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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第一章 ボーイ・ミーツ・ボーイ
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第六話 見えないものを見ようとして


「わかった。必ず探し出して伝える。早くゲットーに帰りやがれってな」


「ありがとう。優しい子ねトーマ。あの子は、さっきの子は友達?」


「いや……兄弟なんだ。契りを交わした義兄弟さ」


「いい子そうね。友達は大切にしなさい。あの子、ゲットーの子じゃないわね。身なりがとても綺麗だった」


バレてた。しかもいくら綺麗な顔をした中性的な少年とはいえ本物のノイトラからは一目瞭然なのだろうか。

母にはセシルが男の子であることもばれていた。


「友達でも恋人でもいいけど大切にしなさいね。なんでゲットーなんかにいるのかはわからないけど……」


「あ、ああ。普通の男の子だって言ってた」


「アーニャに色々聞いたわ。泊る所はどうしてるの? よかったらうちで……」


「うん。今夜はここで泊まるよ。それより、アーニャってなんなんだ?

俺、六歳まで一緒に遊んでたらしいんだけどよく覚えてないんだ」


母は不思議そうに眼をしばたたかせたあと、俺に詳しく説明してくれた。


「アーニャは私の幼馴染の娘よ。お父さんが出ていくのとそう変わらない時期にあの子の母親が亡くなったの」


「それであいつ、俺に孤児院に来るよう言ったのか」


「優しい子よ。あの子についてももう言い残すことはないわ……ご飯食べたらもう寝ましょ」


「え……うん」


色々言いたいことはあった。まず、母はご飯など食べていない。

次に、あまりに寝る時間が早すぎる気がするが、体力を温存しないといけないのかもしれないと思うと、俺は何も言い出せなかった。

翌日俺があまりに早く寝たので、かなり早い時間、明け方ごろに起きると母が横で冷たくなっていた。


首筋に恐る恐る手を近づけ、触れてみたらその体温は、氷のようだった。

決して大げさな表現ではない。人間は無意識に人に触れる時、当然その柔らかさと温かさを期待している。

その期待からの落差により、多分実際以上に冷たく感じるのだろう。


俺の触れた手から順に全身の血の気が失せ、目まいがするほど俺の体から体温が抜けていった。

いったい、どれほどの間俺は母のそばで放心していたのだろうか。


気が付くと日が昇っていたので、俺は近くにあった木の棒で柔らかい土手の砂を掘り起こすことにした。

体力のある俺じゃないが、土手なので砂が積もっており、掘ることはたやすかった。

何時間そうしていたのかはよく覚えていないが、母を出来た大穴に埋め終わった直後のことだった。


「おーいトーマ!」


と呼ぶ声がした。後ろを振り返ると、橋のメンテナンス用の階段を下りているセシルが見えた。

やつは俺のほうに駆け寄ってくると、汗だくの俺、泥んこの俺、謎の棒、を見て何かを察したのか。

彼は俺の体を抱き寄せてきた。


「もう少し早く来てれば僕も手伝えたのに……ごめんね」


「え、何のこと?」


「せっかくの美人が台無しだ」


俺がしらばっくれるとセシルは持っていたハンカチをポケットから取り出して俺の顔を拭き始めた。

自分でも気づかなかったのか、忘れていたか。俺は泣いていて、ハンカチには泥がついていた。

砂埃が俺の汗と涙で固まって顔にこびりついていたのだった。


「正直、今の君にこんなことを頼んでもいいものか、迷ってるよ」


「セシルは優しいね」


俺は残った顔の泥を手で乱暴にこすり落としてからこう続ける。


「何かしてないと押しつぶされそうだ……でも、これで腹は決まったよ。

父さんを見つけてぶん殴ってやる。で、ここで懺悔をさせてやる」


「いい目標だね!」


「知ってるかセシル。医者で考古学者のトーマ、という男らしいんだが」


「うーん、それなんだけど君に会った時から一つ気になっててね」


「名前か?」


「うん。僕もトーマス・ドラクスラーと何か関係あるのか、いやないな……とは思ってた」


「誰だそれ!?」


「アラン=ミシェル・ロラン。革命軍の総司令の右腕として、世界の秘密を知ったとか知らないとか」


「ふーん。ところでセシル。話の腰を折るから言わなかったんだけど」


「どうかしたのかい?」


「お前……せっかくの美人が台無しだ、とか……恰好つけすぎだろ」


俺たちの立つ土手の下には、水草を一定の方向に絶え間なく揺らしながら進む静かな川が朝日を受けて輝きながら流れている。

風が吹き、かすかに水面を揺らす。その時に水滴が跳ね、魚が虫を捕まえていた。

