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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第二章 解放の戦士
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第五十一話 ここが最後の楽園なんだから

「こんな時に時間とらせてごめんね。でも言わせて。この武器を私に託してくれた人が、私にこう言ったのを覚えてる。

俺の心臓を、君にあげる。あまりに昔のこと過ぎて記憶はおぼろげ……でもその言葉だけははっきり覚えてる」


ここから推測できるのは、エースの心臓、つまり電気エネルギーを様々なものに変換する高性能エンジンのことだ。

これがその男からもらったものである可能性。つまり、元々エースはレベル8だったので、この武器も本来エースのものだった。

だが、胸についているエンジンがその男のものであり、元々エースがもっていた心臓はなくなったのではないか。

そのため、エースがこれを握っても武器のほうはレベル8と認識してくれないのではないだろうか。


と俺が真面目なことを考えているとコロンビーヌは変なことを言い出した。


「へえ、ロマンチックじゃないですか。私も男の人に言われてみたいですね」


「僕もイザベルとトーマには、僕の心臓をあげたいくらいだよ」


「おいセシル、浮気すんな。お前はイザベルだけ見てろ」


セシルは俺の方を見て悲しそうにつぶやいた。


「やっぱトーマは女の子のほうが好きなのか……」


「お前なぁ……男とか女とか関係ないだろ。浮気をするなって言ってるんだ。

全く、少し会わないうちに変わったのかなとも思ってたけど、そんなことはなかったな」


「人はそんなに変わらないよ。君もね」


「みんな行くぞ。二つ上の階でいいんだったなセシル?」


「ああ」


イザベルは一対一ではそれなりに喋ってくれるほうだが、こんなに人が大勢だともう駄目だ。

全く声を聞かない。セシルの横にくっついてるだけで一切喋らない。俺も気持ちはわかる。

誰かと一対一でしゃべる時はよくしゃべったりおどけたりすることもあるが、三人以上だともう口数が減るタイプだからな、俺も。

実際、こうやってリーダーシップをとることはみんなから半ば強要されてるので仕方なくやっており、かなり無理している。


無理は今日で終わるのか、それとも余計に無理をすることになるのかは不明である。

俺たちは多分、思い思いにそれぞれの悩みや不安を抱ているのだろう。

さすがにエレベーターに乗るとイザベルじゃなくたってみんな黙りこくってしまった。


こういうときはおちゃらける方の親父でさえ。しゃべってるのはベンツだけだ。


「うう、これ持って帰りたい。いや、むしろここに住みたいよ。知りたいことが山ほどあるっ!

