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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第二章 解放の戦士
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第五十六話 そして二年後へ……

「今はまだほかに必要なものってちょっと思い浮かばないね……住民から苦情でも来たら考えよう」


「そうだね。まずは仕事を終わらせよう」


俺たちは表札づくりの仕事を終えてベンツのところへ帰還。

ベンツは現在わがノイトラ王国に存在する以上の数の表札シールをもうすでに用意して山積みにしていた。

具体的にはシールに振られた番号は五千まで。しかも予備枚数が三枚なので合計四万枚のシールが存在する計算になる。

その束だけでかなりの厚みがあった。一万円札が一万枚で一億だが、ざっと四億円分の厚みのシールの束があると思えばいい。

それを作る機械のそばに段ボール箱があり、これも例によって倉庫へ運び込む予定だった。


「二人とも仕事が遅かったね。無駄話してたんじゃないか?」


「いやいや博士、有意義な話だったよ」


「トーマの言う通りさ。でも悪かった。さあ次は住民のシフト管理と住所の入力だけどエースさん、お願いできる?」


「ええ。住民を全員集めてほしいんだけど、ノイトラが発電をやめたらただちにスフィアに影響があるのかしら?」


「いや。予備電源はあるはずだ。もしも私が過去の人間だったとして、このスフィアを作る際にそのような保険を施しておかないはずがない。

何しろノイトラの発電が事故とかで止まっただけで人類は絶滅してしまうのだからね」


「それに、非常電源はともかくこの人工太陽の熱量は莫大だ。すぐ冷えて消えることはない。

スフィア自体も断熱性と保温性が高くて、いきなり全部が氷の世界になってしまうということは考えられない。

私の見立てだと一か月くらい発電をサボって、ようやく影響が出始めるかもっていうところかな?」


「なるほど……わかったわ。今、移民は何人入ってきたんだっけトーマ?」


「二百人。悪いけどノイトラ牧場の連中はまだ働かせてる。彼らのデータはちゃんと牧場内にあった。

二千五百人。ただし途中で死んだ者が十八人いて、ノイトラ牧場には二千四百八十二人いることになっている」


「移民が全然足りないわね。五千人はほしいから、あと四千八百人くらいは必要になる。

これを管理する移民局を建てましょ。私は一旦。そこの事務のお姉さんになるから」


「わかった事務のお姉さん。そこにコンピュータを移してそこで情報を管理してくれ。

俺たちは建設作業に移ろう。そのあとすぐ俺が移民してきた二百人に指示を出す」


「わかった!」


移民局は別に大して凝ったデザインで作られたわけでもないし建築にそんな時間もかからなかったのでカットでいいだろう。

ベンツたちはもはや建築は手馴れている。それに建築の基本として基礎を固めて土台作りをしなければいけないが、それは省略できることも時短に一役買っていた。


まず、この狭間の世界は土地が真っ平らなうえ極めて固く、また地盤沈下や地震といった各種災害の心配もない。

そのため屋根や壁などは最低限の厚さでよく、しかも硬くて軽い高性能素材を使用でき、総重量は極めて小さくて済んでいる。


そして地面が真っ平らで硬く、その上に乗せる建築物も軽くて済むから、基礎をしっかり固める必要性がない。

驚くほどの時短を実現したわがノイトラ王国ではどんな建物も一夜のうちに建ってしまう。

とりわけ、移民局などはここに人が入ることはないし、入るのはめちゃくちゃ頑丈なエースだけという事情から通常の建築の数倍のスピードで進み、一時間もしないうちに出来上がった。


