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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
最終章 魔王誕生
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第六十六話 いざ行かう未開の地へ


「エースが知らないんだから知るわけねーよ。ともかくエース、ご苦労だった。

結果的にエースを先に出した博士の判断に間違いはなかった。

俺はこれからこいつで周辺を探索する」


「わかったわ。ノイトラがいたら見つけて助けてあげてね」


「ああ。その時はノイトラ王国を建国したノウハウで、住みやすい場所を提供してやるつもりだ。

エースはどうする。中に入るか、それとも外で例の……謎の男の痕跡とかを探すか?」


「私はこの辺にいるわ。二人とも気を付けてね」


「行ってきます」


バイクのアクセルを踏んで発進したまさにその時だった。突然博士から通信が入った。


「こちら博士。二人とも体に問題はないかな?」


「今のところは平気だ。博士、どうした?」


「我々は君と反対方向を探すことにしよう。ここにアンカーを打った。

二千メートルまで伸びるから、とりあえず半径二キロの範囲を探索してみよう」


「わかった。俺らはそれより先の方へ行く」


と言って無計画に走り出したはいいものの、非常に困った。なにしろ道がわからないのにこの階層は非常に複雑になっているからだ。

平面ならまだしもスロープ、ラウンドアバウト、インターチェンジ、高架、歩道橋、地下道などが複雑に入り組んでおり、まるで滅茶苦茶な街だ。

精神を病んだ人の描いた絵画のように複雑怪奇、無計画、不合理であるこの街は、どう考えても意味わからないところに意味わからないものがあったりする。


例えばぐるりと環状線があるのだが、これを走っていると一周回って元の位置に戻ってしまい、このリング状の道路はどこにも繋がっていないことが判明するなど序の口。

行き止まりに向かうトンネル、途中で切れた道、川もないのに意味もなくかかる橋などがあって、そもそもこの階層を空を飛ぶ以外の手段で踏破することが出来るかどうかさえ怪しい。