これエレベーターって言うんだって? 電気の力でこのチェンバーを釣り上げてるのかな……」


「博士が望むなら、ここに家を建ててあげるよ。俺、これから世界の王になるんだぜ」


「頼もしいね。なんだったら百人いる妻の一人にしてくれてもいいよ?」


「オイお前こいつの母親より年上じゃねーか」


さすがにこれには親父のツッコミが入った。


「なんだよ、ニ十歳や三十歳差の夫婦ぐらいザラにいるだろ?」


「やれやれ。トーマが王になったら俺がこういう悪い虫がつかないように追い払わないとな」


「僕も払います」


「悪いがセシル、お前も悪い虫だ」


「そんな!」


などと俺たちが和気あいあいと会話しているとついに神様のいるというフロアにやってきてしまった。


エレベーターのドアが開くとそこには女性が立っていた。まるで添乗員とかバスガイド風の格好だ。

見た目は普通の人間だが、どう考えてもこんなところにいるってことは生身の女性でないことは確かだろう。


「ノイトラの王。お待ちしておりました。こちらです」


「おい、こんなのの言うことを聞くのか王様?」


「なんだアル、この女性に会ったことないのか?」


「いや。誰も神に直接会ったことはない。怪しいだろ。罠かも……」


「大丈夫だ。しかしご指名は俺一人のようだ。みんなはここで待機していてくれないか。

俺一人でこの長い戦いと歴史に決着をつけてくる。俺はそうしなければならないんだ」


「お前だけでか?」


「ダメだよ。みんなで行こう」


「それじゃ私たちがついてきた意味が……」


「とにかく俺を信じてくれ。俺だけで行く」


俺は添乗員らしきロボットの後ろにつくと、ロボットが勝手に歩き出したのでヒヨコみたいにそれに盲目的についていく。

一度振り返ったが誰もついてきてはいない。ノイトラの仲間はともかく親父やエースも――


「エース、何でいるんだ!」


「私が来ても、そのロボットさん無視してるね?」


「だからどうしてだ。エースだけ特別扱いする気は、俺はないぞ」


「王様王様って言われてる間に、思いあがったのかしらトーマ。

私の方だってトーマだけ特別扱いする気はない、それだけの話」


「……それは確かに一本とられたな」


言われてみればそうである。エースだけついてきたことに関しても多分みんなはそれほど文句はないだろう。

ロボットの方もエースは無視。少し歩いてから添乗員と一緒にモノレールの小さいバージョンのような乗り物に乗ることになった。

これは屋内でありながらかなりのスピードが出た。時速百キロメートル以上は出てたと思う。


これに数分乗ってから到着したのは階段。上が見えないほど高い階段だ。これを昇るのに十五分くらいかかった。

疲れは眠ったので幾分取れているが、体の疲れはむしろ増した。全身疲れて息の上がった俺が、額に汗しながらようやく最上段を昇りきった。

それと同時にエースも一歩踏み出した。俺より早く昇れるが合わせてくれていたのだ。

同じレベル8でもこういう気づかいとかは全くと言っていいほど神、エグリゴリにはないな。


とこれから会いに行く人の陰口を心の中で叩きながら上に上がると、玉座があった。

といってもそれほど装飾はされていない。ガラスでできているかのような透明度の高い、まるで空のような深い青色をした床に黒っぽいイスが置かれている。

これに座っていたのは、俺が何度も分体として会ったあのエグリゴリだった。

ただし、その時は人間らしいポンチョみたいな服を着ていたが本体は黒っぽい服装をしていた。


神と言えば白のイメージがあるが。エグリゴリは俺の目を見据えるとこう言った。