ベンツの建築工法は非常にシンプルで、まず基礎として一枚の板で出来た床を用意すると、それに切れ込みを入れる。

続いて宮大工がやるようにその切れ込みに凹凸がうまくハマる細工を壁材に施し、接続。

重みと摩擦で、まず接合が取れることはないが一応念を入れて、切り出すときに出た端材を熱で溶ける性質を利用して融解させ、溶接のようにして接合面に塗り付ける。

その後、耐火性を持たせるために薄い金属板を隙間なく床や壁に貼り付け、これの貼り付けにも溶けた端材を使う。この上に壁紙を貼ったら完成だ。


移民局には暖房も水道も必要ないので余計に時短だった。建設がすんだらさっそく現在働いているノイトラ牧場の作業員たちの名簿をコピー。

そのうえで我が国最初の勤務表を作成して表にしてまとめ、コンピュータに保存をした。

軽く言っているが、頭にスパコンが搭載されてるエースでなければ二千五百人弱の人間の勤務を管理するのは何時間、いや何百時間かかってもおかしくないほどの作業量。


しかも移民局なのにさっそく原住民の管理をする仕事まで。あとで移民局じゃなくて王立総合管理事務所とでも名前を変えた方がいいかもしれない。

エースがこの仕事をしているかたわらで俺やトントンなどの数少ないメンバーで仕事は回る。

エリザベスなどを含めた移民団の第一、第二団で合計二百人を集め、受付所を設置したうえで俺やトントンがこれに応対。

住民たちが新たに住むことにした住居を確認して記入していき、これはエースに頼んでデータに起こしてもらうつもりだ。

そしてエリザベスの番が回ってきた。


「住民番号二六九九、エリザベスです。第三エトワールアパート三号棟、二の十六に入居予定と聞いたんですが……」


「大変申し訳ないエリザベス。実はそこには次の、住民番号二七○○のルカさんが入ることになっている」


「ええっと、それでは私の家は?」


「大変申し訳ない。エリザベス、レストランで働いていたそうなのだが、自分の店を持ちたいとかはあるのか?」


「それはもう。学園で働いていたのもレストランより給料がよく、社員寮でおカネも節約できるからで。

お金を貯めて、いつかは自分の店を持ちたかったんです。お金を貸してくれるところはないですし……」


さっきから二度も大変申し訳ないと俺に言われて不安そうな顔をしているエリザベス。

しかもその後ろの人や横の、トントンの前に並んでいる列の人も不安げだ。俺はみんなを安心させるためにこう付け加えた。


「心配するな。その話はあとでしよう。実はスタジアムを作ったんだ。さっき案内のセシルという……ああ、名前は知らないか。

女の子を連れた美少年がいなかったか?」


「ああ、見ました。あの子がどうかしましたか王様?」


「ああいやそうではない。肝心なのはあいつではない。セシルに案内されたと思うが、スタジアムが見えるだろう。

あそこで歌姫が歌ったりスポーツイベントが開催される……予定だ。そこに集まってくれ。

この国王から移民してきてくれた者たちへ話がある」


「わかりました……」


エリザベスを含め、とりあえず移民してきた者たちが全員俺たちの管理するところとなり、スタジアムにも集まったところで俺は作業のしすぎで首や肩や腰がちょっと痛いのにも構わず、その足でスタジアムに向かった。