まるで建設業者の頭がおかしくなったようなこの街だ。また、この街について無線通信でエースに話を聞いていると意外な事実を発見した。


「私は上下に移動してたんじゃなくて二次元的に移動してたのよ」


「つまり?」


「つまり私は下の階層も上の階層も知らないのよ。この階層が世界のすべてだと思ってた。

それを、私はあの人にもらった銃で壁を壊せることを知って移動を開始したわけ。

あ、ちなみに飛行機もここで見つけたものなのよ」


「飛行機か。そりゃそうだ。飛行機は空気がないと飛べないからな」


「でもおかしくない?」


と通信に割り込んできたのはリリスだった。そんな芸当も持ち合わせているらしい。

もしかすると俺より力を使いこなしているのかもしれないが、後部座席で俺の腰を掴んでいるリリスがエースに反論した。


「エースさんはレベル8だったんでしょ。その武器が使えないのはおかしくない?」


「私は武器なんて持ってなかったのよ。あの人がレベル8の武器を持っていた」


「おかしいぜ。レベル8の武器を男が持ってたんならレベル9の武器をそいつが持っているのも変だ」


俺のエースに関して聞いている話はこうだ。エースは統治機構という組織が作ったレベル8という殺戮マシーン。

だが不良品で、人間を殺すことに興味はないし、極めて人間的な表情豊かな人物となっている。

謎の男と出会い、旅をし、イブという少女をスフィアに送り届けて休眠状態に入った。


エースは男と出会う前はこの広大無辺な空気のある階層をあてもなく漂泊しており、N極と呼ばれる場所から来たのだという。

その男はこの階層の下の方でガレキとなっているところをエースが発見し修復したサイボーグもしくはレベル9と呼ばれるアンドロイドだった。

彼はエースに自身の心臓を託したことで恐らく死亡、以後行方不明になっているという。


男はレベル8の武器及びレベル9の武器を持っていたというが、その男の心臓をエースが移植した影響なのか、レベル8であるはずのエースは武器を使えなくなっていた。

つまり、男はセキュリティとは関係ないと考えられるのだ。そして男が武器を持っていて使用していたこともあることはエースの証言からわかる。


つまりエースはセキュリティではないのに、セキュリティの武器を持ち、これを使用する能力があったということを意味する。


「まじでナニモンだよそいつ。もしかして滅茶苦茶重要人物なんじゃねぇの!?」


「だからそう言ってるじゃない。私はあの人を探さなければいけないの!」


「そもそもエースさんがレベル8ってところがまず怪しいけど」


「そうだなぁ。そういやエース、アリスって名前に反応してたけど何か思い出したのか?」


「さぁ……私はエースになってからの記憶しかほとんどないから。

でもなんかその名前にはピンとくるものがある。もしかしてそれよりもっと前にそう呼ばれてたのかも……」


AliceとAce。確かに少し似ている部分はあるが、正直これは論じても意味はないことだろう。

今論じても何かが判明するわけでもないしな。と思っているとベンツまでもが通信にまじってきた。


「トーマ君。あまり外にはいかないでくれよ。無線通信はそこまで遠くへは通じない」


「わかった。とりあえずここでバイク停める。あ、通信は切らないでくれ」


俺は言ったとおりにバイクを停めた。ここはビル群の中を抜ける高速道路で、とりあえず登れそうなところを探して、一番高いところがここだった。

ここからはそれなりに街が一望できる。むろん人っ子一人いないのだが、非常に広大だ。

例えば東京などは裏手の山地から下の低地に建てられた都市がよく見えるがこの時の光景はそれと似ていた。


もし人が住んでいれば一千万以上は住めたであろう広大な土地が広がっていて、結構高いところにいるのに街の先端が全然見えない。

どれだけこの迷宮が広がっているかわからないが、かつて人が住んでいたのかそれとも住んでいなかったのか、どっちにしろ今使われてないのはもったいない限りだ。


「やれやれ。わがノイトラ王国なんて薄暗ーくて寒いのになぁ。どうだリリス。

ここに住んでみたいか? もちろんそれなりに工事は必要だろうが」


「第二のスフィアとして利用するのはいいと思う。人工太陽のようなものもあるから、ノイトラの負担はなくて済むし。

問題は……あの人工太陽を運用するのにノイトラがどこかで働かされているかもしれないことだけど」


「あ、そうだ。パパ、どっちにしろここに街を作るんじゃない?

だって奴隷のノイトラがいたらここに新しい街を作ってあげたいし、いなかったなら快適な場所だから街を作りたいじゃない?」


「うーん、それもそうかぁ。よし、決めたぞ。探索はもうここまでにしよう。

通信に切り替えるぞリリス」


俺たちは操縦室及びリリスとも繋いでいる通信に切り替えた。


「こちらトーマ。リリスと博士とエース、聞こえてるか?」


「こちらエース、大丈夫です」


「ちゃんと聞こえてるよパパ」


「聞こえてる。しかし随分二人は仲良くなったねぇ……?」


「親子なんだから当たり前だろ博士。それより少し聞いてくれみんな。

今から人工太陽のもとにみんなで向かおう。その人工太陽には有線つまりケーブルでノイトラ牧場と繋がってる疑いがある。

ノイトラを解放できたなら、つまりこの辺は全く安全ってことになるだろう。

そうなれば博士の求めている目的……つまり第二のスフィアをここに建設し、予備とするという計画が一つ達成に向かう」


「いいんじゃない? ノイトラの解放はみんなの望むところだろうし、健康に働いてるノイトラが見つかればとりあえずここは安全てことになるよね」


「そうだねエースさん。私もそれに賛成する。それに、一応君が船長なんだからトーマ君が言うなら従うよ」


「よし決定だな。いざ人工太陽へ」


人工太陽がどこにあるかは火を見るより明らかだ。だってこのフロアを照らしてるのは全部人工太陽だからな。

俺は一つ疑問に思っていたことがある。エースやレベル8の者はノイトラから出るエネルギーを使うエンジンで動いていた。

いつ充電していたのか。エースと男の旅にノイトラは多分同行していなかったはず。

おそらくこのフロアには充電をすることのできる設備のようなものがあったんだろう。

エースはノイトラがそれを生んでいることは恐らく知らないまま充電していたものと考えられる。


それはさておき、俺たちは一番よく目立つ人工太陽の方へ走っていった。

だが途中でバイクの俺たちと宇宙船では明らかにスピードが違うことに気が付き、船には待機してもらった。

複雑怪奇な道をいかねばならない俺たちバイク組と違って宇宙船はヤスデのような大量の脚で苦も無く街を這いずり回り、ものすごいスピードが出るのだ。

船からタラップを出してもらって、博士によると気密扉の向こうまでなら入ってもいいとのことだったので俺たちとエースは扉の外、つまり船の中でもなくかといって外でもない中間ポイントで待機し、運んでもらった。