「ようこそ。お前の目のカウントダウンはもはや不要だ。そしてエース。私はお前に用はないが、ようこそ」


俺の目のカウントダウンは消えた。エグリゴリは口下手なので俺がうまくリードしなければならない。

少し頭を整理してから俺は確信をもって、最初にかけるべき言葉をみつけてこう言った。


「約束通りきてやった。造換塔はどこにある?」


「自由に使うがいい。それはここだ」


「えっ」


言われてみれば数百メートル以上は昇ってきただろうか。後ろを見ればあまりの高さに目がくらむ。


「お前にもスフィアのネットワークを使える力はすでに存在している。

私が造換塔から送っていたメッセージを受信し、お前はカウントダウンが網膜に投影されていたのだ」


「ということは、俺がこいつを動かすことも?」


「そうだ」


俺は意を決して深呼吸してから言った。声が震えた。それでも伝わってくれ。


「造換塔のネットワーク内にいるすべてのノイトラ。聞け、俺がノイトラの王だ!」


少ししてから俺はトントンに通信を入れた。


「こちらトーマ。まだ俺もよくわかってないんだが……聞こえたか?」


「ああ。ベンツやほかのノイトラたちも全員聞こえたと言っている。君こそがノイトラの王だ」


「わかった。このまま繋いでおく。切らないでくれよ」


俺は通信をしながらエグリゴリに話しかけた。


「ええと……カウントダウンが消えたということはレベル5とやらも消えたと思ってもいいか?」


「いや。だが、お前が消すことは出来る。すでに一度言ったはずだ。私の中に入ってきたのはお前が初めてだと」


「お前に出来ることは俺にも出来る、というわけか」


まだ実感はしてないが、とりあえず俺はエグリゴリの両肩に手を置いてみた。


「何をしている?」


「直接触れたらもっと深くアクセスできるかと」


「そうか。お前は有線のほうがよいと言っているのか。理解した」


「ぬわっ」


俺はかなりビビらされた。エグリゴリに抱き寄せられたかと思うと首筋に違和感を覚えたのだ。

多分何かのコードみたいなのを刺された。殺されるかと思ったが、ここまで来てそんなことをするはずはない。

エグリゴリには神のごとき力があるのだ。そんな回りくどいことをしてまで俺を殺す理由はない。


そして次の瞬間俺はまるで仏教でいう涅槃、悟りを開いたかのような気分になった。

具体的に言うとスフィアにいる人間やノイトラ、すべての意識が見える気がした。

痛みも喜びも何もかもがすべて俺に流れ込んでくる気がした。逆に俺から何かを注入することも容易い気がした。


「ここはウェブ。この世のすべてを記録しているものだ」


後ろを振り返ると、俺を抱き寄せてきたハズのエグリゴリがおらず、後ろにいた。

しかもエースも後ろにいる。俺たちの足場は透き通るような空色だったが足場はなく真っ白になっている。

確かにこれがネットにつながるということらしい。俺はエグリゴリにこう言った。


「よくわかった。有線じゃなくてもこれで大丈夫そうだ」


「なら作っておけ。自分の分体を」


「なにっ」


いや確かに、それはエグリゴリの専売特許で俺には関係ないと思っていたが、ここまできたらそれを作れるのは不思議じゃない。


「お前をアップロードしろ。お前は自分の力が大きすぎて扱えていないが、ネット上に分体を作れば問題ない」


「俺が二人になるってことか? だ、大丈夫かな?」


「問題ない。ネット上のお前に意識や意思はない」


「それならいいが……」


俺は言われた通りにした。自分をアップロードするといっても自分がネットにつながる時にサポートしてくれるアプリケーションをクラウド上に残しておくという程度の話のようだ。