スタジアムの収容人数は一万人。だがもちろん二百人がいる以外は人っ子一人いない。

俺は集まった民衆にトントンが提案してくれた案を採用してこれをかみ砕いて話した。


「お集りの諸君。我が国の記念すべき最初の移民団諸君、勇気ある開拓精神にあふれたノイトラ、わが同胞たち!」


とクドいぐらいに連呼するぐらいで演説はちょうどいいらしい。俺はガラガラの観客席と観客席の間の通路を行ったり来たりしながら続ける。


「ここにきて面食らったことだろう。この世界はノイトラによって支えられている。文字通りの意味でだ。

ノイトラはその潜在能力を発揮することで尋常ではない力を発揮できる。それによりこの人工太陽も星々も、さまざまなシステムが動いている。

そう、この世界は諸君と同じノイトラが動かしているといってもまったく大げさではないのだ!」


そして俺はこの時ひそかに命令を出した。ノイトラたちの力にかかったロックをすべて解除せよと。


「ここにはすでに二千五百弱のノイトラがいる。彼らの負担を減らすことはわれらノイトラという種族全体の義務なのだ。

といっても、この二百人の移民たちにそれをやれとはとても言えるものではない。人数がもっと集まってからだ。

そして首尾よく人数が集まれば、諸君はこの世界を動かしていくための働き手となるだろう。

ノイトラが働くのをやめればスフィア……すなわち下界はやがて凍り付いた死の世界となるだろう」


エリザベスは従順だが、やっぱり人間のことは好きではないらしい。ある種当然とも言えることを言ってきた。


「人間の住む下界……それが凍り付いてしまったところで何だというのでしょう。

私たちはノイトラファーストで行ってもいいはずです王様。それのどこがいけないのでしょう?」


そうだそうだ、などという賛同の言葉とともに若干聴衆がざわざわしだした。そりゃそうだ。

どこの国でもこういう考え方が多数派で当然。遺伝的に見ると黒人や白人や東アジアの平たい顔族でもその違いは微々たるものだという。

それでさえ、いや、同じ人種間でさえ対立はあるのだ。ノイトラという人間とは一線を画す生物がこうなっても仕方がない。

俺はこれに対しそれほど有効な反論はもたない。別にこいつらを力づくで押さえつけてもいいが、俺はその力は使わずあくまで語り掛けるだけだ。


我が国の理念は自由。ノイトラの奴隷たちを自由にするために作られたものだ。矛盾するようだが命令の力は使わない方がいい。


「諸君。ノイトラが家畜のような、あるいはそれ以下のような扱いを人間に受けてきたことは知っている。

それを助けるためにノイトラが身を削って働かねばならないなど理屈の合わない話だと思うだろう。

だが待ってくれ。我々ノイトラには秘策がある。子供を増やすことだ。

諸君がすでに望んでいることを、我が国は後押しするだけだ。

我々は子供が好きだ……そうではないかな?」


というと、エリザベスは聴衆の中から出てきて俺に近づき、こっそり耳打ちした。


「ですが王様、ノイトラは子供を産むのは好きじゃありません」


「どうして?」


「どちらでも母親役ができるのに、どうして片方が母親をやらなければならないのでしょうか。

不公平でしょう。父親役と比べて負担の差は歴然ですから」


なるほど、と俺は思った。確かにそうだ。ノイトラには自由がある。夫婦どちらが子供産むかという選択の自由が。

自由があるからこそ不満があり、不公平が生まれる。俺は本とかで読んで、ノイトラ同士は性的に惹かれにくいと学んだ。

本ではその理由としては経済力を挙げていたがエリザベスの指摘は盲点だったと言える。


「だが心配要らない。妊婦の労働は免除するし、だいたい、すべての子供及び国民の生活を保証する。

いいか諸君。わがノイトラ王国の存在意義は、スフィアのために労働するノイトラの負担を軽減すること。

ノイトラが増えれば増えるほど負担は軽くなる。どっちが子供を産むか夫婦でもめるなら、どっちも妊娠すればいいのだ!」


俺は高らかに宣言した。ノイトラの子供を世話するコストはかかるが、間違いなく収支はプラスになる。

つまり子供は増えれば増えるほど良いのだ。と、ここへなんとアンリが飛び入りで参加してきた。


「しかしそれはまた別の問題を生みはしないでしょうか?」


「どういう意味だアンリ?」


「だいたい、子どもを増やせば現役世代の負担は軽くなるなんて、まるでこの国全体がねずみ講のようです」


なんか、年金問題の話で聞いたことのあるようなセリフがアンリの口から飛び出したことに俺は冷や汗を禁じえなかった。