正直言うと、それから起こったこと、見たことは気分のいいものではなかった。


人工太陽はものすごい熱と光を発しているのでそのそばに来ると非常に眩しいし、熱い。たまらず俺はさっきの中間地点に退避した。

船では太陽を詳しく検索することは出来ないのでエースが先行して調査してきたのだが、すぐに通信してきた。

ということは下はそんなに深くないということである。


「こちらエース。ノイトラ牧場を発見。太陽のすぐ下にモジュールがあった」


「そうか。それでエースさん、状況はどんな感じかね?」


「酷い。すべて同じ顔をしたノイトラの個体が水槽に浮いている」


「なにっ。どういうことかね?」


「クローニングよ。よく考えたわね。少なくともスフィアのそれよりはずいぶん合理的だわ。

彼らは生まれつき植物状態なのよ。それを自動でクローニングし、自動で配置しているわ。

確かにこれなら遺伝子の壊れたトーマみたいなノイトラの王は限りなく生まれにくいわね……」


つまりこういうことだ。この街のノイトラ牧場では一人のノイトラをもとにクローンを作ってすべてのエネルギーを維持している。

電気刺激で恐らく自動でエネルギーを取り出す機能を使わせているのだろう。

劣化するスピードも計算に入れ、次々と新しいクローンを作り、水槽に入れている。

この個体は遺伝子レベルで最初から植物状態として設計されており、俺のような反抗的個体が生まれる余地はない。


ある意味では人道的だ。命や尊厳を冒とくしているとはいえ、少なくともここに苦痛は存在していない。

だがいたたまれないのは事実だ。なによりひどいのは、この施設が誰のためにもなっていないということだ。

この街にはほぼ誰も住んでいないのだからな。


「エース、そいつらをどうする気だ?」


「ノイトラの命は王様のもの。トーマの許可さえ出れば殺してあげるけどね」


「ちょっと待ってくれ。俺も行く。リリス、ここで待ってるか?」


「もちろん私も行く。私も連れて行って」


「仕方ないか……」


人工太陽周辺は熱いのだが、仕方なくリリスを連れてバイクでエースのいるところへ向かった。

要するに問題はこのノイトラたちに俺の命令が届くかどうかということである。

俺たちはエースのいる下の階にバイクで降りて水槽の並ぶ部屋に入ったわけだが、残念ながら起きろと命令しても水槽の者が起きてくる気配はなかった。


「クソ……ダメか。やっぱり」


「殺していいと受け取ったけど?」


「しょうがない。一旦戻ろう。エースもほら」


俺たちは一旦上へ戻り、その後ベンツに通信して船の中へ入れてもらえるか打診したところ、すぐに入れてもらえた。

もはや汚染を気にする必要はなさそうだからな。俺たちはバイクなどを格納し、操縦席へ戻るとすぐに博士ベンツに言った。


「博士。人工太陽を維持しているノイトラはどんな状態か理解したな?」


「ああ。奴隷ですらないという扱いのようだね」


「そうだ。人工光合成プラントを作って食料を生産し、ここに村を作ろうじゃないか。

人工子宮とかで子どもも増やしてここを第二のスフィアにするんだ」


「ふうむ……賢人会議を招集するか」


「なんだって?」


「賢人会議を招集する。操縦室へ来るように」


とベンツは放送設備でアナウンスした。


「俺も参加した方がいいかな。それとも俺は賢人に含まれない?」


「まさか。リリスもいてくれていいよ」


「それならよかった。ここで待ってようか?」


「わかった。私、レストランへ行って何かもらってくる」


「頼む」


リリスを待っている間に親父やトントンも続々と到着。結局いつものメンバーがそろってしまった。

最後にトレイを持って操縦室に帰ってきたリリスをみんなで確認したところで、ベンツがこういった。


「すまないみんな。テーブルや椅子もないが緊急会議だ。船の行方を左右するほどの事態となった。

今回の議題は次のことだよ。この明るくて暖かい街で腰を落ち着けないか、との提案だ」


「だが、探索はまだ済んでいないだろう。外の世界に出なきゃいけないんじゃなかったのか?」


「俺も親父に賛成だ。探索は済んでいないし、そいつは早計じゃないか?」


「それなんだが、どうだろう。船のみんなにアンケートを取るというのは?