コンピューター関連のことなど全然わからないが、それが俺の精いっぱいの理解だ。


「今ので出来たのか……?」


「そうだ。一旦初期化する」


「はい?」


気が付くと俺はエグリゴリの胸のところに顔がうずまっていた。

といっても奴の胸は見た目こそ柔らかそうに膨らんでいるのだが、実際には腹や肩や腕と同じ素材で胸はできており、柔らかくもない。


横にはもちろんエースがいた。俺は状態を起こしてまっすぐ立つと気を取り直してこう言った。


「多分これで俺は……全てのノイトラを解放することができるようになった……と思う。

実際にそうするのはまだ先だ。解放したところで、スフィアに人が住めなくなったら困るからな。

それでエグリゴリ。そろそろ話してもらおうか。俺は前に言ったよな?」


「何だ?」


「お前を救うために俺は生まれてきたんだって。お前の望みは覚えている。

このスフィアの外の統治機構とやらに接触して、任務完了を告げてほしいという風な願いだったな?」


「私は統治機構ともう一度ネットワークでつながりたい。すべてはそれからだ」


「そのために必要なことはなんだ。教えてくれ」


「ちょっとだけ待って!」


「どうしたエース?」


エースがさっきから何か言いたそうにしていたのは横目で見ていた。

だが何も言いだしてこなかったので気にしていなかったが、やっぱり言うことにしたらしい。


「私は……多分、エグリゴリちゃんとは違って外に出たことがあるから、話せることがあると思う。

悪いんだけどトーマと二人でみんなのところに一旦帰らせてくれない?」


「認識した」


認識した、とはまたクールな返しだが、とりあえず許しが出たっぽい。

様子の少し変なエースはかなり急ぎ気味で俺と一緒に階段を降りる。なお、昇りと同じくらいの時間がかかった。


それで、談笑していたみんなのところへ戻ってみたところエースはこんなことを語りだした。


「みんな。私、全部じゃないけどでも……ネットに接続できたことで記憶が戻ったの!」


「それはおめでとうエースさん。ここまで戻ってくるということは神に聞かれたくないことですか?」


「別にそういうわけでは……でもみんなにも話さなければいけないことですから。

今、もしかしたらみんな急いでるかもしれないけど聞いてほしい。大事なことだから」


そこから始まった話はとても俺には要約しえないような話だったので、原文ママにしておこう。


「私はある人と一緒に旅をしていた。それはそれは長い旅。あまりに遠い昔の話。

名前は……もう覚えてない。でも私の名前はあの人がつけてくれたの。

私たちは旅をしていたけど、その旅に理由はなかった。記録も記憶も薄れて、でもこれだけが私たちの旅を思い出させてくれる」


と言ってエースは持っていた銃を掲げた。そしてジャキンとスライドを動かした。


「起動してたのか、それ?」


「うん。トーマのことはずいぶん待たせちゃってごめん。すごく時間がかかったけど私は記憶が戻ったし、これの使い方もわかった。

私はレベル8だからこれを使えてしかるべきなんだけど……本命はこっち」


「それか……」


エースが見せてきたのはエースの下半身があった研究所から盗んできた武器のひとつだ。

これにはレベル8の文字がないので、あまり重要視はしていなかったが、どうやらそれは逆だったみたいだ。


「あの人の遺産がこれ。私はあの人の心臓を持っているからこれが使えるの。

心臓をあげると言われた。文字通りの意味。私は死にかけてたんだけどあの人のをもらって生きることが出来た。

だから、あの人の遺した目的をどうしても叶えたくて必死で……そして私は飛行機に乗ってスフィアに突っ込んできたの」


「その人の目的っていうのに、イザベルの祖先の……イブとかいう女が関係しているんだよな?」


「そう。イブは私たちがある場所で、ある方法で見つけたの。トーマが私を飛行機で発見したように私も彼女を飛行機で発見した。

彼女の持つ血筋は奇跡的な確率で"災厄"を逃れていた。と言っても彼女は死んでいて、遺伝子だけの存在だったけど」


「それを培養して生まれさせて、スフィアへ連れてきたということなのか!?」


俺は驚愕した。とともにエース以外の全員が後ずさりするほど恐怖していた。

まだまだこれ、話の序の口なのだ。一体これ以上のどんな恐怖のエピソードが待っているのか今から怖かった。

エースはそれでも淡々と昔の話をしてくれた。


「その遺伝子の持ち主はセキュリティに命を狙われないという特徴を持っている。

セキュリティとは、その遺伝子の持ち主を守り、そうでないものを殺す目的で作られたシステム、そして兵士よ。

あとノイトラも対象外。ノイトラは社会インフラや、その他もろもろ重要なエネルギー源だからね。

そして私やエグリゴリちゃんはその中でもトップクラスの高位のセキュリティ、レベル8。

レベル5とか、あの不気味な連中とは違って人間と見分けがつかないように作られているし、自我も持っている」


「やはりエグリゴリとエースは同じ種類の存在なのか……」


「面白い。面白い話だ。で、エースさんよ。俺は外の世界のことが知りたくてね……ここからどうやったら行けるんだ?」


親父の質問にエースはこう答えた。


「通常穴をあけることは出来ないし、あらゆる電波や情報を遮断する障壁で覆われている。

何より外は真空。つまり空気がないから私のように空気を必要としない者以外は活動するのは難しい……」


「けど、俺がいるから大丈夫だエース!」


「えっ、そうなの?」


話がそれてしまうのは覚悟のうえで俺は上のように言い、さらにこう続ける。