その音が聞こえるほど俺たちの間には深い静寂が横たわっていた。

セシルは何も言わないが、徐々に顔が赤く染まっていく。


「嫌だった?」


「ちょっとだけ」


俺は男同士なのにセシルが俺に美人、などというセリフを吐くことに対し、若干の気持ち悪さを覚えた。

俺は、孤児院で一瞬だけ一緒になった子たちには一目で男型のノイトラとは珍しい、と評価された。

このことからも、比較的男型であるということは間違いないと自分でも思うだけに、セシルのこの反応は奇妙だ。


「え? 本気で? お前俺のことそんな風に見てるの?」


「見てない、ただレディに対しては紳士的にだな……」


「そういうことにしておくか。言っておくがセシル、俺は心は折れてないぞ。

俺はトーマス・ドラクスラーとかいう男を殴ってここに連れてくると決めた。

だからもし、母親を失ったばかりのレディに対して遠慮してるようなら、それは必要ないと言っておく」


「そうだね。僕が悪かったよ。じゃあトーマ、さっそく話をしよう。

前にも言ったが、僕は潜入をしようと考えてる」


「そういやお前、昨日どこで寝たの?」


「橋の下だけど」


「ああ、悪い。続けて?」


「潜入にあたって少しだけ手伝って欲しいことがある。

別に取引というわけじゃないが、成功したら組織には君のことをよろしく言っておく」


「ありがとな。何をすればいい?」


「いいかい? この街を見て思っただろう。壁で囲まれ大砲がその上についた物々しい街。

そのうえ、国中からこのゲットーへとノイトラを探して強制移住させている」


「おまけに、シスターマリアンヌってとこの孤児院じゃあノイトラは兵士にさせられるらしい」


「そう、この街は明らかに警戒が厳しい。ゲットーに潜入したのも組織が準備してくれたおかげさ」


「今となっちゃ懐かしいな、下水道から出てきたセシル」


「そうかもしれないね。それで、僕は組織の力を借りて潜入してきたんだけど、ある場所に行かねばならない。

もちろんゲットーの外にある。そこには古代から存在する石板が眠ってる……はずだ」


「はずってお前」


「しょうがないだろ、王族たちも隠している。だが……確かなことは一つだ。

トーマス・ドラクスラーの話をしたと思うが、何を隠そう僕らのことを発見したのは彼らしい」


「……話が複雑になってきたぞ」


「初めから複雑だよ」


その後、セシルから聞いた話は壮絶なものだった。

そのことについては、簡潔に俺がまとめてお伝えしようと思う。


二十年以上も前、アラン=ミシェル・ロランという男は革命軍ナンバーワンにまで上り詰めていた。

革命軍は遥か昔から歴史の闇でくすぶりながら、政府による弾圧や破壊工作などをやりすごし、時機を待っていたのだという。


そしてアラン=ミシェルの時代、ついに冒険が始まり、そして終わった。

一体どこへ何をしに行っていたのかはわからない。が、俺の父、トーマス・ドラクスラーを含めた数名の帰還者は言った。


「探せ、彼らはこの世のどこかにいるはずだ」


一体何のことやらわからないが、そのことについてはセシルがこう断言した。


「トーマ。君のお母さんが伝えてくれた話から察するに、彼らの言った言葉の意味は恐らくこれだ。

僕ら、帝国に存在した"サー・ペンドラゴン家"、そして君のお母さんの血筋、それらを探すことだと」


ここでさらっと明かされたが、セシルの本名はサー・セシルのあとにミドルネームがいくらかついたあとペンドラゴン、と来るらしい。

お前、どっかの英雄王か。とも思ったが、待てよ、とも俺は思う。

選ばれし一族なんだから当たり前だ。もしかしたら俺もなんか仰々しい名前がついてるかもしれない。


「ペンドラゴン家ね……そういえば母さんの苗字、聞くの忘れてた」


「ま、いずれお父さんに会った時に聞けばいいだろう。

そして彼らは行動を開始し、僕らは十二年前ごろに生まれることになる。

で、この街には彼らが二十年以上前から情報を収集していたとされる石板の一つがある」


「ん? ちょっとまって頭を整理する。つまり、サー・ペンドラゴン家はその、あれだな。

例の世界の秘密を知る旅、というのにはかかわっていないってことだな?」


「ああ。僕も詳しくは知らないんだけどね。話によればどうにかして、世界の秘密にたどり着いたらしい。

そうして、古代兵器と石板、そしてサー・ペンドラゴン家についてを知ったんだろう。

さらに言えば、君のお母さんの家系についても知った……と考えられるね」


つまり世界の秘密については政府に目を付けられることを覚悟の上ならば、どうにかして知りえるということだ。

しかし、そこで知ったことは古代兵器のありかと、それにかかわるサー・ペンドラゴン家。