もちろん医者であるボスなど、絶対船に必要不可欠な人がここに住むと言ったら船は動かせなくなるが」


名指しされた親父はすぐにこう言った。


「そうは言うがベンツ、医者がここにいないといけないわけだろう。もしここに住むって人がいるとするならな」


「うっ……それは考えてなかった」


全く親父の言うとおりである。親父がここに残る場合、パートナーとは離れ離れになる。

その反対も同様。では両方ここに住む場合はというと、船に医者がいなくなるので大変困る。

しょうがないので俺は今この場にいるすべてのノイトラたちに王の力を通じて言った。


「食堂へ全員集合だ。会議を始める」


「やっぱそうなるか……」


とベンツは嫌そうに言ったが、ほかの面々は俺の決断には賛成してくれて、結局俺たちは操縦室から食堂へ大移動することになった。

食堂には次々人が集まってきた。この船の船員は全員知っている。

赤ちゃんを除くと二十三人のはずだ。エグリゴリは含めていない。その俺を含めた二十人あまりが集まったところで俺が会議を仕切りだした。


「みんな。知っていると思うが我々の船の目的の一つは、スフィアに代わる新しい住みかを探すことである。

それがここだ。また、ここに拠点を作っておくことはエースにとっても必要なことであると思われる。

エースはこの階層を探索したいんだろう。そうじゃないのか?」


「そうだけど……」


「そのエースのエネルギー源はノイトラだ。ここで確実に補給できるとなれば探索もしやすいだろう。

何度も言うがここに拠点を作るのは大切だ。医者はもちろん必要だな。

ぶっちゃけ、親父の彼女。ここに残ってくんない?」


「えっ……」


「お前なんてこと言うんだよ。それなら俺が残るよ」


と親父が言ったところ親父の彼女が機転を利かせてこう言った。


「私は別に残ってもいいわ。一応ワンオペってわけじゃないし」


とベンツが連れてきた看護師の肩に手を添えながら親父の彼女は言った。

ちなみに俺はこの二人のどちらの名前も知らないし、別に興味もない。


「でも約束して。戻ってきたらここに住むって」


「ああ。俺はやっぱり船の世話をしないといけないからな」


「そういうことなら私たちも残ります」


と言ってマリーとミリーが手を挙げた。

この二人は恋人がいないのでヒマしているようだ。

と思っていたら、なんとコロンビーヌとアンリも手を挙げた。


「私も残ります。別に船が嫌なわけじゃないですが……」


「僕もここに住みます。人口をバンバン増やしましょう。

そうすれば生産力が高まりますから、エースさんだけでなく船の皆さんもここを補給拠点にしてください」


「二人が抜けると寂しくなるな。付き合い長いもんな」


「別に会えなくなるわけじゃないですよ。むしろいつでも寄ってください」


「うーん……私もここに残ろうかなぁ」


「えっ、博士が!?」


俺は一番意外な人が挙手したのでびっくりした。てっきり船から離れることはないかと思っていた。


「私の分体を残しておこう」


「つまりコピーか!?」


分体は普通必要な時に作って操作し、用が済んだら消すものだ。だがこれは違う。

博士ベンツはオフラインでも自分の分体を稼働させる気だ。つまり自分のコピーにして分身。

本体をこっちの階層に残し、分体を船に乗せてもろもろの仕事をする気だ。


「まあコピーだね。私はここで仕事をする必要があるだろう。案外住むと言ってくれてる人も多いし」


「ほかに居ないようなら、これで確定としていいかな?」


「それなら私たちも……」


と六人が手を挙げた。さっき言った看護師とその配偶者。そしてベンツの弟子的存在であるメカニックとその配偶者。

そしてベンツが連れてきた食堂で働いていたという料理人夫婦。

いずれもノイトラだ。つまりエースを含め十二人の人が抜けることになる。ほぼ半分だ。


「よし、そうと決まれば話は早い。仕事するか仕事。あー、最近ヒマだったから仕事できると思うと嬉しい!」


「張り切ってますね王様。私たちがいなくなってそんなに嬉しいんですか?」


「そんなわけあるかコロンビーヌ! それより博士、まず何しよう?」


「うむ。私は船内で人工光合成プラントを調整しているから、ほかの皆は手分けして太陽の近くに広い土地を設けてくれ。