確かにまあ、本質的にはその両者の問題は似たようなところにあるかもしれない。


「現役世代の負担を減らすということは子供が現役世代になった時にもやはり負担は減るということだ。

それともお前はノイトラは絶滅した方がいいとでもいう気かアンリ?」


「別にそこまでは。ただ、人口は増やすより減らす方が手っ取り早い。もちろん人間の話ですが」


「お前、親父に説得されたと思っていたが狸寝入りだったか。まあいい。

ちょうどそのことについても話をしようと思っていたところだ。同胞の諸君。

スフィアが凍り付いた死の世界になることはノイトラにとっても大変な損失である。

蝶も花も魚たちも、人間はともかく様々な動植物がこの世には息づいている。

ノイトラがスフィアを、下界を見捨てたならばそれらも失われる。

おいしい空気と大自然、それらは失われる。この陰気な薄暗い我が国の領土だけが我々の住みかとなる。

もはや我々の子供たち世代は草花も森も湖も大地も、何も知らずに育って行ってしまうことになるのだ、いやそれだけではない!」


「自分で陰気って言わないでくださいよ……」


アンリもエリザベスも困り顔でまったく同じことを同時に言った。

俺はさらに熱量を上げて演説を続ける。


「わが父、ドラクスラーはこの世の外にはノイトラを必要としないエネルギー源があるはずだと説いた。

父と俺はどんな犠牲を払ってでも必ずそこへ行く。その時が来ればノイトラはこの労働からも解放されるだろう。

その時に自然はもうない、では取り返しがつかない」


気づけば熱心な環境保護論者のような演説を必死になってぶち上げている俺に、内心愕然とした。

俺はそういう系のエコデモでプラカードなど掲げる人種は好きではなかった。バカにすらしていた。

なのに今の俺はそれと変わりはしない。だが彼らの考える環境と俺の考える環境は重要度に差がある。

俺はそれを説明せねばならなかった。


「いいか諸君、我々は子供たちに血を伝える。

だがそれだけではない。子供たちには全てを遺さねばならない。

嫌なもの、悲しいものでも、とにかく多種多様なあらゆるものを伝え、遺さなければならないんだ!

子供たちはそこから学び、考え成長する。価値観や考え方は時代によって変化し、大切なものも移り変わりうる!」


例えば高額な芸術品や絵画などだ。特に有名な古い絵画などは有名な古い作家が残した貴重なものだから価値がある。

特に、非常に古い作品は残っていること自体が奇跡だし、長い間残っているということはつまり、その作品はそれだけ長い間尊敬を集めてきた。

そこに価値がある。長い間尊敬を集め、受け継がれてきた作品の価値はもはや理屈ではない。


それを例えば"古い小説や絵画などに不適切な表現があるから削除する"などは愚の骨頂だ。

現代の価値観から見ると不適切に見えることも含めて受け継がれてきたこと、それに価値がある。

つまりその作品の価値は時代を超えて尊敬を集め、受け継がれてきたことに価値があるのだから、伝統を否定したら伝統の価値がなくなるというのは当たり前すぎるくらい当たり前の話だ。


このことがスフィアの問題にも言える。確かに一見"ノイトラファーストで何が悪い"との意見は正論だし、有効な反論法はないと思う。

だがそれを現役世代が勝手に決めていいかは考え物だ。一度氷漬けになったら二度ともとには戻らない。少なくともその保証はない。

この世に"最良の判断"はないというのが賢人の教えだ。数学の証明問題じゃあるまいし現実はもっと複雑だ。

状況も変わる。常に判断を疑い、微調整を続け、監視を怠らずにいなければならない。

その判断は今は正しいと考えられていても後で変わるかもしれないし、その反対のケースだってありうるからだ。


しかしこのようなことは説明文でも非常に長大で読む気も失せると思うが、これを口頭で話して人に受け入れさせ、納得させて説得するなど不可能に近い。

少なくとも、別に口が上手いほうではない俺には絶対に出来る気がしない。

だから俺は感情に訴えかける方向で話を進めていくことにした。具体的には自尊心、プライドに訴えかける。


「だからこそ現役世代だけで遺すべきものと消すべきものを決めるべきじゃない。すべては歴史にゆだねるべきだ。

同胞たちよ。先祖たちに、子供たちに恥ずかしくない世代であろう。誇れる親や祖父母であろう。

憎しみの歴史を背負い、憎い相手を全部消して終わりにするのではなく受け継ぎ、伝え、そして許し受け入れるのだ!