そして俺の母のこと。母は、何百年にも及ぶ歴史を背負って大きな戦いに臨む解放の戦士、それが俺だと言っていた。

世界の秘密とは何か。歴史とは。差別と迫害とは。俺は頭がこんがらがってくる。


「その石板はどこにある?」


まだ説明は受けてないが明らかなこととして、サー・ペンドラゴン家はその石板を読む方法を伝承していたり、古代兵器復活に関わる何かを伝承しているものと思われる。


「本題はそれさ。まあ察しはついてると思うけど、僕はその石板があるとされる場所に潜入し、型をとる。

それさえ済めば用はない、必要なのは文字という情報のはずだからね」


「ふむ。俺はそれを手伝えばいいわけか」


「ああ。で、本題だ。別に僕一人でやるつもりだったが、人手があるに越したことはない。

その場所は割れてる。この街のある地区に墓場があるんだ」


「墓場? どういうこと?」


「遥か大昔からこの街は存在していた。墓場にそれが隠されているのも、この街の人々のかつて存在した何らかの意図があるかもしれないね。

その墓場は妙に広大で、その墓場のどこかにそれが眠っているという情報は得てある」


「おいおい……それでセシル、情報をちゃんとつかんでるのか。

俺のこと信用してなくて情報を制限してるんじゃないだろうな?」


「まさか!」


セシルは焦って大声を出した。


「ちがうよ、僕は君のことを完全に信用してるよ。いいかい、話を聞いてくれ。

その墓場には遥か昔に掘られたとされる地下のトンネルがある。

僕が組織から出された指令はそれの入り口を見つけることだ」


「見つけるってお前……どうやって?」


「それは君ぃ……なんとかしてだよ」


「うわマジか……」


いや、でも数百年以上にも渡って世界を支配する政府に隠蔽されようとしてきたもの。

それを逆にこの街の誰かが守ってきた、と考えられる。それが古代兵器への道。

一筋縄に行くとは思ってなかったが、それにしても正直言って中途半端な情報だけだった。


「闇雲に探すのはアレだな。よしセシル、お前はゲットーにいろ。

俺が外へ出て情報を集める」


「えっ、情報を集めるって……どうやるんだ」


「墓守がいるはずだ。墓守の一族が。兵器だぞ、いざという時に取り出せないでどうするんだ。

情報を持っていて、戦いが始まった時にはそれを取り出せる奴がな」


「それって君の母親の家系じゃないのか?」


「違うだろ。ノイトラはゲットーに閉じ込められてる。

何よりはるか昔から差別されてたんだろ……」


「そうだね。でもゲットーの外を出るなら注意だよ。

ノイトラは腕章をしていないと最悪逮捕されて殺される」


「それは知ってる」


「それなら僕も行く。呆れさせちゃったみたいだね、でもこれは何年かかってでもやるべき事だったんだ。

そのつもりで革命軍も僕を送り込んだんだからね。成功しさえすれば……それはこの国を掌握できるだけじゃない。

一国を吹き飛ばすほどの古代兵器の所有は、まさに政府にとって悪夢。

もはや何一つ隠ぺいすることは叶わないだろう……歴史のすべてが、世界の秘密が解かれる」


「その時はかつて世界の秘密を知った、父さんやリーダーも?」


「ああ、今は固く口を閉ざしてるが、秘密を明かすだろう。

そうなったらもう誰にも止められない。この先の世界をだれも予測はできないだろう」


「ふむ……その話を聞いて気になってたことがある。

やっぱ俺さあ……孤児院に戻っちゃおうかな」


「戻るって君、情報収集は?」


「馬鹿言えセシル。俺は両親がいなくて、ゲットーの孤児院に行くか、あの孤児院に戻るかしかないの。

それならあっちの孤児院に戻ったほうがいくらかマシだと思ってな」


「そ、そうか。何か考えがあるんだね」


「もちろんあるよ。また会おうセシル。俺は三か月後に孤児院を出る手はずになってる」


「え!」


「その時に再会しよう」


俺はそう言ってゲットーを後にした。

セシルには言わなかったが、穴を掘る、と聞いて考えたことがある。

俺のいた部屋にはアニキと呼ばれる人が前まで住んでおり、あの部屋には穴掘り名人がいた。

そしてノイトラとして兵士になったとか、ならなかったとか。


別にそのアニキを仲間にしようとはみじんも思っていないが、同部屋の二人に話を聞いてみようかと思った次第だ。

俺の足は気づけば孤児院に向き、わずか一時間程度しか滞在しなかった、あの懐かしのシスターマリアンヌの家に到着していた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 話がトントン拍子に進んでる。進行が早すぎてご都合主義なのか騙されてるのか、どっちなんだろうか。
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