすぐそばにあるでしょ」


「ありがとうございます」


俺は平静を装いながらも駆け足でその面会室へ向かった。

面会室へ行ってみて初めてわかったことがある。俺たちはまるで囚人だ。

面会室は本当に刑務所のそれのようで、椅子が一対、対面して並んでいて、その間に頑丈な仕切りがあって、向こうの椅子には三十代後半ぐらいの男が座っていた。


さっきまで眠かったのか、床を見つめて流し目だったが、俺と目が合うと、若干強面ながらも柔和に笑いかけてくれた。


「おお、君がトーマ君か!」


「おじさん……何の用か知らないけど、父親だなんてウソをつくのはよくないよ」


「まあそう言うなって、お菓子持ってきてやったから」


「あ、ありがとう……」


ガラスで仕切られた俺たちの間には郵便受けほどのわずかな隙間があり、そこからお菓子を入れているであろう、まだ温かい大きな紙袋が差し込まれた。


「でも何か秘密の話があって来たんだろ」


「おっと、君、まだ十二歳なのに随分達観しているんだね。

セシルがほめていたよ。君は何事にも動じないとね」


「そりゃどうも。ところでトーマス・ドラクスラーという人は俺の父さんなんですか?

見たところあなたもその仲間らしい。どう見てもカタギじゃないだろ」


「ふふふ、セシルから色々聞いたらしいね。まったく、あいつも男だな」


「なにもんだ……? セシルにはお父さんはいないと聞いたけど」


「別に俺は君の父さんでもセシルの父さんでもないよ。まあ自己紹介しておこうか。

俺はこの街に潜入している革命軍の情報部の者だ。名はジュリアン・アンドレアス」


「セシルとも俺の父さんとも違う雰囲気の名前だね、おじさん」


男は多分ポルトガルとかスペインとか、そういうラテン系の感じなんだろう。

俺の父さんはドイツっぽい感じ、そしてセシルはイギリス系だろう。

不思議なことにアフリカ系とかアジア系の名前は見当たらない。

まだこの世界で新大陸が未発見、みたいなことは考えられない。

技術水準はかなり高いからだ。十九世紀くらいだろうか。そろそろ飛行機が飛び出してもおかしくない。

もしかすると銀河英雄伝説みたいに、激しい人種差別や人種隔離政策が行われ、有色人種は存在すら許されていないのかも。

人種的には同じノイトラも差別している連中だ、やりかねない。


「おじさんはよせ、まだ二十九だ。それより色々と説明しておくことがありそうだな」


「いやほんと……説明してよ。セシルの話だけじゃわからないことが多すぎる!」


「まあそうだろう。まず俺は君の父さんと母親のことは知っている。

何やらとてつもない血筋の子であることも。

しかしあれだね。ドラクスラーから息子がいると聞いてたが、やっぱりノイトラの子はかわいいね?」


「は?」


「いや、実を言うと初めてなんだノイトラを見るのは。

何しろほら君たちゲットーにいつもいるし、滅多に外には出ないからね」


「チッ……」


シスターはナチュラルに見下してくるが、別にそれはそれとして優しい女性だ。

しかしこの男、それとは違う。俺を見る目は見下しているだけではなく、十二歳だが性的にも見ている。

俺はそのような目を向けられた経験がなかったが、これは肌で感じる確信だ。

これが現実。これが普通なのだろう。向こうにあるのは圧倒的な自信。

遥か格下と話している自信。

仮に俺を今、無理やり犯したとしても誰も咎める者はないだろうという、ひどく真っ当な驕り。


「おお怖い怖い、そうしかめっ面してくれるなよ少年」


「何の用だ?」


「話をしに来たって言ったろ。とりあえずトーマ君、ここを出ようか」


「なんだって?」


「ここに居ても意味はないだろう」


「初対面だが俺はすでにあんたのことが嫌いだ」


「おっと、したたかな子だな。まあいい、話をしよう」


そう言って男は俺の興味を引くためか、重要そうな話をしだした。


「俺はジュリアン・アンドレアス。ドラクスラーの仲間だ。部下と言った方がいいかな。

俺自身は見ていないんだが、アラン=ミシェル・ロランやドラクスラー、ブリュッヘルなど。

ごくわずかな初期メンバーたちは、最初は革命軍とは名乗っていなかったという。

いわゆる探検家だった。そして見たのさ、世界の果てを」


「世界の果てなんてないだろ。世界は丸いんだ」


「何言ってんだ? 世界が丸いわけないだろバカチン」


「え、でも星が……」


俺の読んだどの本にもそのようなことは書いていなかった。

セシルと寝るとき夜空を眺めたことがあったが、星が地球にいた頃と同じで無数に瞬いていた。

この世界は丸い。そんなこと常識だ。この文明レベルでそれを知らないとはとても思えなかったが、アンドレアスは俺を完全に馬鹿にしていた。


「おいおい、妙な本を読んだんだろうが違うぞ。

この世界には果てがあるんだ。丸いなんてあるわけないだろ」


「馬鹿言え! 海に出たら水平線が丸いだろ!」


「う……み?」


アンドレアスは大の男でありながら俺の発した言葉にポカンと口を開けて呆けた。

その直後、彼は眉をひそめて聞いていた。


「お前さん一体何を言ってるんださっきから」


「あ、いや……悪かったよ話の腰を折って。続けて続けて」


「ああ」


アンドレアスが話を続けるが、しかしこの時の俺はビビった。

海が存在しないのだ。少なくともアンドレアスの常識には。

聞いたことがある。グンマーやサイタマ、トチギなど日本の秘境に住む民は、生涯海を見ることがないと。

しかし彼らだって魚は食べるし、海のことも知っている。海という概念すら知らないということはあり得ない。


もし仮に海がないとしたら、この空にかかる白い雲はどう説明する?

ゲットーに流れていた川の水はどこから来ていた?


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