同胞たちよ。我々にはその能力があるではないか。

ただ……少し話が逸れてしまった。本来そんなことを言いに来たわけではないのだ」


俺は少し咳ばらいをしてから聴衆に再度話を戻してから続ける。


「いいか。諸君らは発電所で働くのだ。勤務は厳格に管理され、働いたら給料が出る。ちなみに家賃は無料だ」


ここでざわっと人々が話した。安堵したようだ。さすがにここでの暮らしが不安だったようだ。


「必要に応じて働き、必要に応じて受け取る、それがこの国の基本概念。

食事は食堂とケータリングの二種類を考えている。

ここでは木も生えてないし鉄とか金属は掘ることが出来ない。すべて、ノイトラが発電所で働き作ったエネルギーで、モノを作り配給する。

あらかじめ家具や寝具、暖房設備は作っておいたが足りない物があれば海外から輸入して店頭に並ばせる。

ほかに何か質問があれば今のうちだ。受け付けよう」


「あ、はい」


さっきから俺のそばにいたエリザベスが行儀よく挙手して発言した。


「よくわからないんですけど、モノを生み出せるってことですか?」


「ああ。ただしノイトラたちの働きを変換してモノは作られる。

だから子供は増えるほどいいと言っているんだ。一人あたりの負担が減るからな」


「なるほど。ここにはお医者さんとかはいないようですが……」


「それも人間の移民を募ってなるべく速やかに対応する。さっき言うのを忘れていたがこれもスフィアを見捨てない方がいい理由だ。

医者を人間に頼っておいて、その他の人間は見捨てる、では理屈に合わないだろう。

俺が下の世代だったらそのような筋の通らないことをした上の世代を軽蔑する」


「ああ、本当に……あなたこそがノイトラたちの解放の戦士だったんですね……」


「なんだ急に。アンリ、お前は俺に反対の立場だったな。何か意見を言っておかなくていいのか?

俺はお前に反対の立場だが、意見を言うことは全面的に認めているぞ?」


「あなたこそが、数百年の歴史を背負って世界に戦いを挑む……いえ、挑んで勝利を手にされた我らノイトラの王でございます。

ようやくそれを実感して感動がこみ上げてきているんです。ああどうかその足元に口づけさせてください」


とか言ったかと思うとアンリは土下座のような態勢をとり、俺の靴を脱がしてきて俺の足の甲にキスしてきやがった。

別に嫌ではないがあまりにも過剰なほどの感情表現。あと、俺はもう絶対アンリとはキスしない、と思った。


「あなたこそ種族が待ち望んでいた方です。感動で前が見えません。

このアンリ、あなたと出会えた日のことは、まるで初めて朝日を拝んだ時のように眩しく……」


「ウソつけ」


「……ですが意見を言えとおっしゃるなら、そもそもノイトラの医者がいないのは人間が教育を許さなかったからでは?」


「とりあえず、今んところは医者の経験があったとかいう親父に対応させる。

それとそういう意見を否定はしないが、結局それは議論を閉じる方向の意見じゃないか?」


正論というのは大切だ。が、アンリのは正論だが正論なだけだ。役には立たない。


「俺たちは医者が必要だ。じゃあ人間の医者を入れよう。そう言ってるんだ。

アンリ、お前の意見は自由だと思うが、腹でそう思っているノイトラが大勢いたらどうなる?

医者だってそれを感じ取って仕事をしにくくて仕方ない。辞めたり逃げたりしてしまうかもしれない」


「それはそうですが……」


「医者は必要だ。医者を入れる。お前だってそこに文句はないはずだ。

それを邪魔するのはお前の本意か?」


「いえ……軽率なことを申しました。すみません」


「いいんだ。そう本音で思ってるノイトラがいることはわかっている。でも医者は必要だ。

いずれはノイトラの医者も欲しいが、少なくとも今は人間が必要だ。きっとここにきてくれる親切な人間の医者がいるはずだ。

話は以上だ。人が増えてきたらまた話すことも増えるだろう。それとエリザベス。

忘れるところだった。エリザベスにだけ言おうと思っていたことがある」


「それは……今、二百人もの方がいるんですけど、言っても大丈夫なことですか?」


「別にやましいことではない。君は料理人だ。それもとびきりのな。

外交のための宮殿、レストラン、ホテルなどを建てたい。

壁の外の誰も住んでいない砂漠地帯にな。別にここに住んで通勤してもいいが、砂漠に家を作って住むか?」


「家と働き口を与えてくださるということですか? 砂漠というのが少し気になりますけど職場の近くに住めるなら……」


「働き口どころではない。レストランを一軒君に与える。レストランを持つのが夢だと言っていたな?」


「えっ……いいんですか。そんなのって、夢みたい!」


「喜んでもらって俺も嬉しい。外国の要人や砂漠のホテルなどで遊びに来た我が国民が店に来ることもあるだろう。

ところで大切なカネの話だが、我が国ではまだカネを使えるところはさっき言った食堂とケータリングくらいだ。

ああ、あとこのスタジアムもイベントが出来るようになれば料金はとる予定だ。

医療と教育は無料にする。いずれはカネの使い道を増やして、国民がもっと楽しく生きていけるようにしたいところだな。

ノイトラがもっと増えればどんな贅沢だって出来る。増えれば増えるほど贅沢できるんだ!」


それからの模様を、あえてカットさせてもらおう。ここから二年弱という時間の経過を挟む。

この間には様々な変化が各地で起こり、それはもう枚挙にいとまがないほどだ。

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