そこは畑と住居にしたいからね。もちろん診療所や、人工子宮を置いておく小屋も必要だね」


「なるほど……」


俺はとりあえず船内の倉庫にあるフォークリフトを出してきて近くにあった建物を持ち上げて撤去した。

軽くて強い素材で出来ており、基礎がないためこの階層の建物はまるで段ボールみたいな扱いをすることが可能なのだ。

地盤沈下や災害の危険がないために建造物を自重だけで安定させる工法が一般的であるという点では実はノイトラ王国とも共通している。


この新しい村の作業は別に時間が押しているわけでもないのでじっくり腰を据えて全員で行った。

初日はとりあえずフォークリフトで小さめの建物は移動し、大きい建造物はエースの持ってる銃で丸ごと粉砕して除去。

翌日。撤去作業の跡地には十二人分の家だけでなく余裕をもって多めに住居を用意しつつ、それらに接続する生活インフラを建設した。


冷暖房は必要ないようだが、それでも船にあるのと同じ上下水道と浄水施設、廃棄物処理施設を住居に併設せねばならなかった。

三日目。住居をあらかた作り終わったので打ち上げパーティーが開かれた。

どうやら俺の周りにはパーティー好きの人間がいるようで虫唾が走るが、一応ニコニコした顔で出席はしておいた。


宴もたけなわ、さあ明日からは船に乗って出発だ。そんなみんなの空気を感じ取った俺は祭りの終わりにこう言った。


「みんな聞いてくれ。住居は作った。レストランと診療所も用意した。インフラも。

これで終わりか。本当にそれでいいのだろうか。今一度聞いてみよう。

十二人の開拓民たち。わがノイトラ王国の忠実なる臣民たち。君たちは何を望んでいる?」


「トーマ様。少しお話よろしいでしょうか?」


「どうしたアンリ?」


俺の腹違いの兄のアンリが挙手した。アンリは男の名前をつけられているのだが、俺と違って男型にはならなかった。

それどころか出会ったばかりの十五、六の時と比べて明らかに豊満な女性っぽい体つきになっている。

それにもかかわらず実の兄弟と分かった影響か俺に対して物理的にも心理的にも距離はむしろ縮まってきているので困る。

特に目のやり場に困る。ほとんど裸みたいな恰好でシャワー室から出てきて俺に話しかけてくるなどは日常茶飯事だった。


実は今もちょっと酔っているせいか着衣は乱れ、ブラが丸出しになっている。しかも挙手したものだから一層着衣は乱れて胸も揺れていたのである。


「この街に名前をつけませんか。もちろんトーマ様のご決定に我々は従います」


「名前だと。じゃあまあ……ローレシア、というのはどうかな。リリシアと少し迷ったが」


リリシアはリリスの町という意味だが、リリスはここに住むことは恐らくないのでまた別の機会にどこかの町にその名をつけようと思った。


「俺の母親の姓はロランだ。そこからローレシアとでも名付けよう」


「ドラクスラーだろ?」


「ブチ殺すぞ親父。トントンはアラン=ミシェル・ロランだろ。じゃあトーマ=アラン・ロランとでも俺は名乗ろうかな」


「大変よろしいと思いますトーマ様」


「私は今猛烈に感動しているよトーマ。とても嬉しい。お父さんには悪いけどね」


「別に申し訳なく思う必要ないって。俺はトントンのことは出会った時から大好きだったし、尊敬してる。

さてここはローレシアの村に決まったな。ほかに何かこのローレシアの村に必要なものについて、意見ないか?」


「はい王様」


「そこのぉ……えー、誰だか存じませんが、ムチムチした体のノイトラ。意見を言ってみなさい」


などと俺は意味もなくボケを言ってみた。酒が入ってるのでみんな面白いように軽いボケでもゲラゲラ笑う。


「冗談はよしてくださいよ。私はコロンビーヌです。

保育所が必要じゃないでしょうか。保育士なら私がやりますよ」


「保育所ねぇ。そういえば人工子宮が太陽の下に余ってるんだったな。

あれを使えば赤ちゃんが作れるが……博士、どうする?」


「使えるものは使おう。ただ、子どもは出来るだけ同じ世代の子を増やし、また奇数じゃなく偶数にしてあげないとね。

狭い集落の子供世代で自分一人だけ余ってるなんて悲しいったらありゃしないからね」


「まったくだ。えー、今、子供の数なんだが親父は開拓組の妊娠状況は知ってるだろう?」