「水は電気を通すと、早い話が空気を作れる。俺は空気は多分作れないけど、電気と水なら作れる。

俺たちがここへ来た博士特製の車あっただろ。あれみたいに気密性の高い乗り物にさえ乗れれば問題なさそうだ」


「なら私一人で何とかしなくてもよさそうね。とにかく私はレベル8だった。人間を殺すために作られた。

でも私はエグリゴリちゃんと同じなの。あまりにも長い間統治機構と繋がることができず、殺す人間もいない。

任務を忘れた私は、心臓をあの人からもらうことでもはやレベル8というより、ただのアンドロイドに。

つまり自我のある人型の機械になったの」


「何年ぐらい?」


「何百年とか何千年とか。それ以上かもしれない。そして大事なのが……さっき私言ったでしょ、災厄と。

その遺伝子の保有者は何らかの病原体……感染症のようなものによって死んだり、遺伝子が壊れたりしたらしい。

それで、もはや生きている遺伝子保有者はいなかったんだけど、たまたまどこかで発見した保存パックに入っていたのがイブってわけ」


「そのイブは……」


「そう。生まれた。私は母親みたいなものだった。そしてここ、スフィアを見つけた。

エグリゴリちゃんがスフィアと言ってるだけで私たちはここを"エデン"と呼んでいたけど。

この場所はさっき言った通りどんなものも遮断する障壁があって、しかもそれを自動修復する存在がいる。

トーマやセシル君もたしか一緒に見たでしょ。飛行機を修復していたカニみたいな機械」


「ああー、あれね。かわいかったよね……」


「あのカニのでかいバージョンみたいなのが壁を修復してるってことか?」


「そう。だから私はこの銃で壁を壊して一気にスフィアの中へ入って行った。

穴はすかさずカニたちが修復した。そして私たちはここへやってきた。イブを託すことが出来た。

ここは災厄によるウイルスの汚染のない楽園。まさにエデン。

私は何があっても絶対に、イブをここに連れ来なくてはならなかった」


「つまりそういうことなのかエース。つまり、イザベルは……」


「そう。私のまいた種と言える。外の世界に汚染されずこのエデンで芽吹いた希望の芽。

この遺伝子を持つ人をあの人は何百年も探していた……見つかったのは奇跡。

そしてこのスフィアは穴が開いても自動で閉じられ、しかもどんなものも漏らさないほど鉄壁だから」


「災厄……を起こした悪者がいるってことか?」


「そう、そいつらはここを見つけたら間違いなく災厄とウイルスをばらまく。イザベルも最優先で狙われるはずだわ」


「それがセキュリティ、なのか?」


「違うわ。言ったでしょ、私たちセキュリティはイザベルのような特定の遺伝子を持つ人間を守り、そうでない人間を殺すようにプログラムされている。

記憶を取り戻したことでようやくわかった。このスフィアと外の世界は全く同じ、縮図なのよ」


「というと? 俺たちそろそろキャパシティが限界なんだ。

エース、説明するならなるべく簡潔に、易しめで頼むぜ?」


と俺が言うと、ほかのみんなも一斉に首肯してくれた。確かに限界だ。

頭が爆発しそうだ。寝て体力は回復したもの、情報量が多すぎて処理の限界に近い。


「わかってる。ノイトラとは人間に逆らえないようになっていてその中の不良品……つまり王の力を持つトーマを待っていた。

その指示を待っていた。私とトーマが出会って、こうして進んできた旅はそれを実現するための旅だった。

ここの外の世界も、大筋ではそれと同じってこと。それを今から説明する」


「頼む」


「私たちセキュリティは統治機構という組織の傘下にある。統治機構とはこのスフィアの外に存在する、いわゆる人工知能による統治機構なの。

早い話が機械で出来た知性。そしてインターネットというものを使って人々に様々なサービスを提供するもの……だった。

災厄が起こってからは人間を殺すだけの存在になった。統治機構がサービスするのは、イザベルのような特定の遺伝子を持った人だけだから」


「話が見えてきたぞ。つまり……統治機構は造換塔などを使って何でも出来るし何でもできたんだろう。

造換塔ならありとあらゆるものを作れるわけだからな。でもそれには多分、二つのものが必要だったんだ。

エネルギー源となるノイトラ。そしてイザベルと同じ遺伝子を持つ人間の命令……だろ?」


「そう。エネルギー源はどうとでもなる。問題は人間の命令。

人工知能で出来た統治機構は人間に絶対服従するようプログラムされているはず。

その命令を下す人間がいないうえに、ここスフィアにはネットを含めてあらゆるものが通じないようになっている。

エグリゴリちゃんが統治機構と交信できないのはそのためだと思う」


「ふむ……とりあえず外に出てみたら何とかなると思ってたけど、外には危険がいっぱいなんだな?」


俺は情報処理するので手一杯な頭で何とか分かった風なことを言ってみた。


「そう。アンリくんは人間を憎悪しているみたいだけど、人間の境遇も少しは考えてあげて。

文明も歴史も文化も技術も、自由も故郷も……何もかも取り上げられた代わりにエグリゴリと取引して、命だけは見逃してもらってここに住んでいる。

なにより誇りを取り上げられた、それが人間。

ノイトラはいいわよ。外に出るのも自由だし、何でも創り出せるからどこへでも行くことが出来る。

セキュリティたちだってノイトラのことは見逃すわ。

人間は違う。ここでないと生きられない。ここが最後の楽園なんだから」


地獄だと思っていたこの世界が楽園だと知る主人公。果たしてこの先……次回へ続く。

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