「ん、ああ」


親父はしこたま飲んでいて顔色が赤い。目もうつろだ。どこまで言っていることを信じてよいかは別として俺にはこう答えた。


「妊娠している者はいない。彼らは十二人のはずだったな。ちょうどいいじゃないか。

十五人だ。十五人産むといい。人工子宮でもお前らの子宮でもいいから。そうでなくては人口は増加に転じないぞ」


「それはそうだが……いや、そうだな。いいかみんな。よく聞けよ!」


よく聞けよ、という部分にだけ関していえばこれは王の力による命令の範疇によるものだ。

だから親父を除き全員が静まり返ってかたずをのみ、俺の方に注意を向ける。


「別に俺は王の力を使ったっていいんだぜ。でも今は使わないであくまで俺からのお願い、あるいは奨励、勧告に留める。

十六人の子供を産むことをな。お前たちはノイトラなんだから夫婦で同時に妊娠したら一気に二人産めるだろ?」


「王様。どうしてそこまでここでの人口拡大にこだわるんです?」


「もっともな質問だコロンビーヌ。では答えるが、それはここをハブ都市として発展させようと計画したからだ。

いいか、宇宙には恒星がそれはもうすさまじいほどの数があって光り輝いているのだ。

それのエネルギーを受けるだけで人々は何億人だって生活していけるのだ!」


例えば八十億人の人口を抱える青い星があったとしよう。彼らは自分たちの科学力によってそれを達成したと思っている。

確かにそれは否定しないが、実際には太陽からのエネルギーで彼らは生きている。

そのエネルギーをより効率よく使う術を身に着けたから人口を増やせただけで、そのキャパシティには限界がある。


太陽のエネルギーは植物が光合成することによって蓄えられ、人間が利用しやすいたんぱく質や糖といった形に置き換えられるのだ。

全ての動物の九割は植物が支えており、その植物を支えているのが太陽。

ということは、人間を含めた動物は植物が支えられる以上に増えることは原理的に不可能であるということだ。

人間の食べ物が、植物由来から完全脱却しない限りは。それこそこのスフィアやノイトラたちのようにな。


この迷宮にも必ず出口があり、壁を破り続ければいずれ表面にたどり着ける。

表面にはきっと陽光が降り注ぎ、エネルギーが満ちているはずなのだ。


「表面にたどり着ければエネルギーが得られ、ノイトラたちの苦労は解放されるはずなのだ。

この都市はスフィアと表面付近の都市、それらをつなぐ中継都市として栄えなければならない。

だからコロンビーヌ、子どもは必要だし君の言う保育所はぜひ作ろう。だが!」


と言って俺は終わりかけた話を続ける。


「まずはこの街の孤立状況を終わらせることだ。まさかみんな、俺がこの街に居住区作ってハイさよなら、とかすると思ったのか?

この街にも船を作らねばなるまい。望めばいつでもスフィアと行き来できるようにだ。そうだろ博士?」


「えっ。私はそんな事夢にも思ってなかったが、いいんじゃないかな?」


「思ってなかったのかよ。まあいい。大きくなくていいんだ。

五、六人も乗れれば十分だ。船を作り、スフィアと行き来できれば……最低でもそれを作ってからじゃないとここを離れることは出来ない」


「わが息子ながら冴えてるな。ベンツ、小さい船なんて作れるのか?」


「悪いけど無理だ。大気中ならともかく重力のある真空中を飛べる船を作るなど、まず無理だ。

私の技術ではとても。だからこのミレニアムアヴァロン号のようにアンカーとウィンチが要る」


「二千メートルのワイヤーを収納できないと使い物にならないのだとしたら、結局この船並みの大型にどうしてもなっちゃうというわけなのか?」


博士は無言で俺の質問にうなずいた。


「建造にはたっぷり一年が必要になる。別に急いでいるわけじゃないからいいんだけど……みんなはどう?」


「俺も急いではないし、別にいいけど?」


「同じく」


「構いませんよ」


など、次々と賛成の声が上がった。アンリ達開拓者組も正直ほっとしてるって感じだ。

この何もない孤立した集落で自分たちの子々孫々までもが生涯を終えることにはならずに済むと。

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